1 告白 前編
少し時間にゆとりが出来ましたので書いてみました。月に2,3回程度の更新になると思いますが、のんびり書いていこうと思っています。よろしくお願いいたします。
耳元でシャリンと涼しげな音がして、私は幸せな気持ちでゆっくりと目を開いた。横になっていた天蓋付きの寝台から起き上がろうと体を動かすと、枕元に置いてあった銀貨がまた気持ちのいい音を立てた。
この美しい部屋には見覚えがある。昔、ガブリエラさんがスーデンハーフに滞在していた時に使っていたサローマ伯爵家の客間だ。私が生まれて初めて見た姿見も、以前と変わらない場所にちゃんと置いてあった。
私、なんでこんなところで眠ってるんだろう。エマやマリーさんはどこにいるのかな?
そう考えた途端、眠りに落ちる直前、最後に見た光景が頭の中に閃いた。焼け爛れた広場に降り注ぐ美しい銀色の雨。そしてその雨を掻き分けながら、私に向かって空から降りてくる魔法のホウキに乗ったエマ。
そうだ。私、自分の体に戻った後すごく眠くなって、そのまま寝ちゃったんだっけ。
窓が閉まっているからはっきりとは分からないけれど、今は夜明け前のようだ。こうしてはいられない。皆が起きる前に、早く帰らないと。私は《転移》を使って、フランツさんの家に戻ろうとした。
でも魔法は発動しなかった。嫌な記憶が蘇って、心臓がどきどきと大きな音を立てた。
以前《転移》が発動しなかったのは、村が襲撃を受けてフランツさんのお家が焼けてしまった時だった。ひょっとしてまたハウル村が・・・。
私は居てもたってもいられなくなり、着ていた薄くて着心地のいい服を手早く脱いで裸になった。そして《人化の法》で背中に翼を生やすと、空を飛んでハウル村に向かうため閉まっている窓に手をかけた。
「あ、ドーラちゃん! 目が覚めたんだね!!」
不意に後ろから声をかけられ、慌てて翼をしまう。振り向いた私の胸に飛び上がって抱き着いてきたのは、青と黄色のドレスを着た小さな女の子だった。
「あなた・・・ルピナス!?」
「そうだよ! すごいでしょ? なんか知らないけど、あたし人間になっちゃったんだ!」
ルピナスは私の顔に頬を押しつけながら、嬉しそうに叫んだ。全身から漂ってくる南の花の匂いですぐに彼女だと分かったものの、妖精とはあまりにも違うその体にすごく戸惑ってしまった。
ルピナスのことも気になるけれど、まずはエマのことが心配だ。私はルピナスに尋ねた。
「ねえルピナス、私エマのところに行きたいの。」
「エマ? エマなら毎日ドーラちゃんのところに来てたよ。ほら、あのお花を持ってきてくれたの。」
ルピナスはそう言って私の寝台の脇にあった小さな丸テーブルを指さした。美しい彩色のされた花瓶に鮮やかな色の紅い花が一輪差してある。冬に咲く珍しい花、カルメリアだ。
ハウル村の西側の森に咲くエマとの思い出の花を見て、波立っていた私の心がすっと落ち着いた。
「教えてくれてありがとう、ルピナス。あ、それから、私が魂だけで彷徨ってるとき、助けてくれたよね。本当にありがとう。」
私がそう言うとルピナスはきょとんとした顔をした。
「えっと、そうだっけ? 実はよく思えてないんだー。光の柱に閉じこめられたドーラちゃんを何とかしようって思ったところまでは覚えてるんだけど・・・。」
「そうなの? あなた、テレサさんと二人で迷っている私に道を教えてくれたのよ。」
「へー、そうだったんだー。」
他人事のようにケラケラとルピナスは笑った。その時、扉の外から誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
「ルピナス、どうしたの? ドーラさんに何かあった・・・ひえっ!!?」
「ニコルくん、おはようございます。」
サローマ伯爵の息子ニコルくんが扉から顔を覗かせた。けれど、叫び声を上げてすぐに扉の陰に隠れてしまった。
「?? どうしたんですか?」
「す、すみませんっ!!」
急に謝られて心配になった私は、扉に駆け寄りニコルくんに話しかけた。彼は後ろを向いて両目を手でふさいでいた。耳が真っ赤になっている。大変、熱があるのかも!?
