74 剣術大会 前編
本日3話投稿しています。これは2話目です。剣術大会のお話なのに剣術のシーンは全くありません。すみません。
秋祭りを4日後に控えた、秋の最後の週のはじめ。今日は王立学校で剣術大会が開催される日だ。
私はエマと一緒に試合の行われる騎士クラスの格闘練習場にやってきていた。再建されたばかりの練習場には真新しい闘技台が整然と並んでいる。そしてその周りには緊張した面持ちの男の子の生徒たちがいくつかのグループに分かれて試合の開始を待っていた。
剣術大会は去年の秋にも開かれていたのだけれど、エマも私も見に行かなかった。去年はハウル村で行われる秋祭りと冬ごもりの準備のために、季末試験が終わると同時に村へ帰った。
それなのになぜ今年は私たちがここにいるのかと言えば、エマの成績が発表されたのが先週半ばごろだったからだ。
もちろん発表があった後、《転移》の魔法ですぐに村に移動することもできた。ただエマの後輩であるジョセフィーヌちゃんがエマのことをこの大会に強く誘ったのだ。
「親父が認めたエマとどうしても対戦したいんだ! 頼む! この通り!!」
そう言って何度も頭を下げる彼女の勢いに負けて、エマはこの大会に出ることになってしまったというわけ。
正直なことを言えば、私はエマが大会に出るのが心配で仕方がなかった。以前、エマはこの格闘場で上級生たちに襲われケガをしたことがあるからだ。
でもエマが「せっかくだから一緒に出場するゼルマちゃんを応援していきたい」と言ったので、不承不承一緒に見守ることにした。ちなみにエマの成績は学科が何とか及第点だったけれど、実技がほぼ満点だったので、最終的には普通の人よりも少しだけよかったみたいです。
私は選手の待機所になっている天幕の前でエマと別れることになった。観戦する人は闘技台の横にある観戦席に行くのが決まりになっていたからだ。観戦席は出場選手の保護者を始め、学校関係者や騎士団の人たちですでに満員になっている。
「エマ、がんばってね。私、応援してるから!」
「うん、正直自信はないんだけど、せっかくだから頑張ってみるね。」
エマはそう言って手を振りながらゼルマちゃんとジョセフィーヌちゃんのところに行ってしまった。この大会に出る女子選手はエマを含めてこの3人だけだ。
先週まで王立学校にいたミカエラちゃんとイレーネちゃんは、実技試験が終わるとすぐに自分の領地へ行ってしまったためここにはいない。二人の領地は王都からものすごく離れているので、雪が深くなる前に移動しなくてはいけなかったからだ。
エマと同室のニーナちゃんも、王都にある実家で冬ごもりの準備をしなくてはならないとかで帰ってしまった。噂好きで貴族のことに詳しいニーナちゃんが一緒なら心強かったのにと思いながら、私は一人で観覧席へ向かった。
観覧席へ移動する間、私はなぜか周りの人たちからじろじろ見られてしまった。なんだかすごく恥ずかしい。もしかしたら知らないうちにおかしなことをしちゃったのかな?
