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「孤島立国」異世界で自分達の国を作ろう   作者: 八神夕輝
第一章 アサルド王国
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【四】エルピス島の自立

 異世界?への遭難(そうなん)から三ヶ月が経過した。

 この間、メンバーは当初の方針を達成するべく文字通り懸命に走り回った。

 その甲斐(かい)あって、かつての世界程ではないものの快適に暮らせる環境を整えることができた。

食料関係は陽鞠(ひまり)早苗(さなえ)花江(はなえ)が中心となって食材の捜索、精製、育成などに精を出してくれた。

 その結果、遭難当初とは比べ物にならない程に充実した内容となっていた。

服飾関係は希美(のぞみ)初音(はつね)の頑張りによって、原料の採取、繊維の抽出、染色・縫製技術の確立と急ピッチで行程を整えてくれた。

 現在、贅沢を言わなければそこそこのお洒落(しゃれ)ができる程度までになった。

居住関係は心愛(ここあ)花梨(かりん)愛理(あいり)達の徹底した理想追求によってかなりのレベルに達している。

 寝室は元より、バス、トイレ、洗面所(今はパウダールームと言うらしい)、キッチン、食堂など生活を送る上で必要なスペース、機能をふんだんに盛り込んでいた。

 居住関係はまだ未完成の部分が多く残っていて、プランの半分にも満たない。

これからも継続して工事を進めていく予定だ。

当然、男手が必要な度に勇作は躊躇(ちゅうちょ)なく駆り出された。


 そんなある日、海岸線を巡回していた早苗から一報が入った。

 「海岸線に西洋騎士と思われる軍船が近づいて来ている・・殺っちゃって良いかねぇ?・・」

 以前、この島を訪れた西洋騎士達がやって来たのだ。

 危ない事を言う早苗を何とか(なだ)めて、勇作は愛理、早苗、心愛、志摩の四人を連れて海岸に出た。

 程無くして、数人の西洋騎士を乗せた小型木船が海岸に上陸して来た。

 相対して話しかけられるが、やはり何を言っているか分からない。

 ここで心愛と志摩二人の合作である自動翻訳機の出番だ。

 翻訳機を稼動させると騎士達の言っていることが分かるようになった。

 「○×♪#・・◆※▽・・親書を持って来た、受け取って欲しい」

 要は無人島に突然現れた文化、慣習の異なる異世界人?に対して今後共に仲良くやって行きましょうと言う友好ムード盛り上げ・・的な文書であった。

 西洋騎士達の説明をそのまま信じるとすればこの世界には一つの大きな大陸があり、他には七つの島があると言う。

 大陸は三つの国で統治され、七つの島はそれらの国のいずれかに属している。

 三つの国は一つが大陸中央で最も大きな面積を持ち西洋騎士の属するアサルド王国。

 そして新興宗教国家であるルビナンス教国、最後が多種多様な種族の混在するシステア共和国である。

 ルビナンス教国とシステア共和国は間にアサルド王国を挟む形で七つの島のうち五つがアサルド王国、それぞれ一つがルビナンス教国とシステア共和国に属している。

 アサルド王国の属島は王都に最も近い順でサーミル島、コナトラ島、マルカナ島という位置関係にある。

 また、システア共和国近海にトゴイル島、ルビナンス教国近海にラスターヤ島があり、属島は全部で五島になる。

 システア共和国には始まりの島と呼ばれているガイル島、ルビナンス教国には受教の島と呼ばれるエンジェル島が属している。


 勇作達は現在、拠点を置いている無人島をエルピス(ギリシャ語で「希望」の意味)と名付けた。

 エルピス島はアサルド王国に属する島の一つであるマルカナ島の近海に位置し、一応、王国の領海内ギリギリにある小さな無人島であった。

 アサルド王国は今までエルピス島が無人島であったため、特に意識して来なかった。

 しかし、勇作達が住み着くようになって状況に変化が起こった。

 エルピス島は王都から遠く、属島であるマルカナ島に近いこともあって無駄な争いを生まない形で収束させたいという王国側の意思が垣間見えた。

 

