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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ドタバタ短編集

不死人のノルマ

作者: フーツラ

出張続きでいつものペースで投稿出来ないかもです!短編でも読んでいただけたら!

「今日はあと100回殺すからね!」


様々な武器や拷問具の並べられた部屋で女は言った。毎日毎日飽きないことだ。


「何をヘラヘラしてんのよっ!」


女は天井から鎖で吊るされた俺の身体に剣を突き入れ、グジャグジャと掻き回した。腹部から血が流れ、口から血の泡が漏れる。


「きったないわねーっ!さっさと死になさい」


女は剣を振りかぶって俺の首を飛ばした。俺の身体は煙になり、緑に輝く石が落ちた。俺の意識は中空にあり、その様子を見ている。


「うーん、エメラルド。まあいいわ。さっさと戻っておいで!」


女の声に従うわけではないが、巻き戻すように俺の身体は再生された。意識も身体に戻り、サディスティックな女の顔が目の前にある。毎度ご丁寧に鎖に繋がれているところまで元のままだ。


「ふふふ。おかえり。いい子ね。さくさく死んで、宝石を落としてね?次はダイヤモンドがいいわ」


女は斧を手に取り、俺の頭に振り下ろした。



#



人間は俺のことを不死人と呼ぶ。不死人は殺されると煙になって宝石を落とし、また再生する。つまり俺は歩く宝石鉱山。誰もが俺を欲しがり、その誰もが俺を殺す。


子供の頃、俺は自分のことを普通の人間だと思っていた。俺の親代わりだった人達もそうだったろう。俺が冒険者崩れの野盗に殺され、宝石を落とし、そして再生するまでは。


それからはもう分かりきった流れだ。親代わりだった2人は金に困ると俺を殺しては行商人に宝石を売り払った。辺境の村でそんなことをして目立たないワケはない。噂を聞きつけた盗賊団に村は襲われ、俺は攫われた。


それから、俺の所有者は目まぐるしく変わった。商人だったり貴族だったり、時には王族だったり。ここ最近は何処かの国の公爵家に飼われているらしい。俺を楽しそうに殺しているのが公爵令嬢というから驚きだ。


夜になり、女がいなくなると見張りの男2人がこの拷問部屋に入ってきて武器や拷問具を片付け、俺を天井から吊す鎖から外した。そして水とスープとパンを残して部屋から出て行った。もちろんしっかりと鍵は掛けられている。


鉄球のついた足を引きずりながら俺はヨタヨタと歩き、床に置かれた夕食を啜った。俺が殺された時に落とす宝石の質は俺の健康に左右されるので、どの所有者も飯だけはしっかり与えてくれる。


中には知識量が宝石の質に関係すると考えて俺に読み書きを教え、本を与えた奴もいた。しかし、それで本当に宝石の質が上がったのかは分からない。



#



"ねえ、名前を教えてよ"


まただ。最近真夜中になり、見張りが詰所に戻って誰も居なくなるとこの声が聞こえる。目を凝らすと暗い部屋の中で更に暗い部分がある。


"ねえねえ、そろそろ名前が知りたいんだけど"


「名前なんて聞いてどうする?」


"うーん、友達になりたいから名前を聞いてるんだけど?"


「友達?俺が殺されるのを見て楽しむのか?」


"違うよ。君はもう芽吹く間近なんだ。条件達成までもう少し。君は変わるんだ"


「変わる?」


"そうだよ!どんな風に変わるか私もワクワクしているの!"


「変わるわけないだろ。この世が続く限り、俺は殺され続けるんだ」


"まぁ、いいさ。もうすぐだから。またね"


含みを持たせたまま、声は消えた。



#



「今までにない殺し方をすれば未知の宝石に出会えるかもしれないわ!」


翌朝、女は拷問部屋にやって来て馬鹿なことを言った。そして見張りの2人が両脇を抱えて俺を立たせた。どうやら俺を別の場所へ連れて行くつもりらしい。


久しぶりに拷問部屋から連れ出され、日の下に出ると肌を焼かれたように感じた。眩しくて辺りがよく見えない。


しばらく歩かされてようやく目が慣れた頃、大きな檻が俺の視界に入った。中には見た事もないほど大きな蛇のモンスターがいる。


「あなたの為に生捕にしたヴェノムパイソンよ!さぁ、中に入れてちょうだい」


見張りの2人が俺を檻の中へ押し入れる。蛇のモンスターは一寸警戒した後、俺に飛びついた。


これが女の言う今までにない殺し方か。身体に巻き付き首元に歯を立てた蛇の牙からはドクドクと液体が注入される。


身体が溶けてゆくのが分かる。こんな姿を見て、何が楽しいのだろう?


半分以上溶けた辺りで煙になり、俺は死んで意識は中空に投げ出された。


煙はやがて巻き戻され身体は再生されるが、いつもと違う感覚がある。


「なんで?」


女が呟いている。


「なんで宝石が落ちないの?」


そういえば、何処にも宝石が見当たらない。


再生した身体に蛇がまた噛み付くが、身体が溶けることはなく、痛みも何もない。


脳裏にあの言葉が浮かぶ。


"君は変わるんだ"


変わる?俺は変わったのか?


"そうだよ!変わったよ!!なんで君は今まで死ぬ度に宝石を落としていたと思う?君の落とした宝石は人の醜さの結晶なんだ!今度はそれを人に教える番さ"


またあの声がして、空を見上げると暗闇に包まれていた。


慣れた暗闇を見渡すと、周囲に怯えを感じた。大蛇はいつの間にか離れて丸くなり、女も見張りの男達も腰を抜かしてへたり込んでいる。


息を吸って吐くと、大蛇が骨になった。その様子をみて女が何か喚いている。


もう一度息を吐くと、見張りの男2人が骨になった。


「いやっ!いやよ!いやややややぁぁ!」


軽く息を吐くと、女の下半身が骨になった。一度死ぬだけなのに、何を騒いでいるんだ。全く理解できない。


「ぁぁあああああああぁぁぁーー」


全身が骨になって女は静かになった。とても良い気分だ。


"次に君が変わるのは、君が殺されただけ人を殺した時だよ!!"


「どれくらい殺せばいい?」


"最低100万人は殺さないとね?君はそれよりもずっと殺されたのだから。宝石を目印にして旅をすればいいよ。君なら分かるだろ?"


途轍もない数だ。


"ねえ、ところで君の名前は?"


「名前か。不死王とでも名乗るか」


"ははは!とてもよい名前だね!気に入ったよ!次会う時は100万人達成した時。楽しみにしておくよ!"


100万人。全く先が見えないが、地道にやるしかないな。俺は、一歩ずつ歩き始めた。

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