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missドラゴンの備忘録  作者: 青背表紙
18/93

18 魔獣探し? 前編

14000字くらいになってしまっていたので、半分に分けました。プロット段階では7000字くらいのはずだったのに、なぜこうなってしまったのか。

 火の魔石集めが終わった翌日、エマたちは素材や魔石の売却と物資補充をするために休養を取ることになった。私はエマと一緒にゼルマちゃんを迎えに行き、そのまま冒険者ギルドへと向かった。


 ギルドではマヴァールさんたちが私たちを待っていた。


「ドーラ、昨日《収納》してもらった火喰鳥たちを出してきてもらえねえか?」


「分かりました。裏に運んでおきますね。」


 私はゼルマちゃんと別れ、エマと共にギルドの裏手にある魔獣の解体所に向かった。すっかり顔なじみになった担当の職員さんがにこやかに声をかけてくれる。






「やあドーラさん。エマは久しぶりだな。今日は魔獣の引き取りかい? それとも何か持ってきてくれたのかな?」


「エマたちが昨日倒した魔獣を持ってきたんです。あ、引き取りもさせてもらいますね。」


 私は解体所に積み上がっていた解体済みの魔獣たちを《収納》にしまい込んだ。


 魔獣の肉は大量の魔素を含んでいるために腐りにくいけど、そのせいで人間が食べることはできない。素材を採集した後の肉は、人間にとっては厄介な存在だ。


 でも私にとっては美味しいおやつなので、ここへ来るたびに引き取らせてもらっている。もちろん「食べていますよ」とは言えないので、表向きは魔法で処分しているということになっているんだけどね。






 魔獣たちの肉がなくなり広くなった石畳の上に、私は昨日《収納》した鳥の魔獣を取り出した。一羽取り出しただけで、解体所がほとんど埋まってしまうくらい大きい。


 昨日、岩場で見たときはあまり大きいとは感じなかったのに、側に建物のあるこの場所だと一羽だけでもかなり大きく感じられた。職員さんはとても驚いた様子で私に尋ねてきた。


「うわ!! 随分でかいな!! なんだい、この魔獣?」


「火喰鳥っていう魔獣です。」


「へぇー! これがあの火喰鳥かい? 噂には聞いてたけど見るのは初めてだよ。」


 職員さんはすごく珍しそうに横たわった火喰鳥を観察し始めた。私が「もう一羽分、ありますけど?」と言うと、彼は「ええっ、そうなのか!?」と言って驚き、困った顔をした。


「うーん、俺だけではとても扱いきれそうにないな。王都から応援を呼ぶからそれまで待ってもらえないか?」


 申し訳なさそうにそう言う彼に私は了解の意を伝え、また火喰鳥を《収納》に戻した。そして買取所にいるマヴァールさんたちのところへ戻って、彼の言葉を皆に伝えた。






「まあ、仕方ないな。王都から職員が出張ってくる分、手数料は嵩むだろうがそれでも十分に儲けは出るだろうさ。」


 解体所の職員さんの話を聞いたマヴァールさんはそう言って仲間の方を振り返った。心ここにあらずと言った表情のゼルマちゃんを除き、他の皆は同意するように頷いた。皆、すごく嬉しそうな顔をしている。


「ねえねえ、他の素材の買取はどうだったの?」


 エマが何かを察した様子でグスタフくんに尋ねると、彼はにんまりと笑って手元にあった換金手形をエマに広げて見せた。


「いしし、これを見ろよ!!」


「こんなにいっぱい!? これ本当に一人分の報酬なの!?」


 エマが驚くのも無理はない。彼が見せてくれた手形の額面には1300Dと書いてあった。エマはマヴァールさんから自分の分の手形を受け取ると、それを嬉しそうに私に見せてくれた。


 今回ギルドで買い取ってもらったのは火甲虫の羽と火の魔石22匹分。合計額は15400Dだったそうだ。ちなみに羽が400D、魔石が300Dだったらしい。


 王都全体が魔石不足のため、魔石の買取価格はなんと通常の3倍になっていたみたい。この魔石はギルドを通じてカフマン商会が買い取り、歓楽街の温水路づくりに使われることになる。






