【十一】拠点で再出発
新たに据え付けられ真っ白なクロスの掛けられたテーブルの上に運ばれてきた料理が所狭しと並べられていく。
勇作達が使っている部屋は数台のテーブルを置いても狭くなったと感じないほどの広さがあった。
「メイド長さん、ほんまに申し訳あらへんな」「ありがとうございますですわ」
「いえ、お気になさらず、お客様を接待させて頂くのが私共の仕事ですので」
キリッとした眼差しとスッと通った鼻筋のシステアは理知的で仕事の出来るメイドをそのまま体現したような女性だ。
「・・出来る女・・」「すごいねぇ・・」「やるー!」「あらあら、やるわね・・」
「準備が出来ました、すぐにお食事されますか?」
メンバーは勇作を見た後、早苗に視線が集まった。
皆の視線を受けて早苗は立ち上がると、勇作の横になっているベッドサイドに歩み寄った。
「勇作?・・夕食の用意が出来たんだよねぇ、勇作・・」
軽く勇作の身体を揺すって声を掛けた。
「・・う、うーん・・早苗か?どうした?・・皆もそんな顔をして?」
「どうだい?身体の調子は?」「ああ、少しダルい感じはするが、大丈夫だよ」
「それは良かったねぇ・・過労だと思うけど熱を出して倒れたんだよ」
「そうだったのか、全然覚えてないな・・悪かったな、皆、心配掛けたようで」
「勇作が寝ていたので、夕食を部屋に運んでもらったのですわ」
「・・勇作食べる?・・」「食べよー!勇作」「そない急かしてもしゃーないやろ、無理せんでも」
「あらあら、勇作は人気者ね」「それで食事はどうするのかねぇ・・」
「・・腹は減ったな、沢山は無理でも頂こうかな?」
「OK!じゃあ一緒に食べよー!」「勇作起きれる?」
陽鞠と心愛が勇作を両脇から支えて席に付かせた。
「ん?さっきから元気が無いようだが、大丈夫か、愛理?・・俺が言うのも変な話だが」
「えっ?・・私は、だ、大丈夫だよ」
顔を真っ赤にして俯きながら、愛理は小声で応えた。
「あらあら、愛理は倒れた勇作の看病してくれたのよね」と希美は暴露した。
「そうだったのか?大変な思いをさせてしまったな」
「う、うん・・いつも勇作くんにはお世話になってるから、このぐらい普通だもん」
俯いたまま視線を合わせようとしない愛理に勇作はその理由を希美に目で促した。
「・・」
今度は希美が目を反らした。怪訝な表情で勇作は周りを見る。
早苗だけが視線を合わせて「愛理は勇作の看病をして、勇作に触れて恥ずかしかったんだよねぇ」と言い、「少しは女心を察するべきだねぇ・・」と勇作を軽く睨んだ。
気まずい雰囲気が漂う中、花梨が終止符を打った。
「もう、お腹がペコペコなのですわ、下らないこと言ってないで夕食にしましょう」
「早く食べよ-!」「・・勇作、食べる・・」
メンバーがテーブルに付くのを待っていたようにメイド達は即座に飲み物を注ぎ始めた。
メイド達に説明を聞きながら思い思いのハーブティーやフルーツジュースを頼んでいた。そんな中、勇作には濃い緑色した飲み物が用意された。
「これは何だい?」勇作がメイドに尋ねると「早苗様がご用意されたものです・・」と説明された。
早苗をみると口の端をニッと吊り上げながら「栄養ドリンクだから残したらダメだからねぇ・・」絶対に飲むのだと言われた。
嫌な予感を覚えつつも謎のドリンクを口に含んだ勇作は身体を硬直させた。
「うっ!・・何だこの味は、まるでドブの・・うぐっ」
勇作の脳天に早苗のチョップが炸裂した。「身体に良いんだから黙って飲むのだねぇ」
そう言う早苗を涙目で睨みながら、何とか飲み干した。
「良い子、良い子・・頑張ったねぇ、さあご馳走が並んでいるから食べようねぇ」
早苗は勇作の頭を撫でると食事を促した。
「いっただきまーす・・わ!これ美味しいよー!」陽鞠はソースの掛かった蟹の身に似たものを頬張った。
