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迷宮世界の英雄譚  作者: ワンサイドマウンテン
8/39

その少年、狂犬につき

 オレはライ・シュタイナー。狂犬という名前で通っている第九位級の冒険者。狂犬、なんでこんなことになったのか。

 幼い頃に憧れたのは、かの英雄アレク・ロット、ではなかった。

 勿論、人々から英雄と称えられる彼や物語の主人公はカッコいいとは思う。

 でも、オレが憧れたのはそんな英雄の相棒だった。

 アレク・ロットはどうだか知らないが大抵物語の主人公がピンチに陥ったときそれを助けてくれるのが主人公の相棒という存在だ。主人公が自身の力だけで解決することもあるが相棒に支えられる場面は多い。

 誰もが憧れる最高にカッコいい英雄達を隣で支え続ける存在もカッコいいしすごいと思わないか?

 英雄と呼ばれるような大きな存在と並んで歩くにはそれに近い実力を持ち合わせていなければならない。自己満足に過ぎないが、オレの実力はお前らが英雄と称えるそいつとほぼ同じなんだぜ、という気分に浸れる。

 それに、そんなすごい存在に頼られる、それはなんとも言えない快感なんだろうな、と思っている。

 まぁ、それも自己満足だ。

 要するにオレは英雄と呼ばれる存在の相棒になりたいのだ。

 それを目指して冒険者を目指し、実際になってみたはものの英雄、アレク・ロットは既に亡く、それに続くような冒険者もいない。

 尤も、アレク・ロットがいたところで既に相棒のポジションは埋まってしまっていただろうが。


 アレク・ロット亡き後、冒険者の質が落ち始めたのは火を見るより明らか。

 彼の時代には上位の冒険者も下位の冒険者も同じくらいいたというのに今は圧倒的に下位の冒険者が多い。

 上位の冒険者が大量に生まれることは珍しいのだが今は、下位から上位に上がる冒険者は極々僅か。数年にニ、三人くらい。


 とはいってもオレ自身冒険者になってから四ヶ月ほどで最下位の第一〇位級から第九位級に昇格したもののやはり下位の冒険者であることに変わりはない。そういうことを言うのはせめて第六位級以上になってからだ。第九位級になって三ヶ月になるがここで既に第八位級が見えてきている。

 着実に実力を上げている証拠だ。

 第九位級が挑む依頼は第一〇位級が挑むものより危険度は増すが第八位から上はその比ではない。

 第八位級になってからがやっと冒険者としてスタートする。そう思っている。


 そんな場所で力を磨いて行きさらに上を目指す。上に行けば行くほどレベルの高い冒険者と出会う。

 そこでアレク・ロットに次ぐような人材がいれば是非とも相棒として支えて行きたい。

 そんなのがいるなら既にそうなってきていると思うがそんな話を聞かないと言うことはそういうことなのだろう。


 英雄なんてものは早々生まれないから英雄なのだ。

 半ば諦めはついている。


 強いていうならこの前、ガラの悪い冒険者二人組にボコられていた第一〇位級の冒険者。件のクローベァーを単身、撃退したとかいう新人冒険者だ。名前は確か、シュリ・フォルト、だったか。

 最近の冒険者には珍しいやつだった。

 大抵のやつはあの二人組のように安全性の高い雑魚を倒して日々を過ごせれば満足、という考えだ。

 そのくせ、ぽっと出の新人が名前を上げたりすると妬み、あいつらのように集団で襲う。馬鹿馬鹿しい。

 確かにクローベァーを撃退したという割には体格もあまりよくなかったし、そこからやや頼りないという印象も受けた。

 が、あいつは違った。鍛錬に励んでいたしやることをちゃんとやっているのはわかった。それは嘘では無いようだ。それならクローベァー撃退も頷ける。

 ただ、クローベァーを撃退したのにあの程度のやつらにいいようにやられるのはどうかと思ったがオレの気まぐれで助けた。


 現在の上位の冒険者が申し分のない実力者揃いなのは理解しているが英雄という器ではない。なら、淡い希望を抱くなら、新たに台頭してくる新しい人材。

 シュリ・フォルト、彼なら器かどうかはまだわからないが伸び代は十分にある。

 なにより四ヶ月で昇格という早い方であるオレよりもさらに早くに第九位級に届きそうなのだ。

 見込みはある。

 オレの英雄の相棒になりたいという願望を実現させてくれるのは彼かもしれない。

 それはもしそうなったときオレが同じくらいの実力をその時までに身につけていることが前提だが。





「聞いたか? 例の狂犬の話」


「次は誰に喧嘩売ったんだ?」


「そんなことはしょっちゅうだろ。いまさら取り立てて話すことじゃねぇよ」


「じゃあなんだよ?」


「第八位級への昇格が近いんじゃないかって話」


「嘘だろ!? 確か第九位級になってまだ三ヶ月くらいだろ?」


第九位級(おれたち)が相手にしてるモンスターなんて簡単に捻っちまっててよ。第八位級の冒険者についていってサポートありきだけどモンスターを倒したって話を聞いたことあるぞ。しかも、そのサポートも全然大したものじゃなかったって話だ」


