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missドラゴンの備忘録  作者: 青背表紙
70/93

68 追試験 後編

後編こそは短くしよう! そう思っていたのに、書くのが楽しすぎてつい・・・。本当にすみません。

 エマたちはようやく一角兎の巣穴を発見することができた。だが相手の戦力を見極めるために一時撤退し、陽があるうちに巣から離れたところまで移動して野営地を探すことに決めた。


 携帯糧食を溶かしたスープと保存のきく固焼きパン、炙った塩漬けのベーコンでささやかな食事が済ませた後、三人は即席の香草茶を飲みながら火を囲んだ。


「まさかまた一緒に野営できるなんて思わなかったよ。二人とも平気?」


「疲れてるけど大丈夫だよエマちゃん。イレーネ様、足の具合はどうですか?」


「ミカエラ様に治療をしていただいて楽になりました。それに携帯糧食もあの行軍実習の時に比べたら、格段に美味しかったですわ。」


「これはガレスさんの特製だからね。最近、ギルドの冒険者さんたちにもすごく人気があるんだって。」


 三人は行軍実習の時に食べた王国軍の携帯糧食の酷い味と臭いを思い出し、顔を見合わせてクスクスと笑い合った。





 ミカエラが採取してきた香草の香りを楽しみながらお茶を飲み、野苺ワイルドベリーを摘まむ。エマが見つけたこの実は、実りの季節にふさわしい甘みをたっぷりと含んでいた。


 秋の終わりの森の中は凍えるほどの寒さで、鬱蒼とした木々の間の闇は引き込まれそうになるほど恐ろしい。しかしこうやって焚火を囲み、取り留めない会話をしていると寒さも恐怖も薄れていくような感じがする。


 パチパチと薪の爆ぜる音を聞きながら、エマはドーラが準備してくれた防寒着の襟口をそっと掻き合わせた。ドーラの愛情が暖かさとなって自分を包んでくれているようで、エマはふっと安らかな気持ちになった。


 それを感じ取ったかのように右隣のミカエラが小さくあくびをし「あら、ごめんなさい」と謝った。それを見て目を丸くするイレーネ。三人はまたクスクスと笑った。


 心地よい疲れと何とも言えない暖かさ。それを心にじんわりと感じながらエマは二人に話しかけた。






「ところで今夜の不寝番みはり、どうしようか? 私が《索敵》の魔法を使って、朝まで起きててもいいけど・・・。」


 けれどその提案は即座に却下され、話し合いの結果イレーネ、エマ、ミカエラの順で不寝番をすることになった。


「本当に大丈夫、イレーネちゃん? 慣れないことをして疲れているでしょう?」


 自分に対して《睡魔除け》(不眠の効果がある光属性の初級魔法)を使ったイレーネにエマがそう尋ねると、彼女は「元々あまり眠くありませんの。少し興奮しているせいかもしれませんね」と言って恥ずかしそうに笑った。


 エマが周囲の外敵を察知する《索敵》を、ミカエラが外敵に気付かれにくくなる《静かなる夜の守り》の魔法をそれぞれ使う。これで就寝の準備は万全だ。


 だが就寝の準備を終え二人が寝床に入ってからも、彼女たちの楽しいおしゃべりはしばらくの間、ひそひそと続いたのだった。











 密かに接近してエマたちが眠りに就いたのを確認したトーラスは、火の側に座って瞑想しているボーデンの隣にさっと腰を下ろした。


「今のところ順調だな。あいつらも現れる気配がねえ。お前の予想もたまには外れることがあるんだな。」


 ボーデンは薄く目を開け、不愉快そうに口の端を歪めた。


「私は予言者じゃない。私たちも見張りの当番を決めるか?」


「そんなことするわけねえだろ。お前の冗談、昔っから全然笑えねえんだよなぁ。」


 トーラスは磁器製の瓶を道具袋から取り出し、瓶に口を付けて中身を一口含むと「かーっ、うめえ!」と小声で言った。


 彼は無言でボーデンに瓶を差し出した。ボーデンは差し出された瓶の中身を彼と同じように口に含んだあと、ゆっくりとその味を楽しみ、ふうっと大きく息を吐いた。






「これは・・・ドワーフ族の火酒スピリッツか。こんな貴重なものをどうしたんだ?」


 瓶を返されたトーラスはまた一口呑んで、それをボーデンに渡した。


「顔馴染みの商会からの仕事でもらったんだ。最近、物騒な事件が多いからな。あったまるだろ?」


 ボーデンはトーラスの軽口を無視して酒を飲み、厳めしい眉を引き寄せた。


「立て続けに起きた争乱の影響が出ているのか・・・。」


「まあな。お前がこの試験に出張ってきたのもそれが原因なんだろう?」


 ボーデンは探るような目でトーラスを見つめた。トーラスは手を広げて天を仰いで見せた。






「おいおい、俺を疑うなよ。ちょっと考えれば分かるこった。お前の実家ゴースフェルは生粋の王党派。その上、研究室長のお前がこんな追試にまでわざわざ出てきてるんだ。護衛の魔法騎士じゃなく冒険者の俺を連れてな。」


