29 落伍者と無法者 前編
誤字報告をしてくださった方、ありがとうございました。この29話はすごく長くなってしまいました。あと後半に自死の描写があります。苦手な方はご注意ください。
私は干したばかりの藁の香ばしい香りに包まれながら、新しくなった寝台の上で目を覚ました。まだ部屋の中は薄暗い。でも誰かが動き回っている音が台所の方から聞こえる。
私は目をこすり、うーんと大きく伸びをしてから台所に向かった。
「おはようドーラ。」
「おはようございます、ドーラ様。」
「おはようございますマリーさん、シルキーさん。」
朝ごはんの準備をするために竈の前にいたマリーさんと、家妖精のシルキーさんが私に挨拶をしてくれた。マリーさんの側の揺り篭の中では、末娘のグレーテちゃんがすやすやと寝息を立てている。
マリーさんたち二人の他にはまだ誰も起きていないようだ。私は水瓶から手桶で水を汲み取ると、家の外へ出て素早く顔を洗った。
冷たい水がとても気持ちいい。聖都の聖祭を見に行ってからおよそ1か月。夏の2番目の月に入っても朝夕の空気は少しひんやりしている。ハウル村が大きな川の畔にあるせいかもしれないね。
スカートの前掛け部分で濡れた手を拭いた私は、台所に戻り食事の用意をする二人を手伝った。
豆とベーコンの入ったスープが出来上がる頃には、みんなが食卓に揃っていた。私が魔法で材料を加工し、それをフランツさんが手作りした大きなテーブルを皆で囲む。マリーさんが椅子に座り、グレーテちゃんを膝の上に抱えると、皆は一斉に朝食を食べ始めた。
今年はまだ麦が収穫できていないのでパンはない。その代わりにお皿の上には収穫したばかりのふかしたジャガイモが載っている。これ、お皿の上にちょっとだけ盛られたお塩を付けて食べるとすごく美味しいのです。
もぐもぐと食べながら、皆で今日一日のことを話していく。私の大好きな時間だ。
フランツさんは森で木こりの仕事を、マリーさんは畑で麦と麻の収穫作業をするそうだ。子供たちもマリーさんと一緒に行くみたい。マリーさんがグレーテちゃんにつぶして柔らかくしたジャガイモを食べさせながら、私に聞いてきた。
「ドーラはどうするんだい?」
歓楽街の工事は、残っているのは内装仕事だけでほとんど仕上げに入っている。王都東門の農場も昨日行ったばかりなので、今のところは大きな仕事がない。今日は村で過ごすつもりだったのだけど、私に手伝える仕事があるかな?
私がマリーさんにそう尋ねると、彼女は少し考えてから答えた。
「ゴーラたちが手伝ってくれてるからね。今のところは大丈夫さ。」
土人形のゴーラたちは冬の間は雪かき、そして春からは建設工事の手伝いと大活躍をしていた。これから夏から秋に向けては、いろいろな作物の収穫作業を手伝ってくれることになる。
土人形たちは単純な運搬作業くらいしかできないけれど、とにかく力持ちだし疲れ知らずだから、村の人からとても人気がある。ただ彼らが頑張ると、私の手伝う仕事がなくなっちゃうのが唯一の欠点だ。
それを知っているエマは私を慰めるように言った。
「私もデリアやアルベールと一緒にお母さんの仕事を手伝うよ。お姉ちゃんは村を回ってみたら?」
今日のエマは農作業の手伝いに行くようだ。確か昨日は宿屋の支配人グストハッセさんに頼まれて、宿帳の整理と手紙の代筆の仕事をしていた。ハンナちゃんと二人での作業はとても楽しかったそうだ。
その話を聞いたアルベールくんは、もぐもぐしていたジャガイモの塊をごくんと飲み込んでから、大きくため息を吐いた。
「あーあ、俺もねえちゃんみたいに、もっと字が読めるようになりてえな。そしたら、父ちゃんの仕事を手伝えるのに。」
それを聞いたフランツさんが大きな手でアルベールくんの頭を撫でる。アルベールくんは嬉しそうに目を細めた。
「あたしはね、お金を数えられるようになって、宿屋で働くんだ!」
デリアちゃんがエマと私に向かって言った。宿屋の女給さんの制服は可愛い。村の女の子たちにとっては憧れの職業なのだ。
エマの双子の弟妹、アルベールくんとデリアちゃんは今年の春で6歳になった。二人が農作業の手伝いができるようになったことで、仕事がとても楽になったとマリーさんは喜んでいる。
2歳になったばかりの末妹グレーテちゃんの面倒を見ている様子を見ると、数年前のエマの様子を思い出して何だかきゅんとしてしまうこともある。人間の子供は本当にものすごく成長が早い。
「お前たちが読み書きできるようになりたいって思うのは、とてもいいことだぞ。これからはたとえ木こりだって文字が読めた方が絶対にいいからな。」
フランツさんの言葉にマリーさんも大きく頷いた。フランツさんは簡単なお金の計算といくつかの言葉を読めるだけなので、村長としての事務仕事をするときにはエマに手伝ってもらっている。
