表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
missドラゴンの備忘録  作者: 青背表紙
46/93

45 花毒を追う 後編

本好きの下剋上の最新刊を買ったのに、忙しくてまだ読めていません。連休になったら読もうと思います。今からすごい楽しみです。

 ハウル村から《転移》を使って移動した私は、王都の歓楽街へとやってきた。


 以前に訪ねたときは、午前中だったこともあり歓楽街は人通りが少なく閑散としていた。でも今日はもう昼を大分過ぎている時間だからだろう。通りのあちらこちらで行き交う人の姿を目にすることができた。


 そのほとんどは子供たちだ。けれど化粧をする前に入浴を終えてさっぱりした様子の女性たちの姿もちらほら見かけられる。皆、半仮面姿の私に気が付くと、手を振って挨拶してくれた。






 イゾルデさんの娼館が再建されてからというもの、歓楽街は見違えるほど賑やかになった。


 遅れていた水路の整備もクルベ先生をはじめとする建築術師さんや職人さんたちが頑張ったおかげで、もうすっかりきれいになっている。


 火事で焼け焦げ、あちこち壊れていた通りのレンガ舗装もちゃんと整ってきていた。まだ仮設の木造小屋もいくつか見受けられるものの、新築された建物が少しづつ増えてきている。


 私はリラックスした服装の女性たちと笑顔で挨拶を交わしながら(といっても私の顔は半分仮面で隠れているのだけれど)、イゾルデさんの娼館を目指した。






 貴族の邸宅のような立派な作りの娼館の玄関をくぐると、ちょうどそこには開店準備中のイゾルデさんがいた。


 彼女は下働きをする男の人たちに指示を出しながら、届いたばかりのお酒の壺や荷物の入った箱を仕分けているところだった。


 私の姿に気が付くと彼女はすぐに私のところに駆け寄ってきてくれた。


「ドーラ! 久しぶりじゃないか!」


 私は彼女にぺこりと頭を下げて挨拶した。


「イゾルデさん、随分街の様子が変わりましたね。」


「ああ、おかげさまでね。さあ、こっちへおいでよ。」


 彼女は近くにいた女性に荷物の仕分けの続きをするように頼むと、私を娼館の一階にある酒場へと案内してくれた。






 この娼館は2階建ての大きな建物だ。玄関を入ってすぐにある広間には大きなカウンターのある受付があり、その奥は広々とした酒場になっている。


 酒場内には衝立に仕切られたテーブルがいくつも並んでいた。衝立に隠された奥の壁には貴賓室へと続く扉のあるのだけれど、ここからは見ることができない。


 酒場の中央は広い舞台になっていて、楽師さんたちの並ぶ演奏台が両脇にある。東ハウル村の酒場『熊と踊り子亭』の何倍もある大きな舞台だ。ここでお客さんたちが踊り子さんたちの踊りを楽しみながらお酒を飲むのだと、イゾルデさんが私に教えてくれた。






 娼館で働く女性たちはこの一階でお客さんを待つ。そしてお客さんとの交渉がうまくいくと、一緒に二階にある寝室へ移動するという仕組みらしい。


 イゾルデさんの娼館は王都一と言われていてとても人気があるため、この一階での女性たちとの交渉は「熾烈を極める」のだという。目当ての女性を巡って、お客さん同士が争うことも珍しくないそうだ。


 その場合、どのお客さんを選ぶかは基本的に女性側が決めるので、目当ての女性に気に入られようとして、何度も通い詰めるお客さんが多いらしい。






 一番人気の女性ともなれば短い期間でとんでもない額のお金を稼げるそうだ。


 だから歓楽街で働く女性たちは皆、おしゃれや踊り、歌、楽器演奏、おしゃべりの仕方など、少しでもお客さんに好かれるように努力を欠かさないのだという。


 特にこの娼館で働いている女性たちは華やかで身綺麗な人ばかりだ。言葉遣いもとても丁寧で、中には貴族かと思うような話し方をする女性もいる。


 王都の貧しい家庭の女の子たちにとって、きれいに着飾った娼館の女性たちは憧れの職業の一つだそうで、毎年何人もの女の子たちが見習いとして娼館に入ってくるのだと、イゾルデさんは少し複雑な表情で私にそう教えてくれた。






