邂逅を果たす。しかし、まて。解せぬ。②
飯メシと騒ぐアポロの前に餌の準備が出来たのは、目覚めてから1時間が経った頃だった。
猫を飼っていない一人暮らしの家に猫餌などあるわけもなく。わざわざ、コンビニに買いに行く羽目になってしまった。
コンビニにまでついてきて、あれが良い、これが嫌だの口出ししてくるアポロに、仕事の日であれば付き合いきれなかっただろう。願いを叶えるまでまとわりついてくるアポロを無視して仕事とか、嫌すぎる。今日が休みでよかった。
『なうっ!なうっ!』
幸せそうに餌に食らいつくアポロを眺めながら、私も一緒に買ったサンドイッチに食らいく。可もなく不可もないいつもの無難な味が口の中に広がる。耳の落とされた食パンに卵が挟まれただけのシンプルなもの。出来るならば、辛子マヨネーズあたりをパンに塗ってあるものが好きだが、贅沢は言えない。
んな勢いでがっつかなくても良いだろうにという勢いでアポロは餌を食らっていた。アポロ本人は食べているつもりらしい。しかし、一向に減る様子のない猫餌を眺めつつ、私は考える。
──何で、アポロはここにいるんだろう。あの子は兄のペットであり、家は実家のはずなのに。
──会いに来てくれた?私の後悔を察して?
──あるいは。
私の中で様々な考えが巡りだす。トクンットクンッと胸が騒ぎだすのを感じる。
もしかしたら。アポロがここに来たのは意味があるんじゃないか。私に宿る力は家族は誰も持っていない。アポロは神の遣いとか何かで、私は──…!
思考が暴走しているのは理解していた。しかし、高鳴る胸は収まりそうにない。幼少期より苦しめられた力に意味が見出せるなら──ッ!
私は期待を含む視線をアポロに向け、口を開いた。
「ねぇ、アポロ。何でアポロはここに来たの?普通に成仏しなかったのって……」
何か、意味があるの?
その意味が、私は知りたい。
『|な゛ぁーーぅ。《ご飯が食べたかったから。》ぁおーーーん。』
アポロはご飯が食べられて満足した様子で毛繕いをしながら、返事をする。
『|な゛ぁーん!な゛な゛ぁーぅ!《僕は神になるぞ!毎日ご飯をお供えしろ!》』
どういうことだと目を丸くしていると、アポロはなんて事もなく、さらに言ってくる。意味が分からない。
「は?ちょっと待ってよ。お腹が空いて、見えるのが私だけだから来ただけってこと?」
私には特別な使命も何もなく、ただただ、アポロが食い意地が張っていただけ??
『な゛ な゛ぁぅ?』
思い出したようにアポロは顔を上げた。緑に色づく瞳が私を向く。この翡翠の瞳が生前、好きだった。透き通っていて綺麗なんだ。
やはり、あるのか?私には使命が。淡い希望が湧き上がる。
『な゛ぁーなー。|な゛ぅーなぁー。《この格好のを選んでくれ。》』
アポロは片方の後ろ足を上げ、身体を曲げてお尻の穴を舐めるような体制を取った。決してかっこいい姿では無いが、アポロにとっては違うらしい。理解はできないが。
「ちょ!まって??それは伝えても良いけど。それより、アポロが式神的なノリであれこれしたりはないわけ??」
どかーんと戦う魔法少女的な使命は本当にないの?何もないと言うのに、くだらない要件のためにコイツはきたと言うの?
『なー?||なぁーなぁーなぁー《使命ってなんだ?ないぞ?》なぁーなぁーなぁ?|な゛ぁーなぁー!なぁーなぁーなぁー!《僕は神だからな!ジョセフィーヌと呼べ!》』
いや、なんでだよ!神になるにしても和名だろ、日本生まれの雑種が。しかも、なぜ、ジョセフィーヌなんだ。趣味が理解できない。
しかも、待って。いや、マジで?
アポロは自分が主だと言ったよね?え?嘘。
「お前があるじ、なわけ?」
戸惑いが隠せず、うまく話せていない。そりゃあそうだろう。兄のペットがいきなり、主人だとか言ってきたらびっくり仰天だ。
『なぁーな゛ぁー!』
偉そうにふんぞりかえるアポロ。本気で言っているらしい。は?マジで?
この偉そうにしているカリカリな猫、使い魔ポジじゃなくて主人なわけ?