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序章 第5話 離れにて

リサが茜と一緒に「離れ」に泊まり始めた二日後の夜。



茜が部屋で忍びの道具の手入れをしている。そこへ風呂からあがったリサが浴衣姿で入って来た。


リサは毎日よく茜に話しかけていたため、もうすっかり二人は仲良くなっていた。


「ああ、いいお湯だった。日本のお風呂っていいですね。あ、それ忍者の」

「はい、こうしてちゃんと手入れをしないといざという時たいへんですから」

「聞いたんだけど茜さんって新選組でも一二を争う使い手なんだって?」

「それは言い過ぎです。隊には他にもたくさん強い人もいますし」

「自分より強い人がいる……、とは言わないんだ」


リサの言葉に茜はちょっと頬を緩めたがその問いには答えず、もくもくと道具の手入れを続けた。


「(けっこう強い人なんだな、この人) それじゃあ僕も」


そういうとリサは部屋の隅にあるカバンの中から古そうな書物を取り出し、何か呪文のようなものを呟きだした。


茜は不思議そうな顔をしてリサの方をみた。


「茜、リサ、入るよ」


そこへ弥太郎が部屋に入ってきた。


弥太郎もリサの見たこともない仕草を不思議に見ながら茜に、


「リサは何をやってるんだ」

「さあ……」


二人が不思議そうにみていると、その前でリサは部屋の机の上に円を描くように指を動かしはじめた。するとリサの指の動きに沿って小さな陣のようなものがあらわれた。


「それは?」


茜がリサにたずねると、


「これは警戒陣です。何か攻撃的な意識をもった者たちが近づいたら、すぐ感じる事ができるようにするものです」

「俺たちにも分かるのかい」

「この陣の色が赤く光りだしたら危険が近づいていると思ってください」

「これってもっと大きくできるのか、それこそ空に大きく広がるくらいの」

「できますよ。ただあまり大きくなるとただ光ってるだけになっちゃいますけど」

「いちおうできるのか。そりゃいいなあ。ところでリサ」

「何?」

「胸とか足とかけっこう開けてるけど大丈夫かあ? 俺はかまわないけど」

「あっこれ? 別に僕もかまわないですよ。相手が弥太なら」

「おいおい嬉しいこと言ってくれるね」

「リサさん、少しは恥じらいをもってください」

急に茜が不機嫌になった。


弥太郎とリサは互いの顔をみつめ思わず苦笑いをした。


「まあそう怒らないでくれよ。冗談だよ」

「別に怒ってません」

茜は無表情に道具の手入れを続けたが、その目は明らかに不機嫌だった。


弥太郎は茜の傍に行くと急に真剣な表情になり、

「ここからは真面目な話だが、茜、そっちの調べはどうだったい」

「はい、やはりひっかかるところがあります」

「そうかい、考えたくはねえがなあ」

弥太郎は沈痛な面持ちになった。


ふと弥太郎はリサの作った警戒陣に目をやると、さっきとは違う雰囲気をかんじリサにたずねた。


「おいリサ、俺にはすでに少し赤く光ってるようにみえるんだが気のせいか」

「気のせいじゃないよ。それにたまにうすくなったりするのがとても気になってるんだ」

「気になる? どういうことだ」


リサがそれに答えようとしたそのとき、遠くから呼子の音が聞こえてきた。

弥太郎は自分の口の前に指を一つだし、リサが喋ろうとするのを止めた。


そのうち呼子の音が大きくそしてその数が増えていった。


「またか」


弥太郎の顔が険しくなった。


「五銭組でしょうか」

茜が聞くと

「おそらく。佐賀屋さんがやられた時よりは時間が早いが……」

「あの一家を皆殺しにしたという」

リサがたずねると

「ああ、たぶんな」

「でも弥太郎さんは今度うちじゃないかと」


「たしかに。左衛門がやって来た時の口ぶりと茜の言う事からそうじゃないかと思ったんだが、ここがやられなかったのは茜がいたからかもしれねえ。こりゃいよいよ茜がいったとおりだな」


弥太郎は唇を噛みしめた。


「あいつら一文銭と四文銭を一枚ずつ置いて行って、自分達の仕業だと分かるようにしていくとこから「五銭組」と名乗っているんだが、ふつうなら「(もん)」と言うところを「銭」と「戦」をひっかけて、自分たちの行為を戦いと称してやがる。押し入った所を女子供まで皆殺しにするような、薄汚いただの人殺しの分際で、何が戦いだ」


弥太郎のそれを聞いたリサの瞳の色が一瞬赤くなり、


「許せない! ちょっと僕も頭にカチンときたよ。絶対全員捕まえてやるから。ところでさっき『茜さんの言うとおり』って言ったのは?」


リサは弥太郎にたずねた。


「話が外に漏れてるという事さ」


弥太郎が呻くように言った。


「前にも言ったけど、五銭組は押し入る前にその店に仲間を忍び込ませ、店の見取りや様子を探らせてるらしいんだが、じつは茜が以前ここにいた甚兵衛という番頭を調べに忍び込んだとき、妙な気配を感じたらしくて、ひょっとしてそれが関係あるんじゃないかと(うまく誘い込まれたと言ってたけど、あのときはそれに気をとられて甚兵衛にひっかかったんだろうなあ、茜は)」


「その気配の原因ってわからないの?」


リサがたずねると、

「まあ、まちねえ。ほんとは茜と連携してそれが誰なのかをしっかり確かめるつもりだったんだが、外に茜の存在が漏れてるとなると、こいつはそう簡単に尻尾は出さねえ。なにしろ茜の目を盗んで連絡をとったくらいだ、こいつは半端じゃねえ」

「じゃあやっぱりあの警戒陣の……、でもそうなるとあの微妙な光の変化は」

リサが言いかけると、

「茜、リサ、作戦変更だ。ちょっと耳を貸してくれ」


そういうと三人は声を殺しながら何事かを話し始めた。


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