 ちなみに王国の娼館はだいたいどれも同じような仕組みで運営されているそうだけれど、中には『もっと悪どい』やり口でお金を稼ぐ娼館もあるそうだ。


 とりわけ『奴隷娼館』と呼ばれる店では、契約魔法によって自由を奪われた奴隷の女性たちが働かされているという。


 ただそういう店はよくない病気の温床になりやすいため、衛士隊が厳しく取り締まっているらしい。それでも違法な店はなかなかなくならないのだと、イゾルデさんは吐き捨てるように呟いた。






 私とイゾルデさんは、営業を始める前の酒場の窓際の席に座った。この娼館の建物の窓にはまだ王都でも珍しいガラスがふんだんに使われている。


 大きな窓からは薄いカーテン越しに明るい夏の昼下がりの日差しが差し込んできていた。


 この建物のガラスはカフマンさんから依頼を受けて、すべて私が作ったものだ。


 カフマン商会は現在、ガラス職人組合とも契約していて王都のガラス販売をほぼ独占している。だから普通の建物では考えられないような、こんなガラスの使い方が出来るというわけだ。






 特にこの娼館はカフマン商会の扱うガラスの宣伝も兼ねているそうで、通りの面した大きな窓はすべてガラスの嵌った戸が付けられている。


 通りを行く人たちはが物珍しそうに窓を見上げて歩いているところを見ると、宣伝の効果は十分にあるようだ。


 私はカーテン越しに通りを行く人たちを見ながら、イゾルデさんに言った。






「まじない師さんたちがたくさん来てますね。」


 通りの向こう側で私と同じようなフード付きの長衣ローブを着て杖を持った人たちが、娼館で働く女性たちにおまじないをかけている様子が見えた。私みたいに半仮面をつけている人は一人もいなかったけどね。


 私の言葉にイゾルデさんは思わず苦笑した。


「ああ、娼館が元通りになって女たちの懐が温かくなったら、すぐに戻ってきたのさ。まったく現金なもんだよねぇ。」


 私は改めてまじない師さんたちを見てみた。


 ここから見る限り、まじない師さんたちが女性たちにかけているのは《妊娠除け》や《病気除け》などのおまじないだ。


 中には青い顔をした女性に《酔い覚まし》のおまじないをかけている人もいる。きっとあの女性はお酒を飲みすぎちゃったのだろう。王国のお酒は美味しいから、仕方ないよね。






 おまじないの料金はだいたい銅貨1~5枚と言ったところ。魔力の目で見るとまじない師さんの魔力に大きなばらつきがあるのが分かった。どうやら魔力の高い人ほど高い料金を取っているようだ。


 私がそう言うとイゾルデさんは「あんた、そんなことも分かるんだね」と感心したように小さく呟いた後、私に言った。


「腕のいいまじない師はこの街じゃ、それこそ引っ張りだこだからねえ。稼ぎのいいは専属のまじない師を雇ってることもあるくらいさ。」


 まじない師さんたちの魔力はさほど強くないので、一日に使えるおまじないの数は限られる。だから腕のいいまじない師さんの魔力が尽きない内に、女性たちはおまじないを頼みに来るのだという。


 娼館での仕事におまじないは欠かせないものなので、腕の良いまじない師さんと仲良くなることも、大事な仕事のうちなのだそうだ。






 衝立に囲まれた私たちのテーブルに飲み物(残念ながらお茶でした)が運ばれてきた。私はそれを飲みながら、イゾルデさんに王様から聞いた薬物中毒の話をした。すると彼女はすぐに眉を顰めた。