前村長のアルベルトさんは商人のホフマンさんから読み書きと計算を教わったそうで自分でやっていたけれど、フランツさんは今まで人から教わる機会がなかった。
そのため彼は、自分が苦労していることをことあるごとに子供たちに話して聞かせている。だからフランツ家の子供たちは皆とても勉強熱心なのだ。
「クルベ先生が王都から戻られたら、学校も再開できそうですよね。」
クルベ先生は今、温水路の最後の調整のために歓楽街に行っている。工事がすべて終わる今月の半ばごろには、今建設中のハウル村の集会所兼学校も完成するはずだ。
私がフランツさんにそう言うと、アルベールくんとデリアちゃんは二人で顔を見合わせ、嬉しそうに笑った。
「今日はギルドや宿屋さんに品物を届けに行きます。」
後片付けを終えた私はマリーさんにそう告げて家を出た。いつものまじない師姿になり、まず向かうのは西ハウル村の街道沿いにある宿屋さんだ。
宿屋さんは朝食を終えた人たちが出発し終えた後で、ほとんどお客さんがいなかった。でも空いているのはこの時間だけだ。
もう少ししたらサローマ領から徒歩や荷馬車で移動してきた人たちや、川港に停泊している船の人たちが休憩や食事を摂りにやってくるため、ものすごい混みようになる。
お客さんはいなくても、この時間の宿屋さんは次のお客さんを迎える準備で大忙しなのだ。
「あ、いらっしゃい、ドーラお姉ちゃん。今、グストハッセさんを呼んでくるね。」
入り口から入った私を出迎えてくれたのは、女給さんの制服を着たハンナちゃんだった。パタパタと受付の奥にある事務室に駆け込んでいく。
彼女はまだ12歳だけれどすでに2年、この宿屋で働いている。お金の計算と読み書きが得意なので、受付係として採用され活躍中だ。最近では背が伸びて、すごく女性らしい体つきになってきている。
少し大人しいけれど、気遣いが出来て優しいのでお客さんからとても人気があるらしい。エマが言うには彼女を目当てにわざわざ宿に立ち寄っていく男性客もいるそうだ。
私はグストハッセさんに注文されていた香草茶や疲労回復のお茶、それに石鹸などの日用品を手渡し、代金を受け取った。
「いつも助かるよドーラさん。ドーラさんの作る品物は大人気だからね。よかったらまた喫茶室の手伝いをしておくれよ。」
「いやー、やりたいのはやまやまなんですけど、またマリーさんに怒られるといけませんから。」
私はハハハと笑って誤魔化した。実は私は以前ちょっとだけ宿の喫茶室で女給さんをしたことがある。
でもその時は私の出すお茶を目当てにお客さんが殺到してしまい、ひどい騒ぎになってしまったのだ。
「確かにあの時のガブリエラ様とマリーの剣幕は凄かったからねえ。私は今でも夢でうなされることがあるくらいだよ。」
グストハッセさんはそう言って残念そうに頷いた。そう、あの時はまだガブリエラさんがこの村にいたのだ。
彼女は遠い国へお嫁に行ってしまった。彼女のことを思い出すと今でも胸の奥が痛む。元気にしてるかな。
すごく心配だけど、会いに来ちゃダメって言われてるからずっと我慢している。ミカエラちゃんを守るために、たった一人で知らない国へ旅立っていった彼女の気持ちを尊重したいからだ。
でももしガブリエラさんが危険な目に遭っているようなら、すぐにでも助けに行くつもりだ。怒られたって関係ない。
そう言えば去年の秋ごろ、ハウル村が襲撃に遭う前に、パウル王子さんがガブリエラさんの様子を見に行くと言っていたっけ。あれから何の音沙汰もないけれど、大丈夫だったのかな。すごく気になります。
私はグストハッセさんにお礼を言い、東ハウル村のギルドに行くために渡し舟乗り場へと向かった。
「ドーラさん、久しぶりだな。ギルドへ行くのかい?」
渡し舟に乗り込んだ私に話しかけてきてくれたのは、渡し舟の船頭の元締め兼、村の川港の責任者をしているアクナスさんだ。
アクナスさんの渡し舟は村が襲撃され、洪水に見舞われたときにすべて流されてしまった。でも無事だった僅かな舟を補修して、こうやって渡し舟を再開してくれたのだ。
「新しい渡し舟が届くのは、いつくらいになりそうなんですか?」
「スーデンハーフの船大工ギルドによると、今年の冬ごろらしいよ。王都の船が優先なんだと。」
例の襲撃事件で王都の船はほとんど全部、燃えてしまった。王都とサローマ領都スーデンハーフの船大工ギルドが、全力で新しい船を作っている最中なので、アクナスさんの渡し舟は後回しにされているそうだ。
「まあ、しょうがないけどな。船が使えなきゃ王都の連中は食糧や品物が入ってこなくなって、たちまち干上がっちまうんだから。」
アクナスさんはそう言って笑顔で肩を竦めた。
「忙しいけど、こっちはまだ何とかなってる。まあ、出来るだけ頑張るさ。」