 報酬は通常の場合、討伐に参加したメンバーで均等に分配する。だけど、エマたち三人は見習い扱いなので分配額が少なくなっていた。具体的には大人5人が2300D、エマたちが1300Dだ。


 少なくなっているとはいえ、今回の討伐だけで一般家庭の生活費2年分以上の金額を、エマは手に入れることができたわけだ。グスタフくんが大喜びしているのも納得だよね。


 ゼルマちゃんは手形を手に持ったまま「夢のようです・・・」と茫然と呟いた。そんな彼女とエマの肩に両腕を回し、二人を小脇に抱えたままグスタフくんは笑った。


「死ぬほど頑張った甲斐があるよな。やっぱ冒険者は最高だぜ!」


「死ぬほどっつうか、お前ほとんど死にかけてたけどな。」


 グスタフくんをからかうように言った短刀使いさんの言葉に、彼は「生き残ったからいいんですって!!」と言い返した。






 それを聞いた大人の人たちは感心したように頷いた。


「違えねえ。お前の言う通りだよ。生き残った奴が勝ちだ。死んじまったら何にもならねえからな。」


「たまにはいいこと言うじゃねえか。本当に成長したなお前。」


「『たまには』は余計でしょ! それに俺、マジで成長期っすから! 次も大活躍して、必ず生き残ってやりますよ!」


 グスタフくんはそう言うと、エマとゼルマちゃんを抱えたまま踊りだした。仲間の大人たちはそんな彼をちょっと心配そうな、それでいて少し微笑ましい表情で眺めている。


「もう! 重い!! 離してってば!!」


 彼の腕の中から抜け出したエマはゼルマちゃんを連れて私のところに帰ってきた。






「まったくグスタフったら、すぐ調子に乗るんだから!」


 背の高い彼の腕の中で振り回されたせいで、二人の髪がくしゃくしゃになっている。ぷんぷん怒るエマの乱れた髪を私が、ゼルマちゃんの髪をエマが直していたら、ゼルマちゃんが不意に声を上げた。


「あの!!・・・私がこんなに受け取っていいんでしょうか?」


 皆の目がゼルマちゃんに集まる。互いに顔を見合わせる男の人たちの中からロウレアナさんが彼女の前に進み出た。


「それはあなたの働きに対する正当な対価です。堂々と胸を張って受け取りなさい。」


 ロウレアナさんの言葉に皆は満面の笑みで同意した。グスタフくんはゼルマちゃんに右手の親指を立ててニカっと笑っている。


 ゼルマちゃんは目に涙を浮かべ「はい・・・!」と声を震わせた。エマがゼルマちゃんの手を取る。彼女は泣き笑いの表情で嬉しそうにこくりと頷いた。私はそれを見て、ああ、人間って本当に素敵だなって思ったのでした。











 次の冒険のための打ち合わせをするため、皆はギルドの隣にある酒場『熊と踊り子亭』に移動した。注文を聞きに来た酒場の女主人ジーナさんに皆は思い思いのものを注文していく。


 私とエマは甘いエールと揚げ菓子、ロウレアナさんは最近サローマ領で作られるようになった蜂蜜酒ミードをそれぞれ注文した。


 初めて酒場に入ったというゼルマちゃんは、「あんたは何にするんだい?」と尋ねるジーナさんにビクビクしながら「エ、エマ様と同じものを!!」と大きな声で答えていた。


 「今日の支払いは全部俺が持つ!」と言ってくれたマヴァールさんに最初の乾杯を捧げた後、黒エールの酒杯ジョッキを一息で飲み干した戦斧使いの男の人が、大きなげっぷをしながらしみじみと言った。






