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序章 第4話 雪女と吸血鬼

吸血鬼七大貴族のひとつセイバーズ家の末っ娘であり、最強の吸血鬼「アルティメット・ヴァンパイア」であるリサ・セイバーズは、明るく屈託のない、そしてちょっとナイーブな女の子。


そんな彼女が幕末期の京都にやってきた。第3話「異人さんがやってきた」からの続きです。

それから半時ほど過ぎた離れにて。



「まあだいたい話は聞いたけど、茜さんそれほんとかい」

「はい、黙っててすみませんでした」


「いやあ、どうりであのとき身体をいくら温めても冷たかったわけだ。それに以前京への道中で、俺にあまり近づこうととしなかったのも納得だ。しかし雪女の血をひいてるとは驚いたねえ。じゃあ朝のあのとき、キラキラした粉みたいに見えたものは」

「あれは、ちょっと……、ああやって細氷を出した方がみなさん綺麗にみえていいかなあと思って」

「気使ってもらってすまないねえ。じゃあ、ああいうのはしょっちゅうやってるんだ」

「いえ、私ひどい冷え性なんで普段はあまりやらないんです、ああいうの」

「えっ? 雪女の血統なのに」

「雪女といってもじっさいは母が雪女で、私はその血と技を受け継いだ人間なので。それに私はどちらかというと夏が好きですし、冬はいつも炬燵の誘惑に負けてますから」

「そうかい、じゃあよく言われる冬山で旅人を迷わせたり、眠っている人を凍えさせるというのは茜さんには無理だな」

「もちろんです。そんなことしたら私が先に凍えちゃいます。それにあれは迷信です。雪女はふつうそんなことはしません。雪山で迷いそうになった人を安全な所に手招きしたり、眠ると死んでしまいそうな人を起こそうとするくらいです」

「なるほどな (その迷信がなんで出来たかは分かった気はしたけど)」


「それ僕らにもいえる」

頷きながらリサも相槌をうった。


「そういうリサも人じゃないんだって」

「うん。僕はセイバーズ家という代々吸血鬼の一族のものです」

「セイバーズ、母から聞いたことがあります。たしか七大貴族のひとつで、吸血鬼の名門ですよね」

茜がリサに言った。


「あっ、知ってるんですか。嬉しいなあ。もっとも名門といっても長い事続いてるというだけなんだけどね」


「リサさん。ひとつお聞きしたいのですが、吸血鬼というと人の血を吸って自分たちの仲間を増やすと聞いたことがありますが、まさかそれで日本に」

茜の目が一瞬厳しくなった。


「あっ、それが僕のさっき言った迷信のことです。婚約者をつくる時なんか吸血行為をするけど、ふだんはそんなことしないです。だって仲間つくって吸血鬼どんどん増やしたら世界中吸血鬼だらけになっちゃいますし」

「たしかに……」

「それに人の血を吸ってたのは中世の頃の食糧不足が深刻な時くらい。それも吸血行為で相手が吸血鬼にならないよう量を減らしてやってたくらいですから。今は食事にも事欠かないしもっと美味しいものもたくさんあるし。僕なんかうまれてこのかた吸血行為なんてほとんどしたことないですよ。それにあれあまり美味しくないです、実際」


「ほとんどって……あるんですか少しは」

茜はちょっと心配そうな顔になった。

「ありますよ。といっても山で毒蛇に噛まれた女の子から血を吸い出した時くらいですけどね。僕は」


茜はホッと胸を撫でおろした。


「それでも吸血鬼なんだ」


弥太郎が言うと、

「看板に偽りありですけど」

とリサが答えた。


「じゃあなんで日本なんかに来たんですか」


茜がたずねると、


「留学です。 僕の家は若い時に自分の好きな国に留学するという決りがあるんです。ただ留学といってもほとんど旅行みたいなものですけど。日本を選んだのはなんか美しくて面白そうな国にみえたからで、富士山とかお城とか着ている服や髪型も変わってるし。それにカエルとウサギが相撲をとってるという絵がとても可愛くて。あれ、実際動いたり喋ったりしたらかなり楽しいですよね」


