【五】武器開発
討伐に当たって、まずやらなければならないことがある。
何と言っても巨大生物を相手にするのだ。武器の開発が急務であった。
武器開発については拠点設営と並行して試行錯誤を繰り返しながら、花梨と心愛が進めていたものだ。
メンバーのほとんど(勇作以外)が女性であるため、身体防具を最優先で開発しなければならない。
このことから防護スーツは基本的に女性用として研究、開発が進められた。
開発された防護スーツは身体にピッタリフィットし、アメリカ特殊部隊の防弾スーツより強固、軽量なものが出来上がった。
身体の動きを阻害せず、女性らしい動きができるよう工夫された。
耐衝撃、耐刃、耐火、耐水、耐圧、耐薬品性なども兼ね備えた非常に優れたものだ。
このスーツには様々な耐性鉱石(メンバー内ではそう呼んでいる)を粉末にして、カマキリのような昆虫が巣作りに使用していた蜘蛛の糸に近い繊維にふんだんに練り込んで作った特殊な糸で縫製されている。
この繊維の組成を調べたところ、アラミド繊維に酷似していることが分かった。
陽鞠と志摩が島内を徹底して調査した結果、これらを発見し、希美が繊維として開発に漕ぎ付けた共同開発の特殊繊維である。
早苗は剣道、居合道共に高有段者であり、陽鞠は薙刀の師範代である。
早苗と陽鞠のために近接戦闘用として開発された特殊棍棒はチタン合金にも劣らない強度を持ちセラミックより硬い特殊合金(と呼んでいる)を材料として使用している。
海岸に近い岩肌に銀色の光沢を持つ堆積物が志摩によって発見され、心愛の分析によりケイ素を含む岩石だと分かった。
組成に一部分からないものもあったが、耐性鉱石の粉末と練り合わせて粉末冶金の技術を利用した特殊合金が心愛の努力によって完成した。
硬度が高く、折れ難さの靭性にも優れているため、そのまま棍棒としても十分な武器として使用出来ることになった。
しかし、早苗専用棍棒の本領は別にあり、棍棒はそれぞれ火炎と氷結の特性を持った二本の小太刀に分離できるのだ。
蓄電鉱石と発電樹葉を利用して発熱と冷却操作を実現させたものだ。
超振動を発生させることにも成功し、超高温と超低温を付加させた各々の斬撃が使用可能となった。
開発された先端技術を駆使することによって、「斬る」という攻撃に特化した二刀流剣士用の武器となった。
陽鞠専用の棍棒は三つに分離することが可能で、戦闘スタイルを考慮して片方が刀、もう片方は石突きという薙刀の従来型と二つの刀を背中合わせに接続すると両刃薙刀に変形出来る二通りの特殊薙刀を採用した。
薙刀の刀身は反りの少ない静御前にちなんだ「静型」と反りの大きい巴御前にちなんだ「巴型」がある。
用途の多様性を考慮して「静型」を採用し、超振動を発生させることで斬る、突き払うことを極めた薙刀となった。
希美と志摩用には防護スーツこそ同じだが、攻撃用として特殊杖鞭を用意した。
これは中距離戦闘及び拘束術を目的としたもので、普段は長めの戦杖の形をしているが、材質は特殊棍棒と同じで先端には新規に開発された金属が埋め込まれている。
当然、戦杖として棍棒のように使用することも可能だが、杖先端には導電性の極めて高い鉱石に特殊合金を混ぜ合わせて作製された導電鉱石(メンバー内ではそう呼んでいる)と言う金属が使用されている。
この金属は元々特殊合金であるため、硬度も非常に高く打突にも比類なき強さを発揮する。
だが、最大の特徴は先端の金属部分から最大一万ボルトもの高電圧を発することのできる高性能スタンガンになっていることだ。
杖の内部には電源として小型化した蓄電鉱石と発電樹葉が内蔵されている。
更には先端の金属部分を射出出来る構造にすることで鞭のような使い方ができるようにした。
鞭の握り部分にはポテンショメータ(割合を指示をできる部品)を取り付け、操者の思う方向に鞭を向け、巻き取ることも可能である。
この特殊な鉱石は心愛が趣味で様々な鉱石のブレンドを繰り返し実験していたら出来てしまった偶然の賜物だ。
もっともただ闇雲にブレンドしたからといって出来るような生易しいものでは無いので、心愛の経験と勘所が冴えた結果だ。流石、心愛と感心するところである。
志摩は合気道と古柔術の達人でもあるので、二本に分割できる短杖型を採用した。
希美は特に武術の心得は無いので一本の長杖型を採用することになった。
現在、希美は志摩から高性能スタンガンとしての鞭杖の使い方を習っている。
「はぁ、はぁ・・あらー、また的を外しちゃったわ」
「何事も慣れやね、数を熟さな上手くはならんよ」
「そっか・・ふぅ、頑張るわ」
希美の特訓はまだまだ続きそうだ。
後衛となる心愛と花梨には遠距離狙撃と速射性能を追求したエネルギー収束砲を開発してもらった。
これは弓矢、弩弓、投槍、投擲などの遠距離攻撃に対抗するため、悩みに悩んだ末に二人が独自理論を戦わせて、組み上げ完成させたものだ。
心愛はクレー射撃学生代表になる程の腕前だ。
先の全国大会では全国二位の実績を誇っている。
それに対して花梨は弓道有段者であり勝手は違えど的に当てる技術は同じなようで、この射撃スタイルにもすぐ慣れることができた。
