26 温水路作り
前話への感想を書いていただきました。本当に嬉しいです。ありがとうございました。
春の3番目の月が終わる頃、グスタフくんのケガが治ったことで『白の誓い』は魔獣の討伐を再開した。
再開するに当たって、エマは仲間たちに自分の気持ちを話し、自分の過ちについて謝った。それに対し、仲間の人たちもそれぞれ気持ちを話してくれた。
マヴァールさんは「ちょっと遠慮があった。すまん」と仲間に謝った。エマやゼルマちゃんにきちんと指示できなかったことを、彼は後悔していたそうだ。
グスタフくんは「俺もエマと一緒に冒険できて、ちょっと浮かれてました」と皆に話した。彼はガレスさんから「先輩のお前がしっかりしなくてどうする!」とものすごく叱られたらしい。
お互いが気持ちを話し合ったことで、『白の誓い』の皆は以前よりも結束を深めることができたようだった。
その様子を黙って見ていたロウレアナさんは「年齢や身分の差なんて本当にくだらない。人間って本当に奇妙な種族ですよね」と、ため息交じりに私に言ったのでした。
「今度はしくじんなよ!」と応援してくれたガレスさんに見送られ、『白の誓い』は討伐に出かけて行った。
討伐場所は彼らの本拠地である東ハウル村の森だ。今回の討伐の目的は土の魔石を出来るだけたくさん集めること。
東ハウル村の森には植物型や昆虫型の魔獣がたくさん住んでいて、そのほとんどが土の魔石を持っているのだ。
私は村の仕事を手伝いながらエマたちの帰りを待っていた。けれど皆はなかなか戻ってこなかった。
その間すごく心配だったけれど、エマの《警告》の魔法が一度も反応しなかったので、私はそわそわしながらもじっと我慢して皆の帰りを待ち続けた。
春の四番目の月の最初の週が過ぎたころになって、ようやく『白の誓い』はハウル村に帰還した。
エマによると本拠地ということもあり、討伐自体はとてもスムーズに進んだらしい。ただ魔石が高騰しているせいで、村周辺は魔獣の数が減ってしまっており、目的の魔獣を見つけるために、森のかなり奥まで入らなくてはならなかったそうだ。
でも結果的には、そのおかげでたくさんの魔獣の素材と魔石を手に入れることができたんだって。
火喰鳥と大泡蛙、そして今回の討伐分を合わせ、歓楽街の温水路建設をするには十分すぎるほどの魔石が集まった。復興事業の影響で素材も高値で取引されているため、『白の誓い』は今回の討伐でもかなりの額を稼ぐことができた。
エマたち見習いの報酬だけでも1450Dもの額になったそうだ。成人済みの仲間たちは見習いの倍額、一人当たり2900Dも手に入れることができたんだって。
魔法薬や食料、装備の修繕、消耗品費などの経費を除いても相当な儲けになったそうで、みんなとても喜んでいた。
グスタフくんは武器を新調したりケガの治療をしたりしたために、報酬が目減りしてしまった。それでもこれまでの冒険で稼いだ以上のお金が手に入ったと言っていた。
これもすべては魔石の買取価格が高騰しているせいだ。この状況はまだ当分続くみたい。
エマたちにとってはありがたいことだったけれど、ギルド長のガレスさんは、無理して魔獣に挑む人が多くなりそうだと、とても心配していた。
その夜、『熊と踊り子亭』で行われた祝勝会兼反省会に、私も参加させてもらった。
今回の森の討伐ではエマたち見習い三人組がとても活躍したと、マヴァールさんが上機嫌で話してくれた。
グスタフくんがゼルマちゃんと連携することで魔獣の動きを封じ、エマが全体の動きを見ながら魔法で皆を助ける。その動きがかっちりと出来ていたそうだ。
見習いが自分の役割をしっかり果たせたことで大人たちも動きやすくなり、より安全に討伐を行うことができたという。
「三人ともまだまだ足りねえところは多いが、この年でなら上出来だぜ。」
