強大
前回は台詞が少なすぎました。反省しています。
石の壁ばかりが続く殺風景なダンジョンの中、一人の少年を囲っている七匹のネズミのモンスター。
モンスターの威嚇なのかキィキィと煩く音が響く。
七対一という数の上で不利な状況の中で勇敢にも少年はそのうちの一匹に斬りかかる。
「やぁ!」
思い切り振り下ろされた刃がワイルドラッドの背中を裂く。
「ギキィィ」と妙に甲高い悲鳴をあげて倒れた。
周りでキィキィと鳴いている残りの六匹のワイルドラッドが今しがた目の前で殺された仲間の仇を討つように一斉に襲いかかってくるがどれも遅い。三匹ほど先に斬り伏せる。残りの三匹は間に合わなかったけど裕に回避。
「終わりだぁ!」
「ギィィィー!」
背後からの攻撃に悲鳴をあげて倒れた。
「よし、これで依頼完了!」
倒した七匹のワイルドラッドの特徴といえる立派な前歯を七本持ち帰る。
冒険者になって一週間。今日も今日とてモンスター討伐の依頼をこなす。依頼をこなした後はギルドで報酬を受け取りカグツチで武器の整備をして湯治場で一日の汗を流す。食べて帰ることもあるし家で食べることもある。それがこの一週間の僕の毎日の流れだ。毎日体力や筋力をつけるためのトレーニングも欠かしていない。
ワイルドラッドやホーンビートル、たまにコボルトといった雑魚と呼ばれるモンスターばかりだけどこれらを倒し続けて一週間もあれば手持ちの金額は一万ジールを超えていた。それにしても毎日のように僕や他の冒険が倒しているのに際限なく湧いてくるのは何故なんだろう?
ギルドで報酬を受け取りカグツチで武器の整備を終えてもまだ日は高かった。といっても今から新たに依頼を受けてダンジョンに入ってもモンスターと戦っているうちに日は沈んでしまうだろう。
夜のダンジョンは非常に危険だ。夜じゃなくてもダンジョンは危険な場所なんだけど夜なると危険度が増す。理由は暗くて視界が悪く迷いやすい。モンスターの奇襲に会いやすくそれであっさりと命を落とした冒険者は少なくないらしい。
そんなわけで今日はこれ以上依頼は受けられない。
余った時間はトレーニングに回す。
筋力をつけるために腕立て伏せや腹筋、背筋、スクワットなどとにかく鍛えられるだけ鍛える。やりすぎは良くないので程よく効率的に鍛えられるくらいでやめる。体幹も鍛えておく。
それが終わったら走り込み。僕が住んでいる居住区の周りを二十周。
最後に素振りを三百回ほどしたら終わりだ。
湯治場に行き汗を流す。
そんな日々を繰り返して五日後、冒険者になってから
十二日が過ぎた日だった。
いつも通り朝早くからギルドに行くとカウンターにミアさんの姿があった。
「おはようございます、ミアさん。こんなに朝早くからギルドに来るなんてどうしたんですか?」
「あ、おはようございます、シュリさん。依頼をするために来たんですよ」
グランデでの数少ない知り合いなので声をかける。なによりこんなところにいる理由が気になったからだ。
「彼女はダンジョンでポーションの素材になる薬草を採りに行くそうなのでその護衛の冒険者が欲しいと依頼に来たんですよ」
いつものお姉さんが教えてくれた。
そうなんですとミアさんも続けた。そして何かを閃いたようにパンッと手を打って
「シュリさん、宜しければこの依頼受けてくれませんか?」
とニコッと笑って提案。
「よろしいのですか? ブランシェさんは以前、同じ依頼で護衛の冒険者が全滅してしまい大変危険な目にあったはずですが。第十位級のフォルトさんでは荷が重いかと」
そういえばそうだ。僕が初めてミアさんにあった時はミアさんの護衛の冒険者が全滅してワイルドボアーに追われていたときだった。
そのときの護衛は第十位級の冒険者だったらしい。お姉さんのいうことはもっともだと思う。
「いえ、大丈夫ですよ。その時に私が無事でいられたのはシュリさんに助けていただいたからなんです」
それを聞いてお姉さんが本当ですか? と視線を向けて来たので首肯すると「報告にはありましたがワイルドボアーを倒したのがフォルトさんだったなんて」と呟くと
「わかりました。フォルトさんでも問題はないと思います。この依頼、受けますか?」
