42 花毒の魔法薬
説明回です。書くのに時間がかかった割に、話が全然進んでいません。すみません。設定の垂れ流しなので、ざっくりと読んでいただければと思います。おかしなところがあったら、指摘していただけると助かります。よろしくお願いします。
オキームの花の説明に衝撃を受けた私は、思わずガブリエラさんに聞き返した。
「『淫魔の乳房』?」
私の問いかけに、彼女は真剣な表情で頷いた。
「ええ、この異名はね、十分に成熟したこの花の実から乳白色の油脂が採れるところからきているの。」
オキームの花や葉からは強力な鎮痛薬を作ることができるそうだ。しかしこの実から採れる油脂は、花や葉などとは比べ物にならないほどの薬効があるのだと、ガブリエラさんは言った。
この油脂は肌に塗るだけでその部分の感覚を完全に麻痺させ、痛みを全く感じなくさせることが可能だという。だからひどいケガを負って痛みに苦しむ人の治療などに使われることが多いらしい。
「すごくいい植物じゃないですか。何がいけないんですか?」
「植物には何の問題はないのよ。問題なのは人間の使い方のほうなの。」
オキームの花の油脂は時間が経つと蝋の様に固まって長期保存ができる。これは直接熱したりお湯で戻したりすることで、また元のように使うことができるようになるのだ。
油脂を熱したときに出る煙や湯気には人を陶酔させる効果がある。といってもさほど強力な作用ではなく、少しお酒を飲み過ぎた時くらいにフニャフニャになってしまうのだそうだ。
ちなみにこの状態の時には痛みもあまり感じにくくなるらしい。
吸い込んだ量にもよるけれど、ちょっと吸い込んだだけなら大体少し昼寝するくらいの時間で陶酔・減痛効果は切れてしまう。だから昔は眠り薬の代わりに常用する人も多かったんだって。
「ただね、ある太古の錬金術師がこの薬効をさらに高めることができないかと考えたのが悲劇の始まりだったのよ。」
ガブリエラさんは悔しそうに唇を噛んでさらに説明してくれた。
その錬金術師はこのオキームの油脂を精製し、薬効を高めようとしたのだという。そして試行錯誤する中で様々な新薬を開発していったそうだ。
彼の作った薬は病に苦しむ多くの人たちを救い、彼の名声は揺るぎないものとなった。でも彼はそれでも決して研究をやめようとしなかった。そこまで話したところで、ガブリエラさんは少し目を伏せた。
「私も一人の錬金術師として彼の気持ちがよく分かるわ。この世のすべてを知りたい、解き明かしたいと思うのは錬金術師の性なのだから。」
彼は錬金術師として優秀過ぎたらしい。研究の末、彼はついに禁忌に触れてしまった。
オキームの油脂を精製した精油から彼が作り出したのは『人間からありとあらゆる苦痛を取り除く魔法薬』だった。
この魔法薬を飲むと体の痛みや心の悩みをすべて忘れることができる。その結果、その人はこれまで味わったこともないほどの多幸感・全能感を味わうことができるのだ。
また全身の感覚も鋭敏になり、魔力や身体能力などその人が持っている力を限界まで引き上げることも可能。
つまりこの魔法薬を飲んだ兵士や魔術師は常人ではありえないほどの能力を発揮することができ、どんな恐ろしい敵にも怯むことなく立ち向かう超人へと変貌するのだそうだ。
「まさに究極の魔法薬ですね。でもそんな薬、本当に大丈夫なんですか? なんかちょっと怖いんですけど・・・。」
私の言葉にガブリエラさんは頷いた。
「あなたの心配しているとおりよ。この魔法薬には恐ろしい欠陥があったの。」
この薬の効果はだいたい5日間ほど。その間、薬を飲んだ人は一切の苦痛や苦悩を味わうことなく、超人的な力を発揮し続ける。