そう言って笑う彼に私は、渡し舟の代金1Dと、船頭さんの人数分の疲労回復薬を渡して、船着き場から冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドに薬を納入し、魔獣解体所から魔獣の肉を引き取らせてもらった時には、もう昼近い時間になっていた。
私は家に帰る前に、カールさんのいる北門の衛士隊詰所に行くことにした。ハウル街道の交通量が増えたせいで疲れ切っている詰所の人たちに、魔法の疲労回復薬を届けるためだ。
最近、詰所の文官の皆さんの間では、蜂蜜で作った甘い回復薬よりも、メリッタ草で作った苦い回復薬の方が人気がある。
この苦い回復薬は強力な不眠効果という副作用があるのだけれど、それが文官さんたちにはちょうど良いらしい。
でも赤い目をしてフラフラしながら、この回復薬を一気に飲み干す文官さんたちの様子はちょっとだけ怖い。一体どのくらいまともに寝ていないんだろうと心配になってしまう。
カールさんは方々手を尽くして文官を増員するために頑張っているけれど、なかなか良い人が見つからないらしい。文字を読んだり計算をしたり出来る人が、とても少ないからだそうです。
私の姿に気が付いて手を上げてくれる衛士さんたちに挨拶をしながら詰所の入り口まで行く。入り口の扉の前にはステファン伍長さんが歩哨に立っていた。
「こんにちは、ステファンさん。」
「・・・子爵様なら中にいらっしゃる。さあ、通れ。」
「!! ありがとうございます、ステファンさん!」
いつもあからさまに私を無視するステファンさんがちゃんと返事をしてくれたのが嬉しくて、私は元気よく返事をし、勢いよく頭を下げた。そんな私に、彼は少し複雑な表情で軽く頷いてくれた。
いつものように薬を手渡した後、私はカールさんから一つお願いをされた。
「ドーラさん、陛下に手紙を届けていただきたいのですがよろしいですか。」
「もちろんいいですよ。でも夜になってからでも良いですか? 急ぐならすぐに届けますけど。」
「人目に触れない方がよいので、夜の方がいいです。よろしくお願いします。」
手紙を受け取った時、ちょっとだけ彼と手が触れた。私が顔を上げると、、彼も少し照れたような表情で私のことを見ていた。
「わ、私、もう帰りますね。お邪魔しました。」
「ありがとうござました、ドーラさん。」
私はぺこりと頭を下げた。そして文官さんたちの暖かい眼差しを感じながら執務室を飛び出すと、熱くなった頬を見られないように早足で歩いて、フランツ家に戻ったのでした。
ドーラが出て行ったのと入れ替わるように、執務室の扉がノックされた。生真面目なその叩き方で、カールはすぐにやってきた相手が誰なのか分かった。
「子爵様、南門からの定時連絡が届きました。」
扉を開けたのは案の定、歩哨に立っていたステファンだった。カールは軽く頷くと、ステファンからの報告を聞くために文官たちを昼休憩をとらせ、部屋から出した。
二人きりになったところで、彼はステファンに向き直った。南門を守るバルドンからの報告書を受け取り、内容について二人で短いやりとりをする。
この後はステファンが今のやりとりを書面にまとめて、南門へ持っていくことになるのだ。やりとりが終わるとカールはステファンを労った。
「ステファン・ルード殿、ありがとう。ご苦労だったね。」
カールの言葉を直立不動の姿勢で聞いていたステファンは、慇懃な態度で頭を下げた。
「ありがとうございます子爵様。しかし今の私は勘当同然の身。どうかステファンとお呼びください。」
「いや、しかし・・・。」
カールは躊躇した。貴族位を持つ彼に対して、名前を呼び捨てにするのは憚られる。かといって彼の真剣な目を見たら、それを無下に断るのも申し訳がない。結局、彼は妥協することにした。
「分かった。ではステファン殿、少し時間をもらえるだろうか。もしよかったら、少し話を聞かせてもらえないか。」
「ご命令であれば、従います。」
彼は短い言葉でそう返答した。カールは彼を応接用のテーブルへと案内した。
「君の目から見て今のハウル村はどう思う?」
ステファンは少し考えた後、すらすらと答えた。
「雑多な人間たちが集まっている割に、治安のよい村だと思います。犯罪や揉め事も極めて少ない。王都領の要所として陛下が直々に子爵様を配置していらっしゃるからこそと思っております。」
衛士としての立場で見るべきところをしっかりと捉えた回答。さらに国王や上位の貴族であるカールへの配慮も忘れていない。淀みなくその答えが出せる彼を、カールは思っていた通りの優秀な人物だと評価した。
少ないとはいえハウル村にもやはり犯罪はある。ただ街道を行き来する旅人間での犯罪(置き引きやスリ、寸借詐欺、ちょっとした喧嘩など)ばかりなので、元の住民であるフランツたちが巻き込まれていないのが不幸中の幸いだ。