「薬物中毒だって? もしかしてオキームの花かい?」


「イゾルデさん、知ってるんですか?」


「こんな商売だ、名前くらいはね。ただあんなもん、絶対に関わりたくないよ。」


 彼女は体をぶるっと震わせ、口を歪めながらそう言った。


 イゾルデさんの話によると、今から10年程前、王都領を中心にオキーム花毒の中毒患者が大量に出たことがあったらしい。






「あたしの店でも、客から勧められて飲んじゃったがいてね。仲間の女達が早めに気が付いて、すぐに神殿の施療所に連れて行ったから軽い症状で済んだんだけど・・・。」


「大変だったんですか?」


 私がそう尋ねると、イゾルデさんは暗い目をして頷いた。


「ああ、ひどいもんだったさ。薬が切れた時の苦しみようときたら、とても見ていられなかったよ。」


 イゾルデさんは薬を求めて泣き叫ぶその女性を縄で縛りあげて看病し続けたそうだ。縛っていないと苦しみの余り、自分で自分の体を傷つけてしまうかららしい。


 幸いなことにその女性はその後、無事に中毒症状を脱したそうだ。でも薬を使った人の中には苦しみに耐えきれず、死んでしまった人も少なくなかったらしい。王都の歓楽街全体でたくさんの犠牲者が出てしまったのだと、彼女は悔しそうに話した。


 今から10年くらい前といえば、バルシュ領で花毒が大量に見つかった時期と重なる。もしかしたら今回もどこかの領がこの花毒に関わっているのかもしれないね。







「またこの歓楽街で花毒薬の被害が出るかもしれません。気を付けておいてくださいね。」


 私がそう言うと、彼女は真剣な表情で頷いた。


「ああ、任せときな。何か分かったらすぐに知らせるよ。心当たりがないわけじゃないからね。」


 彼女はそう言ってちょっと窓の外に視線を送った。でも彼女が何を見たのか、私には分からなかった。


「それじゃあ、あたしは仕事に戻るよ。あんたはもう少しお茶でも飲んでいきな。それともサルトル領産の葡萄酒の方がいいかい? ちょうど昨日、当たり年のいい樽が手に入ったんだよ。」


「い、いえ、これからも行くところがありますから、お酒はちょっと・・・。」


 私はイゾルデさんの申し出を泣く泣く断った。ものすごく飲みたいけれど、この間も飲み過ぎてガブリエラさんのところで眠り込んじゃったからなあ。






 ん? そう言えば今イゾルデさんが言ったサルトル領って確かベルトリンデさんの故郷じゃなかったっけ?


「イゾルデさん、サルトル領ってどんなところですか?」


「サルトル領かい? 果樹栽培が盛んな領だって聞いてるね。バルス山脈の水源が近いからきれいな水が豊富で、銘酒の産地としても有名だよ。」


 イゾルデさんによると王国の銘酒の産地は結構たくさんあるらしい。でも特に有名なのがサルトル領やグレッシャー領を中心とした王国北部の葡萄酒、デッケン領、バルシュ領をはじめとする西部の麦酒エール、そして南西部高原地方の乳酒なのだそうだ。






「乳酒ってお乳から作るお酒ですか?」


「そうらしいよ。あたしも飲んだことはないけど、飲んだことがあるって奴はみんな口をそろえて『あれは絶品だ』って言うね。」


 乳酒はヤギや馬の乳を発酵させて作る甘いお酒らしい。ただものすごく繊細な飲み物らしく、産地から移動させるとすぐに腐ってしまうのだそうだ。しかも1年の内でも限られた期間しか作ることができないため、お酒好きの間では『幻の銘酒』と呼ばれているんだって。