「じゃあ既に狂犬の実力は第九位級なんかとっくに超えていて第八位級だってのかよ」


「こないだのクローベァー撃退の新人といい狂犬といい最近出てきた冒険者はすげーな」


「狂犬は良い意味でも悪い意味でも有名だけどな」


「大型の新人といえばもう一人……」


 早朝のギルドの掲示板前の広間。相変わらずたくさんの人で近寄れない掲示板が空くまでそこに設置された椅子に座ってシュリは待っていた。

 周囲には彼と同じく空きを待っている冒険者が大勢いる。

 テーブルも設置されているのでここで軽く朝食を済ませている者もいる。

 あとは談笑していたり、珍しいところでは遊戯(ゲーム)なんかをしていたりする。

 一方の彼はというと今日はジャックもアークもおらず特に話をする人はいないので大人しく椅子に座って周囲の話に耳を傾けるくらいしかやることがない。

 そんな彼が聞いたのが先の会話だ。


 ……狂犬。それは冒険者になってからしばしば耳にする単語。

 それはある冒険者のことを指しているようでその冒険者とはつい先日、ガラの悪い冒険者二人組に因縁をつけられてタコ殴りにされていたところを助けて貰った少年のことだ。

 彼については狂犬という名前で良い話も悪い話よく耳にするが悪い話についてはとてもそうとは思えない。

 やりすぎではあったかもしれないけどあのとき彼が言っていたことは間違ってはいないと思う。

 あの様子だとあんなことがあったら誰に対してもああいう風に突っかかっていくのだらう。

 良い話で上がるように僕より年下なのに尋常じゃないほど強い。

 最近では冒険者になってから一年も経たずに第八位級に迫っているそうだ。

 そんな彼はこの間の僕と同じように面白く思わない連中に恨みを買っているのかもしれない。

 しかも誰にでも突っかかっていき倒してしまうから余計に恨みを買う。

 そんなことを繰り返した結果、十五かそこらの少年なのに恐ろしく強く、気に食わない、と言ったらアレだけどそんな相手には容赦なく突っかかっていく。おまけに目つきが悪い。狂犬と呼ばれるようになったのはそれが理由なんじゃないのかな。犬は多分ボサボサの髪とかその辺りからきているのかも。


 掲示板の前から人が減るにはもう少し時間がかかりそうだ。

 それまでは他の話にも耳を傾けて暇を潰そう。……あれ? これって盗み聞き?


 ようやく人が減ってきて掲示板の前に立てる。

 今日も今日とてワイルドボァーを討伐するつもりだ。

 よかった、まだその依頼は残っている。

 それを確認するや否やすぐに手に取りいつものお姉さんの元へ。


「最近は毎日ワイルドボァーですね」


「僕と実力が同じか個体によって少し上なので僕の実力を上げるのに良いかな、て思ったんです」


「本当に第九位級昇格が見えてきましたね。頑張って下さい!」


 それに応えて早速討伐に向かう。




「はあぁぁぁ!!!」


 このところ毎日戦っているおかげか個体にもよるけどかなり慣れてきた。それに、日々の鍛錬も少しずつ身を結んでか徐々に身体能力も上がってきているし宙を

 走る刃の速度も早くなっている。気がする。


 その証拠に今僕が斬り込んでいるが間に合わないと悟ったのか両の腕を前で交差させて防御の姿勢に入った。この状況になるまでにもワイルドボァーの猛攻を全て躱しきった。

 ついこの前までなら今と同じ状況でワイルドボァーは防御の姿勢など取らなかったし。合わせて攻撃し僕の刃が届く前に叩き潰してやろうという感じだったし攻撃を全て回避することなどできなかった。

 それが今はそんなことをすれば確実に斬られる。本能が告げているのだろう。防御に走った。

 それは僕の方が早いからだ。動きも、剣速も。


「ヴォオォアォ!!」


 前に構えられた太い腕に食い込んだ刃は骨を斬ることは叶わなかったけど骨までは届いた。

 力も上がっている。


「……ヴゥゥ」


 今ので怯んだのか? 二歩半ほど後ろに下がっている。

 一気に畳み掛ける!

