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「孤島立国」異世界で自分達の国を作ろう   作者: 八神夕輝
第一章 アサルド王国
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【三】拠点設営

 その日の夜、荷物の中から食べられる食材で簡単に夕食を済ませたメンバーは拠点の中央にある大きなテントに集まった。

 テーブル中央に座る勇作(ゆうさく)の隣に座った愛理(あいり)は心細そうに彼を見つめた。

 若干の緊張を含んだ微笑を返すと周囲に着席した皆を見て話し始めた。

 「疲れているところ集まってもらって申し訳ない、これから今後のことについて話し合いたいと思う・・先生達にも同席してもらっている」

 メンバーが緊張した面持ちで(うなず)くのを見てから切り出した。

 「俺と愛理で現状把握を行った上で今後の作業、スケジュールをまとめてある・・手元の資料を見て忌憚(きたん)の無い意見を出して欲しい」

 各自の前に配られた資料に目を通す面々はそれぞれ異なる反応を示した。

 資料の内容は以下のとおりである。

 一、救援が期待できない以上、当面、この島を拠点に活動する。当面とは二から三年間程度を想定。

 二、島内、沿岸の再捜索を実施して他に生存者が見当たらない場合、現在のメンバーで全ての仕事を担う。

 三、タイムスリップしてしまった可能性を(かんが)みて、あらゆる事態に対処できるよう準備を行う。

 四、農畜(のうちく)部、芸家(げいか)部は安定した食料、飲料水の確保、衣服の調達、その他衣食住に関わる生活面の充実を図る。

期間は残りの食料を考慮して一ヶ月程度を目標とする。

 五、経外(けいがい)部、医薬(いやく)部は薬草の確保、医薬品の調合、他国との折衝(せっしょう)、手に入らない生活物資の購入手段、輸出用特産品などの開発を進める。

   期間は医薬品などは一ヶ月程度、他は六ヶ月程度を目標とする。

 六、技建(ぎけん)部、防衛(ぼうえい)部は拠点の建造、移動手段の開発、防衛手段の開発を行う。

   期間は拠点建造が三ヶ月程度、他が一年程度を目標とする。

 七、統括(とうかつ)部は情報収集、作戦立案を主業務としながら勇作は技建部、防衛部の支援を行い、愛理は農畜部、芸家部の支援を行う。

 八、初音(はつね)先生は経外部、医薬部、花江(はなえ)先生は農畜部、芸家部を主として支援する。

 「ちょっと、ええかな?」と経外部の志摩(しま)が手を上げた。

 「どうぞ」

 「薬草や医薬品の調達は分かるし、他国との折衝も分かるけど輸出用特産品開発って何やの?」

 この質問には愛理が答えた。

 「これはですね、この島での生活が長引いた場合の保険です・・やはり外貨を(かせ)がないと経済は回りませんから」

 「そんなんこっちの方が専門なんやし分かってるわ、そうや()うて今の時点でそこまで必要なのかってことを聞いてるんや」

 「それについては俺から答えよう、まず整理、着眼(ちゃくがん)しなければならないのは俺達には生活の基盤が無いことだよ・・家、学校、会社、店など生活していく上で必要なものが何一つ無いんだ」

 勇作はメンバーを見回して続けた。

 「家に当たる拠点については技建部に頑張ってもらうしか無いけど、愛理も言ったように全ての生活物資を自己調達するのは難しいと言わざるを得ない・・移動手段ができて他の国や町に行けたとしてもお金が無ければ買うこともできないからな」

 「随分(ずいぶん)と後ろ向きな発想やね、元の世界に戻る可能性が無いみたいな言い方やな・・」

 「楽観視(らっかんし)することは危険だと思っている、現実に俺達以外の元の世界の人には会えていないわけだし・・戻れなかった場合に備えての保険だと思って欲しい」

 「私は勇作に賛成だねぇ」と早苗(さなえ)は勇作達の案に賛同を示した。

 「分かった・・元の世界に戻ることを(あきら)めているわけや無いのなら賛成するわ」

 「ありがとう・・他に意見はあるかな?」

 「ちょっと良いかしら、拠点や移動手段は分かるけど防衛手段って具体的にどこまで考えているのかしら?」「・・そう、私も聞きたい」

 花梨(かりん)が質問し、心愛(ここあ)もそれに同意した。

 「それについては私から」と愛理が説明を始めた。

 「まず、この世界の国々がどのような思想、形態(けいたい)を作っているのか今の時点では分かりません、でも志摩の話を整理すると文明的には元の世界より大分遅れているようです・・これは私達の文明や技術を我が物にしようとする権力者が現れる危険性があることになります、そしてこの世界には私たちの知らない危険生物がいることも十分に考えられます」