 うーん、それは是非飲んでみたい! 今度、探しに行ってみようかなあ・・・あ、まずい。よだれが垂れそう。






 私が物欲しそうな顔をしていたせいか、イゾルデさんがくすくす笑いながら慰めてくれた。


「まあ、乳酒は流石に無理だけど、サルトルの葡萄酒もなかなかのもんだよ。中でも一番はサルトルの貴腐酒だね。」


「貴腐酒! それ、飲んだことありますよ!」


「おや、そうなのかい?」


「はい。クベーレっていう村に行った時、村長さんにご馳走してもらいました。」


「へぇ、あんた、意外と顔が広いんだね。クベーレって村の名前は聞いたことがないけど、貴腐酒があるってことはサルトル領の村なのかねぇ。」


 ふむふむなるほど、クベーレ村はサルトル領だったのか。


 そう言えば、村の近くの砦で拾った首飾りのことも聞かなきゃだし、王都での情報集めが終わったら、クベーレ村にも行ってみよう。






 私はイゾルデさんにお礼を言い、お茶を飲み終わってから娼館を離れることにした。一階の酒場を出て、受付のある入り口辺りに来ると、受付の机で書き物をしているオイラーくんの姿を見かけた。


 今日のオイラーくんは仕立てのいい白いシャツと黒いズボンをきっちりと着こなしている。髪にもちゃんと櫛が入っていて、以前私に向かってナイフを振りかざした時とはすっかり見違えている。


 私はオイラーくんに挨拶しようと受付に近づいた。すると私が声を掛ける前に、彼は私に気が付いて顔をあげた。


「またお前かよ、田舎者のまじない師。」


「お邪魔してます、オイラーくん。あと私の名前はドーラですよ。」


 私の顔を見るなり顰め面をした彼にそう言うと、彼は「ふん」と軽く鼻を鳴らしてまた書き物を始めた。






 見れば彼は、たくさんの紙切れに書かれた名前と数字を帳面に書き写しているようだ。


「これは何をしてるの?」


 彼は一瞬手を止めて私に何か言いかけた。けれどすぐにその言葉を飲み込み、嫌そうな顔で私に教えてくれた。


「・・・母さんや姉さんたちの売り上げを記録してるんだよ。そっから経費やら店の取り分やらを計算してるんだ。」


 彼の言う姉さんたちというのは、この娼館で働いている女性たちのことだ。娼館は歓楽街で働く女性たちやその子供たちの住居も兼ねているため、自然と家族のような関係になっていくらしい。


 彼は私に説明しながらも、手を止めることなく帳面を書き続けた。どうやって計算しているのか、それぞれの金額を見るなり、すごい速さで数字を次々と書き込んでいく。


 どうやら暗算しているらしいのだけれど、それが信じられないほどの速さなので、私はすっかり驚いてしまった。






「オイラーくん、計算が得意なんだね。」


「まあな。」


 私の言葉に彼は手を止めないまま、ぶっきらぼうにそう答えた。私がどうやってそんなに速く計算してるのかと聞いたら、彼は面倒くさそうに「知らねえよ、そんなの」と言った。