 懐に飛び込んで真横に一振り。

 刃が走った後の腹はパクッと裂けて血液とともに中から色々なものがズルズルと出てきた。

 ワイルドボァーは倒れたがそれでは瞬時に絶命まで至らなかったのか、まだ呼吸もあり、ピクリピクリと頭やら腕、脚が僅かに動いている。

 だんだんと呼吸は弱々しくなりついに聞こえなくなった。


「……よし!」


 倒したワイルドボァーの牙を剥ぎ取ると帰路につく。ポーションでの体力回復をしなくても帰れるということは体力も上がっている。


 道中、一〇匹のコボルトの群れに襲われたがワイルドボァーと互角以上に戦える今の僕にとってコボルトなんてもはや敵ではない。


「ぐぇっ」


 とか思ってたら背後から二匹に体当たりされ間抜けな声を漏らしてしまう。

 その二匹はすぐに斬り伏せたけど油断は良くないな。

 今のが体当たりじゃなくて爪での攻撃だったらそこそこの傷を負わされていたかも。




 今日の稼ぎは八〇〇〇ジール。

 最近は毎日ワイルドボァーを討伐しているので今までよりは収入が増えた。

 この調子なら今月分の家賃、二〇〇〇〇ジールをもう払ってしまっても問題ないかもしれない。

 期限まではまだあるけど払える時に払っておいてしまおうか。


 既にキールさんのところで武器と防具の整備は終えていて後は帰るだけだったけどそう思いギルドに戻る。


「フォルトさん? もうすぐ日が沈みますから今日はもう新たに依頼を受けてダンジョンに行くのはやめた方がいいですよ」


「えっと、依頼じゃなくて。今月分の家賃を払ってしまおうかと思って」


「ああ、そうでしたか。払えるうちに払った方が良いですからね」


 ニ〇〇〇〇ジールを渡す。


「はい、確かにフォルトさんの今月分の家賃ニ〇〇〇〇ジール、受け取りました!」



 家賃のニ〇〇〇〇ジールを払っても手持ちはまだ一〇〇〇〇ジールほど。蓄えも合わせればもっとある。

 帰りにいつもの食堂によっていつもより奮発した。


 いつもよりもう一品多い美味しい料理に舌鼓をうっていると近くの席に座っている冒険者二人の話が少し聞こえてきた。


「……ろじゃないか? ……流石に……だろ。これで狂犬も……りだな」


「……で……とか……ことするよな」


「狂犬が悪いだろ」


「ハハハ、それもそうだな」


 部分的にしか聞こえなかったけどまた狂犬の話のようだ。どうやらあまり良い話ではなさそうだけど。

 内心少し気にしつつも黙々と料理を味わい家路についた。


 ところでその時の途切れ途切れに聞こえた冒険者の会話はこうであった。


「そろそろじゃないか? 狂犬でも流石におとなしくなるだろ。これで狂犬も終わりだな」


「パーティ内で闇討ちとか中々えげつないことするよな」


「狂犬が悪いだろ」


「ハハハ、それもそうだな」


 話は今朝の早朝まで遡る。

 まだシュリがギルドに顔を出す前のこと。


 狂犬と呼ばれている弱冠十五歳の少年、ライ・シュタイナーはまだ人が少ない掲示板の前で悩んでいた。

 第八位級への昇格のための依頼に挑むかどうか。

 ……そろそろ挑んでもいいと思うが。


「狂犬、今日もいいか?」


 今日も来たか。

 振り返ると第八位級の冒険者三人。

 自分が狂犬と呼ばれていることは今更気にしない。周りがなんと呼ぼうがどうでもいい。……変なのでなければ。

 この三人は最近オレをパーティに加えてダンジョンに挑む。

 何故かと理由を尋ねると実力を認めてるとのことだ。

 白々しい。何度か一緒に戦えばわかる。こいつらは第八位級に上がってからさらに上を目指していない。満足している。大方オレを誘うのも利用して楽に依頼をこなすため、とかだろ。