問題はこの薬の効果が切れてしまった後だ。当たり前だが、薬の効果が切れると元の自分に戻ってしまう。
「えっと・・・それは別に問題ないのでは?」
私がそう言うと、青い顔をしたミカエラちゃんがその言葉をきっぱりと否定した。
「いいえ、恐ろしいことですドーラさん。私ならそんなこと、絶対に耐えられません。」
ミカエラちゃんの言葉にガブリエラさんも同意した。
「ミカエラの言う通りよ。大きな痛みや悩みを抱えている人間ほど、薬の効果が切れた時、その苦痛に耐えきれなくなるわ。」
薬の効果が切れると、その人は薬を飲む前よりもずっと苦痛や苦悩を強く感じてしまうようになるそうだ。また超人的な力も元に戻ってしまうので、その喪失感も凄まじいものらしい。
私は少し考えた後、ガブリエラさんに言った。
「えっと・・・じゃあ、また薬を飲めばいいですよね。それで解決じゃないですか?」
「その通りよ。死ぬまで薬を飲み続ければ解決だわ。問題はね、この魔法薬は『耐性』ができやすいってことなの。」
「?? 耐性って毒とかが効かなくなるってことでしたよね? それってつまり・・・あっ!!」
私がハッとした顔をしたのを見て、ガブリエラさんが大きく頷いた。
「分かったかしら? この薬はね、飲み続けているうちにだんだんと効果が無くなってしまうのよ。」
この魔法薬の最初の服用時の効果継続時はおよそ5日間ほど。しかし飲み続けていくうちにだんだんとその時間が短くなっていく。
服用する量にもよるけれど、だいたい飲み続けて半年もするとほぼ効果が無くなってしまうのだそうだ。
「最初、服用者は苦痛を除き、力を得るために薬を飲むわ。でもね、やがて飲み続けているうちに薬が切れてしまうことに強い恐怖を感じるようになる。そして最後には何が何でも薬を求めようとするようになるのよ。薬を奪うためならば、たとえ愛する人であろうと手にかけてしまうほどにね。」
この魔法薬を用いた太古の王国の人々は数少ない薬を奪い合い、争い合った末に滅んだという。
魔法薬を作り出した錬金術師は真っ先に王国を逃げ出していたが、のちに別の国の王によって捕らえられ、彼の研究成果と共に炎に焼かれて死んだそうだ。
彼は墓碑銘すら与えられず、彼の研究は人々から忘れ去られた。自らの研究欲に溺れ、歴史から完全に消えた彼は、後世の錬金術師たちから侮蔑を込めて『名無し』と呼ばれているらしい。
この事件が元で、今ではこのオキームの花自体が多くの国で危険な植物とされるようになってしまったのだそうだ。持ち込む際にはどの国でも厳重な検査と取り締まりが行われているとガブリエラさんが私たちに教えてくれた。
私とミカエラちゃんはその話を聞いて震えあがってしまった。
「すごく危険なものなんですね。あ、その魔法薬の作り方はもう誰にも分からないから、大丈夫なのかなあ。でもどうしてそんなものを王様に?」
私の問いかけに答えたのは、静かな表情でじっと私たちのやり取りを聞いていたクオレさんだった。
「それは私から説明させていただきます。」
クオレさんはそう言って、この花を手に入れた経緯を話し始めた。
「帝室直属の検分使から帝国東部地方を治める小貴族の一人の挙動がおかしいという報告を受けたのがすべてのはじまりです。およそ1年前、ガブリエラ様がこの帝室に輿入れなさる少し前のことですね。」
当時、ある領地の領民たちが他領に逃げ込んでくるという事件が頻発したそうだ。
事件を調査するため差し向けられた検分使は、そこで驚くほど荒廃した領の姿を見せつけられたという。
「村々や街道に行き交う人の姿もなく、力なく通りに横たわる人々を討伐されないままに繁殖した魔獣たちが食い荒らす。まさに地獄絵図だったそうですよ。」