 エルピス島でメンバーが安心して暮らして行くためには自治の確立が急務である。

 勇作達はこれまで以上に自治確立のための準備に力を入れて行った。

 拠点設営が順調に進んでいる中、外貨獲得のためにエルピス島ならではの特産品開発を行うことになった。

 養蜂(ようほう)製品がその一つだ。これは蜂蜜(はちみつ)自体の栄養価が高く、周りを海に囲まれた島暮らしでは貴重な栄養源であるからだ。

 蜂蜜は栄養価が高いだけで無く、優れた健康食品であり化粧品にも利用できる。

 そこで島内に生息するある(はち)に目を付けた。

 厳密には蜂では無く、南国にいる大型の(はえ)(あぶ)を更に倍以上も大きくしたような昆虫だ。

 当初はメンバーが島内を散策中に()まれる事故が発生し、その毒による激痛に加え患部が()れ上がるという症状が出たため大変な苦労を余儀(よぎ)なくされた。

 生態系の破壊を心配しながらも、この昆虫を駆除せざるを得なかった。

 その作業中に偶然、この昆虫の巣を見つけたのだ。

 巣には幼虫を育てるため、かつての世界の蜂と同様に大量の蜜が蓄えられていた。

 良く調べてみると姿形は蠅か虻なのだが、滅多に人や動物を襲うことは無く、その身に危険を感じたときにしか攻撃して来ないことが分かった。

 この昆虫は蜂のように花の蜜も集めるが、木の樹液、蔓草(つるくさ)などの水分、何故だか理由は分からないが一部の鉱石にも群がっていた。

 これらが理由なのかは分からないが、採取されたその蜜は光の反射によって虹色に輝き大変幻想的であった。勇作達はこの蜂蜜を虹蜜(にじみつ)と名付けた。

 また、この虹蜜の栄養成分を調べたところ驚きの事実が分かった。

 ビタミン、ミネラル成分のほとんどを含み、エネルギー源となるいくつものアミノ酸までもが含まれていた。

 これは万能食品と言っても過言では無いレベルで、陽鞠達が頑張った研究成果だ。

 養蜂に欠かせない防護服(メッシュ生地で覆われ、昆虫に噛まれないようにした服)も用意した。

 勇作達は秘密保持の観点から原液の在処(ありか)は隠し、蜜酒、加工食品、美容食品を製造、販売することにした。


 次に注目したのが発酵食品だ。日本人のソウルフードでもある。

 米に良く似た稲科と思われる植物の稲穂(いなほ)から米に似た種子が取れた。

 早速、水を吸わせて炊いて見たところ、外米のような味わいで米であると言っても問題無いレベルであった。

 島の面積的に大規模な栽培は難しいが、日本の棚田(たなだ)を参考に稲作?も進めることになった。

 小麦は似たような成分の植物が発見されているが入手量が少なく栽培にも成功していない。

 小麦粉が手に入らないのは痛手だが無いものは仕方が無い。

 米粉を代用として使っていくことも検討している。

 島内の蔓科(つるか)と豆科の植物からは、いくつもの(こうぼ)母菌が発見された。

 更に大豆に似た種を地中に実らせる豆科の植物も発見した。

 これも陽鞠のお手柄だった。

農畜部の活動は陽鞠一人なので、全く手が足りず女教師の花江が付きっ切りで補助に当たっている。

 その甲斐もあって(どう組み合わせたのかは本人にしか分からないが)様々な発酵(はっこう)食品が生み出された。

 焼酎(しょうちゅう)やリキュール、発泡酒、甘酒(あまざけ)醤油(しょうゆ)魚醤(ぎょしょう)、味噌、植物オイルなど色々だ。

 魚醤については浜辺近くで一年中簡単に採れる青魚系(詳しくは分からない)の小魚をベースに発酵させて作り出した。

 また、砂糖については甘味を有した蔓草を使用して(白砂糖には適わないが)代用砂糖の生成にも成功した。

