第11話「動画へのコメント」 タイプB
突然来たあなたが投稿した動画にコメントが書き込まれました、という通知。外国からの「I Love It」のようなシンプルなコメントが、滝沢百合のA面の曲の動画には少し前から書きこまれていたので、今回もその類だと思っていた。しかし、コメントが書き込まれたのは今までコメント0だった、B面「ミッドナイト・ララバイ」の方だった。おそるおそるページを開く。すると、驚きのコメントが書き込まれていた。
<滝沢百合です。何年も前の私の曲を投稿してくれてありがとうございます>
突然の出来事に突然の内容。突然が重なってしまうと思わず笑ってしまう自分に気付く。そして、驚きと同時に色々な考えが頭に浮かぶ。本人と偽った誰かが自分を騙す為にわざとこんな事をしたんじゃないか。滝沢百合を追っている僕のストーカーが、わざわざ書き込んだとか。だけど、そうだとしたらそれは一体ナンノ為に!?そもそも、何故再生回数が多くてある程度メジャーなカバー曲であるA面の方ではなく、それに比べたらずっと再生回数が少ないマイナーなB面に何故わざわざコメントを書き込むのだろうか。
割とメールやメッセージはすぐ返す派ではある。しかし今回のコメントは僕を喜ばせ、驚かせると同時に非常に悩ませた。数時間返すコメントの内容について考えた末、こんなコメントを返した。
<こちらこそ、コメントありがとうございます!そして大変驚きました。凄く良い曲、良い歌なので思わず投稿してみました>
色々聞きたい事や質問したい事が山ほど有ったが、いきなりそれらを書き込んでも引かれると思った僕は、とりあえずコメントはシンプルな内容に抑えた。コメントでは感謝の言葉が有ったが、動画サイトに無かった程の、マイナーな自分の曲が投稿されていた所を観た瞬間、滝沢百合は一体どんな反応をしたのだろうか?消したい過去と捉えていたら、驚くと同時にもしかすると怒ったのだろうか?良い想い出と捉えていたら、素直に嬉しく思ったのだろうか。不安と期待のイメージが回転扉のように脳裏の中で交互に現れては消え、それはいつの間にか僕を眠りへ誘っていた。
翌日、目が覚めて動画サイトをチェックする。まだこちらのコメントに対する返事は来ていない。心の落ち着きの無さは、早く返事が来てほしいと望み、同時にもう少し後に返事が来てほしいとも望んでいる。百合さんはもうメッセージを観たのだろうか。今日は休みだから、気長に待とう。そう思いながら、僕は昭和歌謡の動画の視聴をメインに時間を潰すことにした。少し経っただろうか。あなたが投稿した動画にコメントが書き込まれました、という通知が来た。いよいよだ。