演習場での出会い
首都クリーディア〈魔法訓練所〉講堂内ーー
埃をかぶった机を見ながらメナスと会話をしていると、なにやら奥のほうから魔力を感じた。
「メナス。これが〈魔法訓練所〉のすべてか?」
「いえ、奥には演習場がございます。講堂で教わった魔法を実際に行使してみようという場になりますが、己の魔力を高めるために演習場を利用している者もいます」
今感じた魔力は、その演習場で魔力を高めている者ということだろうな。
それにしても、わざわざ先ほどの男に金を払ってまで修行しているのだろうか?
「この〈魔法訓練所〉は、クリード様の張られた結界により、かなり頑丈だと聞いております」
彼女は「……ただ」と、少し言葉に詰まり、弱々しく言った。
「……ただ、クリード様が亡くなられたことで、その結界が健在なのかが……私にはわかりません……」
なるほど。
魔法を使った者が命を落とした場合に、結界等の効力も失ってしまうのかどうか、それは気になるところだな。
メナスにかけられていた〈姿形隠蔽〉は、俺の魔法印によって発動した〈封印解除〉によってクリードが解除したのだが、彼女はクリードが命を落としたから解けたと思っている。
今思えば、はじめからクリードは〈封印解除〉の発動が自身の最期と決めていたのかもしれない。
だから彼女には細かい説明をせずに、命が終わった際に解けると伝えたのだろう。
「では、その演習場とやらに行って、結界が張られているのか確かめてみるとしよう。どうやら先客もいるようだしな」
「先客? 何者かが演習場にいるとおっしゃるのですか!?」
メナスは固唾を呑み、グッと構えるような体勢をとった。
「あぁ。奥から並ならぬ魔力を感じている。行くぞ」
俺たちは講堂を出て、奥にある演習場へと続く廊下を歩き出した。
さてさて、鬼が出るか蛇が出るか。
まぁ、どんな奴であろうとも俺は負けないがな。
そんなことを思いながら、俺は演習場へと続く扉を開けた。
土で形成された円形の広場のようになっており、それを囲うように階段状の観客席がある。
魔法を競う大会でもあるのだろうか?
天井は開けていて、空が見える造りだ。
眼を凝らしてみると、この演習場にしっかりと結界が張られているのがわかった。
「どうやら、結界は健在のようだぞ」
「なっ……!? レイン様には結界が見えているのですか!?」
驚いたように彼女は目を大きく見開いていた。
魔法が使えない者は、この世に漂う微かな魔力すらも感じ取れないのだろうか?
つい先ほどもそうだ。先客がいると言った時も、彼女はまるで気付いていないような素振りだった。
並ならぬ魔力を発しているというのに。
それなのになぜ、クリードはメナスに俺の監視役を任せたのだ?
いくら槍に長けていたにしろ、周囲の魔力を感じ取れなければ、反応に遅れそうな気もするが……。
納得がいかんな。
この気持ち悪い感覚は一体なんなのだ?
「……レイン様?」
しかし、なぜ結界が残っているのだ?
クリードはまだ生きているということなのか?
死に損なって、どこかの地に堕ち、命からがら生き永らえているとでも?