私は彼を無理矢理振り向かせると体を抱き寄せ、彼のおでこに自分のおでこをくっつけた。子供たちが熱を出した時、マリーさんがいつもこうやっているからだ。
ニコルくんの顔はますます真っ赤になり、すごい勢いで熱が上がってきている。心臓の音もすごく早い。
「ド、ドーラさん、目が覚めたんですね! よかったです!」
彼は両手で目を隠したまま、私に言った。
「はい、ついさっき。それよりニコルくん、すごい熱です。大丈夫ですか? 私、誰かを呼んできますね!」
私は彼を放すと、人の気配のする方に向かって走り出した。すると廊下を走る私の後ろからニコルくんが大慌てで叫んだ。
「ド、ドーラさん、待ってください! あの、服、服を・・・!!」
「服?・・・あっ!?」
さっき空を飛ぼうとして服を脱いだのをすっかり忘れていた。私は彼に「ごめんなさい!」と謝って部屋に戻り、さっき脱いだばかりの服を身に着けた。でも服を着終わって振り向いたとき、彼はすでに居なくなっていた。
まずい。盛大にやらかしてしまった。これ、マリーさんに知られたらきっと物凄く怒られてしまうに違いない。
「ニコルなら部屋に帰るって走って行っちゃったよ。」
私たちのやりとりを見ていたルピナスが不思議そうな顔で私にそう教えてくれた。
「ニコル、鼻から血を流してた。心配だからあたし、ちょっと見てくるね!」
ルピナスはそう言うと長い廊下をパタパタと駆けて行ってしまった。そしてそれと入れ替わるように、年配の侍女さんが私のところにやってきた。
彼女は私に丁寧に挨拶をした後、身支度を手伝うと言ってくれた。私が「ニコルくんに謝りたいんです」と言うと、彼女はにっこり笑って「坊ちゃまなら大丈夫でございます」と言った。
私は半ば強引にやたらとボタンや紐の多い窮屈な服を彼女に着せられた。椅子に座らされて髪の毛を整えられている間も、私はさっきの自分の失敗を思い出し、ニコルくんになんて言って謝ったらいいかを一生懸命に考えた。
その後、私はサローマ伯爵一家と朝ご飯を食べることになった。私と一緒に大きなテーブルに座っているのは伯爵とその奥さん、そしてニコルくんとルピナスだ。
私はすぐにニコルくんに謝ろうとしたけれど、彼は慌てた様子でそれを止めた。
「着替えていらっしゃるのを確認せず部屋に入った私の落ち度です。本当に申し訳ありませんでした。謝罪を受け入れてくださいますか?」
逆にニコルくんに謝られてしまった。私はもちろんですと言い、驚かせてしまってごめんなさいと謝った。朝食をとりながら、事の顛末を聞いた伯爵さんはニコルくんの迂闊さを叱った。でもその声にはどこか面白がるような調子があるように感じられた。
ルピナスはここでもケラケラと笑って、伯爵の奥さんのアレクシアさんからやんわりと窘められていた。
朝食後、伯爵の知らせを受けたというエマがやってきた。エマは私に縋りつくと、声を上げてわんわん泣いた。私も同じように泣いてしまった。私の涙は虹色の粒になって、エマの金色がかった薄茶色の髪の上にパラパラと落ちた。
二人で抱き合ったまま目が腫れるまで泣いた後、エマが私が光の柱に閉じこめられている間の出来事と、ハウル村の人たちの今の様子を教えてくれた。
「魔法で操られてた冒険者さんたちはすごく体が弱ってたし、戦いでケガをした人もたくさんいたんだ。でもハーレさんと乙女団の人たち、それにテレサ様が回復魔法でみんなを助けてくれたの。リアさんなんか一度息が止まってたんだけど、テレサ様の魔法で元気になったんだよ。」
村は敵から襲撃とドルーア川の氾濫で人が住めない状態になってしまったそうだ。けれど、誰も死んだ人がいなかったと聞いて私は胸を撫でおろした。
ハウル村の人たちは今、このスーデンハーフの街に避難してきているらしい。伯爵さんの紹介してくれた家々に分散していて、街の様々な仕事を手伝うことで暮らしているそうだ。
「私たちは以前村にいた文官さんの口利きで小さな家を借りることができたから、そこで暮らしてるの。みんな、ドーラお姉ちゃんの目が覚めたって聞いてすごく喜んでたよ。」