私はガブリエラさんに教えてもらった貴族女性の振舞い方を一生懸命に思い出しながら、ドレスの裾を踏まないように慎重に歩いた。
私が今着ているのは仕立て屋のドゥービエさんが作ってくれた『冬の新作ドレス』だ。柊の葉っぱのような深緑色を基調とした生地の裏地には、銀鼠色の艶々した布が使われていてとても着心地がいい。
腰のところがきゅっとくびれている分、腰から下にはふんわりとした広がりがあり、歩くたびに折襞の入った裾がひらひらと揺れる。だからきれいだけどちょっとだけ歩きにくいんだよね。
胸から上、首と肩の部分は黒と銀のレース地を重ねて作られているので、素肌がほんの少し透けて見えている。私は寒さをあんまり感じないから平気だけど、人間の女性なら風邪を引いてしまうんじゃないかな。でもこれがドゥービエさんの『一押しポイント』なのだそうだ。
ちなみに結い上げた髪につけた装飾品や耳飾り、首飾り(ネックレス)、指輪、そして靴もすべてドゥービエさんがこだわり抜いて選んだ『逸品』なんだって。
このドレスから装飾品まですべて合わせたら総額1万D以上するらしいけど、私は彼女に全然お金を払っていない。それどころか200Dも貰ってしまった。
彼女は私がこの剣術大会を観戦するということをどこからか聞きつけたみたいで、昨日突然このドレスを持って王立学校に訪ねてきたのだ。
「本当は新作の展示用に作ったドレスだけど、完璧に似合うはずです。元々ドーラさんをイメージして作ったものですからね! 明日は是非このドレスを着て大会を観戦してください。ドレスは大会が終わってから店に届けていただけば結構ですから!!」
目の下にすごい隈を作った彼女はそう言って私に『モデル料』を押し付けると、ドレスの着方を細々と指示して嵐のように帰って行った。なんでも秋の収穫祭に向けての注文が山のように来ていて、いま彼女のお店は大変な『修羅場』になっているそうだ。
断る間もなくお金を受け取ってしまったので、悩んだものの結局彼女の服を着ることにした。でも何か私が失敗をやらかしているのだとしたら、せっかくの彼女が頑張って作った服が台無しになってしまったかもしれない。
私は心の中でドゥービエさんに「ごめんなさい」と謝りながら、出来る限り急いで観覧席に向かって歩いた。
観覧席に入ると、侍女姿のリアさんが私を待っていてくれた。とてもきれいな仕草で深々とお辞儀をした後、彼女は私に言った。
「ドーラ様、お席へご案内いたします。」
「あのリアさん、ドーラ様っていう呼び方はその・・・。」
「さあ、こちらです。」
リアさんは私の言葉を無視してさっさと私を観覧席に連れて行った。途中、何度か貴族の男性が私に話しかけたそうに近寄ってきた。けれどその度にリアさんが王様の紋章の入った短剣を見せ、すべて追い払ってくれた。
観覧席には男性だけでなく私と同じようなきれいなドレスを着た女子生徒や若い女性がたくさんいた。リアさんによると彼女たちは、この後行われる収穫祭と冬の社交に向けての『品定め』に来ているのだそうだ。
自分の家の家格や爵位と釣り合う男子生徒の中で、好みの相手を見つけるのが目的らしい。私はそれを聞いて、メスがオスを選びにやって来るなんてまるで森に棲んでいる鳥たちみたいだなと思ってしまった。
「ありがとうござました、リアさん。」
私が彼女に案内のお礼を言うと、彼女は表情を崩さず静かな声でそれに応えた。
「王家が後見人となっているエマ様の姉上に、余計な手出しをさせるわけには参りません。それにドーラ様はカール様のご婚約者であらせられるのですから、私がお守りするのは当然のことです。お礼を言っていただくようなことではございません。」
「そう・・ですね。うん、でもやっぱり、ありがとうございます、リアさん!」
私がもう一度お礼を言うと、彼女は少し驚いたように目をわずかに開いた後、ほんの少し唇の端を上げて「どういたしまして、ドーラ様」と言った。
