第13話「当時の歌番組出演映像」タイプA
正直ここまで色々知っていいのか、という後ろめたさも有ったが、娘さんは母・滝沢百合について色々な話をしてくれたりアイドル時代の写真を一部送ってくれたりと、最初は少し疑っていたものの次第に本当の娘と認識するようになった。また、自然な流れで動画サイトのコメント欄上からダイレクトメッセージ、それからメールでやりとりをする仲にもなりつつあった。
滝沢百合が当時書いていた日記については、本人に対するリスペクトも有ったのであれこれ詮索はしなかったが、前述の活動と勉強の両立への悩みや疲れだけでなく、割と堅めのしっかりした文字で基本書かれているが、たまに当時流行っていた丸文字を意図的に真似して書いている時が有ったり、デビュー当時のキャッチコピー<百合。君が今、花開く。>を気に入っていたり、筒美京平先生に曲を提供してもらう事に憧れてるとか、西村知美ちゃんとイベントで一緒になって嬉しかった!とか、デビュー曲のレコーディングでは自分が良いと思うテイクとプロデューサーが良いと思うテイクが違ったことに悩んでいたり、ちょっと憧れていた当時人気の男性アイドルの素の振る舞いを垣間見て幻滅してしまった、、といった内容を娘さんの方から教えてくれた。フィクションの世界だけでなく、実際にそういう事も有るんだな。そして、やはり岡田由希子さんの件は凄くショックだったらしい。
また、特に大きな収穫だったのはテレビの歌番組に出演した時の映像、そして幻だった2ndシングルを発売前、つまり実質上引退する直前にイベントで歌った時の映像を娘さんが送ってきてくれたことだ。どちらもテレビに映っている映像をそのまま撮ったものなので画質は悪かったが、そんな事はどうでも良くなる位有り難かった。録画や撮影は娘さんの祖父母、つまり滝沢百合のご両親で、確執も有ったというがなんだかんだ娘の芸能活動を応援していた事が伺える。
前者の歌番組の映像は当時「ザ・ベストテン」「歌のトップテン」「夜のヒットスタジオ」らと並び人気だった「ヤングテン」に注目曲の特集で出演した時のもので、衣装はレコードジャケットと同じ黒に統一されたドレス。緊張している感じがなんとなく伝わってくる。また、流暢だけど早口でマシンガントーク、そして独特のヘアスタイルで知られる名物女性司会者である芳柳真子さんに「まぁ~あなた今通ってる高校は随分偏差値の高い進学校なんですって?勉強と芸能活動の両立のコツについて教えて下さるかしら?」と質問され微笑みながら、
「そうですねえ・・スケジュール管理を毎月ちゃんとする事でしょうか」
と困惑気味に答えてる姿が可愛かった。話し声は大人びた歌声と違い、まだ幼さが残っているギャップもまた魅力的だ。メインの曲の歌唱では、アメリカンでカラフルなネオン管のセットの中で一部微妙に歌詞を間違えたものの、生歌で見事なパフォーマンスを披露してくれ、たまに目が合うと一瞬ドキッとしてしまう。無事歌と演奏が終わり、滝沢百合は丁寧にお辞儀をする。満足度高し。
次は後者の2ndシングルの映像。時期は1987年の2月頃で、場所は当時のアイドル達のデビューイベントやキャンペーンで頻繁に使われていた新宿NSビル大時計広場。滝沢百合は水色のワンピースにグレーのショート丈ニットカーディガンというコーデが季節の先取り感有り。
「それでは滝沢百合ちゃんに歌ってもらいましょう。3月発売予定の新曲、<ほんの少しの勇気>!」
司会者の方が歯切れよく言った後、当時の親衛隊らしき野太い歓声が聴こえる中、小気味良いストリングスと滑らかなシンセサイザーの音が重なったイントロが始まる。生演奏ではなくカラオケだが、良い感じ。
<緑華やぐ公園で 駆けるあなたを見た
肌つたう汗が光の中で にじんでた
背中眺めるだけの私
声かけることも出来ず
憎んだこのシャイネス
クラスメイトなのに
私を阻んでいた 心の壁
明日こそ 飛び越えて
気付いてもらいたい あなたに
秘めた想い>
流行に乗ったカバーのデビュー曲も悪くなかったが、これから季節を意識した爽やかな雰囲気は、滝沢百合のビジュアルと衣装にもマッチしており、歌も以前より伸びやかに、そして丁寧な表現力が身に付いてきた印象だ。Bメロからサビへ移行する時の高揚感も素晴らしい。見方によってはうるさいが親衛隊をメインとする会場のリアクションも悪くなく、これがシングルでちゃんと発売されていればヒットした可能性も高い・・と考えると色々勿体無い。
「ありがとうございました!滝沢百合、これからも頑張りますので、応援宜しくお願い致します!」
歌い終わり、先程の番組同様丁寧なお辞儀で会場を去っていく滝沢百合。もしかするとこれが最後の映像かもしれないという想像をし、そして彼女の未来を知っている自分にとっては様々な辛さが込み上げてくる。ともかく、これら貴重な映像が観れたのは本当に有難く、僕はこれら映像を何度も観る事で目に焼き付けていた。
そして、僕はある提案を思いつく。