その家には私の部屋もちゃんとあるそうだ。エマははっきり語ってくれなかったけれど、私の帰る場所を守るために村の皆やカールさん、それに衛士さんや冒険者さんたちが命を懸けて戦ってくれたことは分かる。私の胸はあたたかい気持ちでいっぱいになった。
話を終えた後、私はエマと一緒に伯爵さんにお礼を言いに行った。伯爵さんはニコルくんと一緒に仕事中だったけれど、その手を止めて私たちを応接用の椅子に座らせた。
「ドーラ様がしてくださったことを考えれば、このくらい何でもありません。ガブリエラ殿とあなた様は我が領の恩人。その上、我が子ニコルの命まで救ってくださったのですから。」
「あ、あの、私は別に何も・・・。」
塩づくりや海に面した森の復活に私が関わったことは内緒ということになっているので、私は慌てて手を振ってそれを否定した。でもサローマ伯爵はにっこりと笑って言った。
「いえいえ、ドーラ様のおっしゃりたいことは分かります。でもこれは私の気持ちの問題ですから。今後も何かあれば、すぐに知らせてください。サローマ家の総力を挙げて、出来るだけのことをさせていただきます。もちろん、あなたもですよエマさん。」
伯爵さんはそう言って私たちを送り出してくれた。私はエマと一緒にフランツ一家が借りているという小さな家へと向かった。
家にはフランツ一家だけでなく、ハウル村の主だった人達がみんな集まっていた。私が目覚めたという知らせを聞いて集まってくれたらしい。
皆は私の姿を見てとても喜んでくれた。私もみんなの姿を見ることができて本当に嬉しかった。皆は私の無事を確かめた後、それぞれの仕事や家に戻って行った。私はフランツさんに気になったことを聞いてみた。
「カールさんとリアさんがいませんでしたね。」
「ああ、カール様なら街道の復旧と管理の仕事があるからって、ハウル村に残っていらっしゃるぜ。リアもカール様の世話をするために一緒にいるはずだ。」
フランツさんの話によると、西ハウル村の街道北門と南門だけは何とか崩れずに済んだそうだ。カールさんは今、北門の衛士駐屯所で暮らしながら、街道復旧の指揮を執っているらしい。
「私、カールさんに会ってきます。」
私がそう言うとフランツさんは少し心配そうな顔をして考え込んだ。でもすぐに顔を上げて私に言った。
「そうだな。カール様もすごく心配していらっしゃったから、顔を見せてやるといい。それからなドーラ。」
フランツさんは言葉を切ると私の肩に左手を置き、右手で私の頭をポンポンと叩いた。
「ハウル村の様子はまあなんだ、今は酷いもんさ。でも俺たちが必ず元通りに、いや前よりもずっと立派な村にしてみせる。だから・・・あんまり気にすんなよ。」
フランツさんの言葉にマリーさんも頷いて言った。
「あんたは変に気を遣いすぎるところがあるからね、ドーラ。あんたはあたしたちを守ってくれた。あたしたちだけじゃなく、村のみんながあんたに感謝してる。それを忘れないでおくれ。」
マリーさんは私をぎゅっと抱きしめてくれた。マリーさんの温かくて大きな胸に包まれて、私の心を包む言いようのない不安が溶けるように消えていく。私は自分でも知らないうちに涙を流していた。
私は皆に「行ってきます」と言ってエマと一緒に小さな家を出た。エマはこの後、製塩の魔道具に魔力を注ぐ仕事に行くそうだ。
「じゃあ行ってくるね、エマ。」
「うん、行ってらっしゃいお姉ちゃん。カール様によろしくね。」
私はエマと手を振って別れた後、マリーさんと家妖精のシルキーさんに手伝ってもらって新しい服に着替えた。
私がこれまで着ていたデリアさんの形見の服は光の柱で燃え尽きてしまったので、これはマリーさんがスーデンハーフで手に入れた中古の服を仕立て直してくれたものだ。スカートの前側には大きなポケットもある。
以前着ていたのとほとんど同じデザインの服を着たことで、私はやっと皆のところに帰ってこられたようなホッとした気持ちになった。
マリーさんに服のお礼を言った後、私は《転移》の魔法でカールさんがいる北門の衛士駐屯所に移動した。