マヴァールさんの言葉に仲間たちも同意する。皆は酒杯を打ち合わせて「見習い三人組に!」と乾杯をした。褒められた三人、特にゼルマちゃんが、より自然な表情で皆と笑い合っていたのがとても素敵だなと私は思った。
皆が美味しそうにエールや蜂蜜酒を飲むのを横目に見ながら、エマと一緒に果実水を飲んでいた時、私はふとクベーレ村の森の奥にあった不死者の砦のことを思い出した。
私は亡霊騎士のランディさんから聞いた話を皆に伝え、ラインハルトさんという人について何か知りませんかと尋ねてみた。
「ラインハルト? いや、心当たりねえな。」
マヴァールさんが首を捻り、仲間を見回す。他の人たちも心当たりがないようだ。
「かなり前に死んだ連中なんだろう。クベーレ村の連中なら何か知ってるんじゃねえか?」
マヴァールさんはそう言って、がっかりする私を慰めてくれた。
ラインハルトさんはもう死んでしまっているかもしれないけれど、もし彼の身内の人が生きているなら、砦で見つけた首飾りを渡してあげたい。
歓楽街の温水路造りが一段落したら、一度クベーレ村を尋ねてみようと私は思った。
翌朝、カールさんの家に一泊したゼルマちゃんを王都に送り届けることになった。ゼルマちゃんがお世話になった仲間たちにお礼を言いたいというので、エマと三人で冒険者ギルドを尋ねた。
朝早い時間だったけれど、マヴァールさんたちはギルドの前で待っていてくれた。どうやらゼルマちゃんがここに来るのを予想していたらしい。
「またいつでも来てくれよ。歓迎するぜ。」
お礼を言ったゼルマちゃんに、皆はそう言って笑った。目に涙を浮かべるゼルマちゃんの頭をポンポンと撫で、皆はギルドに入って行った。
最後に残ったグスタフくんに、ゼルマちゃんは少し赤い顔をして右手を差し出した。
「グスタフ、本当に今までありがとう。」
「いや、こっちこそ勉強になったぜ。ありがとな、ゼルマ。」
二人がしっかり握手を交わす。最初はぎこちない感じだった二人は、もうすっかり打ち解けている。
赤い顔をしたゼルマちゃんは手を離した後、すごく小さな声でグスタフくんに何か話しかけようとした。
「あ、あの、もしよかったら、これからも・・・。」
でも彼女がそれを言い終える前に、渡し舟乗り場からこちらに向かってやってきた女の子が彼に声をかけてきた。
「グスタフ!」
「おおっ、ハンナじゃねえか。どうしたんだ?」
「どうしたじゃないわよ。あんた、またケガしたんだって? お兄ちゃんがすごく心配してたんだから。大丈夫なの?」
「ああ、もうこの通りさ。でもすっげえ、痛かったんだぜ!」
ハンナちゃんに声を掛けられたグスタフくんは、ゼルマちゃんの最後の言葉に気が付かなかったみたいだった。
こちらに歩いてきたハンナちゃんは私とエマ、それにゼルマちゃんに笑顔で挨拶をした後、グスタフくんと一緒にギルドの方へ行ってしまった。
ゼルマちゃんはその後ろ姿を見送りながら、ぽつりとエマに尋ねた。
「あの子は?」
「私の幼馴染のハンナちゃん。私たちより一つ上のお姉さんだよ。」
「・・・グスタフと随分親しいのですね。」
「ハンナちゃんのお兄ちゃんのイワンくんが、グスタフの親友なの。あの三人は小さい頃からずっと一緒に居るからね。」
ゼルマちゃんはハンナちゃんの着ている宿屋の女給服をじっと見つめた。ガブリエラさんがドゥービエさんに頼んで考えてもらったこの制服は、華やかでとても可愛らしい。
宿を利用するお客さんだけでなく、村の女の子たちにもとても人気があるのだ。
「ゼルマちゃん?」
エマに声を掛けられたゼルマちゃんは、自分の革鎧と短槍にちらりと目を向けた後、はあっと大きく息を吐いた。
「いえ、何でもありません。王都へ戻ります。エマ様、本当にありがとうございました。」
