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「孤島立国」異世界で自分達の国を作ろう   作者: 八神夕輝
第一章 アサルド王国
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【七】討伐依頼と王国からの使者

 二週間程経ったある日、アサルド王国の西洋騎士達がマルカナ島の村長を伴ってエルピス島にやってきた。

 アサルド王国でも緊急課題として巨大海洋生物への対応策が無いか紛糾しているところに、シーサーペント討伐の知らせが届いた。

 すぐにも騎士団がマルカナ島に派遣され、討伐に至る経過、状況について聞き込みを行うことになった。

 手を焼いていたシーサーペントの討伐に沸き立ち、異世界人である勇作達に褒賞を与えるべきだとの声が大きくなり、王家としてこれを決定した。

 しかし、相手は異世界人。見たことも無い道具や武器を持ち独自の文化を営んでいる。

 褒賞として何が相応しいのか結論が出ず、何を望むのか聞き取りにきたと言うのだ。


 勇作達は褒賞が出された場合に備えて、事前に優先順位を付けた願い事ランキングを作成してあった。

 まず、最優先で欲しいのは拠点を置いているエルビス島の所有権である。

本来であれば王国の領海外であるので認めるも何もないのだが、領海外とはいえマルカナ島の近くに位置するため政治的に許可を得ておきたかったのだ。

 所有権が得られれば一番良いが、最低でも占有権は必須であった。

騎士団はこの願いを王国に持ち帰り、討議することになった。

 結果は二週間程して書状が届いた。「占有権を認める」とのことだった。

 最低ラインは確保できたものの正直渋い結果だった。


 王都とのやりとりはさておき、討伐騒動はマルカナ島との関係を深めることにつながった。

 ホバーを使って週に一度、エルピス島特産品の販売を行った。

 また、自給自足出来ていない物資はマルカナ島経由で輸入することにした。

 アサルド王国に属する他の四島はエルピス島からの距離が遠いこともあり交流自体がほとんど無かった。

 討伐から一ケ月程経った日のこと、マルカナ島から村長の使者が勇作達の拠点を訪れた。

 現在、前回とは異なる巨大海洋生物に襲われていると言う。

 聞けば今回も十メートル以上の大きさがある巨大海洋生物で、違うのは足が十本近くあるということだ

 その情報を聞いたメンバーはある生物を思い浮かべていた。

 かつての世界のヨーロッパでは悪魔の使いなどと言われて()み嫌われていたアレである。


メンバーで作戦会議を行った結果、今回も討伐を行うことになった。

 王国に対して勇作達の力を更に見せ付ける必要があるとういうのが理由の一つだ。

 もう一つはやはり困っている隣人を放ってはいられないという正直な気持ちだ。

 早朝、出港準備を整えると、前回と同様に初音と花江には留守番を頼んでメンバー達はホバーに乗り込み出航した。

 正午過ぎに巨大海洋生物が出現するとされる海域に到着した。

 索敵を開始するとすぐに見つかった。既に目標である奴はその海域にいた。

 そこは入り江から一キロほどの比較的浅瀬になっている岩礁地帯だ。

 海水の透明度が半端無く良いため、奴の全貌が良く見える。

 足を延ばせば軽く二十メートルを超える巨体であった。

 かつての世界での架空生物でクラーケンと呼ばれるタコとイカを足して割ったような巨大海洋生物だ。

 ソナー検知、続いて視認できたことで、第一種戦闘態勢にあったメンバーはすぐにも行動を開始した。

 前回同様、遠距離砲にて心愛と花梨が先制攻撃を見舞った。

 体中から体液を流しながら海面に出たところを、希美と志摩が入れ替わって中距離攻撃である杖鞭を使った電撃を喰らわせた。

 クラーケンは大きな胴体を黒焦げにされ大きなダメージを受けながらも、しぶとく十本の足を使って攻撃してきた。

「くっ・・結構厳しいよー!」「流石にこれはヤバいかもだねぇ・・」

 代わって前に出た陽鞠と早苗が薙刀と二刀小太刀を使い、近距離攻撃を繰り返すがさすがの二人も十本の足による波状攻撃を受けて守勢に回らざるを得なかった。

「あらー、素早くて当たらないわ」「ちょっと、ヤバい・・無理ゲーやろ、これ」