北門の前にあった広場に転移した私は、そこで目にしたものに言葉を失った。南側にまっすぐ続く街道の先に、村の南門が見える。その間にあったたくさんの建物は、すべて無くなってしまっていた。
信じられない。見間違えであってほしい。私はそんな気持ちで思わず《飛行》の魔法を使って上空に飛び上がった。街道の脇にあって一番目立つ建物だったガブリエラさんの屋敷は完全に倒壊し、瓦礫の上を溶け始めた雪が覆っていた。
多くの人が行き交っていた宿屋や船着き場、カフマンさんのお店に至っては残骸すら残っておらず、石造りの基礎の一部が残るだけになってしまっている。
街道の西側に目を向けると森に至るまでにあった建物はなく、僅かに水路跡が残る寒々しい雪の原野が広がるばかりだった。
川の向こう、東ハウル村はさらに酷いことになっていた。石造りの建物のほとんどが倒壊し、瓦礫の山になってしまっている。すべての建物が川と逆の方向に崩れているので、多分溢れた川の水に押し流されたのだろう。
ガブリエラさんが皆のことを考えて設計し、みんなで協力して一から作り上げてきたかつてのハウル村の面影は、どこにも残っていなかった。
ギリッという音と共に口の中に血の味が広がる。私は自分でも知らないうちに歯を食いしばり激しく嗚咽していた。
「ドーラさん!? 目が覚めたんですね!!」
声のした方に目を向けると、そこには笑顔で私を見上げるカールさんが立っていた。彼は、作業中だったらしい数人の衛士さんと一緒に、上空に浮かぶ私を見つめていた。
彼の姿を目にした瞬間、私は安心すると同時に激しい恐怖を覚えた。大切にしていたものがあっけなく失われた現実を目の当たりにしたことで、彼が今にも消えてしまいそうに見えたからだ。
私は全速力で彼のところに降りると、人目も構わず彼の胸に飛び込んだ。彼の心臓の音を確かめようとしたが、自分の奥歯が震える音が邪魔でよく聞き取れなかった。
カールさんは震える私を両手でぎゅっと抱きしめ、「おかえりなさいドーラさん」と優しく囁いた。強張っていた体から、すっと力が抜ける。彼の体温が私の凍える体と心を少しずつほぐしてくれた。
私は彼の心音を聞きながら、いつの間にか眠りに落ちていった。
微睡んでいた私は石造りの部屋の中で目を覚ました。
「ああ、お目覚めになりましたか。今、カール様を呼んでまいりますね。」
寝台の傍らに座っていたリアさんが立ち上がり部屋を出ていく。程なくカールさんだけが私のところにやってきた。
「大丈夫ですかドーラさん。随分震えていたので心配しました。」
起き上がろうとした私を彼は両手でそっと押しとどめた。
「ドーラさんが嫌でなければ、このまま話をさせてください。よろしいですか?」
私は寝台に横になったまま、彼の顔を見上げた。生真面目な表情の中にある優しい瞳の色を見て、暖かな気持ちが満ちてくる。私は横になったまま、こくんと頷いた。
「まずはお礼を言わせてください。ドーラさんのおかげで多くの人の命が救われました。あなたがいなければ王都領すべてが焦土となっていただろうとテレサ様が教えてくれました。本当にありがとうございます。」
穏やかなカールさんの声が心に沁みてくる。胸の奥からこみ上げてくる思いに突き動かされるように、私は涙を流した。大きな涙の粒が虹色の石となって寝台の上に散らばる。
「カールさん、私、本当に皆を守れたのでしょうか? 村は無くなってしまいました。多くの人が傷ついたとも聞いています。それにこんなことが起こったのも、元はと言えば私のせいなんじゃ・・・。」
「それは違いますよ、ドーラさん。」
私の言葉を遮るように、カールさんは強い調子できっぱりと言い切った。
「今回の事件、悪意を持つ者によって多くの人が傷つきました。大切なものを失くしてしまった者も多いです。でもそれにあなたが責任を感じる必要なんてどこにもありません。」
「でも・・・。」
カールさんは優しく首を振って、私の言葉を否定した。
「ドーラさんの気持ちは分かります。以前、エマたちと観劇に行ったとき、ニーナが話していたことを覚えていますか。人は突然起きた悲しみの理由を探してしまうという話です。」
