忉利天宮神通品第一 (前編)
如是我聞一時佛在忉利天爲母説法…
私ゃあこのように聞きますた。
あるときブッダ(コータマ=ブッダ、釈迦牟尼仏)は、忉利天に行って、そこに生まれ変わっていた元母親のために法(真理に関する教え)を説明していた。
えーと、ターヴァティマーサこと忉利天とは。
むかし、地球……仏教で言う娑婆(しゃば)世界は、平面でその中心に須弥山、日本では「須弥山」とか「愛宕山」等と呼ばれる標高5千6百万メートルの山があると考えられていました。
須弥山の頂上は5万6千キロ×5万6千キロの広さがあり、そこにあるだだっ広い城邑「善見城」に、帝釈天(たいしゃくてん)をはじめとする三十三天(地居天)が住むとされていました。
このエリアを忉利天とも呼びます。
その住人の身長は約7千メートル、寿命はおよそ1千歳との由。
ブッダの母親・摩耶夫人は亡くなってからここに転生していたそうで、ブッダはあるときこの世界に上り、三ヶ月間、滞在して説法したとされています。
……ホンマか、って? わたしゃ知りまへん。
でもまあともかく、このお経の内容はその時の一エピソードということになっています。
どうしても「嘘っでぇ~」と思ってしまう方は、このお話を「古代人の考えた厨二っぽい設定のファンタジー物語」と思し召してお楽しみください。
逆に「なんだかわけわかんねーけど仏典だから信じるぜ、ありがたやありがたや~」とか思っちゃってる方は、各所に脚色や省略もありますから、あくまで「古文献をアレンジしたおばか小説」と心得て読んでくださいませ。
さて、そのとき、十方……東西南北の四方にその間を入れて八方、それに上と下を足したものが十方……早い話がありとあらゆる方向からということですな。ともあれ十方から、いろんな方々が忉利天に集まっていた。異世界で悟りを開いた別のブッダ(普通名詞)たちや、これから悟りを開く菩薩(悟りを求める修行者)摩訶薩(偉大な修行者)たちだ。
みんな、釈迦牟尼(シャキャ族の聖者)ことゴータマ=ブッダの、五濁の悪世に不可思議な智慧と神通力を現し、頑なに迷い続けようとする衆生(生きとし生けるものすべて)たちに苦と楽の法則を教えている活動を賛嘆していた。
それぞれは侍者、つまり身近な愛弟子を遣わし、ゴータマ=ブッダにいろいろと質問していたが、そのとき如来(そのように来てそのように去る者=ブッダの敬称)がニパッと笑うと……
百千万億の光明を放つ巨大な雲が発生した。
いわゆる、大円満な光明雲、大慈悲の光明雲、大智慧の光明雲、大般若の光明雲、大三昧の光明雲、大吉祥の光明雲、大福徳の光明雲、大功徳の光明雲、大帰依の光明雲、大讃嘆の光明雲、が。ちょっと説明もできないようなこういった光を放って、光明雲が現れたのだった。
しかも、光だけでなく、すばらしい音も発していた。
いわゆる 檀那波羅蜜(布施……与えることを完璧に行う)の音、尸羅波羅蜜(持戒……戒律を完璧に守る)の音、羼堤波羅蜜(忍辱……耐えることを完璧に行う)の音、毘離耶波羅蜜(精進……努力を完璧に行う)の音、禅波羅蜜(禅定……瞑想を完璧に行う)の音、般若波羅蜜(智慧を完璧に得る)の音。
布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智慧……この六つをより完璧に行おうとする(波羅蜜多(はーらーみった))ことで悟りを開いてブッダ(普通名詞)になろうという、六波羅蜜という大乗仏教の修行法ですね。それを思わせる音がした、というお話。
あっと、まだ音は続いてます。
慈悲の音、喜捨の音、解脱の音、無漏(無欲)の音、智慧の音、大智慧の音、獅子吼の音、大獅子吼の音、雲雷の音、大雲雷の音。
もう説明できないような、こういったさまざまな音を雲が鳴らした。
娑婆世界、つまり我々のいる地球の外からも、無量億の天龍鬼神がこの忉利天の宮殿に集まっていた。
いわゆる、四天王レベル、それより1レベル上の忉利天、さらに上の焔摩天、兜率天、化樂天、他化自在天、といった「欲界」の天人たち。
それから次に、欲望や迷いのない「色界」に入りまして……いちいち説明してると長くなるし筆者もこの先はあんまり知らないから名前だけ。(興味あったらぐぐってみて;)
初禅三天こと梵衆天、梵輔天、大梵天。
二禅三天こと、少光天、無量光天、光音天。
三禅三天こと、少淨天、無量淨天、遍淨天。
そして四禅九天こと、福生天、福愛天、廣果天、無想天、無煩天、無熱天、善見天、善現天、色究竟天。
さらにその上の摩醯首羅天から、色界より上の無色界の一番上にある非想非非想処天(別名:有頂天)までから、一切の天衆龍衆鬼神等が、みんな来て集ってた。