 トーラスは言葉を切ると、声を低くして問いかけた。


「この試験には王家の意向が強く働いてる。そうなんだろう?」


「・・・あの子たちは今、とても危うい立場にいるんだ。彼女たちの動向の成否や生死如何いかんによっては、多くの命が失われることになるかもしれない。」


 言葉を選ぶようにして重い口を開いたボーデンに対し、トーラスは小さく息を吐き「試すようなことして悪かった」と謝った。






「お前が大変なのは分かったよ。事情が分かった以上、協力もする。でもそれは今の俺たちが考えることじゃねえ。それより夜は長えんだ。積もる話でもしようや。ルードはいくつになった?」


「今年で18歳だ。」


「そうか、もうそんなに経つのか。」


 二人は交互に酒を飲み、目の前で燃える焚火を見つめた。だが彼らが見ていたのはそのもっと無向こう、遥か彼方に過ぎ去った若き冒険の日々だった。






あの子ルードは魔導士団に入って今は王城の研究所務めだ。今年の春に準男爵に昇爵した。来年には子供も生まれる。シャロにも会いたがっていたぞ。礼を言いたいそうだ。」


「分かった、あいつに伝えとくよ。下の子たちも王立学校に入学できるんだろう?」


「ああ、だがルードのように爵位を得られるかは分からん。」


 軽く首を振ったボーデンに向かって、トーラスは肩を竦めてみせた。


ロタール4世いまのおうは新しい国づくりのための人材を求めてる。きっとうまくいくさ。」


「お前もそのつもりでジョスを王立学校に入れたんだろう?」


 その問いかけにトーラスは答えなかった。二人の間に沈黙が下り、パチパチという焚火の音が大きく響く。トーラスはボーデンの持っている酒瓶に手を伸ばして中身を一口呑んだ。大きく息を吐きだした後、彼はポツリと呟くように言った。






「・・・あいつには、俺みたいな惨めな思いをさせたくないからな。」


「ジョスはお前のことをそんな風には思っていない。」


 親友の呟きをボーデンはきっぱりと否定した。普段から肝心なことしか言わない男の言葉は、トーラスの心に響いた。だからこそ彼は言うべき言葉を失くしてしまった。


 彼は昏い目でじっと焚火を見つめ、また無言で火酒を呷った。そのまましばらく俯いていたが、やがて顔を上げると目を逸らして「ありがとよ」と小さく呟いた。






「それにしてもよ、あの嬢ちゃんたちには驚かされたぜ。まさか本当に巣穴を見つけちまうとはな。」


 少し照れくさそうにしながら、トーラスは殊更に明るい調子でボーデンに言った。


「ああ、私にとっても想定外だった。王国最上位貴族家の子弟の実力を見くびっていたよ。」


 あからさまに話題を変えようとする友の気持ちを察し、ボーデンはいつになく率直に自分の考えを口にした。


「なんだ? やけに素直じゃねえか。だからあの子たちを止めなかったのか?」


「討伐を合格条件とした以上、止める理由がない。それに私自身、あの子たちの実力をこの目で確かめてみたい気持ちもあるのだ。」


 滅多なことでは自分の思いを口にしない友の言葉に、トーラスは呆気にとられた。


「おい大丈夫かボーデン。お前、酔ってるのか?」


 ボーデンは厳めしい顔をますます顰めた。トーラスはククっと小さく笑って彼の肩に手を回した。






「まあ、せっかく久しぶりに会ったんだ。かつての相棒に、普段貴族の間じゃ言えないようなことを色々話して聞かせてくれよ。なっ?」


 ボーデンは肩に回された手をうるさそうに振り払った。


「お前こそ、もう酔ってるのか? 言っておくが無事に依頼をこなさなきゃ報酬は払わんからな。」


 目に笑みを湛えながらさっきの仕返しをしたボーデンに対し、トーラスはニヤリと笑った。


「これくらいの酒で酔うかよ。それにこの寒さだ。飲んだ端から酔いなんか醒めちまうよ。」


「ふふ、それもそうか。」


 ボーデンは小さく笑い、差し出された火酒を口にした。小さな焚火に照らされた二人の男は、ぽつりぽつりと思いを語り合った。


 長い秋の夜はゆっくりゆっくりと二人の間を通り過ぎていった。











 翌朝、朝日が昇るのを待って、エマたちは一角兎の巣穴へと向かった。ミカエラの《影隠し》とエマの《消音》で気配を消した三人は、離れたところから慎重に巣穴の様子を観察した。


