相棒
闇討ちを乗り越えたシュリとライの二人はシュリの家に移動していた。
ライが自分が巻き込んだから、とポーションを取り出し使用。二人の傷はある程度治っていた。
一本しか蝋燭に火が灯されていないのでさして広くない屋内でも蝋燭が置かれているテーブルを中心にその周辺しか照らされていない。
二人は現在、テーブルの中心で揺れる蝋燭の炎を挟んで座っていた。
「……」
「……」
何か話した方がいいのか、何を話せばいいのか。そもそも以前会ったことがあるとはいえ、シュリとこのような形になるのは初めてだ。緊張もある。それで押し黙っていると目つきの悪さも相まって怒っているように見える。
一方のシュリはそんなライを見て困ったように笑って、いや、若干表情を引きつらせている。彼もライと同じように何をこのまま黙っているのに耐えられない。けど、何を話せばいいのか、なんて思いを巡らせている。
沈黙が流れる。
そもそもなぜこの状況になったのか。
戦闘後、二人とも全身傷だらけでボロボロだった。
シュリの家がそう遠くないということでシュリの家に移動したというわけだ。
ライも一緒なのはこの後まださっきと同じようなことがないとも言い切れないとシュリが連れてきた。
ポーションを飲み、簡単な治療を終え今に至る。
一度会っているとはいえあの時は会話と呼ばれるものはなく親しくなったわけではない。
距離感というのも分からない。
向こうの方が年下みたいだし僕の方から話を振るべきだろうか。
お互いに共通の話題なら大丈夫かも。
僕たちは冒険者。なら冒険の話なんてどうだろうか。
「えっと……」
そういえばこの少年が狂犬って呼ばれているのは知ってるけど名前は知らない。
話を切り出そうとしたのはいいけど詰まってしまった。
「ライ。ライ・シュタイナー」
「……ライって第九位級の冒険者なんだよね?」
「ああ」
「……」
「……」
ダメだ。すぐに終わってしまった。けど名前は分かった。
「シュリ・フォルト」
「え? は、はい」
「冒険者になったのは最近でそれからすぐに話題になった。その実力はオレも想像以上だった」
じっと睨んで続ける。睨みつけているわけではないのだろうが目つきの悪さからかそう見える。
シュリは緊張しながらも頷きながら続きを待つ。
「オレには夢がある。いや、あった。冒険者になってからすぐに諦めてしまった夢だ」
「それは」
彼ほどの実力者で諦めてしまう夢とはなんなのだろうか、それをなぜ自分に話すのだろうか。
それがなんなのかを促す。
「英雄、の相棒だ。オレは英雄の相棒になりたかった。けど実際は英雄の器の冒険者はいなかった。まだ下位の冒険者のオレがいうのはどうかと思うが現在の上位の冒険者。それも、オレなんかより頻繁に名前が挙がる彼らはダメだ。実力は相当なものだが英雄になれるかといわれればなれないと思う。だからそんな夢はとっくに諦めていた。そんなときにシュリ・フォルトという新人冒険者の名前を聞いた。少し期待してしまった。今の冒険者じゃダメかもしれないがこれから出てくる冒険者ならどうかと。初めて会った時に噂は本当だったと悟った。そこから期待値は上がった。そして今日のことだ。オレは半ば確信している。頼りないところもあるがシュリ・フォルトなら英雄を目指せるんじゃないかってな」
「英、雄。僕が、英雄に」
「ああ、そうだ。だからオレはシュリ・フォルトの相棒になりたい。オレの夢を叶えさせてくれ」
身を乗り出して告げた彼の真っ直ぐにシュリを見つめる表情は真剣そのものだった。
ゴクリと喉を鳴らしそっと瞼を閉じた。
自分が一歩一歩理想とする英雄に向かって歩む姿を脳裏に浮かべる。
昇格して次々と強いモンスターを相手にする。そうして実力を磨いて行き約一年後に迫ったダンジョンの謎を解き明かすための遠征部隊に参加に参加する。
そこでまだ見ぬ未知の強敵と戦い勝利する。
そして数多の苦難を乗り越えダンジョンの謎を解き明かし世界の英雄に。
そんなとき自分の傍らで支えてくれる相棒、ライがいてくれればどうだろうか。
答えは、
瞼を開く。正面には相変わらず真剣な表情で見つめるライの姿。
「僕の夢は英雄になること。これから進む道はきっとたくさんの苦難が待ち構えていると思う。そんなときに支えてくれる頼りになる仲間、相棒がいればどんな苦難も乗り越えていける。だから、こちらこそよろしくお願いします!」
手を前に出した。
「よろしく頼む」
ライも手を前に出し互いにグッと握る。
蝋燭に灯された灯はそれを祝うように明るく燃えていた。