表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

第6話 実力

 昨晩は爆発物の処理に明け暮れていたためすっぽりと頭の中から抜け落ちてしまっていたが、話を戻そう。


 話とは勿論、魔剣についてである。

 老店主の営むこじんまりとして寂れた武具屋の中で、明らかに異彩を放っていたあの剣。

 普通なら、黄金二十両はいささか値が張り過ぎていると感じるかもしれないが、あの存在感を目の当たりにすれば相応の値段だと納得せざるを得ないだろう。


 そう、金額自体は俺も適正だと思っている。

 だから問題は、その黄金二十両をどうやって用意するかというところに帰結する。

 うだつの上がらない、まともな稼ぎのない剣士である俺が、だ。




 ここで改めて俺、即ち真緋路烈まひろじれつという人物について軽くおさらいしておこう。

 俺はこの世界を大きく五つの大陸に分断している広い海原のほぼ中心に浮かぶ島国、和の国の、小領主が治める辺境のお世辞にも都会とは呼べない町に十七年前に生まれてこの方ずっと暮らしている。


 前述の通り俺は剣士……なのだが、剣士というのは身分でも職業でもない。

 言うならば自称しているだけのただの肩書きみたいなものである。

 そのため職掌は特に存在しないが、代わりに安定した稼ぎもない。

 僅かにある収入といえば、近隣に出現する魔物や猛獣を狩って肉や皮を売りさばくくらいだが、大した額にはならない。


 時宗などはとなり町に支部のある冒険者ギルドなるものに登録し、お使いや迷子探しから傭兵まがいの荒事関係まで何でも手広く請け負っているらしい。

 だが俺はそこまで色々とはやっていない。


 にもかかわらず食うのに困っていないのは、親がそれなりに上手くやっていって羽振りのいい商人であるためだ。

 むしろ平均より豊かな暮らしをさせてもらってすらいる。


 だが普通、和の国の一般家庭においては十七歳の男児ともなれば一家の稼ぎ頭であるのが当たり前だ。


 要するに、俺はいい年して親におんぶに抱っこの情けない男というわけである。

 迷惑を掛けている自覚はあるし、両親や許嫁であるはるかにもそろそろまともな稼ぎのある職に就けと諭されることもある。

 金の勘定の仕方を勉強して家業を手伝い、ゆくゆくは後を継いで商人になれとか。

 どうしても腕っ節でのし上がりたいと言うのなら我が家には法弓を買う金もあるのだから剣など捨てて弓術士に鞍替えし、伊予里の家に婿入りして武士にでもなれとか。


 彼らの言い分はもっともだし、口だけでなくありがたいことに必要な資金やポジションまで用意してくれている。

 それでも首を縦に振らないのは、あくまで剣士として弓術士にも勝てる力を得て、いつか会った時にほのかに認められたいという漠然としているがそれでいて強固な目的と意志があるからだ。


 意志はあるが腕の方は伸び悩んでいる。

 そんな時に舞い込んできた魔剣の話。

 行きはちょっと見てやるか程度のつもりだったのが、いざ目にしてみればそれを手にしたいという強い思いが頭の中に湧き上がってきた。


 だがまあ当然といえば当然なのだが、俺には黄金二十両を自腹で用意することなど出来ない。

 代わりにあるのは親の金。

 頼んだとしても気前よく渡してくれるような都合の良い展開とはいかないだろう。


 取り付く島もなく拒否されはしたが、武具屋の老店主の手前では説得するから待ってくれとうそぶいてみたりもした。

 だが現実問題として、基本的には優しく甘やかし気味でも内心では俺の今の生き方を快くは思っていない両親のことを、口下手な俺が上手く説き伏せられる光景は想像もつかない。


 というかそもそも、だ。

 魔剣なんてものを親の金で買って、そこに封印されている魔族とやらの力を己が物としたとしよう。

 そしてその力を操り、今まで散々辛酸をなめさせられた弓術士共を相手取って見事勝利を収める。


 なるほどその時の美酒の味はさぞ素晴らしいものだろう。

 しかしそんな、親の脛を齧って得た魔族の力、身も蓋も無い言い方をすれば借り物の力によって掴んだ勝利が、果たして本当に俺の目指しているものなのだろうか。


 違うのではないかと、俺は思う。

 少なくとも、俺がかつて憧れ、目指した人――伊予里仄いよりほのかは純粋に、己の力のみで戦っていた。

 仄は天才で、俺よりも遥か高みにいる。

 きっとは今は昔よりもっと強くなっていることだろう。


 でも、いくら仄が遠いところにいるからといって、そこに追いつくために親の財力と魔剣の能力という、借り物の力に頼り切ったままでは彼女は俺を認めてくれないように思う。

 