 巣穴の周りには、夜の遠出から戻ったばかりの一角兎たちが思い思いの姿で寛いでいる。その数およそ30体。中でも一際大きくて立派な角を持った一角兎が、こんもりと盛り上がった巣穴の上に立ち、きょろきょろと周囲を警戒している。あれがこの巣穴のリーダーに違いない。


 リーダーの周りにいるのはやや体が大きく角の小さいメスの兎たち。彼女たちは代わる代わるしきりに巣穴に出入りしている。おそらく巣穴の奥にいる子供たちに交代で乳を飲ませているのだろう。


 こうしている様子を見ると、大きさを除けば彼らは普通の野兎と何ら変わらないように見える。だが一角兎は魔石を持つれっきとした魔獣だ。


 春になり食べ物を求めて彼らが人里に現れれば、作物だけでなく家畜や人命に被害が及ぶ。そうなる前に彼らを排除しなくてはならないのだ。






 エマたちは手指信号で合図し合いながらそろそろと移動し、打ち合わせておいた通りの配置に付いた。魔法の助けも借りているため、兎たちは全くそれに気付く気配はない。


 エマとミカエラが配置に付いたのを確認した後、イレーネはさっと立ち上がって短杖を振り上げた。彼女の姿に気付いたリーダーが群れに警告の鳴き声を上げた時にはもう、イレーネの詠唱は終了していた。


「我が魔力によりて現れ出でよ衝撃の光! 《閃光》!!」


 次の瞬間、巣穴のすぐ真上に小さな光球が現れ、直後爆発したかのように強い光を放った。リーダーの警告を聞いて上を見上げていた兎たちはその目をまともに魔法の閃光で貫抜かれ、悲鳴を上げてその場に転がった。


 動きの止まった兎たちにエマは《魔法の矢》を放った。魔力で誘導された光の矢は過たず兎たちの急所を撃ち抜いていった。


 だがリーダーのオス兎だけは《閃光》の衝撃からいち早く立ち直り魔法の矢を素早い動きで躱すと、怒りの唸り声をあげながら猛然とエマに向かって駆け寄ってきた。






「来たよ! ミカエラちゃん!!」


 エマがそう叫ぶよりも早くミカエラの《闇の壁》の呪文の詠唱が終わった。ミカエラの短杖が振るわれると、兎のリーダーの四方に闇の魔力で出来た黒い壁が現れ、リーダーを魔力の箱の中に閉じ込めた。


「やった!!」


 エマは思わず歓声を上げて立ち上がり、同じように杖を構えているミカエラ、イレーネと目を合わせた。事前に立てた作戦は見事に成功した。あとは壁の中に閉じ込めたリーダーを倒せば討伐完了だ。






 もちろん巣穴の中にはまだ子供兎たちが残っている。だが穴に入ることができない以上、今は放置するしかない。


 無理にでも殲滅しようと思えば《地割れクラック》のような土属性魔法で巣穴ごと破壊することも可能だ。だが地下に空間がどのように広がっているか分からない状況でそんな大規模な破壊魔法を使うのは、危険だし現実的ではない。


 一般的に子兎には、危険が迫ると巣穴の奥に隠れて身を潜める性質があるからだ。仮に今ある巣穴を大部分破壊できたとしても、生き残った兎たちが脱出して繁殖してしまえば元の木阿弥になってしまう。彼らの繁殖力はそれくらい高い。


 それに別にそんなことをしなくてもリーダーのオスとメス兎たちさえ倒してしまえば、群れの力は大きく下がる。つまりそれだけ周辺の村への被害も減るというわけだ。少なくとも来年の春に周辺の村々が襲われることはなくなるだろう。目的はこの時点で十分に達成できているのだ。






 エマたちはミカエラの作った闇の魔力の箱に近づいた。黒い闇の魔力で出来ているため中を見ることは出来ないが、リーダーが壁に体当たりをする音が大きく響いている。


 懸命に壁を破ろうとしているようだが、魔力で出来たこの壁は普通に攻撃するだけではビクともしない。彼女たちは皆そう思っていた。


 だがエマが二人に「うまくいったね」と話しかけようとしたその時、頑丈なはずの魔力の壁が突然内側から破られた。砕け散った壁の破片は、緑の光を放ちながら朝の冷たい空気に溶けて消えた。






