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第32話 どう見ても棒なんだが

 過去最速の門前払いをしてきた女鍛冶師は、どうやらルイスの持つ鍬の性能に驚き、慌てて戻って来たらしい。


「いや、それが本当に壊れるんだよ。今朝も土を耕していたら曲がってしまったし」

「嘘を吐くんじゃねぇ! 土を耕したくらいで折れるわけねぇだろ! つーか、土を耕すって何だよ!? それは武器じゃねぇのかよ!?」

「いや、武器でもあるぞ」

「というか、鍬が武器って意味不明なんだが……」


 女鍛冶師は頭痛がするのか、こめかみ付近を指で揉んだ。


「だが逆に興味が湧いちまったぜ。鍬を打てとか言われたときはぶん殴ってやろうかと思ったが……とりあえず中に入りな」


 彼女に案内され、工房内に立ち入るルイス。

 あちこちに素材などが散乱していて、お世辞にも整理されているとは言い難い。


「オレの名はゼタ。テメェは?」

「俺はルイス。Cランク冒険者だ」


 せっかく手に入れた冒険者証があるので、ルイスはそれを提示した。


「確かに本物みてぇだが……Cランク、ねぇ? で、天職は?」

「【農民】」

「は?」

「【農民】だ」

「……だからそんな作業着で、鍬を武器にしてるのか?」

「そういうことになるな」


 ルイスが頷くと、女鍛冶師ゼタはいきなり大声で笑い出した。


「ぶっ……ぶはははははははははははっ!」


 ひとしきり肩を揺らして笑った後、疲れたのかハァハァと呼吸を整えてから、


「ヤベェな、テメェ。面白過ぎじゃねぇか。初めて聞いたぜ、そんな天職。んで、その鍬がすぐに壊れちまう、と」

「ああ、そうだ。信じられないなら、今からここで見せてやろうか?」

「そうしてくれ。嘘を言ってるようには思えねぇが、さすがにこの目で見ないと信じ切れねぇ。そこに要らない盾があるからよ、地面に置いてそれを狙え」


 壁に立てかけられていた大きな盾を言われた通り地面に置き、ルイスはそこに鍬を叩きつけた。


 ザグァンッ!!


 金属音混じりの掘削音が響き渡る。


「……へ?」


 ゼタの口から頓狂な声が漏れた。

 なにせ盾が真っ二つに割れたどころか、刃はその下の硬い床にまで深々と突き刺さってしまっていたのだ。


 ルイスが鍬を上げると、刃の先端が僅かに欠けただけだった。


「さすがに一回じゃまだ壊れないな。よし、じゃあもう一回」

「ちょっ、ちょっと待てえええええええええええっ!」


 再び鍬を振り下ろそうとしたルイスを、ゼタが慌てて止めた。


「は、鋼の盾をっ……幾ら使い古して摩耗してるからといって……ま、真っ二つにしちまいやがった!? 信じらんねぇ!?」

「まぁ普通の鍬よりも、よく地面に刺さる鍬だからな」

「その鍬もヤバいが、それよりヤバいのはどう考えてもテメェの方だっ!」


 ゼタは興奮したようにツッコんでから、大きく息を吐く。


「はぁ……出鱈目にもほどがあるだろ……。だが面白れぇ。鍬なんて今まで作ったこともねぇが、テメェみてぇな戦士のためなら、遣り甲斐もあるってもんだ」

「本当かっ?」

「ああ。テメェ専用に、オレがミスリル製の鍬を作ってやるよ。問題はその柄の方だが……」

「こっちは別に困ってないぞ」


 鍬の柄の方は今のところ一度も壊れたことがないのだ。


「? その刃が壊れるんだ。柄だけ何ともねぇなんて……ん? てか、それ、何でできてやがる? 木製じゃねぇよな? こんな素材、オレも見たことねぇ……」

「ゴボウだ」

「ゴボウ!?」


 ルイスは鍬にしていないゴボウを取り出し、ゼタに見せる。


「ゴボウっていうか、どう見ても棒なんだが!? しかもめちゃくちゃ硬ぇ!」

「棒じゃなくて、ゴボウだって。品種改良で、真っ直ぐで硬いゴボウを作ってみたんだ。普通の棒だと、握っただけでぽっきり折れてしまうこともあるからな」

「ダメだ、説明されても意味が分からねぇ……。けどまぁ、これなら確かにオレの知るどの木材よりも硬いかもしれねぇな……」


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