 オレの実力を上げるのに使えるから乗ってやっているが。


「……わかった。今日も頼む」


「こっちこそだ」


 オレが了諾するとそいつらはそう言って笑った。

 薄ら寒い。

 思えば何故オレはこんなやつらについてダンジョンに行っているのか。

 とはいえ了諾してしまった以上今回は同行するが次はない。さっさと第八位級になってしまおう。

 そう決意した。


「狂犬、ウィップモンキーだ。いけるか?」


「問題ない」


 ウィップモンキー。何度か戦ったことがある。

 長い手足、尻尾を名前のように鞭のようにしならせて攻撃してくる猿のモンスター。どの個体もなんとなく見ていて腹の立つ顔をしている。

 図体は人間より少し大きいくらい。それくらいなら人間でもたまにいるくらいだ。冒険者なら特に。

 間合いが掴みにくいがそれは初見殺し。そのうち慣れる。


 例によってあいつらは主戦闘はオレに任せて援護。

 三人とも第八位級だけあってそこそこの動きはする。

 じゃないと昇格してないか。ギルドはそんなに甘くない。


 対峙すると先ずは挨拶がわりにとヒュルンと腕がしなる。

 回避してもいいが、こんなものはもはや脅威ではない。

 左腕で自分の横に来た瞬間に上から叩き落とす。

 両腕につけている手甲に弾かれた腕はバチンと地面に叩きつけられ盛大に跳ねた。


「キュイィィィィ!?」


 ウィップモンキーが五月蝿い。

 奇声を上げて無茶苦茶に手、足、尻尾を振り回すがそれを全て叩き落とすか回避して接近する。

 オレの拳が届く間合いに入る頃には周りの三人がオレが弾いた手足を切断したり痛めつけたいたのでほぼ安全。


「おらぁ!」


 ガラ空きの腹に思いっきり拳を入れてやる。

 手甲をつけている拳はメキメキとウィップモンキーの中身を砕きながら深くめり込んでいく。

 この程度では終わらない。


「オォォオラアァァ!」


 連打。胴体を滅多打ちにしてやった。

 何かがひしゃげる音が続く。

 ウィップモンキーはもはや声を上げることさえもできていない。ただ血を吐き続けるだけ。


 最後に飛び切り強い打撃を与えて殴り飛ばす。


 数メートルほど宙を舞ったあと顔面から地面に転がりさらに数メートル転がり続け止まった。


「終わったか?」


「確認してくる」


 生きていたとしてもすでに虫の息だろうがな。

 近づいた瞬間に鞭のようにしなる何かが飛んで来た。


「!?」


 意表は突かれたが回避。

 舌か。

 その正体はウィップモンキーの長い舌。

 舌も伸びるのか、一つ勉強になった。

 それを確認して戻ろうとする下を掴んで


「じゃあな」


 根元から引き千切った。

 バツン。

 弾けるような音とともに大量の血をぶちまけて断末魔の声を上げる間も無く絶命した。


 証拠は、これでいいか。


「終わったぞ」


 引き千切った舌を持って三人の元へ戻る。


「おお、流石だな」


「おかげで助かった。よかったら次も頼む」


「……縁があれば」


 などと適当に流しておく。

 この数日以内に昇格してしまおう。

 確か、火を噴く大ガエルだったな。上等だ。

 第八位級になってしまえばこんなやつらに付き合う必要もない。


 グランデに戻りギルドで報酬を受け取ったあと別れようとしたら飯に誘われた。

 これまでも何度か誘われたが全て断った。

 今回も断ろうとしたが強引に連れていかれた。

 まぁ、いいか。こいつらと会うのは多分これが最後だ。


「そういえば最近どうなんだ?」


 食べている最中、聞かれた。

 何が? という顔をすると


「や、なんか大人しいなと思ってな。最近お前がケンカしたって聞かないからさ」


「別にやりたくてやってるわけじゃない。オレの前で下らねぇことしてる馬鹿を片してるだけだ」


「なら、最近はそういうやつらが減ってきたってことだな」


「あ、俺そろそろ帰るわ」


「おう、また明日」



 一人が先に席を発った。

 オレもその十分くらいした後に店を出た。



 人気のない道を一人歩く。

 冒険者にとって家とは帰って寝るためのもの。

 それ以外は大抵ダンジョンにいるか酒場なんかで騒いでいる。

 だからまだこの時間なら人気がなくて当然だが


「よぉ、オレになんか用か?」


 くるりと後ろを振り返れば手に持った木剣を振り下ろそうとしている冒険者の姿。

 まさか気づいていないとでも思ったのか? バレバレだ。動きが止まってるぞ。


 ケンカを売られたということでいつも通り顔面を殴って沈める。


「……まだいるのかよ」


「おうよ、お前を潰すためにこれだけ集まってくれたんだぜ? 嫌われてんなぁ、おまえ」


 建物の影からゾロゾロと三十、いや四十人はいるか。よくもまぁオレ一人のためにこんなにも。


「あんたら、暇なのか? こんなことに時間割くくらいなら酒飲んで騒ぐか強くなるための努力でもしてろ」


「ちょっと強ぇからって調子乗りやがって。てめぇみてぇなガキはでしゃばった真似せず相応に大人しくしてりゃいいんだよ」


「意味わかんねぇぞ、オッさん」


「俺たちの邪魔をするなってことだ」


「ああ、新人の冒険者とかから金を巻き上げてたりしたことか。呆れる。下らねぇんだよ」


「……やるぞ、二度と生意気な口をきかなくしてやれ!」


 周りを囲んでいた冒険者たちが一斉に向かってくる。

 獲物は木剣だったり棒。

 そこまで危険性はないな。

 そもそもこんな一斉にかかってくるだけで連携も取れていない数だけで押してくる奴らに負けるはずがない。


 ……骨くらいにしてやるか。

 振り下ろされる木剣を回避してその腕を掴む。


「ぎゃあぁぁぁ」


 掴んだその腕を容赦なくへし折る。

 そのままそいつを盾にして飛んでくる攻撃を受ける。

 受け終わるとそいつを投げて近くにいたやつを攻撃を回避しながら殴り倒していく。



 十人ってとこか。

 まだ三十はいるな。



「おい、どうしたんだよこれ!?」


「……あんたか」


 その場にいたのは最近オレをパーティに誘ってダンジョンにいっている冒険者。

 そりゃあこれだけの数の冒険者が暴れてたらいくら今は人気がないといっても何人かは騒ぎを聞きつけてやってくるよな。


「見たらわかるだろ、怨みを買うことが多からな」


「そうだったな。なら、加勢しようか」


「悪い、助かる」


 ゴッ


 頭に重い衝撃が加わった。


「あ?」


「勿論狂犬、お前にじゃないぜ? お前を倒すのに加勢しようかってことだ! ハハハ!」


 それを合図に一斉に襲いかかってくる。

 中には第一〇位級のやつもいるが第九位、第八位級のやつらも多い。そこは腐っても昇格している奴らだ、体制を崩してしまった今の状態では複数人を相手にするのは難しい。

 あっという間に抑えられタコ殴りにされた。


「ザマァみろ! どうだ? 最近パーティ組んでダンジョンに行ってる仲間からの裏切りは!」


 羽交い締めにされていいサンドバッグ状態になっているオレを一通り殴ったあと正面に立った男がそれは楽しそうに叫んだ。


「……別に、仲間だと思ったことはねぇ」


 睨みつけて返すとその男は嘲ながら気に入らない、ともう一発殴る。


「どうだかな、仕組まれていたとも知らずに油断してただろうがよ!」


「まだ、そんな態度取れるのか? 狂犬。いい加減懲りろよ。俺は別にお前が強いのを妬んでるわけじゃねぇんだ。少なくとも俺はそこだけは認めてる。……だが、それで調子乗って俺たちのやってること邪魔しないでくれや」