検分使が配下と共に魔獣を追い払い、生き残った人々から話を聞いたところ、1年程前に領税が突如として跳ね上がったということが分かったのだそうだ。
あまりの重税に払えない領民が続出したが、領主は兵たちにその者たちを捕らさせ、見せしめのために残虐な方法で処刑したという。
命懸けで領から逃亡しようとする者もいたが、その多くが捕らえられ無残な死を迎えることになったとやせ衰えた人々は涙ながらに語った。
それまでその領の領主は良くも悪くも凡庸で人当たりの良い人物だったそうだ。領主をよく見知っていた検分使は、にわかに信じられない思いで領都を目指した。
ところが領都はこれまで通ってきた村々の荒廃ぶりが嘘のように活気に満ちていた。ただその活気は退廃に満ちていたという。
人々は皆、酒に酔ったように歌い踊り狂い、半裸の男女がそこかしこで愛を囁き合っている。
領都を守る領兵や衛士たちもゴロツキと呼んで差し支えない者たちばかり。彼らは捕らえた村人たちを処刑と称して笑いながら嬲り殺しにするような連中だった。
検分使は皇帝の勅書を示し領主への面会を求めたが、何と領主はそれを拒んだ。その上、あろうことか検分使たちを捕らえようとしたという。
命からがら領を脱出した検分使一行は、皇帝に顛末を報告した。皇帝の勅使である検分使へのこの対応は明確な反逆行為に他ならない。
結果、帝国軍と近隣の領主たちによる討伐軍が編成され、その領主は討たれることが決まった。領主は領軍を差し向けて討伐軍を迎え撃とうとしたが、領軍はまともな指揮官さえいない『烏合の衆』だった。
そのため討伐軍ほとんど戦うことなく領都へと侵攻し、あっけなく領主を捕らえた。領主は一族郎党共々帝都に連行され、取り調べられた。
しかし領主はどんなに尋問されても何も答えなかった。いや答えられる状態じゃなかった。
捕らえられたときは反逆者とは思えないほど溌溂として自信に満ちていた彼は、連行されるまでの数日の間で別人のようにやつれ果て、命乞いをしてガタガタ震えるばかりだったという。
処刑される前日、帝国法に則って最後の望みを問われた彼は「く、薬を・・・」と小さく呟いたそうだ。しかしその途端、彼の体は急速に膨れ上がり爆散してしまったそうだ。
クオレさんの話を聞いた私は、思わずガブリエラさんの顔を見た。
今の話は以前聞いたガブリエラさんの家族が捕らえられた時の様子にそっくりだったからだ。ガブリエラさんの家族は爆散せずに処刑されちゃったけど、領の荒廃や領主の狂乱ぶりはすごく似ている。
それに領主の死に様は、エマが聖都エクターカーヒーンで会ったスタリッジ枢機卿という人と同じだ。この悪い枢機卿さんは『天空城』という言葉を口にした途端、爆死した。
もしかしたら、この事件の裏にはハウル村を襲ってきたあの『老頭』が関係していたのかもしれない。ガブリエラさんの家族を操ってバルシュ領を荒廃させたのは老頭の手先だった複合獣の女だからね。
ガブリエラさんも私と同じことを考えているのだろう。彼女は両手をきつく握りしめ、青ざめた顔をしていた。
クオレさんはガブリエラさんに目線を送った。彼女が小さく頷いたのを見て、クオレさんはまた話し始めた。
「その後、彼の豹変ぶりと死の謎を解き明かすため、処刑された領主の館をくまなく探しましたが、有力な手掛かりは得られませんでした。帝国の貴族たちは王国の魔法による攻撃ではないかと怪しみましたが、結局はうやむやになってしまったのです。」
その領は皇帝の直轄領となり調査は継続されたけれど、ガブリエラさんの輿入れや帝室騒乱事件などがあり、目立った進展がないまま時間が過ぎてしまったそうだ。
それが急に変わったのは今年の春のことだったらしい。
