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第48話 作物の方に謝ってくれ

 ルイスに大根で殴られ、白目を剥いたアンジュ。

 最強と謳われた騎士団長の敗北に、その場にいた騎士たちは呆然と立ち尽くした。


「あれ、しまったな。気絶したら謝らせられないぞ」


 ルイスは嘆息する。

 とりあえず目を覚ましてもらうしかないかと判断し、アンジュに近づいていった。


 すると騎士たちがルイスの前に立ち塞がった。


「こ、これ以上、騎士団長に手を出そうというのなら、我々が相手になるっ!」

「我らとて、騎士団長ほどではないが、手練れぞろいだ!」

「この数を相手にするとなると、さすがの貴様もただでは済まぬぞ!」


 五十人を超える騎士たちが、武器を構えて完全な臨戦態勢だ。


「いや、別にこれ以上、危害を加えるわけじゃない。ただ謝ってもらいたいだけだ」

「「「そこにこだわり過ぎだろう!?」」」


 思わずツッコミを入れる騎士たち。

 と、そこで、アンジュから「ん……」という声が聞こえてくる。


「くそ……めちゃくちゃ痛ぇな……確実に何本か骨が折れてやがる……」


 目を覚ましたようだ。

 顔を顰めながらも身体を起こすアンジュ。


「ちっ、どうやらオレ様が負けちまったみてぇだな……まさか、こんな化け物みてぇなやつがいやがったとは……お前、何者だ?」

「俺は冒険者だ」

「冒険者? お前ほどの男が、冒険者だと……?」


 忌々しそうに吐き捨てつつ、彼女はよろよろと立ち上がった。

 そんな彼女に向かって、ルイスはあるものを放り投げた。


「「「っ!?」」」


 何か危険なものを投げたのではと警戒する騎士たちだったが、


「「「ブドウ?」」」


 アンジュがそれをキャッチする。


「何だ、こりゃ?」

「俺が育てたブドウだ。美味しいだけじゃなくて、怪我を治す効果もある。騙されたと思って食べてみろ」

「あ? 怪我を治すブドウだと? 冗談……って感じじゃなさそうだな」


 食べない方が……という周囲の視線を無視して、アンジュは房から一粒をもぎ取り、口に放り込んだ。


「ちなみに種なしで皮まで食べられるぞ」

「んなことどうでもうめえええええええええええええええええええええええええっ!?」


 アンジュが目を見開いて叫ぶ。


「こんな美味いブドウ、初めて食ったぞ!? も、もう一粒食べていいか!?」

「ああ」

「やっぱうめえええええええっ! も、もう一粒! もう一粒だっ!」


 そうして結局、ひと房分を食べ切ってしまったアンジュは、ハッとあることに気が付いた。


「身体が……痛くねぇ……? 完璧に治ってやがる……」


 そんなアンジュを見ながら、騎士たちは「ごくり」と喉を鳴らしていた。

 ルイスは彼らに提案する。


「食べるか?」

「「「食べたい!」」」


 即答だった。


「お前らは一人一粒だけだぞっ! 別に怪我なんてしてねぇんだからなっ!」


 アンジュが大声で訴える中、ブドウを一粒口に入れた者たちから、次々と叫び声が上がった。


「「「うめええええええええええええええええええええええええっ!?」」」








 そうして、ルイスが育てた作物のあまりの美味しさを知った、アンジュ率いる騎士団は。


「「「すいませんでしたああああああああああああああああああっ!!」」」

「いや、俺じゃなくて、作物の方に謝ってくれ」

「「「すいませんでしたああああああああああああああああああっ!!」」」


 全員そろって五体投地で謝罪をしたのだった。


「よしよし。それじゃあ、この畑はもうちょっと遠いところに動かすことにするよ」


 満足したように頷き、ルイスは畑を動かした。


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


「「「本当に動いてるうううううううううううううううっ!?」」」


 領都から遠ざかっていく畑に絶叫する騎士たち。

 アンジュは遠い目をしてその様子を見つめながら、


「はは……マジで出鱈目にもほどがあるだろ……。お前、本当に何の天職なんだ?」

「俺は【農民】だ」

「【農民】!?」



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