 彼によると数字を見ただけで、計算の答えが頭の中に浮かんでくるらしい。だからどうやって計算しているかは彼にも説明できないのだそうだ。


「字や計算は学校で勉強したの?」


 私がそう尋ねると、彼は心底バカにしたように鼻を鳴らした。


「そんなわけねえだろ。自分で覚えたんだよ。字が読めなかったり、金の勘定が出来なかったりすると大人のやつらにカモられるからな。」


 オイラーくん曰く、歓楽街には『たちの悪い』大人がたくさんいて、子供たちを騙していいようにこき使ったり、お金を巻き上げたりするのだそうだ。


 そんな人たちから自分の家族を守るため、彼は必死になって文字や計算を覚えたらしい。


 私が感心して「すごいね」というと、彼は一瞬赤い顔で黙り込んだ後「大したことねえよ」と小さく呟き、また書きものに集中し始めた。






 私は次々に書き込まれていく数字が面白くて、しばらく彼を眺めていた。すると帳面の方を見たまま、彼が私に尋ねてきた。


「・・・今日はエマは一緒じゃねぇのか?」


「エマ? エマは今日、学校で授業を受けてるよ。」


 私がそう答えると、彼は一瞬手を止め「そうか」と小さく返事をした。つまらなそうに言ったその言葉を聞いて、私はハッと気が付いた。


「そうか! オイラーくん、エマに会いたかったんだね。じゃあ、今度は一緒に来るよ。エマにもそう伝えとくね!」


 私がそう言うと彼はバッと顔を上げて叫んだ。


「う、うるせぇ!! 余計なことすんな!! 用事が済んだならさっさと帰れ、このインチキまじない師!!」


 顔を真っ赤にして叫ぶ彼にお別れを言い、私はそそくさと娼館を後にした。











 娼館を出た私は《転移》の魔法で、王都東門の貧民街の農場を訪れた。詰所に行ってみると、代理人さんは農場の方にいると、事務担当の文官さんが教えてくれた。


 私は農場で働く貧民街の人たちに挨拶をしながら、管理人さんを探しに行った。するとすぐに、麦の刈り取りをしている人と話をしている管理人さんを見つけることができた。


「代理人さん、こんにちは。」


「おお、ドーラさん!! 見てください、今年の収穫を! とんでもない大豊作ですよ!!」


 代理人さんは嬉しそうに積み上がった麦を示した。これは私の実験農場の中で大繁殖してしまったルウベ大根が原因らしい。






 どういう原理なのかは分からないのだけれど、ルウベ大根には失われた大地の力を回復させる働きがある。


 どんな荒れ地の雪の下でも元気に育つこの大根は大地を腐敗させる魔虫を呼び寄せることから『飢饉大根』と呼ばれてとても嫌われている。


 でも魔虫さえ何とかすることができれば、この通りとても素晴らしい働きをしてくれる野菜なのだ。


 もしかしたら魔虫は、ルウベ大根の大地を回復させる力に魅かれてやってきているのかもしれないね。


 魔虫とルウベ大根の関係については、エマの先生である王立学校のベルント学長さんが研究中だ。そのうちにルウベ大根を安全に栽培できるようになったらいいなと思う。






 私は代理人さんに王様から聞いたオキーム花毒の魔法薬のことを話した。


 すると代理人さんもその話を知ったいるようで、すぐに訳知り顔で返事をしてくれた。


「その件は私も情報を集めています。ですが、この農場にはあまり関係がなさそうですね。何しろ貧しい者ばかりですから。魔法薬の売人たちも相手にしませんよ。」


 確かにお金を目当てに薬を広めているとしたら、貧民街の人たちにはあまり関係がなさそうだ。でも彼はすぐに表情を引き締めると、私に言った。


「もっとも薬の被害にあわなくとも、売人の手先として使われることがあるかもしれません。私も気を付けておきますね。」


 代理人さんによると貧しい人たちをお金で騙し、違法な仕事をさせようとする人たちがいるのだという。彼はそんな人たちから貧民街の人たちを守ると約束してくれた。私は彼にお礼を言い、農場を離れた。






 その後、私はカフマン商会の王都支店を訪ねた。けれどカフマンさんも、彼の秘書で相棒のペトラさんも留守だった。


 ちょうど今、貴族のご婦人たちを相手に大規模な即売会を開いているそうで、店の主だった人たちは皆そちらに行ってしまったと、留守番役の事務員さんが私に教えてくれた。


 私は彼にカフマンさんへの言伝を頼んで店を出た。通りに出るともうだいぶ日が傾き、夏の乾いた風が少し冷たくなってきていた。


 もう少ししたらエマたちが授業を終えて寮に戻ってくる頃だ。私はエマたちの夕食の給仕をするため、寮へ移動しようとした。


 でもそこで、そう言えばクベーレ村の村長さんにいろいろ聞きたいことがあったのだったと思い出した。






 エマが戻るまでにはまだ少し時間がある。今、行ってちょっと話を聞くだけなら、大丈夫かも?


 どうしようかと少し悩んだけれど、私はクベーレ村に行ってみることにした。


 カフマン商会支店のある王都の職人通りは、夕方を前にして少しずつ人通りが多くなりつつある。私はその人たちの目を避けるように、通りの路地にこっそりと入り込んだ。


 そして《転移》の魔法を使い、王国の北西部にあるクベーレ村へと移動したのでした。

読んでくださった方、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