隣でミアさんが期待の眼差しを向けて来ている。断れないよなぁ。
「はい、僕でよければ受けます!」
「了承しました」
ミアさんの表情がパァァっと明るくなって僕の手を取る。
「よろしくお願いしますね、シュリさん!」
「は、はい!」
こういうのは本当に反則だ。彼女には何度かこういうことをされているけど未だに慣れない。
今回はグランデを東に出て四十分くらい歩いたあたりが目的地だ。
籠を背負ったミアさんとダンジョン内を歩く。
「シュリさんが護衛についてくれるなら安心ですね」
「安心してください! って胸を張って言えたらいいんですけど」
ミアさんと歩きながら他愛のない話をしているのだが
ここは同じダンジョンの中とはいえ安全の確立されているグランデとは違って危険が沢山ある場所なのだ。
だから、もう少し緊張感を持ってもらいたい。
護衛である以上僕は常に気を張っておかなければならない。けど、話しかけてくれるミアさんにそれで淡々とした返事しか返せなくなるのもなぁ。護衛失格だろうか。
道中いつものコボルトやホーンビートルに遭遇したけど難なく斬り伏せた。
後ろでミアさんが「凄いです」とモンスターを倒す僕の姿に見世物でも見ている時のように拍手を送っていたけど緊張感なさすぎじゃない? ミアさんの肝座りすぎるでしょ。初めて会った時のモンスターに怯えていたミアさんはなんだったのだろうか。
それらを乗り越えてようやく目的の場所へ到着した。
そこへ近づくにつれ石の壁ばかだった殺風景な風景が段々と植物が見え始めて来たと思ったら目的地に着くとそこは緑の草木の生い茂るいつものダンジョンとは違う場所だった。といってもやはりここはダンジョンなので人を迷わせる構造であることに変わりはない。奥の方にはモンスターでもいるのかギャアギャアと僅かだが時折聞こえてくる。
こんなところまで来られたのもミアさんが持っていた地図のおかげだ。僕はグランデ周辺の地図しか持ってないからなぁ。相変わらず安物の。
「じゃあ、周りは僕が警戒してるんで最終はじめてください」
「はい、お願いしますね!」
ミアさんはしゃがんで木の下などに生えている薬草を採取し始めた。
そこでジャックとアークが言っていたことを思い出した。
ダンジョンに自生している薬草とかを持ち帰るとそれも一つの収入になる。あのときは予想外のことが起きてそれどころじゃなかったしそもそも僕はその薬草がどんなものかを知らなかった。
折角だからミアさんが採取しているのを見て一体薬草がどんなものなのかを確認しておく。
ちらりと視線を下に落とすと丁度採った薬草を籠に入れるところでどんな色形をしているのかばっちり見えた。
形は丸みを帯びているが先端は細い。が、特徴と呼べるのは色だろう。儚げに美しく光輝いているように錯覚させる黄緑色。明らかに他に生えている植物とは違う。
思わず見入っているとそれに気が付いたミアさんが気になりますか? 訊ねたのでコクリとうなずくと教えてくれた。
「これは最高級品質のAランクポーションを作るための素材になるんですよ。なかなか生えていなくてとても貴重なんです。ダイダロスの奥に行けばもっと生えているそうなんですけど、危険ですからね」
他にもあるんですよ、と籠の中からいくつか取り出して見せてくれた。
Aランクポーションの素材になるものより幾分か輝きが落ちたもの、それよりさらに輝きが落ちたものでそれぞれBランクポーション、Cランクポーションの素材になるそうだ。形や色は同じで輝きによってかわるらしい。これで次から街の外に出るたびに探すことが出来る。Aランクの素材になるようなものはもちろんBランクの素材になるようなものは僕が普段受けている依頼で行くような場所には生えていないけどCランクの素材になるようなものは割とどこにでも生えているらしい。探してみよう。
その後ミアさんが採取を続ける中、現れたホーンビートルを倒すこと三匹。これで道中倒したモンスターと合わせて十二匹討伐。二〇〇〇ジールはいくかなぁ。
まだ終わらないようだから頑張らないと!
気合を入れなおしたところでふと気づいた。
静かじゃないか?
