ぼくに囚われた理想の女性に「明けましておめでとう」を毎年言ってみるだけの話。
女性を長年監禁するような描写があります。
こういうお話に不快感を感じる方、苦手な方、ブラバお願いします。
また、現実と虚構の区別が付かない人、絶対に読まないでください。(><;)ノ
1
念願の観察対象を手に入れ、
ぼくはワクワクが止まらない。
防音は完璧。
首輪、鎖、トイレ、バスユニット、調理設備。
ぼくだけに反応するスマートドア。
そして、ひとりの人間に若さ美しさ可愛さ狂暴さが同居する、『ぼくの考えた最強』の女性。
2
「明けましておめでとうございます」
「……ふざけないでよ、この変質者。犯罪者。アタシを1年もこんなところに閉じ込めて。無害そうな顔して声を掛けてきたと思ったら、こんな事できるクソ野郎だったなんて、」
「今年も宜しくお願いいたします」
「……誰がヨロシクなんてするかよ、この……サイコ野郎。しかも、アタシを閉じ込めるだけで、手も出さないし、何がしたいのよ! どうせアタシでいやらしい事したいんでしょ! 何で何もしないのよ! 無能野郎!」
口が悪い君も、本当にカワイイな。
君の本性がむき出しだ。
本当に可愛いし、美しい顔の造形が、歪みまくる。
でも、美しさが一片も失われない。
この瞬間をしっかり映像に収めよう。
ラベルは――こう書こうかな。
『20X1、かなり反抗的』
3
「明けましておめでとうございます」
「……もう。おめでたくない。何なのアンタ。こんな事して何になるの? アタシかアタシの関係者がアンタに何かしたの?」
「今年も宜しくお願いいたします」
「……大して宜しくしないくせに。手は出さない、理由も言わない。どうせなら、何かしてみろよ! とにかく、この鎖を外せ!」
君は本当に元気だな。
こんな暗い部屋で、全然輝きが失われない。
その無駄に突っかかってくる姿に、とても愛おしさを感じるよ。
もちろん、しっかり映像に収めている。
ラベルは――こうしよう。
『20X2、まだまだ元気娘』
4
「明けましておめでとうございます」
「……やだ……。もう、無理……。誰も助けに来ないし。もうやだ……コイツは何もしてこないし……」
「今年も宜しくお願いいたします」
「……もうダメ……。耐えられない、耐えられない……ねぇ、せめて鎖を外して。アンタの言う通りにしてあげるから……」
君は耐えられないと言ってるけど、全然耐えているね。
こんなに持ちこたえるなんて。
本当に尊いよ。
ようやくかな?
ようやくだ。
この美しさを映像に収めよう。
ラベルは――これかな。
『20X3、絶望寸前かも?』
5
「明けましておめでとうございます」
「…………アタシ、もう、どうせだったら手を出して欲しい…………」
「今年も宜しくお願いいたします」
「…………どうぞ? ねぇ。さわってみてよ…………」
気高かった君が、こんなに弱々しくなって。
でもまだだよね。
弱ったように見せかけて、逃げ出すチャンスを窺っている。
そんな君は本当に美しい。
目の光の美しさは誤魔化せないね。
本当に美しくて、映像に残さなくてはいけないこの使命感。
ラベルは――どうしよう。
『20X4、まだ諦めちゃダメだよ』
6
「明けましておめでとうございます」
「……………………」
「今年も宜しくお願いいたします」
「……………………」
とうとう何も喋らなくなっちゃった。
この1年に1度の日を無口で迎えるなんて。
目の光も無くなっちゃった。
無気力……いや、『無』だ。
でも君はここからだ。
どう変わっていくんだろう。
ぼくに、君の全てを見せてほしい。
全てを無くした君は美しい。
ラベルは――。
『20X5、無。そして……』
7
「明けましておめでとうございます」
「……ねぇ、どうしてだろう、アンタの事が好きになっちゃったかも……」
「今年も宜しくお願いいたします」
「……嘘じゃないよ。アタシ、アンタの事好きに……」
なんと、そっちに行きますか。
ぼくに恋愛感情?