私は《集団転移》の魔法を使って、ゼルマちゃんを王都のヴァイカード家に送り届けた。そしてエマと一緒に村へ戻り、あちこちで仕事を手伝って歩いたのでした。
春の4番目の月の中頃、カフマン商会のペトラさんから温水路作りに必要な魔石の準備ができたという連絡が届いた。私は早速、エマとクルベ先生を連れて王都へ向かった。
早朝の歓楽街にはペトラさんと歓楽街のまとめ役イゾルデさんが私たちを待っていてくれた。他の人たちの姿はない。私たちが工事をする様子を他の人にできるだけ見られないようにするために、わざと人気のない時間を選んだのだ。
「では始めるとするかの。ドーラさん、エマ、手伝っておくれ。」
私とエマはクルベ先生の言葉に従い、建築魔法の準備を始めた。今回の建築魔法の規模はそんなに大きくはない。けれど、魔法陣はとても複雑なものだった。
「今ある水路を生かしつつ、地下に新しい水路を作ることになるからの。ドーラさん、頼みましたぞ。」
「はい、任せてください!」
私は《飛行》の魔法を使って上空から工事予定地を確かめつつ、地面の上に《自動書記》の魔法で魔法陣を書いていった。私の隣では魔法のホウキに乗ったエマが、クルベ先生の設計図を見ながら私を手伝ってくれている。
もちろん二人とも《不可視化》で姿を消しているから、私たち二人以外には私たちの姿は見えていない。
キラキラ光る魔法のインクを付けたペンがひとりでに地面を走り、あっという間に線が引かれていく様子を見たペトラさんとイゾルデさんは、目を丸くして驚いていた。
最後にクルベ先生に確認してもらい、細かいところの手直しをした後、《魔法陣構築》で大地に光の線を焼き付ける。完成した魔法陣に、起動用の魔法陣から三人で魔力を流すと、各所に配置しておいた魔石があっという間に溶けて消えた。
歓楽街全体を包み込んだ金色の光が消えると、そこにはつるつるの白い石で作られた美しい大浴場が出現していた。
屋根や内装こそないものの、おおまかな外観はほぼ完成している。設計図を見ていたからどんなものができるかは知っていたけれど、目の前で見ると思ったよりもずっときれいだったので、驚いてしまった。
「すごく浴槽が大きいんですね。それにあちこちにいっぱいある。」
エマが言う通り、池くらいの大きさのまん丸な浴槽が二つある他、何人かが並んで入れるくらいの大きさの浴槽がいくつもある。そのすべてに温水路が巡らされているのだ。
「大勢の人たちが一緒に使えるようにしてあるんじゃよ。良質な火の魔石が手に入ったから、これだけ大きな浴槽でも、湯量はしっかり確保できるぞい。」
クルベ先生は自信満々で胸を張った。先生はハウル村のお風呂場を見てこの大浴場を思いついたのだそうだ。王都式の蒸し風呂ではなく、お湯をたっぷり使った浴槽をどうしても作りたかったらしい。
「最近は腰が痛くてのう。蒸し風呂もよいが、熱い湯にゆっくり浸かった方が腰の痛みが取れるんじゃよ。」
クルベ先生はそう言ってほっほっほと笑った。先生はこれと同じものをハウル村の自分の家にも作るつもりらしい。それはとっても楽しみです!
試しに温水路に水を流してみたら無事に熱々のお湯が出た。皆で手を叩きあって喜んだ後、ちゃんとお湯を抜いておく。抜く時は排水口を開けるだけなので、とても簡単だ。
本格的にお湯を出すのは大工さんたちが屋根を付けたり内装をしたりした後になるそうだ。点検を兼ねて皆で大浴場を歩き回っていたら、イゾルデさんがふうっため息を吐いた。
「魔法ってのは本当にすごいもんだね。」
「本当にね。あたしらじゃこんなもの、とても作れないもんねぇ。」
「でも魔法で出来ないこともいっぱいありますよ。」
恐々と周りを見回すイゾルデさんとペトラさんに私がそう言うと、二人は顔を見合わせ「そうだね、あんたの言う通りだよドーラ」と笑って、フードの上から私の髪をわしゃわしゃと搔きまわしてくれた。あー、気持ちいい!