「……あんたも新人から金巻き上げたりいいように使ってたのか。なら、今度見つけたらあんたも倒さないとな」


「は? おい、木剣貸せ。こいつは半殺し確定だ」


「やりすぎて殺すなよ?」


 わかっていると頷いて木剣を受け取ると二度三度素振りをしてこんなものかと具合を確かめ終わると顔面、頭、胴体、足と滅多打ちにし始めた。

 元から酷かった打ち身、打撲、切り傷はさらにその数を増やし特に顔は額や頭からの出血で血みどろでろくに目も開けられず下に俯いている。


「おらおらおらぁ!! もう声も出ねぇかぁ? いいザマだ! しかし傑作だったなあの時の顔! 加勢してくれると思ったか? 残念、裏切りでした! 仲間だと思ったことはない? じゃあ後ろから俺に頭殴られた時の顔はなんだったんだろうなぁ! あの時のお前なんでだ、意味がわからないって顔してたぞ。ハハハ!」


 木剣の刀身は半分ほど血で赤く染まっている。

 少年の衣服も流れる血で真っ赤になっている。

 殴られるたびに周りに血を撒き散らしている。


「そろそろ終わりにしてやるか。……木剣はな」


「まだやんのかよ?」


「当たり前だ」


「カハッ……!」


 腹に拳がめり込む。


「なぁ、狂犬。許してほしいか? もうやめてほしいよな? なら、地面に這いつくばって頭を擦り付けるような体制で詫びろ。デカイ声でな」


 反吐がでる。

 血にまみれた眼をなんとか開けて睨みつけてるとそれを言うために嘲笑いながら顔を近づけてきたそいつの顔に頭突きをかましてやった。


「うぐっ……このやろ!」


「何……してるんですか!?」


 たまたま通りかかったのかもしれない。今はもう一方的に殴られてるだけだからさっきまでに比べれば静かなものだ。

 それかあれを聞きつけて遅れてやってきた、か。

 その場に現れたのはこの前、少し話題になっていた新人冒険者。確か、シュリ・フォルト。

 以前オレが助けたことのあるやつだ。

 その時とは状況が逆だな。笑えねぇ。


「なんだお前? 怪我したくなけりゃどっかいってろ」


「こいつ、この前のクローベァー撃退の新人冒険者じゃねえか?」


「そうなのか?」


「なら、こいつもついでにやっちまうか。少なくとも俺は恨みがあるしな」


「ええ!?」


「待て! そいつは関係ねぇだろ!お前らはオレに恨みがあるんじゃなかったのか!?」


「……気にくわねぇやつもいるのさ」




 この時間、この辺りに人はほとんどいないはずなのにちょっと騒がしいから興味本位で来てみたら

 目に飛び込んで来たのは冒険者が集団で一人の冒険者を目の敵にしている光景。

 そして何故か僕も巻き込まれることに。

 いや、見過ごすことはなかったと思うけどいきなりは心の準備が。


「運が悪かったな、ここで一緒に潰されとけ!」


 対人戦は一応二回目だけどこの前のは一方的にやられただけで戦いにすらなってないから初めてか。

 数は三十人弱。すでに何人か倒れてるからもう少しいたのかもしれないけど相手になるのは三十人弱。だいたいの人は木剣か棒を持っている。

 一斉に襲いかかって来たけど連携とかはなし。

 まず最初にかかってきた冒険者の攻撃を回避。

 ここで反撃したいけどまさか抜くわけにはいかないよね。そんなことしたら向こうも木剣なんか捨てて普通に武器を使ってきそう。


「よう、この間は世話になったな」


「まぁ、ほとんど狂犬にやられたけどお前にも恨みはあるからな」


 集団の中にこの間のスキンヘッドの冒険者と左側だけ刈り上げの冒険者の姿が。


「この前みたいには、いかない!」


「ハッ! 狂犬が助けてくれなきゃ手も足も出なかったやつがなにぎゃ!?」


 喋ってるところ悪いけど殴らせてもらった。


「てめぇ!」


 続いてスキンヘッドの方も殴る。

 もしかしてこの二人って弱い? 五年間冒険者やってるんだよね?


 手放した木剣を拾って起き上がった二人を叩く。

 周りからの攻撃があるから一人の相手に集中はできない。

 この状況、初日のコボルトの時と似てる。

 一つ違うのはジャックやアークみたいな仲間がこの場所にいないこと。


「やぁぁ!」


 攻撃をくぐり抜けた先にいた相手に木剣を振り下ろす。

 カンッという小気味いい音が鳴った。

 振り下ろした木剣が受け止められた?!