「うそ!?」


 エマが悲鳴を上げ、ミカエラが慌てて杖を構えなおした時にはもう、リーダーの一角兎はエマのすぐ目の前まで迫っていた。金色に輝くリーダーの角を見て、エマは何が起こったのかを瞬時に悟った。


死の突撃ヴォーパルチャージだ! 二人とも私から離れて!!」


 一角兎はエマの眼前で一気に飛び上がると、彼女の心臓目掛けて一直線に飛び込んできた。魔力によって強化された恐るべき角がエマの心臓に迫る。魔力の壁を打ち破ったのも間違いなくこの攻撃によるものだろう。


 エマは思わず持っていた短杖を両手で真横に構えて突き出し、兎の突撃を防ごうとした。






「エマちゃん!!」「エマさん!!」


 そんな小さな短杖で魔獣の突撃を防げるはずがない。ミカエラとイレーネは短杖を砕いた魔獣の角がエマの体を貫く様子を想像し、絹を裂くような悲鳴を上げた。


 だが神竜ドーラの角を削り出して作ったエマの短杖は、一角兎の必殺の一撃を見事に跳ね除けた。エマは両手に強い衝撃を感じて大きく後ろに弾き飛ばされたが、致命傷を負うことはなかった。


 必殺技を防がれた一角兎はエマを警戒し、その場に着地したあと彼女から少し距離を取って立ち止まった。次の一手のために助走距離を確保する算段もあったのだろう。


 戦いの本能から生み出された行動だったが、それを見たミカエラとイレーネは、普通の動物とは違う魔獣の恐ろしさを思い知らされ、ゾッとするような恐怖を味わった。






 一方、地面に激しく叩きつけられたエマは、ずきずきする体の痛みを無視して素早く起き上がり、愛用の短刀を引き抜いた。


 咄嗟に受け身を取ったものの背中を強打したせいで呼吸が乱れ、軽いめまいがする。それでもエマは兎をミカエラとイレーネに近寄らせないようにするため、しっかりと両足を踏みしめて短刀を横薙ぎに構えた。


 次の攻撃が来る!!


 エマは突撃に備え、短刀を持つ右手に力を込めた。だが彼女の予想に反して、一角兎は両足で立ち上がり甲高い叫び声を上げた。


 するとそれに呼応するように広場の地面のあちこちからメス兎たちが飛び出し、一目散に森の中に逃げ込んでいった。アッと思ったが時すでに遅く、エマたちにはどうすることもできない。






「自分が囮になって残った家族を逃がしたんだね。」


 エマは短刀を構えたまま目の前の一角兎に語りかけた。兎の目は金色の魔力光を帯び、怒りと殺意で爛々と輝いている。家族を思う兎の気持ちが分かって、エマの胸がチクリと痛んだ。


 だがこの戦いをやめるわけにはいかない。戦う力を持たない多くの人を守る為、エマはごくりと唾を飲みこみ、決然と目を見開いた。


 一角兎は再びエマに向かって一直線に飛び込んできた。目にも止まらぬ速さだがその軌道は単純。エマは相手の動きを見切り、やや左側に重心を傾けた。


 ギリギリまで相手を引き付けてから回避し、すれ違いざまに短刀の一撃を加える。エマはゼルマやカールとの戦闘訓練で何度も練習したその動きを頭の中でなぞった。






 だが短刀を繰り出すため僅かに右肘を後ろに動かしたその時、高速で移動していた兎が突然動きを変えた。通常ではありえないその動きは魔力を持つ魔獣ゆえのものだ。



 兎は短刀を持っていないエマの左腕側へ移動した。魔力を込めた足で地面を蹴った後、エマの左後方に立っていたオークの枝に着地する。そしてそのまま全体重と魔力を角に乗せ、エマの首目掛けて上空から彼女に襲い掛かった。


 恐るべき立体機動。直線の動きに狙いを定めていたエマは完全に虚を突かれ、その動きに反応できなかった。僅かに体を逸らしかろうじて左腕を持ち上げるのが精一杯。


 だが人間の、ましてや少女の細腕で魔力の壁を破壊するほどの一撃を受けられるはずもない。


 左手を打ち砕かれ、体を刺し貫かれる! エマがそう思った時、鋭い詠唱が朝の森の空気を切り裂いた。






「退けよ!! 《女神の光盾》!!!」


 イレーネの短縮詠唱によって生み出された光り輝く丸い盾が、エマの左腕に出現した。光り輝く盾はひとりでに動いて一角兎の攻撃を見事に逸らした。だが不自然な体勢だったため突進の勢いを殺すことは出来ず、エマは再び盾ごと弾き飛ばされ地面に転がった。


 一角兎は再び突進するためエマから距離を取った。エマも魔獣を迎え撃つため、痛む体を無理矢理引き起こす。倒れた時に右肘を強打してしまったようで、右手の握力がほとんど無くなってしまっていた。