一通り見て回り終えた頃、歓楽街の人の子供たちが仮設の小屋から姿を見せはじめ、出来立ての大浴場に気が付いて大騒ぎし始めた。その声を聞いて、大人の人たちも眠い目をこすりながら小屋から出てくる。
彼らは突然出現した大浴場を見て物凄く驚いていた。その人たちを落ち着かせてから、イゾルデさんが私に言った。
「今夜、礼と浴場の披露を兼ねて宴を開こうと思うんだ。ドーラ、今度のことで骨を折ってくれた連中を連れてきておくれよ。」
私は二つ返事でそれを引き受け、ハウル村に戻った。そして大工のペンターさんと鍛冶術師のフラミィさん、そして『白の誓い』の人たちを連れて、また歓楽街に戻った。
ただ残念ながらゼルマちゃんは参加できなかった。貴族の令嬢を歓楽街に連れてくるのはダメだよとペトラさんに止められてしまったからだ。
「今夜は商売しないよ」と言っていたイゾルデさんも「いくら客がいないとは言っても、貴族のお嬢さんはさすがにねぇ」と困ったように笑った。だからゼルマちゃんにはまた別の機会に、完成した大浴場を見せてあげようと思う。
新しくできた浴場にたくさんのテーブルが並べられ、そこに丈の短い服を着た歓楽街の女性たちが食べ物やお酒をどんどん運んでくる。
集まった多くの人たちの前でイゾルデさんは、この浴場を作るために頑張ってくれた人たちのことを紹介し、お酒や食べ物を手配してくれたカフマン商会も含めて、皆にお礼を言った。
「雪が溶けたおかげで少しずつまともな酒を仕入れられるようになったのさ。思う存分、飲んでおくれ。」
イゾルデさんの声を合図にあちこちで乾杯の声が上がる。私もエマや『白の誓い』の人たちと一緒に乾杯した。
すると間もなく、私たちのところにたくさんの男の人たちが押し寄せてきた。
「あんたら、よくやってくれたな! 後は俺たちに任せてくれよ!」
男の人たちは次々と私たちにお礼を言い始めた。私は彼らと一緒にいたペトラさんに尋ねた。
「ペトラさん、この人たちは?」
「職人街の連中さ。大工仕事の手伝いに来てくれたんだよ。」
これから始まる建築作業や内装のために、ペトラさんがカフマン商会と取引のある職人さんたちを連れてきてくれたのだそうだ。
ペンターさんやフラミィさんと顔見知りの人も多いらしく、彼らは互いに肩を叩きあいながら楽しそうに言葉を交わしていた。
人が増えるにつれ、どこからともなくやってきた楽師さんたちの演奏に合わせてダンスが始まる。私とエマはあちこちに《絶えざる光》の光球を浮かべて、辺りを明るく照らしていった。
給仕をしてくれている女性が、お礼の言葉と共に差し出してくれたエールの酒杯を丁寧に断る。代わりに受け取った果実水を飲んでいたら、それを見かけたイゾルデさんが私に尋ねてきた。
「どうしたんだいドーラ? あんた、酒が好きだって言ってなかったっけ?」
「いえ、あの、私、いま禁酒中なので・・・。」
私がそう言うと、イゾルデさんはすぐに何かを悟ってくれたようで「じゃあ、何か代わりのものを準備させるよ」と言って笑った。
会場を一回りし終えたので、私とエマは通りの端に置かれたテーブルに座って休憩することにした。
エマが「飲み物を持ってきてあげる」と言っていなくなってしまったので、賑やかに乾杯する人たちをぼんやり眺めていたら、突然テーブルに料理を乗せた大皿がどんと置かれた。
「おい、田舎者のまじない師! これ食え!」
「あ、オイラーくん。ありがとう。」
私はオイラーくんにお礼を言った。以前会った時の彼は汚れ切っていたけれど、今日はとても身ぎれいな姿をしていた。
柔らかい栗色の髪には艶があり、汚れが落ちて本来の白い色に戻った肌にも健康的な赤みが差している。下ろしたばかりと思われる服をきちんと着こなした彼は、この間の姿とはまるで別人のように見えた。
クルベ先生が実験も兼ねて仮の浴室と洗濯場を作ったと言っていたし、カフマン商会が焼け出された歓楽街の人たちにどんどん物資を提供してるそうだから、彼も身だしなみに気を使うゆとりが出てきたのかもしれないね。