 ならばやはり、今回の話は無かったことにするしかないか。

 小狡い手段には頼らずに、あくまで己の実力で、一歩一歩前進していこう。

 未だ後ろ髪を引かれる思いが無いわけではなかったが、どうせ買う金も自前で用意することすら無い。

 だから未練は胸の内に秘めておくことにした。


~~~


 昼過ぎ、昨日は遠出をしていたため行けなかったが、今日は特に予定もないので弓道場へと向かう。


「頼もおぉぉう!」

「おっ、今日は来たのか」

「てっきり新入りに負けたのがショックでとうとう諦めたかと思ったぞ」


 いつものように乗り込んでいくと相変わらず緊張感のかけらもない応答をされる。

 俺の襲来に気付くと、いつものように道場の両脇に捌けて立ち合いのためのスペースを作る面々。


「さて、昨日お前が来ない間に改めて思ったんだがな」


 不意に、門下生の中の仕切り役が一歩前に出てきて何かいつもとは違う調子で切り出してきた。

 何故かは見当もつかないが、何となく道場内の空気がいつもと違う気がした。


「お前がいないと思いの外俺達の鍛錬が捗るんだ」

「……なんだと?」


 一言目に不躾なことを言われ、流石にムッとする俺。


「そうかっかするな。そもそも今までの約二年間、

 俺達の誰を相手にしても一度も勝ったことのないお前に、

 馬鹿正直に付き合ってやっていたということの方がおかしな話だと気づいたのさ。」


 確かに今まで毎日のようにここに道場破りと称して押し掛けてきた俺を、彼らはからかいこそすれ嫌な顔一つせず相手にしてくれた。

 けど結局それは、俺が彼らの寛容さに甘えていただけで、彼らにとっては何のプラスにもなっていない雑務にも近い面倒事だったのだろう。

 その事実を久々の俺の不在をきっかけとしてようやく自覚した彼らは、とうとう付き合いきれなくなったといったところか。


「でもなあ、別に俺達はお前が嫌いってわけじゃないんだよ。

 だから条件を付けることにした」

「条件?」

「今ここで、この道場で一番弱くて落ちこぼれの三瓶太に勝って見せろ。

 そしたら明日からも相手してやる。

 だがこの期に及んで一番弱い奴にも勝てないのならもうお前の《《道場破り》》には付き合わない。

 二年もの間全く進歩してない無能ってことになるからな。

 流石にそんなのにこれ以上俺達の鍛錬の時間を割くことは出来ない」


 反芻する俺に対し、条件とやらを突きつける仕切り役の男。

 その口調は強い物だったが、悪意のようなものは感じられなかった。

 条件と言うのも大分譲歩してくれているし、彼の指摘についてもごもっともなことで、耳が痛くなる。


 何だかんだでお人よしなのだろう。

 だがそれも、負ければ今日までというわけだ。


 確かに俺は今まで一度も勝ったことが無いが、ひたすら積み重ねた敗北の中で少しずつ経験を積んでいる。

 現に、負けはしたが立ち回りはマシになっていた、あと少しで勝てた、剣を掠めることは出来た、という状況だって何度もあった。

 要するにあと一歩のところまでは来ているのだ。

 ならばそのあと一歩を今日踏み出せばいい。

 相手はあの落ちこぼれの弓術士として町中に名の知れていて、一昨日入った新入りにすら劣る三瓶太だ。

 やってやれないことはない。





 で、俺は自分でも驚くほどあっさりと敗北した。

 初撃すら、避けれなかった。

 三瓶太の放った弓術は、特別弾速が速いわけでも、威力が高いわけでもなかった。

 それなのに何も出来なかった。

 開始と同時、モロに攻撃を受けて、床の上に大の字に転がっていた。

 

「ま、それがお前の実力ってことだな」

「やっぱ才能無いんだべ、真緋路まひろじは。

 昔いた……仄だっけ? あの人とは違うんよ」

「そうそう、これに懲りたら家業を継ぐなり弓術士に転向なりするんだな」


 倒れ伏す俺に対して、好き勝手な言葉が投げ掛けられる。

 だがその声色は馬鹿にしているものではなく、励ますような、諭すような、暖かみすら感じさせる調子だった。


 面倒になったというのもやはり事実なのかもしれないがそれは恐らく建前でもあったのだろう。

 本当の目的は、現実の見えていない馬鹿な俺の目を覚まし、身の程を弁えさせて道を正してやる、というところにあったのかもしれない。


 そんな彼らの暖かさは思惑通り俺の実力とやらの限界を浮き彫りにするとともに、敗北した俺の心をより一層惨めなものにした。


~~~


 己の実力で一歩一歩、なんて決意をして早々に、自らの考えが愚かで甘いことを思い知らされた。


 剣士としての俺の腕前は、仄がいなくなった後に師事した剣道場で、じーさんから技や型を一通り伝授された時にとっくに頭打ちになっていた。

 そんなことは自分でも重々承知していた。

 だから弓道場での道場破りという形式で実戦経験を積み、己を伸ばしていこうと思っていた。

 だがその二年間も、全く意味が無かったことが今日になって証明されてしまった。

 仕切り役の男も言っていたように、俺は二年間全く進歩していない無能だったというわけだ。


 才能が、無いのだ。


 勿論仄のように、生まれながらの天才剣士などではないという事実は身に染みて理解していた。

 何せかつては俺が一番近くで彼女の剣を見てきたとも言えるほど、ずっと仄の後を追いかけていたのだから。


 それでも、彼女との生来の力の差は絶え間ない努力で縮まると、そしていつかは埋まると思っていたが、結局その考えは甘かった。


 俺は、弱い。

弓術世界の魔剣使いをお読みいただきありがとうございます!

この小説は現在カクヨムというサイトでも連載しているのですが、現在はそちらがメインで活動しているので更新ペースが速いです。

ですので続きが気になった方はそちらの方でもお読み頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