いや、クリードはあの時に間違いなく死んでいる。
ということは……なるほど。ふっ、そういうことか。
クリードめ、どうやら少しばかり面倒なことをしてくれたようだな。
「レイン様っっ!!」
「あぁ、すまない。考え事が長引いてしまった」
だが、これはまだ確証があるわけではない。
今この場で彼女に話すには、いささか早計だろう。
ーーそして、俺たちの声に反応したかのように、観客席のほうから女性の声が聞こえた。
「あら、お客さんかしら?」
そう言って女はピョンと軽く飛び、観客席から俺たちのいるところへ飛び移ってきた。
その声の主は、薄茶色のミディアムヘアで毛先が内側に軽く巻かれていて、ハーフアップにしている。
身長は小さめで、少し華奢。年齢は俺と同じくらいだろうか。
黒タイツを着用しているせいか、幼くも見える。
「ねぇ、あんた、どうやってここに入ってきたの?」
近くで顔を見てみると、緋色の眼をしていて、なかなかに可愛らしい顔をしている。
こういう女は、うるさくて面倒な性格をしているのだろう。
まぁ、偏見かもしれないが。
「どうって、そこの扉から入ってきたが?」
俺は演習場の扉を指差し、質問に真面目に答えた。
すると女はムッとした表情で、頬を膨らませた。
「ちょっとっ! アタシのことバカにしてんのっ!? この〈魔法訓練所〉には、どうやって入ったのかを聞いてるのっ!!」
なにを言ってるのだ? この女は。
「お前こそ、俺のことをバカにしているのか? この〈魔法訓練所〉にどうやって入っただと? 入り口にあった扉から入ってきたに決まっているだろう」
俺のことをからかっているとしか思えない。
なぜ、同じような質問を繰り返す必要があるのだ?
女はさらに顔を赤くして、人差し指を俺の頬にグリグリと当て、食ってかかってくる。
「だぁ〜かぁ〜らあぁ〜〜っ! あんたは、入り口にいた男にお金を払ってまで中に入ってきたおバカさんなんですかあぁぁ〜?? って、聞いてんのよっっ!!」
ということは、この女はわざわざ金を払って入っていないということだな。
しかし、それならそうと、はじめからそう聞けば良いだろうに。
どうやら俺の見立ては合っていたようだな。
この女は、うるさくて、面倒な性格をしている。この一瞬のやり取りで確信した。
「男だと? そんな奴いたか?」
俺はメナスに確認する。
すると彼女は、真面目なのかふざけているのかが判断がしにくい返答をしてきた。
「はい。先ほどレイン様が中指一本で軽く弾き、思いっきり吹っ飛んで石壁に派手にめり込んだ鉄棒を持った男のことを、彼女は言っているのかと」
「なっ、中指一本で吹っ飛ばしたぁっ!? ちょっとあんたっ、いくらなんでも話を盛るのは良くないわよっ!」
メナスが考えるように黙り込み、真剣な眼差しで女に言った。
「あ、あの……も、盛るってなんでしょうか?」
どうやらメナスは俺の問いに対し、真面目に答えていたようだ。
一瞬の静寂。そして諦めたように嘆息し、女は続けた。
「はぁ〜っ。もういいわっ。とにかく、チカラ尽くで入ってきたってことね?」
まったくチカラは使っていないのだがな。
この女の言い方にどうしても俺は納得いかなかったが、ここで変に訂正しようとするとまたギャーギャーと騒ぎ立てるだろうと思い、口を挟まなかった。
「アタシは、アミナ・エクスウェル。よろしくねっ!!」
女がそう名乗りながら右手を出し、握手を求めてきた。
「俺は、レイン・アールスヘイムだ」
俺も名乗りながら右手を出し握手をしようと思ったが、俺を小馬鹿にしているようにも感じたので、キュッと少しだけチカラを入れて握手を返した。
するとアミナは、痛そうな表情を見せたのは一瞬で、いかにも「やるじゃない、負けないわよ」と言わんばかりの表情をし、グッとチカラを入れてきた。
ほう、なかなかに肝の据わった女だな。
膂力では確実に俺に勝てないというのに、なんとも威勢の良いことだ。
こういう負けず嫌いな女は嫌いではないぞ。
うるさくて、面倒な部分を除けば……の話だが。
「私はメナス・エルフォートと申します」
メナスが名乗った瞬間、アミナの握手するチカラが急激に抜け、目が点になり、口をあんぐりとさせていた。
「あっ、アールスヘイムっ!? えっ、え、エルフォートぉぉぉ〜っ!?」
なんだ? 一体どうしたと言うのだ?
「えええええええぇぇぇぇ〜〜〜〜〜っっ!?」
やれやれ……。いちいち騒がしい女だ。
アミナみたいな女の子は王道ですね。笑
王道すぎて、彼女のイメージはとてもしやすいのではないかと思います!
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