「安らぎを齎す夜の闇よ。我が魔力によりて傷ついた彼の者の痛みを取り去り、癒しを与えよ。《大いなる夜の安らぎ》」


 ミカエラの詠唱が終わると同時にエマの体が緑色の魔力で包まれた。たちまち体の痛みが引き、傷が癒えて体に力が満ちてきた。






「ありがとうイレーネちゃん、ミカエラちゃん!」


 エマは丸盾を前に構えたまま、兎に悟られないよう右手の短刀をやや後ろに引いた。二度も必殺の一撃を防がれたことで、一角兎は完全に怒りで我を忘れた状態になっている。


 兎はエマを攪乱しようと左右に激しく跳ね回るように出鱈目な軌道でエマに迫ってきた。だが瞼を半分閉じた状態にして相手の動きを冷静に追っていたエマには全く通じなかった。






 エマは自分に向かって突き出された角を魔法の丸盾でいなした。そして兎の体が斜めに流れるのに合わせて体を半回転させ、持っていた短刀を下から上へと大きく振り抜いた。


 ドーラの作った短刀は魔力を帯びて硬くなった魔獣の毛皮を易々と切り裂き、兎の首を切断した。首を跳ね飛ばされた兎は激しく血を吹き上げながら地面に転がった。


 エマは返り血を避けて後ろに軽く下がった後、その場に崩れ落ちるようにしゃがみこんだ。心配して駆け寄ってきたミカエラとイレーネに、エマは肩で荒い息をしながらなんとか微笑んで見せた。


「ありがとう、二人とも、おかげで、助かったよ。」


 三人はその場に座り込んで互いに体を抱き合った。涙を流す二人に挟まれているうちにエマも興奮が冷め、さっきまでの恐怖がまざまざと心に湧き上がってきた。


 エマは体を震わせ声を上げて泣いた。そのエマにつられるように他の2人もまた泣き出してしまった。結局、彼女たちは涙と鼻水で顔がべしゃべしゃになるまで大声で泣き続けた。






「よくやったな、嬢ちゃんたち。」


「ド、ドーラズざん・・・!!」


 トーラスは座り込んでいるエマたちに近づくとその頭を手巾ハンカチで丁寧に拭っていった。


「まさか本当に嬢ちゃんたちだけで討伐しちまうとは思わなかったぜ。」


 三人は泣き腫らして赤くなった互いの目を見て、恥ずかしそうに微笑み合った。控えめに喜び合う彼女たちの前で、トーラスは腰に佩いた片手剣をおもむろに引き抜いた。驚くエマたちに彼は言った。






「嬢ちゃんたちが頑張った分、残りは俺たちが片付けるぜ。」


「「「残り?」」」


 三人が口をぽかんと開けて顔を見合わせ合うのと同時に巣穴の向こう側、森の奥からけたたましい鳥の鳴き声が響き渡った。


 続いてさっき逃げていった一角兎たちが何かに追われるように飛び出してくる。エマたちは只ならぬ雰囲気を感じ取り、さっと立ち上がって短杖を構えた。






「絶対に前に出るなよ。だが自分たちの身は自分で守ってもらえると助かるぜ。来るぞ!」


 片手剣と丸盾を装備したトーラスが森の木々の奥を睨みながらそう叫んだのを合図に、木々の間から巨大な影が2体、奇声を上げながら飛び出してきた。


「あれはまさか・・・石化魔鶏コカトリス!?」


 ミカエラの上げた驚きの叫びと怪鳥の叫びとが重なった。エマとイレーネがミカエラの言葉につられるように2体の怪鳥へ視線を移した時、怪鳥は大きく飛び上がると逃げ遅れた一角兎をその鋭い鉤爪で捕らえた。


 爪で地面に抑え込まれ必死に足掻く哀れな一角兎の頭を怪鳥がその灰色の嘴でこつんと突く。するとたちまち頭が灰色に変色し、兎は動かなくなった。


 頭部を石化させられ、一瞬で絶命したのだ。その様子を見てエマは魔法薬学の授業で聞いたこの魔獣の特徴について思い出した。






 石化魔鶏は土属性の魔獣の中でも非常に手強い相手だ。その姿は巨大な鶏に似ているが、その下半身は羽毛ではなく爬虫類のような固い鱗に覆われ、大蛇の頭が尾のように付いている。


 つまり体の前後にそれぞれ鶏と蛇の頭部を持った複合獣キメラなのだ。彼らが鳥類なのか爬虫類なのかは魔獣博物学者の中で長年議論が続けられており、いまだに結論は出ていない。