 中距離の志摩と希美も杖鞭を振るうが動きが早くて有効打を与えられない。

 また、近距離攻撃にて切断した足がウニョウニョと動きながらメンバーの脚に絡み付き出した。

「やーん、変なとこ触らないでー!」「この足、変態だねぇ・・」「あらあら、ちょっと気持ち良いかも・・あんっ!」

「希美は変な癖出すなや・・それにしても、これはちょっとマズいで・・」

 戦闘が劣勢と見た勇作は愛理に「甲板に出て援護するぞ」と叫んだ。

 「全員、伏せろ!!・・愛理!」「はい!・・行きます!」

 皆が甲板に伏せると同時に愛理のロケット砲が黒焦げの胴体に次々と着弾した。

 着弾した収束弾は次々と爆発し、目標を肉片に変えていった。

 また、勇作は両手に持った収束機関銃をセミオートにすると一分間に三千発発射できる銃口を左右から襲い来る奴の足に向かって打ち尽くした。

 全ての戦闘が終わった時、クラーケンの胴体と足は残さず肉片となっていた。

 ただ、すでにメンバーの脚などに絡みついている奴の足は未だ動き続けている。

 互いに協力して細かく切断することで、ようやく絡み付く奴の足から逃れられたようだ。

 黒焦げになった残りの胴体は沖に曳航して廃棄し、切断した足を戦利品として島に持ち帰えることになった。

 またしても島民からの大歓迎を受けることになった勇作達は朝まで宴に付き合わされることになった。

 その夜の宴では勇作達が小麦粉の代用として米粉を使用したタコ焼きモドキを島民達に振舞った。

 これはメンバーの中で唯一の関西出身者である志摩の指揮の元に厳粛に進められた。

 やはり関西出身者にとってタコ焼きという文化は米粉を使ったもどきであっても手を抜くことは許されない。

 「私に任せとき!・・」志摩が何時に無く張り切っている。

 最初のみ悪魔の使い?を食することに躊躇していた島民達だったが、勇作達があまりにも美味しそうに食べるのを見て恐る恐る口にした。

 「・・!」

 今まで口にしたことの無い柔らかさ、出汁の旨さ、クラーケンの身の弾力と触感が相まって極上の仕上がりになっている。

 また、島民達を(とりこ)にする程の極め付けとして、志摩特製ソースと鰹節もどきが止めを刺す。

 志摩特製ソースは人参、玉ねぎ、リンゴ、にんにく、生姜を良く炒めたものに酢、醤油、砂糖、塩、出汁を入れて煮込んだものに各種ハーブで香付けして数日間寝かせた力作だ。

 材料はかつての世界のものとは異なり、全て「もどき」であるため、微妙に風味が違うものの香り豊かなソースが完成した。

 鰹節は近海で採れる青魚を徹底的に乾燥させた後、数種類の節を独自の組み合わせで最適な鰹節もどきが完成した。

 特製ソースに入れた出汁はこの鰹節もどきから抽出した志摩渾身(こんしん)の出汁だ。

 焼き上がったタコ焼きに特製ソースを惜しげも無く塗り、鰹節を多目に散らせば志摩特製タコ焼きの完成である。

 「あら、これ本当に美味しいわ」「・・美味・・」「タコ焼き美味しーよ!」

 「・・本当に美味だねぇ」「これはお店以上の出来ですわね・・」

 「本当に美味しいですね・・知っている味とは微妙に違いますけど、こっちの方が美味しいかも・・」

 「そうかそうか・・旨いやろ?関西人の(こだわ)りを舐めんな!」

 美味しい美味しいと瞬く間に胃袋へと消えて行くタコ焼きをひたすら焼き続ける志摩は疲れた顔をしながらも満足そうであった。


 クラーケンを討伐して暫く経ったある日、王国騎士団が国王からの親書と依頼書を携えてエルピス島を訪れた。

 親書にはアサルド王国との親交を深めるため、是非王都に来て欲しいと言う内容が書かれていた。

 残念なことにクラーケン討伐の件には一切触れられていない。

 依頼書の方にはマルカナ島以外の他の四島がある海域で出現している巨大海洋生物を討伐して欲しいという依頼内容が書かれていた。

 何ともアサルド王国にとって都合の良い内容しか書かれていない。

 巨大海洋生物とは海上、海中が主戦場となる戦闘であり、何と言っても相手のサイズが大きいことが討伐の難易度を跳ね上げている。

 勇作達であっても非常に危険と隣り合わせであることには変わりは無く、簡単には引き受けられない依頼である。

 また、今回の依頼で危険を冒す勇作達にとって相応に得るものが無いことも乗り気になれない理由の一つであった。