前見た時は汚れすぎていて分からなかったけれど、こうやって見ると彼はエマとさほど変わらない年のような気がする。
目つきは鋭いけれど顔立ちが女の子みたいなので、怖い言葉を使ってもあんまり迫力がない。声も男の子にしては高いしね。
お礼を言った私に対して、彼は馬鹿にしたように鼻を鳴らし、怒った調子で私に答えた。
「ふん! イゾルデ母さんが親切にしてやれって言うからな。仕方なくだよ! でも、おかしなことしたら俺がぶっ殺すからな!」
今にも噛みつきそうな勢いで私に凄んだ彼に、たまたま私の側でそれを見ていたグスタフくんが、笑いながら言った。
「おうおうなんだ、このガキ? 随分と威勢がいいなあ。」
からかうようなその口調に、オイラーくんは顔を真っ赤にして噛みついた。
「なんだとてめえ! 誰に向かって口きいてんだこの田舎も・・・!!」
「あら。あなた、この街の子?」
オイラーくんが今にもグスタフくんに掴みかかろうとした時、両手に飲み物の入った器を手にしたエマが戻ってきて彼に話しかけた。その途端、オイラーくんは凍り付いたように動かなくなってしまった。
「お、おまっ・・!」
「?? 何? 私はハウル村のエマよ。ドーラお姉ちゃんの妹。あなたの名前は?」
エマは私に飲み物を一つ手渡した後、オイラーくんに自己紹介した。でもオイラーくんは顔を真っ赤にしてプルプル震えてばかりで、全然動かない。
心配したエマが「大丈夫?」と彼の肩に手を掛けると、彼は体をビクッと震わせた。
「ふ、ふふ・・・!!」
「ふ? なに?」
「ふざけんな!!」
目をつぶったままエマに怒鳴りつけた後、彼はさっと後ずさり、エマを指さしながら叫んだ。
「て、てめえ、俺を舐めてんのか!?」
「い、いったい急にどうしたの!?」
急に怒鳴られたエマは訳が分からないという顔で、彼に近寄って行った。「ひくっ!!」っと変な声をだして顔をひきつらせたオイラーくんを、イゾルデさんが叱りつけた。
「オイラー!! あんた、何やってんだい!!」
オイラーくんは顔を真っ赤にしたまま「ぐぬぬ」と唸った。
「お、覚えてろてめえ!! これで勝ったと思うなよ!!」
彼は大声でエマにそう言うと、あっという間に人ごみに紛れて姿を消してしまった。
「何だったんだろうね、お姉ちゃん?」
エマが私に尋ねるけれど、私も全然訳が分からない。首を捻る私たちの横で、グスタフくんはオイラーくんの逃げていった方を見ながら「気の毒な奴だぜ」と呟いて、ため息を吐いていた。
しばらくしてエマが眠そうにし始めたので、私はフラミィさんやクルベ先生たちと一緒に、エマを連れてハウル村に戻った。宴はその後、明け方近くまで続いたそうだ。
次の日の朝、私は酔いつぶれた職人さんたちに混ざって、通りで眠っているマヴァールさんたちを迎えに行った。
互いに抱き合って幸せそうな顔で寝ているマヴァールさん、短刀使いさん、斧使いさんを引きはがし両脇に抱える(グスタフくん、ロウレアナさん、森林祭司さんは昨夜のうちに村に帰っていたからここにはいない)。
《集団転移》で東ハウル村へ移動し、それぞれに二日酔い用の解毒薬を渡して、家まで送り届けた。
数日後、ペンターさんの声掛けで集まってくれた王都の大工さんたちと、職人街の職人さんたちによって、歓楽街の再建工事が始まった。私とエマも、村の仕事の合間を見つけては、工事のお手伝いをさせてもらった。
ペンターさんによると、すべての工事が終わるのは夏の半ば過ぎになるだろうとのことだった。ちょうどエマの学校が再開される頃だ。
王都で一番華やかだといわれるこの街が、また元のような姿を取り戻すのが今からすごく楽しみです。
近づく夏を感じさせる明るい日差しの下で大工仕事の手伝いをしながら、私はエマと笑い合ったのでした。
読んでくださった方、ありがとうございました。