私がおずおずと頷くと、カールさんは少し微笑んで私の頬にそっと手を触れた。
「ドーラさん、あなたは優しい。そして人には到底持ちえないほどの大きな力を持っている。だからこの悲劇を止められなかったことを私たち以上に悔やみ、責任を感じてしまうのかもしれません。」
カールさんは少し言葉を切った後「人ならば多かれ少なかれ、誰しもがそう感じるものですよ」と言い、驚く私の目を見て少し笑った。
「あなたが人間ではないということを私は知っています。でも今のあなたは誰よりも人間らしい気持ちを持っている。人を愛し、思いやり、慈しむ心を。そんなあなたが皆を守るために命を懸けたことを、私は知っています。」
「カールさん・・・!!」
「私だけではありません。エマも、フランツもマリーも、ミカエラ様も、それに国王陛下だって分かっています。あなたに感謝する気持ちこそあれ、責める者など一人もいません。それなのにあなたが自分を責めるのはおかしなことですよ。」
彼は私の頬に触れていた手をゆっくりと動かし、涙の粒を払った。
「皆があなたが目覚めるのを心待ちにしていたんです。春になって雪が解けたらまた皆ここに戻ってきます。すべてを失くしたハウル村の人々にとって、あなたは希望なんですよドーラさん。皆と一緒にまた村を作ってくれるのでしょう?」
「はい・・・はい、もちろんです! ありがとうございますカールさん。」
私がそう答えると彼は嬉しそうに笑った。
「やっと笑ってくれましたね。じゃあこの話はおしまいです。『枯れた麦を数えるな』ですからね。」
カールさんが片目をつぶりながら悪戯っぽく言う。私も笑顔でそれに答えた。
「『残った麦を畑に蒔け』ですよね。」
私とカールさんは目を見合わせ笑い合った。私がハウル村に来たばかりの頃、村のみんながしょぼくれている時に、アルベルトさんがよく言っていた言葉だ。それを思い出して、胸の奥がじんわりと温かくなっていくのを感じた。
私は寝台から起き上がり、カールさんに今のハウル村の様子を聞いた。彼は冬の間ずっと衛士さんたちと一緒に街道の復旧に当たっていたそうだ。何とか瓦礫の撤去だけは終わったものの、今月の初めまで深い雪に覆われていたため、建物の方には全く手が回っていないらしい。
私はその後、日が暮れるまでカールさんや衛士さんたちと一緒に瓦礫の片づけを手伝った。途中で壊れてしまった土人形たちを見つけたので修復しておいた。
元気に動き回るゴーラたちの様子を見て、衛士さんたちは目に涙を浮かべていた。この衛士さんたちは襲撃前からずっとハウル村にいた人たちだ。彼らは口々に「これでやっと長かった今年の冬が終わるな」と言っていた。
今は冬の最後の月の終わり。雪はほとんど降らなくなり、積もった雪も少しずつ解け始めている。もうすぐ春の祝祭がやってくるのだ。今年はハウル村で祝祭をすることはまだ難しい。でも次こそはきっと。私は喜ぶ皆の顔を見ながらそう確信した。
そしてそれと同時に大きな決意をしていた。
それは私が竜であることを、カールさんやエマたちに告白すること。これまでずっと隠してきた私の秘密を皆に聞いてもらうのだ。
私はこれ以上、皆に私の力を隠しておくことはできないと感じていた。私が自分を偽ることで大切な人たちが傷つく恐れがあると、今回のことで思い知ったからだ。
告白することへの恐怖はもちろんある。そうすることで私を取り巻く環境は大きく変わってしまうかもしれない。でもどんなことになったとしても、私はそれを受け入れよう。そう決心したのだ。
そうは思っても不安な気持ちは沸き上がってくる。私は自分の住処のあるドルーア山を仰ぎ見た。大きくて高いその山稜は、厚い冬の雲に覆われどんよりと沈んでいる。
しかしその雲の隙間からは、美しい夕映えが光輝く柱となって降り注いでいた。光の柱は山頂の雪を赤く照らし、きらきらと輝かせていた。私は一つ大きく息を吸った。
そして一緒にエマたちのところに来てくれるように頼むため、カールさんに声を掛けたのだった。
読んでくださった方、ありがとうございました。ご感想などいただけましたら、本当に嬉しいです。