これらの天界の含まれる娑婆世界にかぎらず異次元の地球からも、海神、江神、河神、樹神、山神、地神、川澤神、苗稼神、昼神、夜神、空神、天神、飮食神、草木神……まあそういった方々もみんな集まっていた。
娑婆世界にかぎらず異次元の地球からもすべての大鬼王……つまり地獄の支配者ですな。いわゆる惡目鬼王、吸血鬼王、吸精氣鬼王、胎卵鬼王、行病鬼王、攝毒鬼王、慈心鬼王、福利鬼王、大愛敬鬼王、そういった鬼王たちもみんな集っていた。
そのとき、みんなの前で釈迦牟尼ブッダが文殊師利法王子菩提薩多、略して文殊菩薩に言った。
「文殊くん。この世や他の世、この国や他の国からこの忉利天に集まってきた、全てのブッダや菩薩たち、天龍鬼神たちみんなを見てみてよ。なんていうか、数え切れないね」
文殊菩薩が答える。
文殊「世にも尊い方、私が神通力を使いつつ千劫という長い時間をかけて数えたとしても、ちょ~っと数え切れないでしょうな」
1劫というのは、48兆2千億年以上という、とにかく想像を絶する長い年月です。その千回分を使っても数え切れないのか……。
さて、ブッダ(固有名詞)は文殊菩薩に言った。
釈迦「うーん、私の仏眼をもってしてもちょっと数えつくせないかもね、こりゃ。ところでこの人たちね……もう救われた人も今ちょうど救われてる人もこれから救われる人も、もう悟りを開いた人も今開いてる人もこれから開く人も……実はみんーな、地蔵菩薩に救われたひとたちなんだョ」
……はい???(汗)
文殊菩薩が答えた。
文殊「世尊ってば、もぉ~……たしかに私なら、遠い過去から善根を積んで修行して『疑いのない』と呼ばれるレベルの悟りを開いています。だから今、世尊の言われたことを聴いて『あッ、そういうことネ! うんうん、なるほどぉ♪』とすぐ理解できました。
文殊「だけど、声聞などの小乗の悟りしか開いてない者や、天龍八部のみんな、それに未来の世界の衆生たちは、たとえ如来の誠実な言葉としてもそんなことを聴いたら疑惑を持つでしょう。そうすると、世尊の言葉を正しく伝える者ほど他の人たちからの誹謗を免れられなくなってしまいます。
文殊「そこで、お願いします世尊。偉大な修行者・地蔵菩薩とは、どんなきっかけでどんな修行をし、どんな願を立て、どんな不思議なことを成就するのか、みんなにもわかるように説明してくださいませませ!」
ブッダは文殊菩薩に言った。
「たとえばネ、地球三百万個分の世界が、草木、草むらに林、稲、麻、竹、葦、それに山の石から小さな塵ひとつまですべてひとつひとつを所有しているように。地蔵菩薩はね、ガンジス河の砂の数(1000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000)くらいの世界のひとつひとつで、1劫の間に積もった塵の数をさらに自乗したくらいの劫の、さらに千倍くらいの劫の昔に、「十地の悟り」を開いたんだ。
「なのにどうして、そんな地蔵菩薩が声聞や辟支佛などの小乗の悟りを開いた人たちになってるのかというとね、文殊くん……」
「この菩薩の立てた誓いがね、不可思議なんだよ~。
「もし、未来の世界に善男子や善女人がいて、この菩薩の名前を聞き、あるいは讃嘆したり礼を尽くしたり、あるいは名前を唱えたり供養したり、あるいは絵を描いたり姿を彫刻したり塑像を作ったりするとね、その人は、百回生まれ変わる間、三十三天に生まれて、悪道(地獄&餓鬼&畜生)には堕ちることがないんだよ
「文殊くん、この偉大な修行者・地蔵菩薩はね、説明もできないくらい久遠の遠い過去に、ある大長者の息子に生まれたんだ。そのときその世界にちょうど一人のブッダが現れててね。ブッダは名前を『師子奮迅具足萬行如来』っていったんだけど。長者の息子がそのブッダのとんでもなく荘厳でカッコイイ姿を見てしまい、
息子『どんなことしたらそんふうにカッキーくなれるんでしょうか?』
って質問をしたんだ。で、師子奮迅具足萬行如来が言うには、
如来『こんな風になりたければな、永遠に近いくらいの長期間にわたり、苦しみを受けてる衆生たちを救い続けなきゃならんのさ。ハンパなこっちゃないぞぉ~?』
「でもね、文殊くん。このとき、長者の息子は願を立てたんだ。
息子『では私はこれから、未来が終わるまでの計ることもできない長い期間、罪を犯して六道(天界/人間/修羅/畜生/餓鬼/地獄)を輪廻転生している衆生たちを、方便を説いて広く片っ端から解脱させ、それが終わるまで自分は成仏(=究極の悟りを開いて楽になる)しません!』
「このように、ブッダの前で大願を立てちゃったんだ。
「それから地蔵菩薩は、千×万×億×那由他つーか、もう説明できないほどの多数の劫の間、ずーっと菩薩(究極の悟りをまだ開いてない修行者)のままでいるんだよ。
「でも、それだけじゃなくってね……
- つづく! -