「・・これも美味・・」心愛はガラスの器に盛られた魚卵のムース仕立てを小さな口に運んでは満足げな顔をした。
「私のも美味しいですわよ?」花梨は見た目も綺麗な野菜で巻かれた薄肉をパクついていた。
「これも美味しいねぇ・・」早苗は肉と野菜がふんだんに使われたスープを飲んで感想を伝えた。
「どれも美味しいわ、何か凄く得した気分やな」
「あらあら、皆、食欲満点ね・・愛理もちゃんと食べてる?」
「ち、ちゃんと食べてるもん」
志摩と希美が感想を口にして、愛理に振ると先ほどまでのやりとりの影響か少しい挙動不審であった。
その横では、このような席が初めての初音と花江は小声で呟いていた。
「やだ、これ美味しい・・」「本当、食べたことの無い味だわ、でも美味しい・・」
いつもの女性メンバー七名に女教師二名が加わった食事は華やかで騒がしいものとなった。
翌日、契約書面を宰相から受け取った勇作達は、エルピス島へ帰る前に王都を観光することにした。
王都の街並みは今まで見て来たどの街より賑やかで活気に満ちていた。
屋台から立ち昇る肉や魚を焼いた煙と匂いに誘われて、メンバー達は思い思いの店で買っては噛り付いていた。
勇作も肉串を二本買うと、一本を愛理に渡した。
「えっ、私にですか?・・貰っても良いの?」
「愛理は統括部という立場上、いつも皆のサポートに回ってくれているからな・・こんなときでも周囲を警戒してくれている、世話ばかり掛けているからご褒美だよ」
「勇作くん・・ありがとう」不意に愛理の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「おいおい、肉串くらいで泣かなくても・・」
そこへ自分で買った屋台物を頬張りながらメンバー達がやって来た。
「あー!勇作が愛理を泣かしてるー!いーけないんだ!」
「勇作、女を泣かしたらあかん」「・・勇作、最低・・」「そういう男でしたの?」
「あらら?これは悲しい涙じゃ無いわね」「間違いなく嬉し泣きだねぇ・・」
愛理から事情を聞き、生暖かい目で二人を見るメンバー達は勇作に詰め寄った。
「愛理だけに買ってあげるのはフェアじゃないよねぇ・・」「・・不公平・・」「そうですわ!」
「あたしも欲しいー!」「私にも欲しいもんやね」「あらあら、勇作は人気者ね」
さすがに女教師二人はこの中に入らなかったが、勇作はメンバーに取り囲まれた。
「ぐっ・・何だよ、お前達、そんなに欲しかったのか・・わ、分かったから」
たじたじになりながら勇作は露店から肉串を大量に買うことになった。
メンバーに肉串を配った後、女教師二人にも手渡した。
「えっ?私達にもくれるの?」「悪いわね、気を遣わせて」
「いつも皆のサポートに徹してくれていて感謝してます、ちょっとしたお礼ですよ」
ワイワイと買い食いとショッピングを繰り返した一行は、陽もすっかり昇った午後に王城に戻り、挨拶をして帰路に着いた。
夕方には一悶着あった検問所詰所の衛兵達に最敬礼を受けた。この時間から城壁外へ出るのは危険だと止められたが問題無いとメンバー全員で門をくぐった。
王都を出た一行は近くの森に隠しておいたホバーに乗り込んだ。
その晩はホバーでそのまま泊まり、翌朝、拠点のあるエルピス島に向け出発した。
拠点に戻った勇作達は今回の遠征で得た経験を生かすため、今後の行動計画が話し合われた。
その結果、本格的な外貨獲得と生活水準の向上、移動手段の見直しと緊急時の備えてを平行して進めて行くことになった。
外貨獲得のため、まずはエルピス島特産品の充実を進めた。
勇作達統括部の分析によってアサルド王国所属の島々で何が不足しているかを調査、把握し、それらの準備に取り組んだ。
農畜部の陽鞠、芸家部の希美、医薬部の早苗が中心になり、初音、花江の協力を得ながら生産に励んだ。
その一つが健康補助食品と化粧品の開発と生産だった。