 ただ歩く時には鶏の頭のある方向へ進むことから、一般の冒険者たちからは『尾に蛇の頭を持つ巨大な鶏だ』と認識されている。体高は大柄な成人男性よりも二回りほど大きく、非常に素早く走り回ることができるが、鶏なので空を飛ぶことは出来ない。せいぜい短い距離を滑空するくらいだ。


 名前にもなっている通り、その灰色の嘴には恐るべき石化能力があり触れられるとたちまち石にされてしまう。その上、大蛇の牙には強力な麻痺毒があるため、経験の浅い冒険者では到底太刀打ちができないほど強力な魔獣なのだ。


 常に雌雄一対で行動することでも有名で、その巧みな連携には熟練の冒険者でも後れを取ることがある。ちなみにオスは鶏冠が大きく色とりどりの派手な羽色をしているが、メスは地味な灰色をしているため、雌雄の見分けは簡単にできる。






 石化魔鶏は体内に強力な土の魔力を有しているため、魔法薬素材の宝庫とも呼べる存在だ。嘴からは神経痛や眼病、血からは心臓病、内臓からはそれぞれの臓器疾患というように、様々な病気の治療薬・特効薬を作り出すことができる。


 また大蛇の牙にある麻痺毒は希釈することで麻酔薬や鎮痛剤として使用することができるため、無傷の牙と毒腺は非常に高額で取引される。


 もちろんこれらの素材を手に入れるためには、石化魔鶏を出来るだけ傷つけずに討伐しなくてはならない。だがそんなことができる冒険者はごく僅かだ。


 欲に目のくらんだ冒険者が挑みかかっても四肢を石化させられた挙句、生きたまま大蛇の口に飲まれるのが落ち。薬学担当教師は警告の意味も込めて、エマたちにこの魔獣について説明をしてくれた。






 その凶悪な魔獣の雌雄が今、エマたちの目の前にいる。怪鳥たちはきょろきょろと頭を忙しなく動かしながら、真円の瞳でエマたちの姿をじっと観察していた。


 次の瞬間、2体の魔獣たちは何の前触れもなく突然地面を蹴ると、一気に距離を詰めてエマたちに襲い掛かってきた。彼らはエマたちを旨そうな獲物として認識したようだ。


 エマは咄嗟に短杖を構え、短縮詠唱で魔法を放った。


「我が敵を撃て! 《雷撃ライトニング》!!」


 エマの魔力が青白い光を放つ雷の矢となり、空気を切り裂いて怪鳥たちの体を捉えた。土属性魔獣が苦手とする風属性の中級攻撃呪文は、怪鳥たちの体へまっすぐに命中した。


 ところが雷撃は怪鳥たちの羽毛に触れた途端、ぱちゅんと間抜けな音を立てて消え去ってしまった。驚きの声を上げ目を丸くするエマに、素早く前進しながらトーラスが怒鳴った。






「こいつらは魔法抵抗力が高い。大抵の呪文は抵抗レジストしちまうんだ。だからこうやって・・・!」


 彼はエマたちに飛びかかろうとするオスの怪鳥に向かって、気合と共に片手剣を大きく横薙ぎに振るった。ドスンと鈍い音がして刃がその体を捉えると、僅かに切り裂かれた分厚い皮から血を噴出させながら怪鳥はぐらりと姿勢を崩し、歩みを止めた。


「ぶん殴るしかないのさ!!」


 つがいを攻撃され怒り狂ったメスの怪鳥を盾を構えた突撃シールドバッシュで後退させた後、彼は素早く距離を取り再び迎撃態勢を整えた。






 エマはそこで初めて、トーラスの持っている片手剣の異様さに気が付いた。


 その刀身の長さはごく一般的なものだが、拵えが恐ろしく分厚いのだ。しかも剣尖に向かうほど刃の厚みが増すように作られている。片手剣というより、刃のついた棍棒と呼んだ方がよいような武器だ。


 だが彼はその剣を軽々と振り回し戦っていた。エマは信じられないほどの膂力に驚かされたが、彼の体の周囲に漂う魔力を感じ取り、それが魔剣術によるものだと悟った。


 魔剣術は魔力で身体強化を行う魔力格闘術の一種で、王国魔法騎士の必須技術とされている。これは騎士団が相手にする強力な魔獣の中に、魔力を帯びた攻撃しか受け付けないものが多いためだ。


 よくよく見れば彼の胸当ても剣の刃部分も、魔力伝導率の高い魔法銀ミスリルで作られている。金属の表面を燻すことで魔法銀独特の光沢を消していたため、エマはそれと気が付かなかったのだ。