これは、衛士隊総出でフランツたちが犯罪に巻き込まれないように目を光らせているからというのも大きい。
もし万が一、エマやマリーなどが犯罪の被害にでも遭ったら大変なことになりかねないからだ。ドーラの反応如何では王国どころか人類存亡の危機を招く可能性だってある。
もちろんカールは、ドーラがそんなことをするはずがないと信じている。ただそうなる可能性を限りなくゼロに近づけるのも、彼女を守る自分の使命なのだとカールは感じていた。
カールはステファンの答えに満足して頷いた後、さらに質問をした。
「住民たちの様子はどうかな?」
今度の質問に、ステファンは少し戸惑った表情をした。言葉を探すように、彼はゆっくりと答えた。
「西ハウル村の住民たちは善良な者が多いですね。子供もよく躾けられています。東ハウル村の方は冒険者ギルドがよく統制してくれていると思っています。」
きちんとしているが少しよそよそしい答えだと、カールは感じた。
なんというか距離があるのだ。住民に対して一歩引いている感じがする。
ステファンが住民や同僚たちとほとんど交流を持たず、非番の日には一人きりでひたすらに剣の鍛錬をしていることをカールは知っていた。
以前「一緒にやらないか」と声を掛けたこともあるが、その時は遠回しに断られてしまったのだ。彼は意図的に他人との交流を避けている。
カールはドーラに出会う前、貴族の中で孤立していたかつての自分のことを思い出した。だが今のステファンは、あの頃の自分よりもずっと暗い瞳をしている。
彼は自領で揉め事を起こして父親からこの村へと差し向けられた。だがその揉め事がどんなものであったかを、カールは詳しく知らなかったし、積極的に知ろうともしなかった。
詮索すべきことではないし、必要であれば彼が自分から話してくれるだろうと思っていたからだ。ここに来たばかりの頃の彼は非常に頑なで、任務に没頭しようと懸命に努力していた。
だが今の彼を見ると、それが揺らいできているように感じられる。これは迷い、それとも躊躇いだろうか?
カールは彼の真情を推し量ろうと正面から彼の目を見つめた。しかしそっと目を逸らされてしまった。
しばらくカールは彼を見つめていた。彼は奥歯を噛んだまま俯いている。気にはなるが、まだ詳しい事情を聞くべき時ではないのかもしれない。カールはフッと息を吐き、彼に言った。
「ありがとう、ステファン殿。君の話は非常に貴重なものだ。またいろいろと聞かせてほしい。」
カールは話を終わらせるつもりでそう言ったが、ステファンは椅子から立ち上がろうとしなかった。
やがて彼は意を決したように、カールに言った。
「子爵様、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「もちろん。何でも聞いてくれ。」
彼が自分からこんなことを言い出すのは初めてのことだ。カールは少し身構えながらも、嬉しい気持ちで彼の言葉を待った。
「子爵様はあのドーラとかいうまじない師と婚約なさっているという噂を耳にしました。それは真実なのですか?」
予想外の質問にカールは戸惑う。てっきり彼の父親であるルード男爵からの連絡の有無などを聞かれるかと思っていたからだ。ちなみに今まで一度も、彼の父親からの連絡は来ていない。
カールは顎に右手を軽く当て、彼の質問に何と答えるべきかを考えた。
ドーラとカールの婚約については正式な発表に至っていない。だが村内ではすでに公然の秘密となっている。そのため彼がそれを知っていたとしても、何ら不思議はない。
ステファンは王国貴族の一員。他家の些細な情報がどれほどの価値も持つか、十二分に分かっているはずだ。彼が何かドーラに関する決定的な情報を掴んでいる可能性もある。迂闊な答え方はできない。
王はカールとドーラが婚約することにより、ドーラが『ただの村のまじない師』であることを貴族たちに知らしめたいと考えている。
ただ今の時点でそれはできない。襲撃事件の余波で十分な情報統制ができないこの状況で、二人の婚約を発表すれば、ドーラが悪目立ちしてしまう可能性が高いからだ。
そのため、カールに課せられた使命は、ドーラを他の貴族たちから守る隠れ蓑を作り出すこと。かつてはガブリエラがその役割を担ってくれていたわけだが、彼女はすでにこの国にいない。
だから今度は彼自身がその役割を果たさなくてはならない。具体的に言えば、カール自身の手腕でハウル村をさらに発展させたという実績を作ることだ。
カール自身が栄達することでドーラを『特別な力を持つ存在』ではなく、力ある貴族に見初められた『ただの村娘』へと変えてしまおうというわけなのである。
ドーラの存在は王国の根幹にかかわる秘密だ。彼女の正体を王家に敵対するものに知られることだけは絶対に避けなくてはならない。
