声
「…好きです」
「ごめん、好きな人いるから」
西原 朱夏、17歳。
初恋にして初失恋を経験しました。
お相手は学年1イケメンと謳われる、和谷 紘翔。
同じクラスで隣の席で、周りからも羨ましがられるくらい仲良くなれたのに、まさか好きな人がいるなんて思いもしなかった。
それじゃあいくら頑張っても彼女になんてなれるはずがない。
「あーあ、コレ意味ないじゃん」
今朝近所の神社で購入した [恋愛成就] と刺繍された御守りを指先でくるくると回す。
「高かったのになー」
失恋した女子高生らしく、学校の屋上に出て寝転んだ。
『彼と付き合いたい?』
不意に聞き覚えのない声が脳内に響く。
「…え?」
誰?
周りを見渡しても誰もいない。
『これはあなたの頭の中に直接話しかけてるの。もし彼に好きな人のいない世界があるとしたら、そこへ行きたい?』
女性の、それもかなり色っぽい声で、確かに謎の声の主はそう言った。
どうやら私の考えは筒抜けらしい。
「行きたいに決まってる」
普段なら馬鹿馬鹿しくて信じられないことも、今ならすんなりと受け入れてしまえる。
失恋のショックで思考回路が麻痺しているのかもしれない。
『いいよ、連れて行ってあげる。その代わりに代償をもらう』
「代償?」
まさか寿命が縮むとか言われるのだろうか。
さすがにそれは聞き入れ難い。
「そんなもの取ったりしない。私が欲しいのはあなたが元いた世界、つまりこの世界」
この世界…
「あなたにあげたらどうなるの」
『なくなるよ。もうここへは帰って来られない』
なくなるの?
両親がいて友達がいて、好きな人がいて、平凡ながらも楽しく過ごすことができたこの世界が?
「…それは」
『心配しなくても、他の世界も基本情報は変わらない。あなたは西原朱夏で、両親と弟がいて、私立高校に通ってる。ただ違うのは和谷紘翔に好きな人がいないことだけ』
それなら…アリじゃない?
軽率にも私はその声の主に
「いいよ。この世界をあげる」
と答えてしまった。
私1人の独断で世界をひとつ消してしまった。
その事の大きさに気づくのは、まだまだ先の話だけれど。