 「俺達が分析、精査した結果では小型銃のようなものは開発されていないと推測している、また、移動手段についても人工的な動力を使った技術も無いと見ている・・それであればこそ無理矢理にでも我々の技術を得ようとする(やから)が出てくる可能性は高いと思う」

 勇作は説明を引き継ぎ、続けた。

 「俺達が安全にこの島で過ごして行くためには武力の示威(しい)も時には必要だと思う、できればそんなことにはなりたく無いが・・もしもの時の保険と言ったのはその理由からだよ」

 「質問の防衛手段の具体的なレベルですが、最終的には第二次世界大戦程度の戦力は必要だと考えています」

 「そこまで必要・・?」「そうですわ、戦艦(せんかん)戦闘機(せんとうき)、ミサイル、原爆などが必要とは思えませんわ」

 「私も原爆については必要無いと思います・・でも規模、外観はどうあれ戦艦や戦闘機を必要とするときが来る可能性があります」

 「勇作もそう考えているのかしら?」

 「俺も同意見だよ・・使わないで済むならそれに越したことは無い・・でも(かん)でしか無いけど使わなければならない時が来る気がするんだ」

 「勘って、ずいぶん統括部らしくないあいまいな発言ですわね」

 「申し訳無い、情報が少なすぎるのと、ここは異世界だと言う警戒(けいかい)感から来るものだと思う・・ただ、必要になってから開発を始めたんでは遅すぎるからね」

 「ふう・・分かりましたわ、出来る限り目標に近づけるよう進めるわ、心愛もそれで良い?」

 「分かった・・」

 「他にはあるかい?」

 「はいはーい、あのさ、限られた土地の中で自活していけるだけの農地を確保するのは結構難しいと思うんだよね・・収穫したものの保管庫や養殖(ようしょく)プラントなんかは技建部に頼めば良いのかなー?」

 「はい、そのようにして下さい、技建部も手が足りないと思うので応援として勇作くんにも頑張ってもらいますから」

 「うぐっ・・やはりそちらに参加しないとダメかい?」

 「はい、これは決定事項です・・私は農畜部の方に参加しますから」

 「はぁ、分かったよ・・」

 「あらあら、さっきまでの凜々(りり)しい勇作はどこに行ったのかな?・・ふふっ、私からも一つ聞いていいかしら?」と希美(のぞみ)が手を上げた。

 「はい、どうぞ・・」勇作はダメージから抜け切れず、額に指を当てたまま促した。

 「食料の方は陽鞠(ひまり)と進めるとして、衣服の生地などの材料はどうするつもりなのかな?・・木材などの材料からも出来なくはないけど化学繊維に比べると通気性や断熱性、耐久性などがちょっとね、一ヶ月っていう期限も厳しいわよね」

 「多分と言うか、まだ推論の域を出ない未確定情報なんですけど、技建部に探査してもらった感じでは沖合二キロメートル付近の岩礁(がんしょう)帯に海底油田がありそうなんです」と愛理は情報を伝えた。

 「あらあら、油田か・・随分と(さかのぼ)った原料で来ましたわね、精製設備から用意しないとダメですね」

 「はい、化学繊維については一ヶ月間では到底無理ですから、六ヶ月間程度で考えています」

 「なるほど、技建部は大変ね、設備から製作しなきゃならないし・・あら、それで勇作が技建部に出向なのね、ふふふ、楽しみだわ♪」

 「まあ、その件については色々言いたいこともあるけど、そんなところだよ・・現時点では技建部の負担が大きすぎるからね・・他にはあるかい?・・無ければ解散にしよう、今日は色々とあって疲れただろうから早めに休もう」