 その場では決断を保留して、拠点に持ち帰って検討することになった。


 結論として、勇作達は王都へ(おもむ)くことについては来るべき時期がきたらと断った。

 未だ遭難者の捜索、生きていくための食糧や材料の調達、各種機器開発等を行っている段階だからだ。

 距離的に近いマルカナ島はまだしも他の四島とは距離もあり、交流も無いことからその申し入れについても断った。

 危険を冒してまで討伐に遠征するメリットが無いこともその理由だ。

 ただし、今回の返答によって王国が勇作達に何らかの干渉を強めて来る懸念もあった。

 勇作達は拠点を置くエルピス島に対して王国が力による干渉を行った場合、力には力で断固撥ね付ける意思を固めた。


 もうすぐ遭難から一年が経とうとしていた。

 愛理と花梨は今では定常業務となった、エルピス島周辺の哨戒(しょうかい)任務に就いていた。

 二人は討伐騒動後、間もなく完成した飛行艇カーチスで上空から監視を行っていた。

 そんな中、複数の軍船が島に向かっていると連絡が入った。

 ホバーやカーチスが運用段階に入った頃、遠距離通話の必要性に迫られて指向性を持たせた光通信電話を開発した。

 これは収束エネルギーの光成分のみ取り出して、光の波長に音声、映像(これはまだ試験段階だが)を乗せる方法だった。

 ただ、伝達が光であるため直線的な二点間の通話に限られ、間に障害物があると通話不可能になってしまうという現段階では条件が限定されてしまう品ではあるのだが。


 入り江に入った軍船の中で一際大きな軍艦から二隻のボートが降ろされ島に上陸してきた。

 先頭の一隻には王国騎士団、もう一隻には白い法衣のようなものを着た男が護衛と思われる騎士と共に乗っていた。

 知らせを聞いた勇作達は勇作、愛理、志摩、早苗、陽鞠の五人で海岸に向かった。

 心愛、花梨、希美と初音達五人は有事の際に備えて拠点に残ってもらった。

 砂浜に降りた護衛騎士から白い法衣着た五十歳を超えているであろう男が紹介された。

 アサルド王国の宰相とのことだった。

 宰相を紹介した護衛騎士はずいぶんと上から目線で横柄な口の利き方をしてくる。

 「我々王国は貴殿達と友好的関係を築きたいと思っておる、この島の占有権も許可した・・マルカナ島での海洋生物討伐は実に見事であった、しかし、王国から依頼した他の島に出没している海洋生物討伐は拒否される・・何故であろうか?」

 宰相からの問いに皆を代表して勇作が答えた。

 「我々はこの島に辿り着いてやっと一年になったところです、日々の生活に必要な物資の調達が最優先課題です・・正直なところ他の島に救援に向かえるほどの余裕はありませんので・・」

 「では何故マルカナ島の場合は助けた?」

 「この島で生活する上で自給自足できないものもあります、マルカナ島から支援を頂いていますから、そのお礼です」

 「他の島も貴殿達に物資の支援を行えば、海洋生物の討伐に協力してもらえると考えて良いのかな?」

 「そうですね・・他の島の場合、距離的に考えて難しいと思います」

 「王国から正式に物資の支援を約束する代わりに討伐を依頼したとしてもか?」

 「はい」

 宰相の護衛騎士の一人が声を荒げた。

 「貴様、この方をどなたと心得る、王国の宰相様であるぞ、下手に出ていればつけ上がりおって・・」

 この時、宰相の護衛騎士三人は全員腰の剣に手を掛けた。

 その直後、早苗の両手剣、陽鞠の薙刀、志摩の杖鞭が三人の男の首筋に這わされていた。

 愛理も収束銃を宰相に向けていつでも引き金を引ける体制だ。

 あまりの早業に護衛騎士は言うに及ばず、王国騎士団さえ誰も動けなかった。

 「なっ!・・き、貴様ら・・」

 「お前達、剣から手を放すが良い」と宰相は護衛達に命じた。

 「し、しかし・・」「早くせよ!」「はっ」護衛達は剣から手を離した。

 「すまなかった、貴殿達に危害を加える意思は無い・・少しばかり忠誠心に駆られただけだ、剣を引いては貰えぬか?」

 勇作は皆に頷き、早苗達は剣を引いた。

 その後、宰相は一つの提案を残して島を去って行った。

 拠点に戻った勇作達は宰相からの提案について議論した。

 結果、宰相からの提案を条件付きで受け入れることになった。


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