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花々の秘密  作者: 遊々
3/4

名もなき花の場合①

 私の友人は、とても可愛い。

 愛嬌のある顔は可愛いし、可愛らしい仕草や表情をする。身長は小さくて、それを気にしている所も可愛い。真面目で、スカートを短くしたりしないで校則に(のっと)り規則正しく制服を着こなしている所も可愛い。陸上部に入っているので肌が焼けてしまうのを気にしている所も可愛い。


 そんな可愛い友人は今、少しだけ憂鬱そうな顔をしている。

 私は彼女がそんな顔をする理由を知っている。なので何食わぬ顔で次の時間の準備をしていると、隣の席に座っている彼女はいつものように私に話しかけてきた。


「次の時間は数学だね。苦手なんだよねー数学って」


 数学が苦手な彼女は、次の時間のことを思って沈んでいるらしい。そんな所も可愛い。

 この顔をもっと見ていたいけど、この顔以上に見たい顔があるので頃合いをみて、私はいつもの魔法の言葉を唱える。


「大丈夫だよ。分からなかったらあとで教えてあげる」

「いつもありがとう!助かるよー」


 私がいつものように助け船を出すと、眩しいくらいの笑顔を見せてくれる。

 ああ、本当に可愛いなぁ。


 私は数学が好き。数学が好きというよりは、数学の時間の前の休み時間が好き、といった感じだけど。

 だって魔法の言葉『あとで教えてあげる』を唱えれば、彼女が一等可愛い笑顔を見せてくれるから。


 別の彼女と仲の良い友人が彼女の席の近くにやってきて会話を始めれば、彼女は数学のことなどさっぱり忘れて話すのに夢中になっている。

 楽しそうに笑う顔が、本当に可愛い。


 私と彼女は友人だけれど、それなりに親しい友人という関係だ。だから彼女と私が会話をしても、彼女はあんな風に楽しそうに笑うことは少ない。

 だけど、別に構わない。彼女が楽しそうに笑うのであれば、彼女を笑わせるのは誰でもいいの。彼女が楽しそうであることが大切だから。

 私は彼女が笑うのを見られれば、それで十分なのだ。


 休み時間が終わりに近づき、彼女の友人は席に戻っていった。

 すると彼女はまた憂鬱そうな顔をして、小さくため息をついた。こないだの小テスト、点数が悪くて落ち込んでいたものね。力になれなくてごめんね。

 彼女がこちらを向き、小さな声で私に話しかけてきた。


「授業が終わったら、分からなかったところ聞いてもいいかな?」

「もちろん。次の小テストで良い点取れるように協力するよ」

「ありがと!いつもごめんね、小山さん」

「気にしないで。私も復習になって丁度いいし。私こそこないだのテストで力になれなくてごめんね、青木さん」

「そんなことないよ!せっかく教えてもらったのにこっちこそごめんね。部活で疲れて復習怠ってたら酷い点数になっちゃったんだー」

「あはは、そうだったんだ。じゃあ次は頑張って良い点取れるといいね」

「うん!」


 嬉しそうに笑う彼女が、私はとても好き。

 彼女が笑うたびに胸が高鳴って、「小山さん」と名字を呼ばれるたびに普段は得難い幸福感を感じる。


 あなたが好きよ。

 名字で呼び合う関係で、あまりあなたと話す機会はそう多くはないけれど。

 それでもあなたが笑った顔が、とても好きなの。


 次の日の数学の時間を待ち遠しく思いながら、私は数学の教科書を開いた。



こういう小話が書きたかった。

「名もなき花」シリーズは多分、沢山投稿します。

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