その点から考えると、闇の世界に行った時、ハーレにドーラの正体を知られてしまったことは痛恨の失態だった。
もっともハーレが他の者に情報を漏らすことはないだろう。なぜならそれは彼女にとって一番の存在である、テレサの命に直接関わることになるからだ。
一応、リアにそれとなくハーレの周囲を探らせている。この話し合いの結果によっては、ステファンの身辺にも新たな密偵を配置する必要が出てくるかもしれない。
カールは様々なことに思いを巡らせた後、ステファンの反応を確かめながら、慎重に彼の問いに答えた。
「それについて私から言えることはまだ何もない。今、そんな余裕がないのは君にも分かるだろう。ただ私は彼女のことを誰よりも大切に思っているよ。」
まだ正式な婚約には至っていないが、ドーラは明確にカールの庇護下にあるという意味の返答。カールはステファンの反応を見逃すまいと、彼を観察した。
彼はなぜか痛みを堪えるように顔を歪め、再びカールに問いかけた。
「・・・ドーラの方からカール様に近づいてきたのですか?」
またも意外な問いかけ。カールはまじまじと彼の顔を見つめた。彼の目には狂おしいほど強い光がある。彼が何を考えているのか、カールには見当もつかない。
ただドーラの秘密を探ろうとしているようには思えなかった。質問が直截的すぎるし的外れだからだ。
カールはなぜか、彼が痛ましく思えて仕方がなかった。苦痛に歪んだ彼の顔はまるで、痛めつけられた子供が助けを求めているようだと、カールは思った。
カールは胸襟を開き、素直な気持ちで語り始めた。
「彼女と出会ったのは徴税官として私がハウル村に来た時のことだ。今からもう7年も前になるかな。」
カールは椅子に浅く掛け直すと、16歳の時の自分とドーラの馴れ初めについて語った。ステファンは真剣な表情でそれを聞いている。単なる恋愛話を聞くような態度ではない。
彼の態度に不可解さを感じるものの、彼に対する警戒の気持ちはほとんどなくなっていた。
目の前に座っている18歳になったばかりのこの青年のために何かをしてやりたい。そんな気持ちでカールはハウル村での出来事を順番に話していった。
ドーラが魔法剣を作ったくだりを除きすべてを話し終えると、ステファンは熱っぽい調子で彼に問いかけてきた。
「では、ドーラが子爵様に近づいたのは、税の便宜を図ってもらうためではなかったのですね?」
その言葉にカールは思わず笑みをこぼした。
「それだけは絶対に違うと断言できるよ。」
当時のドーラは銀貨の意味すら分かっていなかったのだ。彼女がそんな思惑を持っているわけがない。
もっともドーラは今でも銀貨のことを『ただのキラキラするきれいなもの』と思っている節はあるのだけれど・・・。
カールの笑みを見て、ステファンはさっと視線を下げた。俯いて握りしめた彼の拳は僅かに震えている。
この青年には何かある。そう確信したカールは穏やかな声で彼に語り掛けた。
「ステファン、私は君のことをずっと見ていた。君は嘘や誤魔化しのできる人間ではないと私は思ったんだ。」
ステファンは視線を上げて一瞬カールと目を合わせた。
恐怖。否定。後悔。渇望。様々な色が渦巻いて揺れる彼の瞳を見つめながら、カールは彼に問いかけた。
「君の父上の領地で何があったのか、よかったら話してもらえないか?」
「・・・それは子爵様も、父から聞いてご存知のはず・・・。」
「いや、君の口から聞きたいんだ。」
カールのきっぱりとした言葉に、ステファンは胸を衝かれたようにビクッと体を震わせた。そして諦めとも安堵ともつかない息を吐くと、視線を逸らしたまま、力なく了解の言葉を口にした。
「分かりました。ご命令であれば、従います。」
彼は、ぽつりぽつりと自分の過去の過ちについて語り始めた。
「王立学校を卒業した私は、ルード領に戻り父の仕事を手伝うことになりました。最初に任された仕事は子爵様と同じ、辺境の村々への徴税でした。」
ルード領は王国の南西部にある小領地。これと言った特産品はないが、水源と温暖な気候に恵まれた平原の地で、領地の大きさの割には豊かな領だ。これは領主の統治が行き届いている証左に他ならない。
主要な街道から外れているため、良くも悪くも周辺の他領との関りは薄い。代々領主を務めるルード家は、かつては王家の功臣であり、現当主のルード男爵も熱心な王党派として知られている。
ステファンはルード家の四男。成人を迎えた彼は他の兄弟と同様、領地の管理をする仕事に就いた。
カールの生家であるルッツ家のような官僚貴族家では、四男ともなれば厄介者として扱われることもある。役職を得られなければたちまち冷飯食いとして蔑まれ、家を出されてしまうことも多い。
だが領主貴族家ではまったく事情が異なる。領主貴族にとって一族の人間は、領を統治するための貴重な人材だからだ。
