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「孤島立国」異世界で自分達の国を作ろう   作者: 八神夕輝
第一章 アサルド王国
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【一】序章

 平和な世の中が続くと、いつの間にか、それを甘受(かんじゅ)することに慣れてしまう。

 大きな変化を望まない代わりに、漫然(まんぜん)とした平和に冒され夢と言った未来への希望も持ち難くなる。

 それはモラルの低下、猟奇犯罪の多発、新興宗教の台頭にも(つな)がって行く。

 与えられることが当たり前になり、学力的な知能指数は高いのに思考力、判断力の欠如した子供達が大勢を占めることになってしまう。

 政府はこの状況に危機感を募らせ、独自の教育プログラムを組んだ学校を設立することにした。

 本来、政府主導で設立する学校であれば国立であるはずだが、教育プログラムそのものが現行の文科省指針と異なるところがあるため便宜上、私立学校とした。

 財団を設立し、この学校法人の企画、経営、実践を全面的に任せることになった。

 この財団には現在の教育環境に異議を唱え、今回の学校設立に賛同する各方面の有識者が多数携わることになった。

 学校は神奈川県鎌倉市に私立湘南総合大学として正式に設立された。

 私立湘南総合大学は様々な分野の学生達に独自のカリキュラムを組んで次世代の若者を輩出しようと設立されたものだ。

 この学校では入学時点から学部制に分かれ、基礎科目に加えて独自の専門科目を履修(りしゅう)した。

 学習年度は通常、高校三年間と大学四年間、医療関係は大学六年間だが、一貫教育の七年生に統一した。

 経営戦略学部、政経歴文外語学部、情報技術土木建築学部、芸術家政衛生学部、医薬保体学部、農林水畜産学部、航空宇宙兵器学部の七学部制となっていた。

 通常の大学での学部分けに(こだわ)らず、関係の深い学部は一つにまとめ、単科大学にも負けないカリキュラムを組んだ。

 八城勇作(やしろゆうさく)は経営戦略学部に所属する六年生で二十歳だ。

 新学期が始まる四月になると、六年生以降を対象に学校独自の実践カリキュラムが始動する。

 それは全国に数ある離島の中から事前に選出された全十四箇所の離島で約一ヶ月間に渡る合宿が行われるのだ。

 座学を中心とした基礎、応用課程を五年生までに終了させる。

 そして六年生になると身に付けた技術を実践課程で磨くため、合宿に参加することが義務付けられていた。

 合宿所には生活に最低限必要な食料、風呂、ベッドなどが準備されている以外は何も用意されず、持ち込みも禁止されていた。

 ただし、各学部毎にテーマがあり、それに必要な材料や機材は用意された。

 そして、これらの離島は携帯、スマホは圏外で外部との通信が遮断されている。

 離島合宿のテーマは一から村を形成することにあった。

 共同生活の中で各自の分担をこなしながら、与えられた材料、機材を駆使して学部毎の特性を生かし、村のために何が出来るかを考え、実行することを目的としていた。

 このような村を形成していく場合、過去の経験から人数が多過ぎても少なすぎても失敗に終わることが多かった

 その一環として七学部から男女各一名ずつの計十四名が離島毎に選出された。

 今回、離島合宿のメンバーに選出された勇作の合宿場所は相模湾沖の離島と決まった。

 出発に先立って、離島毎に趣旨説明と合宿の内容が伝えられた。

 勇作と共に選出された十四名と随行する教職員の紹介が行われた。

 出発前夜、着替えと旅行の際に携帯している道具袋のみリュックに詰め込んで早めに眠りに就いた。

 そもそも考えても仕方の無いことに興味の無い彼は、明日からのことは明日になってからだと簡単に割り切ってぐっすりと眠った。


 翌日、日の出桟橋に集合したメンバーはチャーター船に乗り込んで出航した。

 今回、合宿が行われる離島は無人島で東京都の許可を取って実施されるのだが、直行便が無いためにチャーター船で向かうことになった。

 普通に航行すれば一日半の行程だと説明されていた。

 夜になり、男子は船底二階、女子は船底一階で各自割り当てられた部屋へ戻って就寝することになった。

 夜半過ぎ、眠りに就いていた勇作は船の揺れ以外に伝わる小刻みな振動で目が覚めた。

 「この振動は・・」勇作は数年前に経験した、あの大震災を思い出していた。

 その時も感じた気持ちの悪い揺れだ。今回もそれに酷似(こくじ)している振動だった。

 勇作は飛び起きてリュックを背負うと部屋を飛び出し階段を駆け上がった。

 まだ男子達は誰も気付いていない。取り敢えず甲板に出てあたりを見回した。

 夜目にも分かる大きな波が遙か彼方から押し寄せていた。

 この異変に気付いた女子生徒と随伴(ずいはん)の女教師が二名、甲板に出てきた。

 「女子達にライフジャケットを着させて、甲板の上に集合させて下さい・・男子には僕が伝えます」と女教師に向かって勇作は叫んだ。

 自分もライフジャケットを羽織(はお)ると船底二階に駆け下りた。

 半分程の部屋は施錠(せじょう)されていて扉を叩いて危険を知らせた。

 起きてきた随伴の男性教師に緊急事態であり、甲板に出るよう伝えると、その場は任せて操舵(そうだ)室に向かった。

 操舵室では宿直の操舵士が自動航行モードにして居眠りしていた。

 「おい、地震だ!津波が来るぞ、起きろ!」

 「う、んっ?津波?・・ああっ」目を覚ました操舵士の目に目前まで迫る巨大な津波が映る。

 交代で仮眠していた船長も慌てて起きてきたが、目の前に広がるあまりにも非現実的な光景に言葉を失っていた。

 「波に船体を垂直にしてくれ!三角波に船体を持って行かれるなよ!」と言い残して勇作は操舵室を出た。

 今回の合宿で使用する予定の材料、機器は船の甲板後方に固定されていた。

 大波を食らった後、漂流することも考えた勇作は大型の救命ボート一隻を荷物に括り付けた。

 船体側面に掛けられていた縄の束を抱えられるだけ持って、船の甲板前方に戻った。

 そこには打ち寄せた大波に身体を攫われそうになりながら、必死に手すりにしがみつき震える女子生徒達がいた。

 「先生、男子達は?」

 「あっ、八城君・・分からないわ、まだ来てないの・・女子生徒達は全員ここにいるわ」

 「皆、聞いてくれ!この縄を身体に巻き付けてきつく縛るんだ・・時間が無い、早く!」

 次に大波が来たら女子生徒達が耐えられる保証は無い。

 手が震えて上手く結べない女子達には勇作が手を貸してきつく縄を縛った。

 全部で五つのグループに結ばれた女子達に救命ボートを渡して縄の端を括り付けた。

 「このボートは四人乗りだから、大波が行ってしまえば中に入っていられる・・皆、頑張(がん)って!」

 「先生、後はよろしくお願いします」と女教師に声を掛けるとまだ、甲板に出てこない男子達を呼ぶために再度階段を降りようとした。

 しかし、無情にもここで時間切れとなった。

 船体を立てて巨大波に突っ込んだ船は第2波、第3波と続く波の中に消え、その船体を海上に再び現すことは無かった。

 過酷な運命が待ち構える生徒達の物語がここから始まる。


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