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居座った猫、やはり無能につき③

 空を見上げれば、青空が広がっていた。雲が浮かぶ青空の色は好きだ。様々な表情を見せてくれる空を眺めている時間は嫌いじゃない。

 私がどんなに辛い目な逢おうと、怖い思いをしようと変わらずそこに広がる風景。

 眺めていると、心が穏やかになっていくんだ。


「わぁ!!可愛いねこちゃんだぁー!」


 舌ったらずな甲高い、けど可愛らしい印象の声が聞こえてきた。

 見れば、就学したてくらいの女の子がいた。

 ふりふりの可愛らしい服を着た人形みたいな女の子。ぱっちりとした大きな目をキラキラと輝かせて、ふっくらした頬を桜色に色付け、アポロを見つめている。


 あれくらいの女の子ならば小動物が無条件で可愛く見えるだろう。おっさんのように座るデブ猫すら、キラキラと目を輝かせる対象か。


 しかし、やばい。アポロは慣れない人間が苦手なビビリだ。見知らぬ人が家に訪ねて来ようものなら、飛び跳ねて逃げていくんだ。


「おねぇちゃんの、猫ちゃん??可愛いねぇ!」


 私の右手側にアポロ。左手側斜め前に女の子がいる。女の子は無闇に近づこうとはせず、笑顔を私に向けてきた。

 コロコロと表情が変わる、人好きのする笑みを浮かべる可愛い女の子だ。そんな女の子についついホッコリとしてしまう。


『しゃーーーっ!!!』


 私が返事をし、そして、女の子が私に近づいて来ようとしたところで。

 アポロが威嚇した。


 ビビリで、食い意地はっていて、のんびり屋でマイペースなアポロ。アポロは滅多に威嚇などしない。怒気など見せずに逃げ出すのがアポロだ。見知らぬ猫ならばまだしも、人にははじめてだ。


 歯を見せ、体勢を低くし唸り声をあげるアポロは見慣れぬアポロで。別の猫を眺めている気分になる。こんなアポロ、見たことがない。


「わ、私……ただ、猫ちゃんが可愛いって……おねえちゃんと話そうとしただけで……。」


 女の子は今にもこぼれ落ちそうなほどに涙をため、下をもつれさせながら話す。

 アポロを見れば、さらに女の子との距離をジリジリと詰めつつ、地面の土を抉らんばかりに爪を出し、牙を剥いていた。女の子に敵意満々である。


「ご、ごめっ……ぅ゛……!」


 悪気はなかった、ごめんなさいと謝る彼女に胸が痛む。本格的に泣き出しそうな様子に私は慌てる。いや、だって、女の子を泣かせるとか外聞だって悪すぎ。

 けど、どうしたら良い?何ができる?


『しゃーーーーっ!』


 今にも噛み付かんばかりの様子。爪で引っ掻きに行きそうなアポロ。全身で怒りを表してる。なんで??

 …………あぁ、もう!


「ごめんね!!」


 私はアポロを抱えて走り出す。つまりはその場からの逃走だ。

 謝罪の言葉すら、女の子を見て言うことなく、せめてその場に言い捨てるようにして、走り出す。逃げるしか思い浮かばなかった。


「…………あーぁ、残念。可愛かったから《《あの子で遊びたかったのに》》。」


 残念そうに。けど、思いの外傷ついた様子のない声にホッとしつつも、全力疾走した。


「ちょっと、アポロ!なんて事したの!」


 家まで駆け込むと、息が上がってしまい、上手く話せないが、怒りに身を任せてアポロを睨む。


 が。

 

 アポロは自分は悪くありませんと言うように毛繕いをしている。聞く耳を持たない様子だ。なんとも可愛くない。


「あっそ。今日のおやつはなしだからね。」


なぅ!ぅ゛な゛ぁーん(ごはん!ごはーーん!)


 私が怒っているなどお構いなしに"おやつ"の言葉にのみ反応する。こちらが挙げる気がない時も反応するため、ごはんやおやつの言葉は禁忌だったんだ。あげるまでまとわりついてくるのを忘れてた。


 …………アホつらでこちらを見上げるアポロは先程の怒気を纏ったアポロではなく、いつものマイペースなアポロだ。本当、何なんだ。


 とりあえず、根負けして餌袋を開けてしまう。

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