広大な領地を持つ大貴族家ともなれば、領主一族だけでは手が回らないため、領内から代官を立てることもある。しかし代官では十分に領主の意向が伝わらないことの方が多いのだ。
下手な人間を代官に据えれば、領民の反発を招いたり領内の治安が乱れたりしかねない。結果として最も信頼がおけるのは、やはり一族の人間ということになる。
そのため領主貴族家の男子は、幼い頃から領を統治するための教育を施される。ステファンも当然のようにその教育を受けた。
父親から徴税の仕事を任されたステファンは、父や兄たちの教えに従い、供回りの者たちと共に領内を巡った。
小さな失敗はあったもの、経験豊かな家臣たちのおかげで無事に最初の任務を終えられそうだ。
彼がそう思った時、その事件は起こったのだった。
「その村は非常に貧しい木こりたちの村でした。村長は開口一番、私に税の減免を申し出てきたのです。」
一般的に木こりは定住して農業をする農夫たちに比べて貧しい暮らしをしている。それは彼らの住んでいる土地が農業に適さない場合が多いからだ。
しかも農業を主体とする農夫たちにとって、森は畑を荒らす害獣や魔獣の巣窟。農夫にとっては忌むべき場所だ。
そんな所で仕事をする木こりたちは『下民』と呼ばれ蔑み、嫌われる存在なのだ。
そんな木こりの村長は天候不順で炭が思うように作れなかったこと、さらに流行り病で体調を崩した者が多く出たことを理由に領法で定められた税を納めることができないと訴えた。
家臣たちは木こりたちの言い分を聞いて、税を免除すべきとステファンに助言した。しかし。
「私は領法に従い申し出を突っぱねました。領法ではその村の税の不足分は領民の労役で賄うとなっていたからです。」
彼は家臣の差し出した記録を見て不足分を計算し、木こりの中から一名を領都での労役に就かせるよう村長に言い渡した。それが定められた決まりだったからだ。
恣意的な判断で決まりを破ることがあってはならないと彼は考えた。領を統治する貴族として、下民である木こりなどに甘い顔はできないと思ったのだ。
突き詰めて考えればこの時、初めての任務を完璧にやり遂げたいという気持ちがなかったかと言えば噓になる。
だがそれ以上に、彼は民の範たる貴族として法を守ることを第一に考えたのだった。
平民にとって貴族の言葉は絶対だ。その後に行われた話し合いの結果、労役に就く木こりが選抜されたと、彼は家臣から報告を受けた。
話し合いの様子を見ていたという家臣は、彼に何か言いたそうな表情をしていた。だが彼はあえて何も聞くことをせず、宿泊所として接収した村長宅で眠りに就いた。
その夜、夜半を過ぎたころ、彼の寝室に何者かが侵入してきた。
愛用の剣を掴んで飛び起き、《小さき灯》の魔法を使って侵入者の正体を見極めた彼は、驚きの余り言葉を失った。
「その夜、私の部屋にやってきたのは15歳になったばかりの少女でした。彼女は私の前で自ら服を脱ぎ、私に体を捧げる、その代わりに父親の労役を免除してほしいと言ってきたのです。」
少女は労役に出ることになった木こりの娘だった。働き手である父親を労役に取られてしまっては、彼女の家族の暮らしは立ち行かなくなってしまう。
働ける年齢の彼女はまだしも、幼い弟妹たちや流行り病から完全に回復していない母親はどうやっても生きていくことができない。彼女は涙ながらに村と家族の窮状を訴え「どうかお慈悲を」と彼に懇願した。
そんな彼女の行動に対し、彼は激しい怒りを覚えた。
こんなことで法をないがしろにし、労役逃れをしようという汚いやり口にも腹が立ったが、何よりも自分がそんな取引に応じるような人間だと思われたことが許せなかったのだ。
彼が滞在しているこの部屋は、家臣たちが守っている。彼女がここに来るためには、家臣たちの目を欺く必要があるのだ。
しかし何の力もない村娘が貴族家の家臣たちの目を掻い潜るような真似が出来ようはずがない。つまりこれは彼女の行動を家臣たちが黙認しているということに他ならない。
何という卑劣。そしてなんという侮辱か。家臣たちから自分は、女の色香で法を曲げるような人間だと侮られている。
彼は自らの貴族としての矜持をひどく傷つけられたような気がした。そして彼はその怒りを目の前の少女に向けた。
「もちろん私はそれを断りました。彼女は私に泣いて縋りましたが、私は彼女を拒絶したのです。」
彼は彼女と、彼女の父親を激しく非難した。彼女はそれに大変驚き、これは家族の誰も知らないことで、すべて自分の独断だと言い訳した。だが彼をそれを信じなかった。
これ以上、罪を重ねるなら家族全員を捕らえると彼が言うと、彼女は絶望に顔を歪めその場にへたり込んだ。
彼は黙り込んだ彼女に早く服を着て、今すぐここから出て行けと促した。