ここに来たときは奥の方から僅かにだけどモンスターの鳴き声らしきものが聞こえていた。注意して聞いていなかったけどそれはしばらく聞こえていた。
じゃあ、いつからその声は止んだ?
そのことに気が付いた途端に背中に汗が流れる。強大な何かがいる。確証はないけど本能が告げている。嵐の前の静けさだ、逃げろと。
ミアさんはそんなことに気が付いていないようで鼻歌なんて歌って採取を続けている。僕の考えすぎであってほしいけど一度気にしたら生い茂る木々の中から強大ななにかが突然出てくるのではないかなどと
気が気でいられない。
今すぐにでもミアさんを連れてここから逃げ出したいけどそういうわけにもいかない。
心臓の鼓動が周りに聞こえるんじゃないかってくらい大きくなっている。それがなんだか強大な何かが刻一刻と迫ってきている不吉なカウントダウンのようで恐ろしい。
「終わりましたよ、帰りましょうか」
早く終わってくれと祈っているとミアさんが一仕事終えたと清々しい顔で立っていた。
「はい」
やっと終わったとこれで恐怖から解放されると思ったらなんだか少し力が抜けてきた。
歩き始めたミアさんに続いて僕も歩き出す。
その際、なんとなくに後ろを振り返ってみるとそいつはいた。
三メートルはあるんじゃないかと思うくらいの巨体。異常に発達した大きな鋭い禍々しい爪。全身を黒い毛に覆われた熊のようなモンスター。
そいつの口からはヴゥゥゥと低いうなり声が漏れている。
僕は咄嗟に剣を抜いて構えていた。
「シュリさん? どうかしたんです……ひっ」
そのことに気が付いたミアさんが振り返るとそいつを確認して悲鳴を上げた。
「下がっていてください。こいつは僕がなんとかします!」
嘘だなんとかできるなんて思っていない。僕の脳裏に浮かぶのは敗北の二文字。ワイルドボアーが可愛く思えるくらいにこいつの存在はでかい。
震える手を剣をぎゅっと強く握りしめて誤魔化す。
目の前のそいつは両の手を地面につけた。一歩二歩と前に進み始める段々と加速する。突進だ。
ミアさんは、大丈夫離れている。
思ったよりも速くて回避はギリギリになってしまった。
標的は目の前にいる僕のようで僕が突進を回避したのを確認するとそこで突進をやめて再び僕がいる方に向って突進を始めた。今度は上手くタイミングを掴めたのかさっきよりは余裕を持って回避できた。
相手が振り向く前に、もしくは振り向き際に一撃!
「はぁぁぁ!」
少なくとも今の僕では倒せるとは思っていない。けど、ダメージを与えて隙を作って逃げることくらいはできるはず。
突進を止めるのが早い。けど、振り向き際には間に合う!
大きく振りかぶった剣を、渾身の縦切りを打ち込んだ。
ギィィィン
甲高い金属音が木霊する。
僕の渾身の一撃は堅い、大きな爪で防がれていた。
「……嘘!?」
次の瞬間にはそのまま払い飛ばされていた。
「うわっ」
なんとか受け身をとって立ち上がるとすぐそこに迫ってきていて爪を振り下ろした。
「ぐぅっ!」
なんとか剣で防いだけどその爪から全身に伝わってくる衝撃がとてつもなく重い。骨が軋む、内臓が破裂しそうだ。
なんとか転がってその状態から抜け出す。相手の猛攻は止まらない振り回される爪を回避し、それが無理なら剣で防いで受け止める。そのたびにズシリと重い衝撃が走り着実に僕の体力を奪い取っていく。
それを繰り返すこと何十回。大きな傷は負っていないけど掠り傷のような小さな傷は何か所かあった。
それに対して向こうはほぼ無傷。
大抵の攻撃はあの爪で弾かれてしまう。
けど、足元は狙いやすい。何度か打ち込んだけどほぼ全ての斬撃はあの爪に防がれた。首や肩、胸、腹なんて狙って見たけどどれもすぐに防がれてしまう。だけど一つだけわずかにだけど攻撃が通ったところがある。それが足だ。
このままいけば体力を根こそぎ持っていかれて負ける。
ここから反撃だ!
