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『目を瞑って』


言われた通り目を閉じる。


『良いって言うまで開けないで……いいよ』


眠りから覚めたあとに似た、長いような短いような感覚だった。


目を開くとそこはいつもと変わらない私の部屋で


「…本当に違う世界なの?」


疑いたくなるほど変化がなかった。


「ねえ」


返事はない。

ワープしたからあの人と連絡が途絶えた?

憶測は所詮憶測に過ぎない。

とにかく、何か変化がないか周りを探ってみよう。


家具の位置、カーテンやベッドカバーの柄、カレンダーや筆記用具まで全て同じだ。

元いた世界と何一つ変わらない。


「朱夏ー!ごはんできたよー」


一階から母の声が飛んできた。


「はーい!」


夢を見ていたのかもしれない。

そう思って階段を駆け下りた。



「…これ」


夕食を食べながら、ふと見たニュースに視線が釘付けになる。

このニュース、1週間前のだ。


「また殺人?最近多いよね」


他人事だと割り切った母の一言も


「ここ割と近いよ」


少し警戒する父の声も


「今日集団下校だった」


1日の出来事を話す弟も


みんな1週間前と全く同じだ。

やっぱりあれは現実なの?


「ねえ、今日何日だっけ」


我慢できずに尋ねた。


「10月7日。朱夏記憶力だいじょーぶ?」


弟の軽口にムッとすることすらできなかった。

本当に1週間前だ。

それだと世界を移動するだけじゃなくて、タイムスリップもしてることになる。

そんなことあの人に言われなかった。

それに声も聞こえない。


これ大丈夫なのかな…


急に不安に襲われて食欲も失せてしまった。


「今日ちょっと体調悪いかも。お風呂入って寝るね」


気づけば家族にそう告げ、部屋に戻っていた。


混乱から抜け出せない。


本当に、別世界に来てしまった。

今の所身体に異常はないけれど、あの人の声が聞こえない時点で異常に気づくべきだった。


『あんた私がいないと何にもできないの?』


脳内にあの声が響く。


「…いた」


『ワープするとちょっと不安定になるの』


そう淡々と告げる口調に安堵すら感じる。


「…本当に、別世界なの」


『そうだよ。あんたが来たいって言ったんじゃない』


「それはそうだけど」


なんか、いたらいたで煩いような。


『はいはい、じゃあ消えるから用あるとき呼んで』


こっちの考えは筒抜けだということを忘れていた。


「あ、待って!名前、あるの?」


呼ぶなら名前が必要になる。


『名前?そんなのないよ、好きに呼べば』


「じゃあ…魔女」


実体が無くて本質も掴めない感じが魔女っぽいと、最初から思っていた。


『魔女?バカにしてんの?まあ何でもいいや、じゃあね』


ふっと魔女の気配が消えた、気がする。


「…現実なんだ」


まだまだ分からないことだらけの

私のパラレルワールドライフが始まった。


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