私はリアさんに断ってから彼女に《視力強化》の魔法をかけた。そして遠くの闘技台の側にいるエマの姿を目で追いながら、リアさんと二人で試合が始まる時を今か今かと待ち続けたのでした。
ドーラと別れたエマはゼルマ、ジョセフィーヌと共に試合の組み合わせが張り出されている天幕前の掲示板へと向かった。
掲示板前は組み合わせの確認に来た男子生徒たちでいっぱいだった。エマが背の高い男子生徒たちの隙間から何とか掲示板を覗き込もうとしていると、不意に後ろから声をかけられた。
「エマさん、大丈夫ですか?」
「どれ、私が掲示板の前まで案内してやろう。」
「ニコルくん! それにウルス先輩も!」
声をかけてきたのはサローマ伯爵家の一人息子ニコル、そして王太子の嫡子であるウルスだった。二人ともエマと同じで、訓練着の上に革鎧を着込んだ姿をしている。腰には刃先をつぶした試合用の片手剣を佩いていた。
王国を代表する大貴族家と王家の嫡子の登場に、その場にいた男子生徒たちは掲示板の前からすっと下がった。遠慮するエマたちを二人は掲示板のすぐ前まで連れて行った。
剣術大会は例年、予選と決勝戦に分かれて行われる。総当たりで行われる予選の組み合わせは格闘訓練の成績によって割り振られていて、だいたい同じくらいの成績の者同士が当たるように教師による調整がされているのだ。
予選を勝ち残った上位2名の選手が決勝戦へ進む仕組みだ。ただ2年生が多く割り振られている組にエマたちの名前はなかった。
「エマさんはどの組なんですか?」
「私は1年生の男子と同じ組だよ。ほら、ここを見て。」
ニコルの問いかけに対し、エマは掲示板の一角を指し示した。1年生男子の下位組の中にエマたち女子三人の名前が書いてある。
「初出場のエマさんはともかく、前回の決勝進出者であるゼルマさんまで一年の下位組とは・・・。」
「女子は格闘訓練に参加してないからね。騎士クラスの成績も付かないし仕方がないよ。」
エマは肩を竦めて小さくため息を吐いた。本来なら女子であるエマたちには出場資格すら与えられない。出場させてもらえるだけでも特例中の特例なのだ。そう言ったエマに対しニコルは複雑な表情を見せた。
そんなニコルの様子を見たゼルマはほんの少し笑みを浮かべた。彼女は右手に持った試合用の短槍を強く握りながら彼に言った。
「ありがとうございます、ニコル様。ご期待に沿えるよう全力を尽くします。」
頭を軽く下げた彼女に対し、ニコルはごく自然に手を差し出した。
「ああ、互いに頑張ろう。決勝で会えるのを楽しみにしている。」
エマたちとニコルは固く握手を交わした。そして試合に向かうため、それぞれの組の編成場所へと移動した。
エマたちは1年生の男子に混じって編成所に整列した。この1年男子下位組を担当する教師から試合場の注意を受けるためだ。ところが試合の組み合わせが行われる直前、その教師の言葉を遮る声が掛かった。
「ちょっと待ち給え。その組み合わせは相応しくない。」
驚いた生徒たちの目の前に現れたのは、深黄色の長衣を纏った禿頭の大男だった。
「ゴースフェル先生!?」
土属性魔法研究主任のボーデン・ゴースフェルは担当教師に何事か話しかけた後、エマとゼルマを自分のもとへ呼び寄せた。
「二人はあちらの組に移りなさい。」
そう言って、ボーデンが示したのは2年上位組の編成所だった。
「え、でも・・・。」
「君たちの実力ならこちらで問題ない。」
戸惑うエマとゼルマにきっぱりとそう言うと、彼は二人を連れてその場から離れようとした。だがその彼に対し、ジョセフィーヌが素早く立ち上がって叫んだ。
「ゴースフェル先生! 私もエマ先輩と同じ組にしてください!」
ボーデンは彼女の褐色の肌と金色の瞳をじっと見つめた後、そっと息を吐きながら言った。
「トーラスの娘か・・・ふむ、いいだろう。」
「ありがとうございます!!」
ジョゼフィーヌは嬉しそうに立ち上がると、小走りにエマたちの方へ駆け寄った。