蓄電鉱石、発電樹葉、ある樹木の樹液を使ったリフレクタ(反射板)などを複数組み合わせることで収束エネルギーを使用した武器の基本構造は出来上がった。
エネルギー源は無限にある海水から精製することで得られるミネラル塩を主原料とする。
かつての世界で言えば何ともエネルギー的にスーパーエコであり、常識を逸脱したエネルギー構造を持つ収束エネルギー砲がこうして出来上がった。
収束砲としての威力を試すため、海岸線から一キロメートル程沖合に浮かぶ小島を狙って撃ってみることになった。
海岸線には武器や動力としての性能テストということでメンバー全員が揃っていた。
「心愛・・最大威力での試射準備はいいか?」「・・問題無い・・」「良し・・発射!」
勇作の号令とともに腹に響く発射音が鳴り響いた。
直後、着弾と共に跡形も無く小島が消滅し弾道は遙か水平線に消えて行った。
「「「「・・」」」」
「凄い威力・・でも、まだいける」
「中々のものですわ、でもまだ威力は上げられますわよ?」
「ちょっ・・ちょっと待て二人共・・」
あまりに桁違いの威力に勇作は慌てて二人の説得を懸命に試みた。
こういう時に技術屋は頑固で面倒だ。技術の向上に余念が無く際限も無い。
安全装置の取り付けと数段階の威力調整を選択出来る機構の取り付けを何とか認めさせたのだった。
統括部の二人には主に護身・アシスト用としての武器を開発してもらった。
勇作には銃剣型収束機関銃、愛理には拳銃型収束銃とランチャー型収束ロケット砲を用意してもらった。
収束砲の武器として最も優れたところは基本的に弾切れが無いことだ。
エネルギー収束を利用したこれらの砲は充填式であり、弾を打ち尽くしても一定時間充填すれば再度使用することができる。
まず、収束機関銃は収束エネルギーを一分間に三千発発射できる制圧タイプだ。
かつての世界の最速軽機関銃並みの射撃速度と弾数に加えて、収束砲ならではの直進性と破壊力を併せ持った凶悪な銃だ。
拳銃型の収束銃は脇のホルスターに入れて持ち運べる携帯性の優れたもので、形は拳銃だがマガジンのようなものは無く弾数も百発ほど連射できるマシンピストルだ。
内蔵できるエネルギー収束量に限界があるため直進距離と破壊力は抑えられているものの、エネルギー砲である利点として重力の影響をほとんど受けずに直進する。
破壊力は距離と共に減衰するが、三百メートル程度は十分に有効範囲となる。
最後にロケット砲だが収束エネルギーを疑似鉄鋼製容器に内封した砲弾を発射するものだ。
この砲弾は着弾と共に破裂して収束エネルギーが炸裂する凶悪なものだ。
威力自体は全く問題無いのだが、収束砲としての携帯性や取り回しに難があるため常時は持ち歩かずに制圧戦での使用に限定することにした。
海上の移動手段として戦艦、潜水艦なども複数候補として挙がった。
その中から、緊急性、必要性を迫られる水陸両用移動手段としてホバークラフトの開発が決まった。
また、空水陸万能移送手段として飛行艇も優先して開発が進められることになった。
ホバーの主設計については心愛が担当している。
エネルギー源としては収束砲で用いたエネルギー収束技術を転用することが可能である。
ホバークラフトのボート部分と飛行艇の翼やフロート素材として、島内にある樹木の皮を利用することになった。
これは島内に赤い大きな花をいくつも咲かせる桜の木に似た木のものである。
この樹皮が、かつての世界にあったFRP素材に近い耐水性を持ち強度にも優れ、重さを感じさせない軽量化素材として優秀であることが分かった。
陽鞠と希美が島内の樹木調査の中で発見したものだ。
物は試しと繊維質を取り出そうとしたところ、樹脂としての性能を持つことが分かり精製方法の検討を重ねてこの素材に辿り着いた。
そしてこのホバーだが実は既に実用段階へ入っている。
エネルギー収束技術を応用して噴出機構を作ることで超強力な推進力を生み出すことに成功した。
この推進部に回転機構を組み合わせることで三百六十度どの方向に対しても膨大な空気を送り出すことが可能になった。理論的には空中に浮かんでいることも可能だ。
ホバーに関しては動力系の開発が済み、既に内部構造の仕上げ段階に入っている。
もう一つの開発案件である飛行艇の開発にはまだ時間が掛かりそうだ。開発名はカーチスとなった。
勇作は某○ブリで○ルコの愛機として有名なサボイアとしたかったが、ネーミングのセンスが悪いと女性陣から却下されライバルのアメリカ製飛行艇の名前となった。
カーチスの主設計は花梨が担当していた。
現在、居住性と陸地からの離着陸、海面からの離着水などのバランスをどうするか悩んでいるようだ。
空中での戦闘も視野に入れているため、安全性にも十分な配慮が必要だ。
搭乗人数は二名で収束エンジンを二基、収束砲を二基搭載する方向で設計を進めている。
懸命に開発を進めているものの、残念ながら今回の討伐には間に合わない公算が高い。
花梨には焦らず確実なものを作り上げるよう頼んであった。
迫る巨大海洋生物の討伐戦に向けて、各自武器への練度向上を図っていった。