 塩については海から原料はいくらでも手に入るので、塩田を作ってミネラル豊富な天然塩を生産している。


 遭難から半年が経とうとしていたある日、マルカナ島の漁民が勇作達に助けを求めてきた。

 志摩が翻訳機を使って事情を聞いたところ、島の近海に巨大な海洋生物が出現して漁民達が捕食されているのだと言う。

 当然、漁民達はアサルド王国に救援、討伐(とうばつ)を願い出た。

 その願いに応じて王国騎士団はマルカナ島に救援物資を届けると共に、巨大海洋生物の出現するその海域に軍船を出して討伐に当たった。

 しかし、結果は燦々(さんさん)たるものだった。出港した旗艦(きかん)を含む軍艦五隻、駆逐(くちく)艦、巡洋(じゅんよう)艦ら十隻のうち島に戻れたのは巡洋艦二隻のみだった。

 精鋭艦五隻と支援艦十隻の一個艦隊を向かわせての惨敗に、王国としてもこれ以上の解決策などあるはずも無かった。

 討伐失敗の後、再度艦隊が編成されることは無く、ただ時間だけが過ぎていった。

 その間、巨大海洋生物の活動範囲は徐々に島へと近づき、近海で漁をする漁民達にまで襲い掛かるようになっていた。

 マルカナ島での主要産業は漁業であり、漁が出来なければ飢え死にしか無い。

 近海に巨大海洋生物が出たことで、物資を積んだ商船までもが被害を恐れて寄港しなくなった。

 食料や生活に不可欠な物資までが不足し出した。

 島民達は困りに困り果て、異世界人である勇作達に(わら)にも(すが)るつもりで助けを求めて来たのだ。

 漁民達に巨大海洋生物の特徴を聞いたところ、今までに見たことも無い巨大な蛇のようだったと言う。

 勇作達は情報の整理と今後の行動についてメンバー内で協議するため、漁民達には一旦、島に戻ってもらった。

 拠点の作戦会議室にメンバー全員が集まったことを確認した勇作は行動方針決定のための会議を開いた。

 「皆も知っての通り、近海に巨大海洋生物が出現したらしい・・マルカナ島の漁民達から討伐願いが出ている、この件について皆の意見を聞きたいと思う」と勇作は会議の開始を宣言した。

「まず、前提条件から良ろしいかしら?」「はい、どうぞ」花梨の問いに愛理は続けるよう促した。

「今回の討伐には王国は絡んでいないのかしら?・・絡んでいいた場合、色々と後々面倒になるのでは無くて?」

「・・面倒、ダメ・・」「キャー、王子様から呼び出しとか、どうしよー!」心愛に続いて陽鞠がうるさい。

「王子様ねぇ・・」「あらあら、皆が乙女になってるわ」早苗と希美が(あお)る。

「多分、皆が思うようなことにはならへんと思うよ」と志摩が緩んだ空気を引き締めた。

「そうだな、俺もそう思う・・推測の域を出ないが王国にも面子(めんつ)があるし、俺達の戦力も分からない段階でその可能性は低いと思う」

「まあ、そうですわね」「・・正論・・」「そっかー!」「ねぇ?・・」「あら、そう言われればそうですね」「そういうことやな」

「では、王国からの関与は無いという前提で話を進めます」愛理はメンバーに話を進めるよう促した。

 王国の関与がほぼ無いこと、マルカナ島はエルピス島から最も近い島であること、今後の外貨獲得を考えるとマルカナ島に恩を売っておくことはプラスになる等の理由から、会議の結果、巨大海洋生物を討伐することに決まった。

 「それではこの決議に基づいて、明日から準備に入ります・・各自、宜しくお願いします」と愛理が締め(くく)った。

 王国騎士団に対する力の誇示と近隣諸島住民に対する融和という目的のためだ。

 また、討伐を行う上で必要となる戦力の確認という意味合いもあった。


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