声に出して、もう一度
初投稿です。よろしくお願いします。
バレンタインにはコンビニで買った板チョコをあげた。義理チョコの名目で渡すのに、きちんとラッピングされたものは気合いが入りすぎてるような気がしたし、ましてや手作りなんて重すぎると思ったから。そしてホワイトデーを翌日に控えたこの佳き日、今日は私が思いを寄せている先輩の卒業式だ。私はいつものような軽いノリで、チョコのお返しに先輩のネクタイをくださいと、お願いするつもりでいた。私達の学校では、卒業するときに恋人同士でネクタイを交換するのが流行っていて、私は最後のチャンスだと思って、先輩に告白するつもりでいた。
私と先輩は、去年から同じ委員会で一緒に活動していた。先輩はなんていうかとても明るくて、人気者で、そこに先輩がいるだけで場が明るくなる。言葉遣いが少し荒いところもあるけれど、面倒見の良さは人一倍で、そんな先輩の内面に皆が親しみを覚えているんだと思う。私もその中の一人で、一緒に過ごしていく中で親しみを通り越して、恋心を抱いてしまった。先輩はなぜかいつも私をからかってきて、二人でふざけあっている時間が私にとって実はかけがえのない時間になっていた。先輩も同じ思いでいてくれたら良いけれど、私のことはただのからかえる後輩としか思っていないかもしれない。今日は先輩の気持ちを確かめる最後の機会だ。はたして上手くいくだろうか。
式が終わった後、校庭で友達と写真を撮っている先輩を見つけて、私のドキドキが大きくなる。これが先輩との最後の会話になるかもしれない。後悔だけはしたくない。先輩が友達と別れて一人になったのを見計らって、私は勇気を出して声をかけた。
「先輩、ご卒業おめでとうございます。」
先輩は私に気付くとニカッと笑い、私と向かい合う。
「おう、ありがとな。」
先輩はそう言って、いつもみたいに私の髪をクシャクシャにする。本当は嬉しいくせに、「やめてください」って言いながら先輩の制服の胸元に目をやると、そこにネクタイは無い。すでに誰かにあげてしまったようだ。私、出遅れたのかな。それとも先輩には実は相思相愛の人が居たのかもしれない。私の気持ちがさっきまでとは違い急降下する。これはさすがに落ち込む。それでもそんな私の気持ちが先輩にバレないように、精一杯の笑顔を先輩に向ける。
「あ、そうだ。これおまえにやるよ。」
私が落ち込んでいるとは気付いていない先輩が鞄から出したのは、コンビニでよく売っているキャンディー一袋。私が受け取って袋を見てみると、そこには期間限定と書いてある。
「……なんですか、これ。」
先輩の卒業式にキャンディーを袋ごと貰う意味が分からない。私が聞くと、先輩は飄々として答える。
「ホワイトデーのお返し。ありがたく受け取っとけよ。」
そう言って無邪気に笑う先輩に、私はドキッとする。ネクタイじゃないのが残念だけど、お返しが貰えただけで嬉しい。私の気持ちは再浮上する。でも、
「……これ、封が開いてますよ。」
「ああ、それな。期間限定だし、変わった味も入ってるらしいからさ、一応味見しといた。ほら、おまえも食べてみろよ。結構うまかったぞ。」
そう言って悪びれる様子もなく笑顔を見せる先輩に、私は「もー」と言いながらキャンディーの袋の中を覗き込む。すると、
「えっ……。」
そこに入っていたのは、そこに入っていたのは、
「ネクタイ……。」
キャンディーの袋の中、制服の青いボーダーのネクタイが、色とりどりのキャンディーに埋もれている。信じられなかった。私は驚いて先輩の顔を見る。すると、先輩はさっきとは違い、とても優しい笑顔で私の頭に手を置き、今度はそっと髪を撫でてくれた。そして、そのまま手が首元まで降りてきて、私の赤いネクタイを手慣れた手つきでシュッと取った。それは、ネクタイの交換。……恋人の証。
「来年はさ、手作りチョコがいいかな。」
私は込み上げてくる涙を我慢して、先輩の顔を見つめる。重なる視線。通じる想い。私は今までで一番の笑顔を先輩に向ける。
「とびきり美味しいのを作りますね。」
先輩も私の顔を見て嬉しそうに笑う。そして、私の手から青色のキャンディーを一つ取り出して、私の口にコロンと入れた。
「どう?」
「……美味しいです。」
口の中にソーダのシュワッとした甘さが広がる。先輩からの贈り物は私の口と心に何とも言えない甘さを残した。これが私の恋の味。
「先輩、大好きです。」
「そういえば、おまえさ。ホワイトデーにキャンディー渡す意味、知ってるのか。」
「いえ、知らないです。何ですか。」
「……内緒だよ。」
「えー、教えてくださいよ。」
「スマホあるだろ。自分で調べろ。」
『キャンディー=あなたが好きです』