「クローベァー撃退ってのはガセじゃなかったようだな。第一〇位級の奴らじゃ相手になってねぇ」


 何度か打ち合うけど四方から別の攻撃が飛んでくる。

 慌てて回避するが回避しきれない


「うぅっ」


 木剣とはいえやはり痛い。モンスターのそれよりかは幾分かマシだけど。


 常に回避を続けてたまに反撃する。

 その反撃もほとんどは受けられてしまう。

 流石に気づく。最初の方に戦っていたのは多分第一〇位級の冒険者。

 けど、今戦っているのは第九位級か第八位級。

 そうなってくると一筋縄ではいかない。

 というか回避が続きすぎて体力がどんどん奪われていく。体力トレーニングしててよかった。してなかったらとっくにスタミナ切れで今頃袋叩きにあっていただろう。


 ……あいつ、戦っているところは初めて見るけどあの動きは既に第一〇位級の冒険者じゃねぇな。第九位級とほぼ同じ。

 けど、第一〇位級ならともかく第九位級を複数人相手にするのは流石に多勢に無勢。今の互角の状況はそう長くは続かない。それに、第八位級もチラホラいる。

 ……このままやられっぱなしはオレの性に合わねぇ。オレを拘束しているやつの力が少し弱まったか? あいつの戦いに目がいってるからか。


「拘束する力が弱まってるぜ? くたばれや!」


 僅かに緩んでいる拘束状態から小さくだが振りをつけてその勢いから力任せに拘束を振りほどき頭を掴んで地面に叩きつける。


「ぐぎゃ」


 鼻の骨が折れて潰れているはずだ。多分それだけじゃないなと思うけどな。


「よぉ、狂犬を繋いどくには鎖が弱すぎたな。おらぁ!」


「なん、ぐはっ!」


 近くにいたやつをとりあえず殴っておく。


「落ち着け、あれだけ痛めつけたんだ、第八位級でかかれば問題はない。そっちのやつは第九位級と第一〇位級で対処しろ」


 あれがリーダーか。あいつを潰せば楽になるかもな。まぁ、その前にこの第八位級のやつらを全員倒さないといけないみたいだけどな。

 それさえ終われば残りの第九位級と第一〇位級は逃げるはず。シュリ・フォルトをささっと解放してやらねぇと。


 手甲をつける時間は無し。

 木剣とはいえ得物を持った第八位級冒険者を複数相手に素手は厳しいな。

 なにより防御が難しい。

 だからといって回避に走ると反撃の数が減る。

 なら、やることは単純明解。耐えろ。攻撃を受けることなど気にせず相手を殴りたおす。それだけだ。


「おぉぉぉ!」


 一旦仕掛けられて仕舞えば数が多い相手方に集団で一気に押してくる。そうなれば流石に耐えられない。

 だからこちらから先に仕掛けて一人でも早くに潰しておく。


 脇腹目掛けて右から拳を振るう。

 数が多いと一人一人に隙が出来やすいのは欠点の一つだな。

 これだけいるから大丈夫だなんて慢心は良くないぜ? そのおかげで一人倒せるんだけどな。


「……ぁっ、が!」


 肋骨をベキベキと砕く音が感触が拳を通して伝わってくる。

 二、三本はいったか? とはいえ相手は第八位級。おまけに蹴って遠くに飛ばしておく。


「さて、一人減ったな。あと八人だな」


「この、クソガキがぁ!!」


 まず突出してきた馬鹿の袈裟斬りをひらりと回避して頰に一発。続いて腹に二発目。胸倉を掴んで近くに迫っていた冒険者の攻撃を受ける盾代わりに。

 最後にもう一発殴って気絶したのを確認してからその辺りに捨てておく。

 あと七人。

 木剣を突き出してきたのを下に屈みその直線から外れて鳩尾に一発。膝をついてちょうどいい位置まで降りてきた顔面に膝蹴りを当てる。そいつは蹲ったので横腹を蹴って転がす。