本当の事を言っている様に見える。
でも、全然意外じゃない。
ありえるパターン。
非常に、面白い。
壊れていく君は、壊れかたもとても美しい。
そんな君に紛い物の感情でも好きになって貰えるとは、非常に光栄です。
個人的に、これは自分だけの映像にしたい。
ラベルは――恥ずかしいけど。
『20X6、恋愛感情の芽生えかも?(アヤシイ)』
8
「明けましておめでとうございます」
「……ああ、アタシ好き、もうアナタの事が好き。お願いだから、せめて名前を教えて? 恨んだりしてないから、お願いだから、教えて……」
「今年も宜しくお願いいたします」
「……アタシの名前は、前にも何度も言ってるけど、品由華凛。カリンっていうの。――貴方のお名前は? ……どうして教えてくれないの? ていうか、どうしてアタシなの? アタシの事好きなんじゃないの? アタシを好きになってくれないの? アタシの事憎いの?……」
ぼくの名前は神山八神。
ニックネームは二個神といいます。
教えてあげないけどね。
名前なんて不要だし。
君の名前も特に不要だし――。
「……ねぇ、貴方のお名前教えて。アタシの名前は……」
うーん、名前に何でこだわっちゃうかな……。
これでは、ぼくの方が幻滅しかねない。
興ざめだ。
あっ、そうだ。
「そうだ、君の新しい名前、ぼくが付けてあげるよ」
「……!!」
おっ、めっちゃ反応している。
ヨダレを流しかねないほど口を開いてる。
ふふふ。
かなり期待している表情だね。
7年目にして、ぼくからあげる初めてのプレゼントだから?
かなり食いつきがいい。
「シュウ。囚われている囚人の意味で、どうかな」
「シュウ! 嬉しい! シュウ!」
「君の名前は?」
「シュウ! 貴方が付けてくれた名前! シュウ!」
まだまだ壊れきってないのに、プレゼントを上げてしまった。
でも、君がそんなに喜んでくれるなら、まあいっか。
まだまだ、君を仕上げていくよ。
ラベルには――こう書くか。
『20X7、初めてのプレゼントをもらって喜ぶ囚』
9
「明けましておめでとうございます」
「なんだか、堅いぞ。ていうか、あけおめ~」
「今年も宜しくお願いいたします」
「こちらこそ、ことよろ~ニコリン」
彼女、鎖でつながれたままなのにも関わらず、この自然体です。
壊れてしまったのに壊れているように見えない。
再構築という事だろうか。
この結果は素晴らしい。
いや、感激だ。
いやいやいや、最後まで分からないぞ。
彼女の演技力がぼくの想像を超えている可能性も、もちろんある。
そしてとうとう、この後、ぼくの実験は最終段階を迎える――。
「ねぇ。君」
「いやっ。シュウ。シュウって呼んで」
「シュウ」
「なに、ニコリン」
「これから、シュウの鎖を外すよ」
「……!」
「そうしたら、シュウはどうしたい?」
「もちろん、ニコリンの側にいるよ」
「自由になりたくないの?」
「自由になんてなりたくないよ! シュウはニコリンの近くにいるのが幸せなんだよ。当たり前じゃない」
さて、この後、彼女はぼくの側に残るのか。
逃げ出すのか。
それとも、さりげなく置いてあるナイフを手に取って、ぼくを刺すのか。
乞うご期待です。
あっ、ラベルはもう先に書いてあるから安心して。
どんな結果になろうとも、君を愛しています。
明けましておめでとう、囚。
~fin~
最後までお読みくださりありがとうございます。
もしよければご指摘、ご感想など頂けますと成長に繋がります。
いや、ちょっと気色悪い作品を書いてしまったかもしれません。
お叱りもやむを得ないかも。
……あと、微妙にジャンルに迷っているので、アドバイスお願いします。
ヒューマンドラマでしょうか。
サイコホラーでしょうか。
うーむ。
→ご意見くださった皆様、ありがとうございます!
とりあえず、「サイコホラー」という事で落ち着きました。
(*´ω`*)
誤字報告ありがとうございます!
1件適用しました。
「バスユニット」はわざとなので(ユニットバスではないという意味で)、それはそのままで~(;A´▽`A
(2021.3.28)天界音楽さん主催、メリバ作品があつまった「#二人だけの閉じた世界」企画に参加させていただきますた。
他の企画参加作品へのリンクを感想欄の下辺りにご用意しました。
メリバ作品が多数集まっていますので、良かったらご覧ください。(^w^)
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