「今回は本当にツイてたぜ。こんなに稼げることなんて滅多にあるもんじゃねえもんな。」


 彼の言葉に仲間たちも同意する。


「うむ。大概は苦労ばかりで儲からないことの方が多いからな。前の夏にやった仕事は本当に酷かった。」


「あのキノコ狩りの奴な!! あれはほんとに参ったぜ。俺はもう、二度とキノコはごめんだ!!」


 お酒の回った皆は、これまでの冒険のことを面白おかしく話し始めた。それがあまりにも面白かったので、私もエマもゼルマちゃんも笑い過ぎてお腹が痛くなってしまったくらいだ。


 皆はいつの間にか打ち合わせのことはすっかり忘れてしまったようで、テーブルには空になった酒杯がどんどん溜まっていった。






 何回目かの乾杯の後、私がジーナさんから受け取ったおかわりの酒杯ゴブレットをちびちびと舐めていたら、頬を少し赤くしたエマが私の腕にそっと寄り添ってきた。


「ありがとう、ドーラお姉ちゃん。これも皆、お姉ちゃんのおかげだね。」


 そう言って、私を見上げるエマの可愛らしいことと言ったら!


 目を潤ませ、頬を薄赤く染めたエマを見て、私は天にも昇るような気持ちになってしまった。


「そんなエマったら、もう。うひひひ。」


 嬉しすぎてエマを抱きしめたまま体をくねくねさせていたら、それを見たグスタフくんが「それ気持ち悪いぜ、ドーラ姉ちゃん・・・」と真顔で私に呟いた。


 ロウレアナさんはエマから甘いエールの入った酒杯を取り上げると「あなたはこれを飲みなさい」と言って、冷えた果実水の入ったカップをエマの手に押しつけた。私はくったりとしたエマの代わりに彼女へお礼を言った。






 皆はこのまま昼食を取った後、ギルドで次の討伐の準備をするという。準備に加われない私は水の魔石を持つ魔獣探しをするために席を立つことにした。


 もうちょっとだけお酒を飲みたい気持ちに後ろ髪を引かれながら立ちあがった私に、エマが手を振ってくれた。


「じゃあ、行ってらっしゃい。お姉ちゃん。」


「うん。行ってくるねエマ。実はもう見当を付けてあるんだ。ちゃんと調べてくるから、待っててね。」


 私はジーナさんにお礼を言って酒場を出、物陰に入ると《転移》の魔法を使って、昨日見つけておいた場所に移動した。






 足元が石畳の硬い感触から、ふかふかした苔の感触へと変わる。目の前をサラサラと流れる透き通った小川に沿って、私は薄暗い森の中を歩いて行った。


 木漏れ日が差す森の中を進む。この辺りにあるのはハウル村の周りにあるオークの木と違って、白い樹皮をした木が多い。すべすべした樹皮や五角形をした大きな葉っぱからは、少し甘いような匂いがしていた。


 私の姿に驚いたウサギや鹿などの動物たちが慌てて逃げていく気配がする。でも魔獣の姿は全く見えなかった。


 白い木々が作る森の中には小川や泉、小さな池などがあちらこちらにある。この辺りは人の気配もないし、いかにも魔獣がいそうな感じなんだけど・・・。







「魔獣はいないなー。」


 予想はしていたけれど案の定、魔獣は見つからなかった。でもフンや足跡などの痕跡はあるので、多分どこかへ逃げてしまったのだろう。


 私は魔獣にすごく怖がられている。見つけたら食べちゃうのだから、当たり前なんだけどね。


 総じて私の捕食対象になるような強力な魔獣や体の大きい魔獣の方が素早く逃げてしまう。これには多分、魔力感知の力が関係しているのではないかと、私は思っている。


 一般的に力の強い魔獣の方が魔力感知に優れているからだ。彼らは自分より強い相手にはとても敏感なのです。






 魔獣がいることは確実なんだけど、どんな魔獣がいるのかわからないとさすがに危なくてエマを来させるわけにはいかない。


 火甲虫がいた火竜山の周りは以前からよく行っていた場所だし、危なくないことも分かっていた。この辺りは初めてくる場所だから、もう少し調べておきたかったんだけど・・・。