「スタン草原にほど近い帝国北部地方の山岳地帯で、ある一人の若者の死体が見つかったのです。」
その死体はどうやら春の雪解け水で川の上流から流されてきたらしい。貧しい身なりの若者が纏っていたのはなんと王国風の衣装だった。
「最初に彼を見つけた農夫はてっきり、雪山に迷い込んだ猟師の遺体だろうと思ったそうです。」
王国と帝国を隔てている峻険なバルス山脈は、魔獣の他、野生の獣たちも多く生息している。そのためそれぞれの山のふもとにはたくさんの猟師の集落があるのだそうだ。
「ところが若者は猟師らしき持ち物は何も持っていませんでした。それで不審に思った農夫は、巡察使に届け出たのです。」
巡察使が若者の遺体を調べてみたところ、固く握りしめた手の中からこのオキームの花が見つかった。
巡察使はオキームの花のことは詳しく知らなかった。けれどこの有能な巡察使はこの花に何か秘密があるのではないかと思い、報告書を添えてこの花を帝都に送り届けたのだそうだ。
それが今、私が手にしている包みの中身なのだとクオレさんが言った。私は手の中の包みをじっと見つめ、少し考えてからクオレさんに問いかけた。
「つまり・・・この花が王国から帝国へ運び込まれていたってことですか?」
「その可能性が高いと私は考えています。領主の豹変もオキームの花毒によるものではないか、とね。」
クオレさんがそう言った瞬間、ガブリエラさんが崩れ落ちるようにその場にへたり込んでしまった。
侍女さんやミカエラちゃん、それに私も慌てて彼女に駆け寄った。
「大丈夫ですか、ガブリエラ様?」
ガブリエラさんは真っ青な顔で「大丈夫よ、ありがとう」と言い、私の手を掴んでよろよろと立ち上がった。
「この花はね、バルシュ家が訴追された原因の一つだったの。」
彼女の言葉にミカエラちゃんが激しく動揺し表情を変えた。私がさっき思った通り、彼女のお父さんであるバルシュ侯爵が捕らえられた時にも、屋敷の中からこの花が大量に見つかったらしい。
私は驚いて彼女に聞き返した。
「バルシュ領でこのオキームの花が作られていたってことですか?」
私の質問に、彼女は大きく首を横に振った。
「王国衛士たちがバルシュ領に侵入してきたとき、オキーム花毒の魔法薬は領全体に広がっていたし、バルシュ家の館からも備蓄されていた大量の花毒油脂が押収されたと記録が残っていたわ。でも領内の高山地帯を丹念に捜索しても、花の出所は掴めなかったようなの。おまけに精製法も分からずじまいだった。」
「それじゃ一体どこから?」
「結局は西ゴルド帝国と内通したお父様が、帝国から持ち込んだものだろうということになったわ。」
「じゃあ、この花も西ゴルド帝国から持ち込まれたものじゃないんですか?」
私の言葉はクオレさんに否定されてしまった。
「その可能性は低いでしょう。現在、西ゴルド帝国と我が国は戦争真っ最中ですからね。」
クオレさんが言うには、帝国東側からの荷物や人の移動は普段よりもずっと取り締まりが厳しくなっているらしい。確かに王国の密偵さんも、王国に帰れなくなったって言ってすごく困っていたっけ。
「王国から帝国へ行くにはどこを通っていけるんですか?」
私の質問にクオレさんが答えてくれた。
「王国と帝国を行き来するためのルートは主に2つですよ。」
一つはガブリエラさんがお嫁に行くときに通った東西公路ルート。もう一つは海からゴルド帝国を東西に分けているエリス大河を遡っていくルートがあるそうだ。
でもこの二つのルートとも現在はほぼ封鎖されている。特にエリス大河は今、東ゴルド帝国水軍が占拠していて、それこそ『蟻の這い出る隙間もない』状態らしい。
じゃあ一体、オキームの花はどこからやってきたんだろう?