 彼はエマたちを背中に庇いながら、丸盾と剣を巧みに使って怪鳥たちの攻撃を翻弄している。だがやはり二対一では手数が違うため、相手を倒すような強力な一撃を放つことができないでいるようだ。


「援護させていただきますわ!」


 戦況を見て取ったイレーネは彼に状態異常を防ぐ光属性の防御魔法を使った。続いてミカエラが回避率を向上させる闇属性魔法で彼の身を守る。


「ありがてえ! だけど前に出るなよ! 巻き込まれんぞ!!」


 援護を受けた彼は大きく武器を振るって怪鳥たちを後退させた。そして再び態勢を整え、怪鳥たちの攻撃に備えた。






 エマは何とか戦闘の助けは出来ないものかと必死に考えたが、焦れば焦るほど何も思いつかなかった。エマも身体強化の補助呪文や付与呪文をいくつか使える。


 だがこの手の魔法は日頃から術者と前衛が連携していないと迂闊に使うことは出来ない。急に向上した能力に前衛が付いていけず、かえって戦闘のリズムを乱すことになるからだ。エマはそのことをガレスから、何度も厳しく教えられていた。


「出来ねえことを無理にすることはねえ。仲間を信じて待つのも大事な仕事の一つなんだ。」


 ガレスに言われた言葉が脳裏に閃き、エマはハッと息を呑んだ。


 今、自分ができることは呪文を使っているイレーネたちと自分の身を守ること。エマは自分が魔法を使うことを諦め、短刀を構えてイレーネたちを庇うように動き始めた。






「いい動きだ、エマ!! おい、ボーデン!! まだか!!」


 トーラスがチラリと後ろに視線を向けてそう怒鳴ると同時に、怪鳥たちの周りの地面が突然盛り上がり、あっという間に6体の土人形ゴーレムたちが出現した。


 怪鳥に負けないほどの大きさを持つ土人形たちは、驚きの叫びを上げる怪鳥たちを取り囲んだ。彼らは土人形とは思えないほどの素早い動きで一斉に怪鳥たちに掴みかかり、巨体と膂力でその動きを押さえ込んだ。


 エマがチラリと後ろを見ると、ボーデンは《土人形生成クリエイトゴーレム》で生み出された下僕しもべたちを制御するため、地面に突いた杖を両手で握りしめ不動の姿勢で集中していた。


 ただでさえ制御の難しいこの魔法を戦闘中に成功させるだけでなく、複数の土人形を同時に精密操作するその技量の高さに、エマは尊敬の念が湧きあがるのを抑えられなかった。






 怪鳥たちは嘴や毒牙を振るって土人形たちを攻撃するが、命を持たない彼らにとっては何の痛痒にもならない。せいぜい鉤爪で土人形たちの胴体を傷つけるのが関の山だ。


 怪鳥たちが動きを止めたのを確認したトーラスは、エマに向かって自分の剣を掲げてみせた。


「エマ! 魔力付与エンチャントは出来るか?」


「はい! 我が魔力よ、彼の者の刃に宿れ!《魔力付与:風刃》!」


 短縮詠唱されたエマの魔法によって、トーラスの剣が紫色の輝きを放つ。


「上出来だ!!」


 トーラスの叫びを待っていたかのように、土人形たちは怪鳥からすっと離れた。自由になった魔獣たちはすぐに態勢を整えようとしたが、それよりもトーラスの動きの方がずっと速かった。






「化け物ども、これでも食らいやがれ!!」


 トーラスは素早い四連撃を放ち、2体の怪鳥の4つの首をほぼ同時に叩き斬った。その切れ味は凄まじく鋭く、怪鳥たちはしばらく自分たちが首を斬られたことに気が付かないまま必死に体を動かしていたほどだ。


 トーラスが片手剣の刃を胴体に深く突き入れ心臓を破壊したことで、ようやく怪鳥たちはその動きを止めた。土人形たちは役目を果たしたことに満足したかのように、ポロポロと崩れて元の土くれへと還っていった。


 戦いはトーラスたちの大勝利で幕を閉じた。






 戦闘終了後、エマたちは手分けして倒した魔獣たちの体から魔石と素材を回収した。運びきれない分は、ボーデンが土魔法で作った石棺の中に封印した。


 これは今回の報酬として、トーラス率いる冒険者集団『不退転』の後方部隊サポートメンバーが回収することになっている。


 一段落終えたところでボーデンはエマたち三人の学生を自分の下へ呼び寄せた。


「今回の試験はこれで終了だ。これから王都へ帰還し王立学校へ報告をする。撤収の準備をしなさい。」


 キョトンとするエマたちに、彼は淡々とそれだけを告げて背を向けようとした。するとそんな彼にトーラスが声をかけた。






「おいボーデン、この子たちにちゃんと言ってやれ。それも試験官の仕事だろうが。」


 ボーデンは彼をじろりと睨みつけた。二人は無言のまま睨み合っていたが、やがてボーデンの方が小さく息を吐いてエマたちに向き直った。


「今回の試験、細かい不満点は非常に多くある。だが同時に素晴らしい成果も残した。試験は合格だ。よく頑張った。」


 ボーデンの言葉に三人は目を合わせてぱあっと顔を輝かせた。だがすぐにボーデンが苦虫を噛みつぶしたような表情をしたのを見て、慌ててその場に跪き胸に片手を当てて優雅にお辞儀をした。