 あと六人。

 木剣が二人、棒が四人か。


「あっという間に半分くたばったな。それも()()()()()()()()()()()相手に、な」


「安い挑発だ。乗るな。やはり一対一では勝てないか」


「やるなら最初から全員でかかってきた方が良かったぜ? 九対一より六対一の方が楽だから助かるけどよ」


「俺たちは腐っても第八位級冒険者だ。貴様一人を倒すのに六人もいれば充分」


 先ずは木剣二人が同時攻撃か。

 回避は不可能。いい攻め方だ。

 防御をしても防戦一方になるのが目に見える。

 なら一つやってやろう。


「はぁ!」


 バキリと木剣が折れる。迫っていた二本の木剣のうち一本は折られその刀身が彼に届くことはなかった。


 木剣を一本折った分、もう一方は回避できないし、防御もできない。普通に受けてしまうが一度くらいならまだ問題ない。


「なっ!?」


「武器破壊。手甲つけてりゃその辺の剣でも槍でも斧でも破壊できるぜ?」


「見事だ。が、それは少々隙が大きいぞ?」


「っ!?」


 リーチの長い棒四本の集中攻撃。

 既に満身創痍のこの体には十分すぎるダメージ。

 その後拳と棒との圧倒的なリーチの差を活かした攻撃が続き掴んでもそれで対処できるのは二本まで。残った二本と木剣、拳は避けようがない。


「くっ」


 遂に地面に伏してしまった。

 倒れた後も容赦のない攻撃は続く。


「っ! なんでお前がここに!?」


 冒険者の一人が驚愕の声を上げた。

 続いて他の冒険者もあり得ないと言った。


「あっちには二十一人いたんだぞ!? しかもその半分は第九位級冒険者だ。なぜ、新人冒険者一人がここに来ている!?」


 その答えは一つだ。一人で第九位級冒険者十人を含む二十一の冒険者の集団を全滅させて来たということ。

 そんなことは分かっている。だが、それが事実であると誰も認めたくなかった。なぜ、新人の冒険者がそんなことができる!? と。


 ……なんでなんだ?


 狂犬、ライ・シュタイナーは彼らとは別の事に疑問を持っていた。


 なんで逃げなかったんだ? 自分を囲っていた奴らは全員倒したのに、なんでこっちに来たんだよ。

 運悪く巻き込まれたにすぎなにのになんで。

 それにボロボロじゃねぇか。頭からは流血していて、唇の端も切れている。他にも身に纏っている衣服は所々破け、擦り傷、打ち身、頰なんかは腫れている。

 あれだけの数がいたのだからそうなっているのは当然なのだがそんな事になっているにも関わらずほぼ無関係のオレの元に来たのは何故なんだ?


「なんで、なんだ? オレとお前はほぼ無関係だろ? それに、これは巻き込まれたのに、せっかく切り抜けられたのに、そんなにボロボロにまでなってなんでこっちに来たんだよ!?」


 叫ぶ。

 するとシュリ・フォルトは頰が腫れているなどで不恰好だがふっと笑って言った。


「目の前で襲われている人がいるのにそれを放っておくなんて僕には出来ない」


「だから、それが理解できねぇんだよ! 普通、自分とは無関係な人間のためにそんなになってまで助けに来たりしねぇだろ!?」


「困っている人がいたら助ける。そんなことが出来ないのに英雄になんてなれるわけがない。僕は英雄になりたいんだ!」


 その言葉に彼は衝撃を受けた。

 英雄に、なりたい?

 英雄というのは憧れの対象だ。だから自分も英雄になりたい、英雄のようになりたいなんていう奴は幾らでもいる。だが、大抵どいつも口先だけで本気で目指そうなんて思っていない。よしんば行動に移す奴がいても中身が伴ってないのが殆ど。勇敢と無謀は違う。大抵そういう奴は勇敢にではなく無謀な戦いをして死んでいく。


 だが、シュリ・フォルト。こいつはどうだ?

 先ず、心の底から本気で純粋に英雄を目指している。

 そのための努力も惜しんでいないことは知っている。

 そして、ここに来たということは自分より実力が上の者が何人もいてさらに数の上でも圧倒的不利という絶望的な状況さえも切り抜けて来た。

 こいつなら、本当に。


 至る所で悲鳴を上げる体を気力で無理矢理に立ち上がり構えを取る。


「そうか、それならオレもこんなところでくたばるわけにはいかねぇな!」


「ハハハハハ! 英雄になりたいだって? 夢見がちなガキらしい発言だ。そういう奴から何人も何人もバタバタと死んでいく。そんな下らねぇ妄言なんて二度と吐けねぇようにしてやる!」


 再び戦闘が始まった。


 援軍が来たといっても二人とも全身傷だらけの満身創痍、疲労困憊。

 相手は無傷の第八位級冒険者六人。

 状況は変わらず絶望的。

 けど、英雄になりたいんだったらこの状況さえも乗り越えていってくれよ?