憔悴しきった様子でのろのろと服を着た彼女は幽鬼のように立ち上がると、ふらつく足取りで部屋の出口に向かった。
部屋を出ていく前、少女は深々と平伏し床に額を付けて「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。このお詫びは必ずいたしますので、どうか家族だけはお許しください」と懇願した。
しかし彼はその言葉を無視し、無言のまま少女が出ていくのを見送った。
そこまで話したところでステファンはぐっと拳を握りしめ、唇を強く噛んだ。彼の口の端に薄く血が流れるのを、カールは痛ましい思いで見つめた。
彼は固く目を閉じた。しばらくの沈黙の後、再び目を開けると血を吐くような口調で語り始めた。
「翌朝、彼女は変わり果てた姿で発見されました。自宅の裏の木で自ら首を吊ったのです。」
家臣から非難めいた目でそのことを聞かされた時、彼は初めて自分が取り返しのつかない過ちを犯したことに気が付いた。
彼は村の広場に村人全員を集めた。小さな子供を入れても100人にも満たない数の村人たちは、皆一様に怒りに満ちた目を彼に向け、無言で立ち尽くしていた。
「私は彼女の願い通り、彼女の家族の責を問いませんでした。しかし領法を曲げて労役を見逃すことはできません。私は彼女の父親に期日までに労役に出頭するようにと伝えました。」
少女の父親はその骨ばった両拳を握りしめたまま、何も言わずにじっと彼を見つめていた。
彼に寄り添うように隣に立っていた青白い顔をした女性はその場にがくりと崩れ落ちると、彼女の周りにいた幼い子供たちを抱きしめ、声を殺して泣き始めた。
彼はいたたまれなくなり、村から出るため家臣たちが出発の用意を整えてくれた馬車へと向かった。
その時のことだった。背を向けた彼の足元に小さな石がカツンと音を立てて転がってきたのだ。
「人殺し!! おねえちゃんを返せ!!」
石を投げたのは4歳くらいの幼い少女だった。死んだ少女の妹に違いない。
彼女は怒りと憎悪に満ちた目で彼を睨みつけ、再び石を投げようと足元の石を拾った。しかしその石が投げられることはなかった。彼女の父親が彼女を守るように抱きかかえたからだった。
家臣たちは領主一族である彼に対して明確な反意を示した幼い少女を捕らえようと動いた。だが彼は震える手で家臣たちを押しとどめた。
「私は逃げるようにその場を立ち去ることしかできませんでした。」
彼は今にも嘔吐しそうになるのをぐっと堪え、やっとの思いで馬車に乗り込んだ。扉が閉まる寸前「おねえちゃん、おねえちゃん!!」と泣き叫ぶ少女の声が、彼の耳に突き刺さった。
彼はそのまま領都に戻ったがその間中、家臣たちは彼に対して何も言わなかった。だが彼らの目は明確に彼の過ちを非難していた。
任務の報告をするために父親の元へと向かった彼は、父親から激しい叱責を受けた。
「お前のような無能に我が家名を名乗る資格はない! お前は一族の恥さらしだ!」
父親は彼に蟄居を命じた。彼は家族から離れ、父親から与えられた殺風景な部屋で一人、過ごすことになった。
座敷牢に軟禁されたも同然の暮らしが半年も過ぎた頃、彼は驚くべき話を耳にした。
彼が権力をかさに領民の娘を弄び、挙句死に至らしめたという噂が領内で広まっているというのだ。彼はそれを必死に否定したが、父親はおろか彼に同行していた家臣たちでさえ、それを信じようとはしなかった。
針の筵のような生活が一年になろうという頃、彼は父親から屋敷を出るように言い渡された。
「お前がいては領内の不和が広がるばかりだ。陛下にお願いして、王都領内に新たな任地を用意していただいた。そこへ行くがいい。」
かつて自分を慈しんでくれた父親は、穢れたものを見るような冷たい目で彼に告げた。
「私がお前に何かしてやるのはこれが最後だ。分かったらさっさとこの領から出ていけ。」
彼は身の回りの僅かな品と愛用の剣のみを携え、愛する故郷を追われることになった。
家名は取り上げられなかった。だがそれは彼の身を思ってのことではなく、口利きをしてくれた王への配慮に過ぎなかった。
すべてを失い後ろ指を指されながら、彼はたった一人で旅立った。彼が尊敬して止まなかった父や兄たちは、出て行く彼に対し、一顧だにすることさえなかった。
すべてを語り終えた彼は、歯を食いしばり男泣きしながらカールに問いかけた。
「子爵様、一体私はどうすればよかったのでしょう。一体どうすれば彼女を・・・。」
カールはそれに答えられなかった。答えるべき言葉が見つからなかった。
なぜなら今の彼は、昔のカールが辿っていたかもしれない姿だと思ったからだ。
カールがハウル村に徴税官としてやってきたのは7年前。ステファンが初任務に赴いたのと同じ16歳の時だ。
もしもあの時、ハウル村がもっと困窮した状態だったら?