 私は小川に沿って道のない森の中をどんどん歩いて行った。木々の間からは雪をかぶったとても高い山々が見える。この辺りはハウル村よりもずっと気温が低いようだ。


 その時、木立の間を歩く私の鼻に風に乗って香ばしい香りが漂ってきた。これは火を使っている匂いだ。近くに人間がいるのかもしれない。私は匂いの方へと足を向けた。






 しばらく歩いていくとやがて森が開け、低い木の柵で囲われた荒れた牧草地が見えてきた。その柵をぴょんと飛び越え、まばらにいるヤギや羊、それに馬たちの間を抜けていくと、先の尖った丸太で出来た柵に行き当たった。


 柵の高さは私の背よりも少し高いくらい。遠くには青い空に昇っていく白い煙が幾筋か見える。この向こうは人が住んでいるようだ。


 ここで私は少し迷ってしまった。


 この辺りの魔獣の情報を得るために誰かから話を聞きたい。でも見ず知らずの場所に私一人で行って本当に大丈夫だろうか?


 ハウル村以外の人の住処に一人きりで行くのはこれが初めてなのだ。王都ではあちこちに出歩いたけれど、あれはある程度事情が分かったうえでのこと。全く未知の場所に行くのはかなり勇気がいる。


 とんでもない失敗をしてしまったらどうしよう。そんな気持ちが沸き上がり、私の足は止まってしまった。






 でも考えてみれば、私も人間の世界で暮らすようになってもう7年だ。多くの人と関わってきたし、いろいろなことを学んできた。初めての場所だからって、そんなに怖がることはないのでは?


 貧民街や歓楽街、倉庫街などには一人で出かけて行ったし、そこでも結構上手に立ち回れていた気がする。だからきっと大丈夫だよね?


 エマや歓楽街のイゾルデさんたちのためにも頑張らないと。自分を奮い立たせてぐっと拳を握り、ふしゅーと息を吐く。






 私はまじない師の長衣ローブのフードをしっかりとかぶり、半仮面で顔を隠した。右手に素朴な木の杖を持って、村への入り口を探すために柵に沿ってゆっくりと歩いていく。


 そんなに高い柵じゃないし、飛び越えて中に入っちゃおうかなとも思ったのだけど、勝手に入ったら怒られるかもしれないと考え、結局歩くことにした。するといくらも歩かないうちに、向こうの方から茶色くて大きな犬が私の方に走ってきた。


 犬は激しく吠えながら、長い毛をなびかせ私に迫ってきた。けれど、私のすぐそばまで来ると急にビクッと立ち止まった。そしてそのまま地面に仰向けにごろーんと転がって、私にお腹を見せた。


 しゃがみこんで犬のお腹を撫でていたら、その犬を追いかけるように男の子がこっちに向かって駆けてきた。


「おーいブラウ、どうしたんだよ? 急に走り出すなんて・・・ひえっ!?」


 エマよりもちょっと小さいくらいその子は、私の姿を見るなり変な声を出して固まってしまった。ハウル村の子供たちが着ているよりも少し厚みのある服を着た彼の顔が、みるみる間に青くなっていく。


 私は彼がとても心配になり、立ち上がって彼に一歩近づいた。


「あの、大丈夫ですか? 顔色が・・・。」


「ゴ、幽霊魔導士ゴーストメイジが出たぁぁあぁ!!!」


 彼は魂が飛び出すんじゃないかと思うほどの甲高い悲鳴を上げると、そのまま一目散に逃げて行ってしまった。私はその場に残された犬と顔を見合わせた。耳の垂れたその犬は、困ったような顔をして「くうん」と鳴いた。






「えっと、この柵の内側に行きたいんだけど、案内してくれる?」


「わん!!」


 犬(多分、ブラウって名前だと思う)は元気よく返事をすると、さっさと歩きだした。私はその後について牧草地を歩いて行った。

読んでくださった方、ありがとうございました。

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