私がうむむと唸っていたら、クオレさんが「でも抜け道もあるにはあるのですよ」と言って静かに笑った。
有名のものはバルス山脈の北側に広がるスタン高原を通るルートだそうだ。ただかなり遠回りになる上、ファ族の領域を横切ることになる。草原で彼らの目を掻い潜って行動することはほぼ不可能だという。
あとはバルス山脈周辺に住んでいる猟師たちが山越えをするために用いる小さな山道。峻険な上に魔獣が出るから、大きな荷物などは運ぶことができないし、冬は雪に閉ざされてしまうけれど、少人数でなら通れないということはないそうだ。
そこまで言った後、クオレさんは「あとは空を飛んで来るくらいかしらね」と言って私の方にちらりと視線を向け、クスリと笑った。
私は思わずドキリとして、彼女から視線を逸らしてしまった。それを見たガブリエラさんは声を出さず、口の形だけで私に「(何やってるの、おバカ!)」と言った。
私がわたわたしていたら、じっと考え込んでいたミカエラちゃんがふと顔を上げた。
「でもそういった山道からの出入りは各領の領主が厳しく取り締まっているはずです。他国人が違法なものを持ち込めるはずが・・・!! まさか!?」
ガブリエラさんはちょっと誇らしげな顔で、ミカエラちゃんの頭を撫でながら言った。
「ええ、領主がそれを黙認している。もしくは領主自らが犯罪に手を染めている。どちらの可能性もあるわね。もちろん、領主が暗愚で自領内の犯罪に気付いていないということも考えられるけれど。」
二人のそんな様子を横目に見ながら、クオレさんは私に向き直った。
「今、分からないことは二つです。この花の出所はどこか。そしてそれを広めているのは誰か。おそらくその者は失われたオキーム花毒の魔法薬の精製法を蘇らせたに違いありません。このままでは多くの人が危険に晒されてしまう可能性が高いです。」
クオレさんは一度言葉を切り、私たちの顔を見回した。
「ドルアメデス国王陛下は偉大な錬金術師にして稀代の薬師だと伺っています。もしかしたらこの花毒の魔法薬について何か知っていらっしゃるかもしれない。ドーラさん頼みます。」
「はい、任せてください!」
私が頷くとクオレさんはようやく表情を和らげた。
「ハウル村のお話、とても楽しかったわドーラさん。ミカエラ様、またぜひ遊びにいらしてください。今度はエマさんも連れてきて頂戴ね。」
クオレさんがミカエラちゃんの頭を優しく撫でながらそう言った。ミカエラちゃんは少し緊張した表情でクオレさんのことを見つめていた。
話が一通り終わって、オキームの花の包みを魔法の《収納》へ大切に仕舞い込んだ私は、さっき疑問に思ったことをガブリエラさんに聞いてみた。
「あのーガブリエラ様、この花の異名になってる『淫魔』って一体何のことですか?」
途端に皆がぎょっとした顔で無言になってしまった。ガブリエラさんは気まずそうな顔でコホンと咳ばらいをしてから私に教えてくれた。
「淫魔は死霊と同じ、実体を持たない不死者よ。人間の生気を好み、憑りついた人間の肉体を操って周囲の生者を害していくの。」
淫魔に憑りつかれた人間は誰かれ構わず異性を誘惑するようになってしまうのだそうだ。そうすることで憑りついた相手と、誘惑した異性の両方から生気を吸い取ってしまうという。
生気を吸い取られて死んだ人間の霊は淫魔の呪いに侵されて新たな淫魔となる。そうやってひそかに仲間を増やしくいく、非常に厄介な不死者なのだそうだ。
「淫魔の呪いに侵された生者は逆らい難いほどの快楽を感じるようになるらしいの。それがオキームの花毒の効果と似ているから、この名前が付いたのだと思うわ。」
知らない内に被害者が増えていくところや、オキームの実の油脂が乳白色をしていることから『淫魔の乳房』という名前になったのではないかとガブリエラさんは赤い顔をしながら説明してくれた。
なお淫魔の性質上、憑りつかれやすい人間は異性に好かれやすい美男美女が多いらしい。
ちなみに淫魔に憑りつかれた女性を女淫魔、男性を男淫魔と呼ぶんだって。不死者には珍しく、人がたくさんいる歓楽街などで出現することが多いそうです。
私とミカエラちゃんは、ガブリエラさんとクオレさんにお別れを言って《集団転移》の魔法で王立学校の寮に戻った。
帝国を出るときにはまだ明け始めたばかりだった太陽が、もうすっかり顔を覗かせている。心配した様子で待っていたジビレさんやエマたちに簡単に事情を説明した後、ミカエラちゃんは大急ぎで王立学校の制服に着替えた。
私もエマに手伝ってもらって侍女服に着替え、朝食を摂るためにみんな揃って急ぎ足で大食堂へと向かったのでした。
読んでくださった方、ありがとうございました。