医薬品の生産も基軸の一つとして考えられるが、その材料がエルピス島内だけで大量に入手することが難しかったので今のところ見送ることになった。
その代わりに不足している栄養素を摂取するための栄養補助食品に目を付けたのだ。
ビタミンAが欠乏すると夜盲症、ビタミンB1が欠乏すると脚気、ビタミンB2は結膜炎、ビタミンB6は皮膚炎、貧血、ビタミンCは壊血病、ビタミンDはくる病などが発症する危険が高まる。
ビタミンAやCは主に野菜や果物に多く含まれ、ビタミンB群は豚肉や、レバー、青魚などに多く含まれる。
また、ミネラル成分(鉄分、亜鉛など)の不足も内臓疾患や貧血などにつながる。
これからはレバーや血合いの多い魚、貝類、海藻などに多く含まれる。
今回の王都遠征で気付いたのだが、血色の悪い人、歩行がままならい人、結膜炎やくる病と思しき人達が意外と多かった。
この世界では栄養素と病気の因果関係もあまり知られていないようで、島々の文化や産業の偏りによって極端に不足する栄養素があるのだ。
エルピス島に自生している植物や周辺の海岸で採取できる海藻類、魚介類を詳細に調べ上げ、栄養素の抽出を行っていった。
順調に栄養素の抽出は進んでいた。
しかし、原則として天然食材から抽出しているのだが、顔を歪める程に苦いものやパウダー状で飲み難いものなどが多かった。
この問題を解決するため、次に開発を始めたのはシロップとカプセルを作ることだった。
シロップは虹蜜(島内で採取できる蜂蜜のようなもの)があるため比較的簡単に製品化できた。
虹蜜には必須アミノ酸などの様々な栄養素も含まれているので、抽出した栄養素との相性も良かった。難航したのはカプセルの開発だ。
カプセルは胃や腸など狙った部位で溶け出させる必要がある
今回は補助食品の摂取であるため、それほど緻密な溶解速度を必要としないが素材の選定には非常に苦労した。
医療機器の充実度が低く、どこで溶け出したか調べる手立て無かったのだ。
そこで実際の胃酸に良く似た環境を作り出して溶解速度を調整することになった。
植物由来の材料からゼラチン質を抽出、成形してカプセルの厚みを細かく調整することでクリアした。
また、虹蜜由来の天然エキスにビタミン栄養素を加えた保湿UVクリームや乳液も開発していた。
これは既にメンバーが自分達のために使用していたものを製品化したものだ。
エルピス島は海に囲まれているからか天気の良い日が多く、紫外線の強さも桁違いだ。
年頃の女子達として紫外線対策は死活問題だったらしい。
その他では娯楽品の開発にも着手した。
最も簡単なものとしてトランプ、オセロ、ジェ○ガなどである。
併せて将棋、囲碁、人生ボードゲームなども作っては見たものの、将棋や囲碁はゲームとしてやったことがある程度で楽しさが今ひとつ分からないとメンバー内の評価は低かった。
ボードゲームにおいては現在、毎日の暮らしの方が余程面白いとの意見によりお蔵入りとなった。
技建部の心愛と防衛部の花梨、経外部の志摩達は潜水艦の建造、大型飛行船の開発とボディスーツの改良にそれぞれ取り組んでいた。
拠点を置くエルピス島の周りを海に囲まれているため、ホバーでは移動の難しい海域や海底資源の確保などにどうしても潜水艦が必要であるという結論に至った。
先の王都訪問時に感じたことだがホバーで一定以上の距離移動を行うには時間が掛かり過ぎてしまうこと、カーチスは空水両用で使い勝手は良いものの乗船人数に限りがあるなどの問題が浮上していた。
やはり一度にメンバー全員を運ぶことのできる大型飛行船が必須であることを強く感じたのだ。
また、メンバーが単独行動を取った場合の緊急脱出方法についての追加装備だ。
現在のボディスーツは対防御を主として作られている。
これに単独移動用として飛行ユニット、潜水ユニットなどを付加出来ないか検討することになり、各自、開発に力を注いで行くことになるのだった。