「(なんだそりゃ) で、来てみて実際どうだった」


「はい最高です。なにもかもとても新鮮で。それに景色もいいし食べ物もおいしいし、何よりみなさん親切にしてくれるし。でもなんでこの国では女の人ばかり僕に親切にしてくれるんだろう?」

「そりゃリサが男前だからだよ」

「えっ、そうなんですか。僕、向こうではぜんぜんでしたよ」

「ほお、そうなんだ」


「僕達吸血鬼の女性は、髪の長さで魅力の価値が決まっちゃうんです。僕、何故か全然髪が伸びなくて、いくら頑張っても襟足どまり。だから一族の舞踏会へ行ってもいつも僕だけひとりぼっち。まあそれも留学するきっかけだったんですけどね。

あーあ、僕も茜さんみたいな綺麗な長い髪になりたいなあ、いいですよね、そうやって後ろで束ねるの。うらやましいなあ」


「そ、そうですか?」

茜はちょっと恥ずかしそうな顔をした。


羨ましそうに茜の黒髪をみつめているリサに弥太郎は、


「しかしけっこう苦労したんだなあ。それでこっちではそのへんはどうなんだい」

「日本に来た時も最初の頃はやっぱりすごく怪訝な顔されて、ああやっぱり僕はどこでもこうなんだって。そう思って歩いてたら弥太さんに声かけられて」

「そうそう、なにしろ異人の娘さんが、ひとりで暗い顔してとぼとぼ歩いてるから道にまよったんじゃないかと思ってね。それで声かけたってとこかな」

「あの時弥太の僕に言ってくれた『大丈夫ですかお嬢さん』という一言。あれ嬉しかったなあ。それでその後知恩院や清水寺に行って、それに八つ橋とかも食べさせてくれて……」

「あっ、それ私もです。昨日いろいろと案内してもらいました。同じ所ですね行ったの」

「いや面目ねえ。そのあたりしかふだん行かねえもんで」

「でもおかけで今では、もうこうしてあちこち出歩いてます。最近は行くとこ行くとこでみんなとても親切にしてくれて、もうほんとうに毎日楽しいです」


「よかったですね。日本に来て」

茜が微笑むと

「はい」

と、リサは元気よく応えた。


三人はそれからいろいろな話に花を咲かせた。



それからしばらくして、


「ところでリサ、おめえ今どこに泊まってるんだ」

「ここから少し離れた「与板屋」さん」

「もしよければ今日からここに泊まってもいいぜ。宿賃もバカにならねえだろ」

「えっ、いいの。というか、弥太は僕が人間じゃないと言われて怖くないの?」

「そんなの関係ねえだろう。リサはリサじゃないか。それにリサが来てくれるとにぎやかでいい。どうだろう茜さん。ここで一緒でも」


「はい、そうしてくれるとむしろ助かります。さっきリサさんは自分のことを『アルティメット・ヴァンパイア』って言ってましたけど、確か昔『アルティメット・ヴァンパイア』は一人で大勢の軍隊にも勝てるほど強いって聞いたことがあります。そんな『アルティメット』さんに力を貸してもらえるなんて大助かりです。あと弥太郎さん、これからは私も茜でけっこうです」


「おうわかった。しかし茜がいうんだからこれは心強いなあ」

弥太郎はとても嬉しそうな表情で二人をみつめた。


(弥太ってほんと変わってるな。人間じゃないとか吸血鬼とか聞いても全然なんだから。でも嬉しい。やっぱりこの人は僕が最初感じたとおりの人だ。

それにしても要さんも『アルティメットさん』って……、『アルティメット・ヴァンパイア』と聞いて喜ばれたのなんて初めてだよ。ふつうはみんな怖がるのに。それに助かる? 力を貸す? って、いったい何の事だろう)

リサはちょっとここの部分に首をひねっていた。


「リサ、じつはひとつ頼み事があるんだが」


弥太郎のそれに、

「いいですよ、僕とにかくけっこう使えますから、それに魔術も少しできますし」

「魔術かあ。聞いたことがあるが、ありゃなかなか便利らしいからなあ、けっこう助かるわ。じつはなあ」


そういうと弥太郎は茜とともにリサに話はじめた。


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