もしもあの時、アルベルト村長が税の減免を申し出ていたら?
もしもあの時、ドーラが何の力も持たない、ただの村娘だったら?
カールはステファンと同じ過ちを犯していたかもしれないのだ。
ステファンの行動は貴族としては間違っていない。むしろ清廉で公正だと褒められるべきものだろう。平民に対して貴族の言葉は絶対であり、そのために貴族は平民の範たる姿でいなくてはならないのだ。
もちろん、今のカールにはそれが必ずしも正しいことではないのだということが分かっている。
しかし7年前の自分にそのことが分かったかどうかと問われると、答えに窮してしまう。ステファンと同じ轍を踏む可能性も十分にあったと言わざるを得ない。
彼の脳裏にもしかしたらあり得たかもしれない場面が思い浮かぶ。
無残な骸を晒すドーラ。自分を怒りの目で見つめるハウル村の人々。
そして彼を「人殺し!」と詰るエマの声・・・。
ああ彼は私だ、とカールは思った。カールは立ち上がりステファンの元へ近寄ると、ごく自然に彼の手を取った。
「話してくれてありがとう。辛いことだったろうに・・・すまない。」
彼の問いに対して何も言うことができなかったので、彼は真情を素直に口にした。彼の心の籠った言葉を聞いたステファンはぐっと涙を飲み込んで、彼に深く頭を下げた。
「いえ、話を聞いてくださって、本当にありがとうございました。」
顔を上げた時、彼は誰ともなしにポツリと呟くように言った。
「私は貴族として正しくあろうとしました。法を守ることが私の責任だと思ったからです。その気持ちは今でも揺らいでいません。」
「それが正しいことだと私も思う。では君はなぜ今、そんなに苦しんでいるんだい?」
ステファンは「それは・・・」と言ったきり、黙り込んでしまった。カールは彼に言った。
「民を導くのが貴族の役目だ。そのために何が必要か、私にも明確な答えはない。だが強いて言うなら民への愛情と民を処断する覚悟の二つではないかと思うんだ。」
「愛情と覚悟・・・。」
「ああ、これは硬貨の裏表のようなものだ。どちらがなくても成り立たない。相反するその矛盾と常に向き合いながら、私たちは生きなくてはならないのだと、私は考えているよ。」
カールは照れたように笑みを浮かべ、さらに言葉を続けた。
「でもそう言う私もできないことや、失敗することばかりだ。君と同じ立場だったら、私も同じことをしたかもしれない。」
同じことをしたかもという言葉をカールが口にした時、ステファンは縋るような目でカールを見つめた。
カールはそれを正面から見返して、ゆっくりと頷いた。
「だから君の力を私に貸してほしい。」
「私にですか?」
「ああ、そうだ。苦しみながらも民を向き合おうとする君だからこそ、出来ることがあるはずだと私は確信しているよ。そうじゃないかい?」
彼の問いかけに対してステファンは無言で考え込んでいたが、やがて「はい」と呟いて頷いた。
二人は立ち上がった。カールは随分長く話し込んでしまったことをステファンに詫びた。ステファンは彼にもう一度「ありがとうございました」と礼を言い、深々と頭を下げた。
生真面目な態度だが、もう慇懃さは感じられなかった。
ステファンを見送ってから、カールはこれからのことを考えた。
ドーラのためにもこの村をもっともっと発展させなくてはならない。そうする中で、取り返しのつかない失敗や誤った判断をすることが今後多くあるはずだ。
しかし彼は今日、ステファンという心強い味方を得ることができた。彼の生真面目さは気持ちに流されそうになるカールを、必ず支えてくれるだろう。
そしてそうすることでステファンが自分の過ちと向き合い、やがてそれを受け入れてくれるようになることを、カールは祈らずにはいられなかった。
どんなに悔やんでも失った命は戻らない。背負った罪は決して消えることはない。
だがそれでも私たちは、生きて進み続けなくてはならないのだから。涙が枯れても希望がある限り、人は何度でも立ち上がれるのだから。
カールは大きく伸びをした。そして執務室をでると、午後の執務に備えて英気を養うため、昼食を用意してくれている侍女のリアの元へと向かったのだった。
読んでくださった方、ありがとうございました。読みにくくてすみませんでした。後半は週明けくらいになりそうです。