 勇作の締めの言葉で皆一斉に立ち上がって個々のテントに引き上げた。

 「・・本当に大変なのはこれからだな・・」

 一人残った()()()()()()は誰の耳にも入らなかった。


 翌早朝、陽が昇る五時過ぎに起床した勇作はテントを出ると海岸線に足を向けた。

 水平線から昇り始めた太陽を(まぶ)しそうに見つめながら、これからの課題について考えていた。

 生存者は今のところ十名だ。今後、生存者が見つからなければだが。

 タイムスリップした異世界?に突然転移させられた。

 救助に向かいたいが、その日の生活さえままならない現状では難しいと言わざるを得ない。

 西洋騎士が海岸に来た日、作戦会議から一週間が過ぎた。

 技建部の心愛、防衛部の花梨そして統括部の勇作達三人は昼夜を問わず不眠不休の作業を進めていた。

 この一週間の成果として拠点の設営にほぼ目処がついた。

 「・・中々の出来」「まあまあと言うところですわね」

 心愛と花梨は拠点を見渡して満足そうに(つぶや)いた。

 「流石(さすが)だな、心愛と花梨はすごいよ、俺なんて指示されたことをただ黙々とやってたらこんなに(すご)いものが出来たって感じだし」

 勇作は感慨深(かんがいぶか)げに新しく建設された拠点を見つめた。

 木造三階建て地下二階の建物は各階二百平米もある立派な建物だ。

 志摩と早苗、そして応援の初音が発見した(ひのき)に似た木材が鉄に匹敵する強度を有し、防水、防虫効果もあることが分かった。拠点建設ではこれを主材料に建てられた。

 一階は主に来賓(らいひん)客を迎えるためのフロアが並ぶ。謁見(えっけん)室、待合室、パーティフロアなどである。

 二階は来賓客達が宿泊するためのツインルームを基本に寝室全十室のフロアになっている。

 寝室の他にはトイレ、バス、キッチン、喫茶室、応接室などを配置した。

 陶器(とうき)磁器(じき)については心愛による岩盤調査、地質調査によりケイ素を含む岩盤や水を通さない粘土質の地層が見つかった。

 これを採取して不純物を取り除いた上で、まずは耐火素材を製作して(かま)を作り上げた。

 完成した窯を使用して様々な陶器、磁器が生み出されていた。

 トイレ、バス、キッチンには多くの陶器、磁器が使われている。

 最上階の三階には自分達の居室スペースを置いた。

 来賓客用の寝室ほど広くはないが全十室のプライベートルームを設置した。

 また、トイレ、バスやキッチン、喫茶室なども完備している。

 医薬部の早苗からたっての頼みでトレーニングルームまで備えた。

 だが、今回設営した拠点の目玉は地下室にあった。

 三階の居室スペースから他階を通らずに地下一階に昇降できる簡易エレベータが設置されている。

 これは陽鞠と希美が見つけたエネルギーを貯めることができる不思議な鉱石(蓄電鉱石(ちくでんこうせき)と呼んでいる)と潮風(しおかぜ)によってエネルギーを得る食虫植物の葉(発電樹葉(はつでんじゅよう)と呼んでいる)が発見された。

鉱石は再成形することで、並列に接続するまるでかつての世界の蓄電池(ちくでんち)のような使い方ができることを発見した。

今後も研究は続けるようで、小型化、高出力化を図りたいと心愛が張り切っている。

食虫植物の葉は葉緑素(ようりょくそ)に似た成分が潮風の成分に反応すると電位が発生して虫を(しび)れさせ捕食していることを陽鞠が突き止めた。

ここから陽鞠と心愛に花梨が加わって開発が始まった。

発電物質の抽出(ちゅうしゅつ)濃縮(のうしゅく)を行い、極限まで効率化、小型化した発電システムを開発した。

 島にある蓄電鉱石と発電樹葉から潮風発電蓄電池まで開発してしまった。

 この開発は技建部の心愛が独自の理論で作り上げた一品物だ。

かつての世界ならノーベル賞は確実な発明だ。

 また、その元となる鉱石と植物を探し当てた医薬部の早苗と経外部の志摩もお手柄である。

 地下一階はその半分に作戦本部が置かれた。円形のテーブルに十脚の椅子が取り囲んでいる。

 残り半分には各部別の工房が用意された。

 また、部屋の隅にある隠し扉を開くと階段が現れる。階段を使うと地下二階に下りられる。

 部屋の広さは八十平米程しかない。この部屋の目的は地下シェルターだからだ。

 非常用備品、保存食も保管する予定だ。

 地下一階にはエレベータ以外では侵入できないし、地下二階へは隠し扉を通って階段を使う必要がある。

 今後、地下二階には緊急脱出用の通路も設置する予定だ。出口は今のところ秘密である。

 直接、湾内に出られることが目的になるだろう。


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