「同じ組になれてよかったね、ジョス。」
「ああ、本当にそうだよエマさん。あたしは容赦しないから、覚悟しておいておくれよ。」
ジョセフィーヌはエマに凄んで見せた。だがエマが「うん、分かった。お互いに頑張ろうね」とニコニコしながらそれに応じたため、たちまち何とも言えない表情になった。
「まったく。あんたと話してると調子が狂うよ。」
憮然とするジョセフィーヌを見たゼルマは、くすりと小さく笑った。
「私もいることを忘れないでくれ。魔力量では劣っていても一年年下の相手にまだ後れを取るつもりはないからな。」
「ああ、もちろんさ。最初にこの学校に入れられた時は本当に逃げ出したかったよ。けど、あんたたちのおかげで楽しくなってきたんだ。全力でやらせてもらうよ。」
不敵に笑みを交わし合う二人。エマはそんな二人の手を両手で取ると「さあ、行こう」と歩き出した。
試合の組み合わせが発表され、エマたちが闘技台の控え席に並んでいると、慌てた様子でニコルがやってきた。
「三人ともどうしてここに?」
不思議そうな顔でそう尋ねる彼にエマは経緯を話した。ニコルはうんうんと頷きながらそれを聞いた後、少し照れた表情でエマに言った。
「さすがはゴースフェル先生だね。僕も三人にはこっちの方がいいと思う。」
明るい花のような笑顔でエマに「ありがとうニコルくん」と言われ、彼は耳まで真っ赤になった。その様子を見たジョセフィーヌはゼルマにそっと話しかけた。
「(あの先輩、エマさんに惚れてんだね。)」
「(そうだな。エマ様も満更でもない様子だし、うまくいくといいと思っている。)」
「(だけどいくら二人が思い合ってたって、エマさんは平民だろ? 大貴族の息子相手じゃあ、どう頑張ったって妾がいいところだ。あたしは止しといたほうがいいと思うけどねぇ。)」
ゼルマはそれに対して微妙な表情をしたまま何も言わなかった。それは彼女がこの2年間の付き合いから、エマの素性について疑いを抱いていたからだ。
エマの後見人はドルアメデス国王その人だ。その上、エマの姉であるドーラは気軽に国王に面会できる立場であることが分かっている。この二つの事実が示すこと。それはエマの出自は王家の血に連なっている可能性が非常に高いということだ。
巷で噂されているように、ドーラとエマは高位のエルフ族と王族との間に生まれた子供なのかもしれないとゼルマは考えていた。エルフ族のロウレアナの態度やドーラとエマの異常ともいえる魔力量もそれを裏付けている気がする。この点については同室のニーナもゼルマとまったく同じ意見だ。
ただ二人ともそのことを直接エマに尋ねたことはない。言ったところで否定されるだろうし、エマ自身が自分の出自を知らない可能性が高いと思うからだ。それに何より、王家が秘密にしていることに深入りするような危険を冒すべきではないという思いが二人にはあった。
これは下級貴族としての彼女たちなりの処世術だ。エマは何も知らないのだから、私たちもそれを知る必要はない。私たちは今まで通り「平民のエマの友達」であり「一番の味方」であるという立場で、彼女に接すればよい。ゼルマは以前ニーナとそう話し合ったことを思い出した。
ただそうであっても、やはり心の中ではいろいろと想像を巡らせてしまうものだ。特に観劇が大好きなニーナは、エマの出生の秘密について彼女なりの物語を色々と思い描いている。ゼルマはこれまでもそれを何度もこっそりと聞かせてもらっていた。
彼女曰く、おそらく何らかの事情で物心つく前に王家の手を離れたエマは、貧しい木こりの娘として育てられた。エマが4つの時にドーラと出会ったという話から想像するに、ドーラはずっと行方のしれない妹を探していたのかもしれない。エマに対する彼女の溺愛ぶりもおそらくそれが原因だろう。
エマとドーラの年齢から考えておそらく現在の国王とエルフ族の姫の間に何らかの恋愛譚があったのではないか。だが結局その姫とは別れなくてはならず、二人の間に生まれたドーラやエマとも生き別れになってしまった。