「もったいないお言葉をいただき、ありがとう存じます。」


 三人がまるで示し合わせたかのように声を揃えて言ったことで、ボーデンは動揺し軽く目を見開いた。だがすぐに小さく咳ばらいをすると「大変、よろしい」と言い残し、すたすたと自分の荷物を片付けに行ってしまった。トーラスはそんな彼をニヤニヤ笑いで見送った。






 彼が去った後、彼と入れ替わるようにトーラスがエマたちの前にやってきた。


「無礼なのは承知で言わせてもらうぜ。本当によくやったな。まさかお前らだけであの一角兎を討伐しちまうとは思わなかったぜ。」


 三人で嬉しそうに顔を見合わせた後、エマはトーラスに言った。


「助けてくださって本当にありがとうございます。私、石化魔鶏のこと、全然気が付いてませんでした。」


「ああ、ありゃあ仕方ねえよ。この辺りでは滅多に見ない奴だしな。ひょっとすると・・・いや、今はいいや。」


 トーラスは言葉を濁し、それを胡麻化すようにエマの頭をくしゃくしゃと撫でた。






「ジョスが言う通り、お前は大した奴だぜエマ。噂以上の実力を見せてもらったよ。」


「ありがとうございます。でもまだまだだなって自分では思いました。」


 それを聞いてトーラスは首を捻った。


「そりゃ、なんでだ?」


「だって一番弱いはずの一角兎にあんなに苦戦させられるだなんて思ってみなかったんです。ミカエラちゃんとイレーネちゃんが助けてくれたから何とか倒せましたけど、一人では到底無理だなって思いました。迷宮討伐の時にも一角兎とは戦いましたけど、あの時は仲間がいたからあんなに簡単に倒せたんだなあって・・・。」


 エマは自分の思いを滔々と語った。それを聞いたトーラスはぽかんとした顔をしていたが、やがて堪えきれないように腹を抱えて笑い出した。彼はひとしきり笑った後、目の端に溜まった涙を拭きながらエマに言った。






「お前気付いてなかったのか? お前たちが戦ったあれは普通の一角兎じゃねえんだよ。」


「「「ええええっ!?」」」


 驚く少女たちにトーラスはニヤリと笑いながら説明した。


「普通、森や村周辺で遭遇する一角兎は『はぐれオス』なのさ。」


「はぐれオス?」


「ああ、簡単に言えば群れから追い出されたオスだ。オス同士の争いに敗れ、ハーレムを持つことができなかった弱い個体なんだよ。」


 ハーレムを持たないオスでもリーダーを倒せば群れを持つことができるため、ある程度力のあるオスは群れの近くで共に行動するのが普通なのだそうだ。それすらできない弱い個体が、村や畑を荒らす『はぐれオス』になるらしい。






「でもお前たちが戦ったのはハーレムのリーダーだろ? あれは普通の一角兎とは全然違うんだ。いわゆる『上位種』ってやつだな。」


 上位種は魔獣の群れを統率する存在で、魔力も体力も普通の魔獣とは桁違いに強力な個体だ。魔獣によっては本当に別種かと思うほどの変化をするものもいるのだと、トーラスは語った。


「あれは中堅級の冒険者集団でも苦戦するような相手さ。それをまさか前衛なしの術者三人が討伐しちまうなんてなあ。正直、恐れ入ったぜ。」


 熟練の冒険者であるトーラスに手放しで褒められ、エマたちは声を上げて抱き合い喜びを分かち合った。


 その後、彼らは5人一緒に帰還の途に就き、その日の夕方には王都へ辿り着くことができた。その道すがら、トーラスは自身の冒険譚を面白おかしく話してくれた。


 こうしてエマたちの小さな冒険は大成功に終わった。





 ちなみにトーラスの冒険者集団『不退転』が、王都近郊の森で新しく出現した迷宮を発見したという知らせが齎されたのは、それからしばらく後のこと。


 発見された迷宮はそこに出現する凶悪な魔獣にちなみ『石化魔鶏の迷宮』と名付けられることになったのだった。

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