繰り出される爪を回避してそのまま距離をとる。
すかさず突進してくるのを躱して次の動作に入るまでの一瞬に斬り込む。それも防がれていたけど足元は届く。どからそこに刃を振り下ろす!
「やぁぁぁぁ!」
ふり抜かれた刃は確かにモンスターの太ももを裂いていた。
「ヴォォォォ!?」
絶叫。血が流れ出す。
しかし、モンスターは体制を崩すどころか反撃をしてきた。右の横薙ぎに振り払われる爪を済んでのところで回避。ガラ空きになった右肩目掛けて刃を届かせようとしたけどすぐに左の横薙ぎが襲ってきてそれも叶わず回避に専念する。
二回三回と左右の横薙ぎが続く。それを後ろに下がりながら回避していく。それに合わせて向こうは横薙ぎしながら前に出てくる。
六回目の横薙ぎを回避したときだったピタリと動きが止まったかと思うとそこで初めてガクリと膝をついた。やはり太ももに入れた傷は少なからず効いていたようだ。そこを逃さず切り上げ脇腹から胸の下あたりにかけて深くはないが傷を負わせた。
いける! 無理だと思ったけどこのままいけば勝てる!
うずくまる体制となっているモンスターの頭目掛けて刃を走らせる。
殺った!
「おあぁぁぁ!!」
ザクッとした音、感触が脳に響く。血が宙を舞っている。
モンスターを倒したと思った。
けど違う。体は浮遊感に包まれ、次の瞬間には地面に打ち付けられていた。熱い。左腕が熱い。起き上がろうとして力を入れても力は入らなかった。代わりに激痛が走る。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
視線を左腕に向けると肩から肘にかけてザックリと裂かれていて絶え間無く血が流れ出ている。
なんとか頭を起こすとモンスターはかなり離れている。目測八メートルくらいか? その先に見えるのは右腕を斜め上に向かって振り上げた姿のモンスター。オォォォォと雄叫びをあげている。あの振り上げられた爪にはべったりと赤い液体が、僕の血が付いている。あの爪にやられたのか。
痛い。熱い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。
ズキンズキンと裂かれた左腕が疼く。今にも意識を失ってしまいそうだ。
けど、立たないと。僕は死ねない。ミアさんを守らないと、いけないんだ! こんな苦境なんて乗り越えて英雄になるためにも! 負けるわけにはいかないんだぁぁぁ!
「うぐ、ぁぁぁぁ! 」
右腕でなんとか立ち上がる。バタバタバタと血が地面を打った。
これをなんとかしないことにはとても戦えない。
ポーチからポーションを取り出すと一口にグイッと飲み干す。
ミアさんから貰ったBランクのポーション。たちまちに辛うじてだけど傷は塞がった。これでまだ戦える。けど、そう長くは戦えないない。無理をすればすぐに傷が開いてしまうだろう。だから、短期決戦! 僕より上の相手にできるかどうかじゃない、やるんだ!
十合も打ち合えば傷は開いてしまうだろう。
その十合だってただの憶測だ、それよりも少ない合数で限界を迎えるかもしれない。
傷が開いた瞬間に負ける。
覚悟を決めろ、あいつを倒す!
剣を握り直した左手は震えている。いまいち力が入らないけど無理矢理ギュッと力を入れた。
「くっ」
痛むけど一瞬で決着をつけるためだ我慢しろ!
そう言い聞かせて力強く剣を握り構え、相手を睨む。
八メートルなんてすぐだ。
「はあぁぁぁぁぁ!」
顔の横まで剣を振り上げモンスターに向かって走る。
突進はさせない。一気に距離を詰めて斬りかかる。
が、やはりそれは爪で防がれる。それは分かっていた。問題は次だ。振り払われる前に次の攻撃に入れ!