「四人引き受ける出来れば棒を持ってるやつを二人相手してくれると助かる」


「任せて!」



 相手は第八位級二人。

 しかも、武器のリーチの差もある。

 任せてなんて快く引き受けたけど厳しい。


 あの少年は、もう飛び込んでいった。

 これに続かないと。


 少年は宣言通り四人を引き受けている。

 いくら彼が強いといっても既に傷だらけ。それで四人相手は正直厳しいはずだ。

 だから、僕がこの二人を早く片付けて加勢しないと。


 相手の二人はリーチの差から近づけないでいる僕を間合いの外から適当にあしらって、けれど絶対に近づけさせずを保っている。

 警戒はしているけど、自分たちより下の僕をどこかで侮っている。

 勝ち筋があるとすればそこだ。

 他にはこの人たちが普段使っている武器は今使っている棒のような長ものではないはずだ。

 動きが拙いところがある。

 例えば僕が接近するために間合いを詰めようとしたとき、二人タイミングを合わせて棒を重ねて押し戻す。注目するのはこの次だ。

 この動作の後僕を押し出したときに二人とも棒を振り上げきってしまっている。これを戻す動作がぎこちない。

 押し戻されるのは分かっている。だからわざと押し戻されに行ってその後にできる隙を狙う。


「馬鹿の一つ覚えみたいに何回も突っ込んで、無駄だ」


 予想通り押し戻されて二人は完全に振り切った。押し戻されてもすぐに立て直せるように構えておいたので一気に近づいて一人の顎を目がけて振り上げた。


 ガゴンと堅い音が鳴った後その冒険者は白目を剥いて倒れた。

 続いて二人目にも斬りつけるが防がれてしまい、そこから打ち合いが始まった。

 木と木がぶつかりあってカン、カンと小気味のいい音が響き続ける。

 第八位級と第一〇位級冒険者。普通ならすぐに片がついてしまうこの戦いは慢心によって生み出されたこの状況からくる焦りと使い慣れない武器。

 その実力は既に第一〇位級を超え第九位級に匹敵していることと恐ろしいまでに成長が早いこと。

 両者の抱えるそれらのことがお互いを互角の戦いへと導いている。


 そして


「はあぁぁ!」


 張り切ったあと元に構え直す動作が遅れたその隙に完全に懐に入り込んだシュリが顔面に横薙ぎで強烈な一撃を叩き込んだ。

 しかし、これではフラリと倒れそうになったものの倒れることはなかった。が、ここから畳み掛けるには充分すぎるきっかけであった。

 二発、三発、四発……次々と怒涛の攻撃を浴びせていく。


 続けること七回。遂に相手は倒れた。




「クソがぁぁ!」


 連携を取られると厳しい。特に、全身傷だらけで百孔千創。この状態では尚更だ。

 前の二人を叩こうとすれば後ろの二人がそれをさせず。先に後ろの長ものを持っている二人を叩こうとしても前の二人に防がれてしまう。

 また、後ろ二人の長ものを防げば前の二人から攻撃を受け、前の二人の攻撃を防げば後ろ二人の攻撃を受ける。


 まだ棒の方がダメージは少ない、か。


 向こうが攻撃してきたら棒の方は諦めて前二人にカウンターを叩き込む。


 リーチの差から先に届くのは棒の方。

 これの回避、防御は諦めている。

 続いてくるのが前の二人の木剣と拳。


 木剣はひらりとすんでのところで回避。腹に拳をぶち込んでやる。

 殴られた冒険者は「うっ」と中の物をぶちまけるとぐったりとなった。

 拳は防御。

 ぐったりとしている冒険者の服を掴み迫ってきている棒をその冒険者で防ぐ。


 盾として扱ってやるよ。


 何発か攻撃を続けてきたが盾でその全てを防ぎきると

 攻撃は止み互いに睨み合う膠着状態となった。


 相手は攻撃をすれば防がれる。だから無駄に攻撃はしない。

 オレはこの盾を使って攻撃を防ぐことはできるがこの盾を持ったまま攻撃をすることはできない。重いからだ。今の体には響く。



「おああぁぁぁ!!」


「っ!?」


 静かに睨み合っていた中雄叫びをあげて木剣をまっすぐ構えて突撃する小さな影。

 対峙していた二人の冒険者を倒して突破してきたシュリ・フォルトだ。


 突き出された切っ先は棒を持っている二人の冒険者うち一人の鳩尾辺りに突き立った。


「かはっ」


 膝から崩れ落ちた。

 残った三人の冒険者に動揺が走る。

 それを狂犬、ライ・シュタイナーは見逃さなかった。

 盾として使っていた冒険者は即座に捨て木剣を持った冒険者の顎に拳を叩き込む。

 すぐに隣の冒険者に拳を突き出すがそのタイミングは相手と同じ。相討ちとなった。

 相手は倒れたがライは倒れなかった。


 ドサリと二人の冒険者が倒れる。

 残った冒険者、最近ライとダンジョンに繰り出していた冒険者だ。彼はわなわなと震えボソボソと呟いた。


「……りえない。ありえない。……この第八位級(おれたち)が第九位級と第一〇位級の冒険者二人にここまで。……ここまで。ふざ、けるなぁぁぁ!!」


 発狂し、持っていた棒を捨て腰に下げたいた剣を抜き斬りかかってきた。


 第八位級とはいえ感情に任せた大振りの攻撃など恐るに足らない。

 彼は第九位級と第一〇位級と言っていたが二人の実力はそれぞれ、実際の階級よりも一つ上に相当している。

 そんな二人ならばそんな攻撃に当たることはなく振り下ろされた刃は難なく回避された。


 左右にそれぞれ回避した二人は顔を見合わせるとコクリと頷きシュリは木剣でライは拳で顔面と腹部を殴りつけた。


「ぐかぁっ!」


 大の字に倒れた彼にライは容赦のない追撃を仕掛ける。

 思い切り踏みつけた後胸倉を掴み上半身だけを起こし頰を殴り続けた。


「もう、気絶してる」


 シュリが彼を止めた時には冒険者の顔は至る所が大きく晴れ上がり歯は何本も折れ、気を失っていた。


「チッ」


 舌打ちを打つと数十人もの冒険者が倒れているこの場を二人は後にした。







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