ギルドで起きた大事件①
ーシュゥゥ……
目に入る虹色の光が消えた。と、同時に、目の前に、煉瓦造りの建物と、市場が現れた。所謂、中世ヨーロッパ風の風景……来た。来たんだ!
「きた……きたきたきた!!異っ世っ界、きたぁぁ!!!」
大声を出したせいで、辺りの、買い物帰りの金髪の女性や、これから何処かへ行くらしいガッツリマッチョな男が、冷たい目で見てきたが…今はそんなこと関係ない!本当に来たんだ、異世界に!!ぬぉぉぉ!!最高の気分だ!!
……この世界、魔王の脅威にさらされてるんじゃなかったか?随分と平和だが……まぁ、いいか。
(アカネ……聞こえていますか……こちらネアリスよ……)
……!?なんだこれ、脳内に直接…ッ!?
(転生したて、という事で、しばらくの間は貴女のサポートをさせて貰うわ♪)
……いや、ネアリス、それは滅茶苦茶に有り難いのだが……
(どうかしたの?)
なんか、違和感が凄い。脳内に直接来るのってこんな感じなんだな…
(そうね、みんな最初は嫌がるわ。ま、それは置いといて…まず、貴女には今から、いくつかの能力を授けます。!)
おぉ!本当になろうモノみたいで最高じゃん!で、それはどんな…
(まず、貴女の目の前にある…ほら、そこの看板。あの文字が読める?)
ん、あぁ、あの看板か……って、なんだあの文字………見たことないな。何語だ?
(あれは、この世界の世界共通語で、“レーゼラン”よ。レーゼランは、貴女が今いる街、『エルティナ』で生まれた言語よ。)
へぇ、この街、エルティナって言うのか。つか…その、レーゼラン?とやら、まったく読めないぜ、ネアリス。
(そりゃそうよ、日本語や英語とは全然違うからね。はいじゃあ、能力、授けます!…………はい、授けました!)
「えっ早!」
声に出てしまった。あまりにも呆気なく授けられた(?)。
なぁ……ネアリス。私には、今何の能力が発動したんだ?なんも実感ないんだが……
(ふふ、じゃ、さっきの看板をもう一回読んでみて?)
えぇ……別にさっきと何も変わってな…………冒……険者ギルド?
「読める………読めるぞッッ!!!」
また声に出してしまった…もしかして、ネアリス、これが……
(そう!これが、今、私が貴女に授けた能力……その名も、『コンディクション』!これで貴女は、どんな言葉も理解できるわ!)
おぉ……すげぇ!凄すぎるよネアリス!いや、ネアリス様!!うわ〜、本当に読める!さっきまで読めなかった文字が読める!!
(ふふ、楽しそうで何よりだわ。あ、一応言っておくことがあるわ。実は、貴女にはあといくつか、能力を授けています!)
「えぇ!?何それどういうヤツ!?」
最早、自分が声を出していることにすら気が付かない。
(ふふ、それは……今は秘密よ♪ほら、そこの『冒険者ギルド』……そこで、全て解るわ。)
な、なんだそれ…ちょっといじわるだな…でも、ありがとう、ネアリス!ネアリス教があったら入信したいくらいに、感謝します!
(あ、あるわよ。ぜひ入信していってね♪)
あら、あるんだ…じゃあ、今度入信します、ネアリス様♪
(じゃあ、その時を待っているわ、またね〜。)
ネアリスの声が聞こえなくなると同時に、私は『冒険者ギルド』という看板を掲げる建物に入った。
ーーギィィ……バタン。
重いドアを閉め、少し進む。すると、酒を呑んでいた男が話しかけてきた。ネアリスが授けてくれた能力、『コンディクション』で、聞くことも見ることも、どれも理解できるというが……これは、能力がどのくらい有能なのか知るための…いいチャンスだ!
「へへっ、ようお嬢ちゃん!この辺じゃ見ねぇ顔だな……」
おぉ!本当にわかる!日本語で話しかけられてるみたいだ!………でも、待てよ?こちらの言葉は伝わるのか?まぁ…試そう。
「あ、あぁ、今日この街に着いたばかりでな。えぇと……結構遠い国から来たんだ。」
「へぇ、そうかい、それで見たことない訳だ。」
……!伝わった!
「俺の名はダリアス、ダリアス・エイデルだ。お前は?」
「あぁ、私はアカネ、陽野朱音だ。」
「アカネ…か。珍しい名前だな。まぁ、国が違えばそんなもんか。まぁいい、こうして知り合ったんだ、仲良くしようぜ!」
「……あぁ!」
……ク〜〜ッ!!これだよ、これ!異世界っぽくて最高じゃないか!酒場で芽生える友情、あぁ、最高!