すぐにバックステップして頭を下げる。さっきまで僕の頭があった場所をモンスターの爪が通り過ぎた。
体制は低くしたまま切っていない方の足を狙って剣を振るう。
これに対応できなかったモンスターはサクリと足を切られ転がるように転倒。
そんなものは隙にもならなかったのかすぐに起き上がってすぐに爪を振り下ろしてくる。
回避は間に合わない。咄嗟に剣で防ぐ。
「うっ、ぐ!」
やっぱり重い。特に今の僕にはとてつもなく重い。
傷口が開きそうだ。熱を帯びてきている。
なんとか受けきった。次の攻撃も防がれ弾かれる。
ここまでで三合。けど、剣で防いだときにかなり無茶をしてしまった。十合なんてとても保たない。
もう、決着をつけないと。
自分の中で何かが弾けたような気がした。体の奥が燃えるような感覚。ワイルドボアーを倒した時、コボルトの大群を斬ったときと同じだ。
斬撃はほぼ全て防がれている。既に二撃だ足元も多分警戒されているしそんな場所を攻撃してもすぐに勝利にはたどり着けない。それではダメだ。
なら、突きはどうだ? 斬撃を防がれるのは僕の振りが遅いから。出が早い突きなら届くんじゃないか? 喉は的が小さいから失敗する可能性がある。あの巨体の喉だから一般のそれと比べたら大きいけど確実を期すなら的のでかい胸を狙うべきだ。
よし、それでいこう。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突きで致命傷を与えるには勢いがいる。
だから突撃。一直線に突っ込んでくるだけの存在だ。しかも向かうみたいにがたいがあるわけじゃない。そんなやつの突撃なんて微塵も怖くないはずだ。間合いに入った途端に合わせて薙ぎ払えばお終い。生憎僕は、そんな迎撃に対して体を捻って躱して攻撃なんて芸当は出来ない。せいぜい出来ることといえば身を低くして躱すことくらい。それも横薙ぎなら回避できるけど振り下ろされたりすると回避なんて出来ない。
賭けだ。
そんな僕の突撃に対するモンスターの対応は躱せない振り下ろしだった。
構うものか、どのみち止まれない。止まれば負けだ。このまま突っ切って相手より早く切っ先を届かせてやる!
体の奥の燃える感覚は一層激しさを増した。
爪が振り下ろされる瞬間、体制を低くした。爪が届くのがほんの少しでも遅れれば、と。
勢いのまま剣を突き出す。
ガリッと爪が背中を掠めた。ジンワリと熱が背中を広がっていく。浅いけど広範囲を掠めたようだ。
「くっ!」
「ヴォォォォアァァァァァ!?」
爪が背中を掠めたせいか、突き出した切っ先は狙いの胸から上にそれモンスターの左目を突いていた。
左目を突かれたモンスターは暴れる。
「うわぁぁ!?」
振り回され飛ばされた僕が握ってきた剣の切っ先にはモンスターの眼球が突き刺さっていた。
モンスターが暴れて振り回されたときに上手く抉れたらしい。
これは、好機。だけど、この一撃のために左腕の傷口は開きかけ、背中には浅いけど広範囲に傷を負った。
ジワリジワリと血が流れている。
それに、そもそも今日の依頼はミアさんの護衛。こいつを倒してもまだ帰りがある。
こんな強敵と出会うなんて思いもよらなかった。今ならミアさんを連れて逃げるチャンスだ。
「ミアさん、今のうちです! 逃げましょう!」
「は、はい!」
彼女の手を取り一目散にその場から逃げ去る。
前みたいに無計画にじゃなくて地図を見て確実に街の方へ。
「はぁはぁ、ここまで来れば。ちょっと落ち着ける、かな?」
「あ、あの、大丈夫なんですか? てっ、どう見ても大丈夫じゃ無いですよね!? えーと、えーと……」
僕の傷を見て慌てふためく彼女に「大丈夫、です」と返したけど力無いその返事は大丈夫じゃない。
「ポーションがまだありますから。ユグドラシルで買ったものだから効きますよ」
そういって残りのCランクポーションを全て飲み干した。
ほんの少し、体力が回復して痛みが和らいだくらいだけどないよりは断然マシだ。
ミアさんを不安にさせないためにもどうにか振り絞ってニカッと笑顔を作ってみせる。
僕の意思を汲み取って来れたのか彼女も「そうですね。よかったです!」となんとか不安を拭って先を急いだ。
道中ホーンビートルやワイルドラッドが出てきたけどもはや、そんな雑魚モンスターを倒す気力、体力は僕にはなくどうにかあしらってようやくグランデに到着した。
「依頼、達成です」
「ッ!? フォルトさん!? どうしたんですか、そんなボロボロで!? 早く治療を!」
ギルドに戻るとお姉さんが血相を変えて僕を奥に運んだ。そこで僕の意識は途絶えた。