しかし12年ほど前、国王の妃が亡くなったことで、王は生き別れた二人の娘を探し始めた。ドーラはエルフ族の中で姫の血を継ぐ者として大切に育てられていたが、エマは行方知れず。
王の願いによってドーラはその魔力で妹であるエマを探し出した。そして二人は結託し、エマを再び王族として迎え入れさせるため王立学校へ入学させた、というのがニーナの考えた物語だ。
初めてこの話を聞いた時「あまりにも現実離れしすぎだ」とゼルマは一笑に付したものだ。だが最近では、この想像もあながち間違っていないのではないかと考え始めているのだった。
エマとニコルはその後しばらく、側で聞いていたジョセフィーヌが思わず体を掻きむしりたくなるほどぎこちない会話を続けた。そしてようやくエマたちの組の試合が始まるというところで、ニコルはエマに別れを告げた。
「じゃ、じゃあ、エマさん。頑張ってくださいね。私は控え席から応援しますから。」
「ありがとうニコルくん。でもニコルくんは試合の準備をしなくてもいいの?」
エマの問いかけに、ニコルは自分でも気づかないほど僅かに胸を張った。
「私は去年の大会で8位内に入賞しましたから、予選は免除されているんですよ。」
去年のニコルは予選でリンハルトと同じ組になり2位で決勝に進出した。そして準々決勝で再びリンハルトと対戦したのだ。結果は惨敗。開始と同時に鋭く打ち込まれ、何もできないうちに敗退させられた。
「そっか、たしかリンハルト王子が去年の優勝者だったんだよね。」
エマのその呟きを聞いたニコルは、ほとんど反射的に彼女の両手をしっかりと掴んだ。
「ニ、ニコルくん!? ど、どうしたの急に・・・。」
エマに自分の名前を呼ばれて初めて、彼は自分がエマの手を握っていることに気が付いた。驚きに頬を染めるエマの顔を正面から見ながら、彼は夢中でエマの名前を叫んだ。
「あ、え、エマさん!!」
「は、はい!」
「私はリンハルト殿下に勝ちたいのです! 私を、私のことを応援してくれませんか?」
その言葉を口にした直後、彼は自身の行動の突飛さに驚かされた。
一体何をしてるんだニコル・サローマ! これは到底、由緒あるサローマ家の嫡子にふさわしい行動ではない! 今すぐ彼女の手を放し、無礼を詫びるのだ!
彼の頭の中ではそんな言葉がぐるぐると回っている。だが彼の体は全くいうことを聞かなかった。彼は混乱しきった心のまま、エマの形のよい赤いの唇が彼に返事を伝えるのをじっと待っていた。
「もちろん私、ニコルくんを応援するよ! 頑張って絶対、リンハルト王子に勝ってね!」
エマのその言葉を聞いた途端、ニコルの体の強張りがすうっと消え、混乱していた心がふっと穏やかになった。そしてその直後、彼は何とも言えない熱い力が心の奥から沸き立ってくるのを感じた。
彼はごく自然に右手でエマの指先を掴んだままその場に片膝をつき、左手を胸に当てた。
「ありがとうございますエマさん。私の戦いぶりをしっかりと見ていてください。あなたの応援に恥じぬよう、精一杯戦い抜いてみせます。」
エマはずっと憧れていた騎士物語の主人公のようにニコルが振舞ったことで驚き、感激のあまり言葉が出てこなくなってしまった。彼女は顔を真っ赤にしたまま、こくこくと何度も頷いた。
ニコルはすっと立ち上がると優雅な仕草で一礼し、その場から立ち去っていった。エマは呆然としたままその姿を見送った。
そんな二人のやり取りを聞いていたジョセフィーヌはひゅうと小さく口笛を吹き、「へえ、あの坊ちゃん、なかなかやるじゃんか」と呟いた。ゼルマは軽く苦笑しながらエマに声をかけた。
「エマ様、大丈夫ですか? そろそろ試合が始まります。待機席へ参りましょう。」
「あ、うん、ありがとう。」
こうして心ここにあらずと言った風のエマを連れ、二人は自分たちの予選が行われる闘技台の待機席へと移動したのだった。
読んでくださった方、ありがとうございました。