「あ、そうだ。えぇと……ダリアスさん。」
「へへ、ダリアスでいい。その代わりに俺もアカネと呼ぶからな。…で、なんだ?」
「えぇと、じゃあ、ダリアス。私は冒険者になる為にこの街に来たのだが……どうすれば、冒険者になれる?」
「お、てことは……アカネは俺と同業者になるのか!ハッハッハ!そうならそれと早くいってくれよ!」
そういって、ダリアスは私の背中を軽く叩いた。そして、ついてこい、と手招きをした。
「お〜い、姐ちゃん!このお嬢ちゃん、アカネが冒険者になりたいんだとよ!」
「は、は〜い、今行きます!」
店の奥からドタバタと音がした。そして、奥から黒髪の女性が走ってきた。
「はい……ハァ……ハァ………こちらに……ついてきてください……」
「姐ちゃん、だいぶ忙しいみてぇだな!が、このアカネのことを頼むぜ。冒険者登録の手続きをしてやってくれ。」
ダリアスが笑いながら言う。
「ありがとう、ダリアス。協力感謝するよ!」
「何、礼には及ばん。それよりも、後でその姐ちゃんに礼を言いな。」
「……あぁ。」
私は、ダリアスが「姐ちゃん」と呼ぶ女性についていった。
「……アカネ………『赤眼持ち』、それに『真紅の髪』か………こいつは、どえらい能力値かもなぁ……もしかすると、ギルドは大騒ぎになるかもな。」
さっき、ダリアスが『姐ちゃん』と呼んでいたこの女性は、ティナウ・レルガーという名前らしい。私は、彼女の指示に従い、冒険者登録の手続きをしていた。
「はい、じゃあ最後に、この『魔法水晶』に手を翳して。」
「翳すとどうなるんだ?」
「……アカネさんの能力値、能力などがわかります。さ、早く。」
「あぁハイ。」
その『魔法水晶』とやらに手を翳す………あれ?何か、水晶に映ってる私……髪の毛と……目の色が……赤くなってない?
「ねぇ、ティナウ。もしかして……私の目と髪って……赤い?」
「はぁ、何故そのような質問をするのかわかりませんが……まぁ、はい、真っ赤です。真紅ですね。」
転生したことで、外見に変化が、生じたらしい。なんか……赤眼の赤髪って、私の好みにどストライクなんですけど、そんな私にどストライクな女の子に、私がなってるんですけど!
「うん、いや、私なんでこんな質問したんだろ?」
自分の、叫びたい程の喜びを、適当な言葉で押し込んだ。
「私と話すのではなく、水晶に手を翳してください。」
「あ、は〜い。」
手を翳した次の瞬間、水晶が明るい光を放った。すると、目の前に、一枚の紙……いや、カードのような物が置かれていた。水晶から出てきたのか?まるで、プリンターみたいだ……
「はい、ティナウ。これでいいの?」
「はい、大丈夫です。あ、カード、見せてください。アカネが職業を選ぶ時の、オススメ職業の提案の参考にしたいので。」
「あぁ〜、冒険者って言っても、様々な役職があるからね〜、どんなゲームでも。」
「……げぇむ?」
「あっいやいや!こっちの話!」
そうか、この世界にはゲームがないのか……とりあえず、ティナウにカードを渡す。
ティナウはカードを受け取り、それを見始めた。すると、
「うわぁ!?」
突然、ティナウが大声を出し、腰を抜かしたみたいにヘタリと床に座り込んだ。
「なに、ティナウ、どうしたの!?」
「あ、ああ、アカネ!この能力に能力値……おかしい!おかしいよ!」
「なんだなんだ?」「どうしたティナちゃん。」
「何があったんだ!?」
大声で慌てているティナウの声を聞いて、ギルド内にいた人々が次々に集まってくる。
「これ…そこの…アカネってこの…レベル…まだ1の子の……能力値カード……」
「「「…………はぁぁぁぁぁ!?!?」」」
「なんだこの能力値!?」
「この能力、この子、まだレベル1だろ!?ありえない!」
「あの〜……何がそんなにおかしいんですか?私の能力値カード……」
「だって……これ、お前……アカネとか言ったな。自分の能力や能力値に自覚がないのか!?」
「ほら、ここ!この能力!『コンディクション』!これ、超貴重な能力で、持ってるヤツは世界に32人しかいないんだぜ!?」
「えぇ!?そうなの!?」
「あぁ、それに、これもだ!!『イフリート』!!炎系能力の中でも最強クラスのヤツだ!レベル1の駆け出しが持ってるようなやつじゃねえ!」
「え、何その能力、初耳なんですけど!?」
「自覚無しに生きてきたのか!?それに……この自動能力の項目……滅多に見れない能力ばかりだぜ?『戦鎚特化』『炎神の守護』『勇敢な攻撃手』……どれも希少能力だ!!」
「えぇ!?」
ね、ネアリス!ちょっとオマケし過ぎなんじゃないか!?
気がつくと、ギルド内にいたほぼ全員の人間に囲まれていた。しばらくの間、人々に質問攻めを喰らい続けた。
すると、突然、周りが静かになった……人々が、まるで道を作るように、空間をつくっていく。そこを、一人の老人が、こちらに向かって歩いてきた。