EP1 英雄達のその後、英雄団地物語 ③
「いや、ホントすみません。」
「謝って済むレベルじゃないっすよ。」
勝手に柳生達の船に乗ったルイコは船内の牢屋に入れられていた。
十兵衛達は政府の特殊部隊で、エジソンが反重力装置とステルス迷彩機能をつけただけで、この船は政府の所有物で、なんの許可なく勝手に乗り込んだら牢屋に入れられて当然である。
「今から大事な仕事だって言うのに、勝手に乗り込むとか」
「すみません、すみません!」
余りにも暇だったのと、英雄団地の人達以外の強さをみたいが為に船に乗り込んだルイコは自分の身勝手な行動の結果に反省し、土下座をする。
「反省しようがしてないが、今から仕事なんで牢屋から出せないっすよ。」
「あ、大丈夫です。自力で出れるんで。」
ルイコは牢屋の鉄格子を曲げて、十兵衛にウィリアと呼ばれていた女性の前まで行く。
「マジすか、Cランク以下の戦闘系の英雄でも壊せない鉄格子を…」
「こう見えて、鍛えてますから。」
どや顔でルイコは言った。そして、警報が鳴った。
鉄格子を折り曲げて脱走したのだから、なって当然の事だ。警報は直ぐにやみ、十兵衛と赤いドレッドヘアーが特徴的な白衣姿の男性が牢屋にやって来た。
「ウィリア、お前がやったのか?」
「いやいやいや、しないっすから!私、鍵持ってるんすよ!」
「ごめん、私がやったの。」
ペコリと頭を下げるルイコ。
十兵衛はやっぱりかと言う顔をし、口元に手を置いて何かを考えはじめる。
「ルイコ殿がどのような英雄子孫か生まれ変わりかは存ぜぬが、我々の強さが知りたくて乗ったのでしたな?」
「はい。」
「何故強さが知るために見に来たのですか?。英雄団地でも申し上げた通り、英雄には強さのランクがあります。大物食いや相性ゲーをしない限りSランクの英雄が強いのですから、勝手に船に乗らなくても英雄独自のネットワークを使えば、強さがバラメーターになってわかるのですよ?」
「う…」
目で確認しなくても知名度や逸話で凄さが分かり、ネットを使えば本人の情報が出てくる。
英雄の末裔や生まれ変わり、その他関係者ならば知っている事を知らず、使わないルイコを怪しむ十兵衛。
流石に嘘を言い続けるのは心苦しいと思い、ルイコは事情を話そうとする。
「実はですね、私はこの国の人間じゃありません。私が住むところと敵対しているが争いをはじめまして…」
異世界から来たと言わないと!ルイコは必死に声を出そうとするが上手く出ず、なにか勘違いした十兵衛達はもう喋らなくて良いと言った。
「その、すみませんっす。言いたくなかった事を言わせて…」
ウィリア達は申し訳なさそうな顔をする。ルイコは変に勘違いしてくれてラッキーだと心の中で喜んだ。
「十兵衛、ウィリア…分かってると思うが、俺達じゃ力になれないぞ。」
「華陀殿…」
赤いドレッドヘアーの白衣の男性、嘗て魏の王であった曹操に仕えていた華陀の末裔が手を交差させ×の字を作った。
十兵衛とウィリアはやはりかと拳を強く握った。
「ルイコ殿、私達の力を頼ろうとしてくれるのは嬉しいのですが」
「オレ達は既に国の人間、余計な事が出来ない。」
英雄の子孫や生まれ変わりが所属する政府の特殊部隊。
特殊部隊の主な仕事は、外から来る敵の排除や未開の地の調査すること。外から来る敵とは、かつて国の王族や貴族に仕えていた魔法使いや陰陽師。今はもう国に仕えておらず、ハッキリと言って、仕事がない。
自分達の地位がなくなり科学技術が進歩し、大量虐殺兵器が簡単に作れて誰にでも使えるこの現代社会、戦に備えての修行をしても意味はない。故に、御先祖が魔法使いだったけど陰陽師だったけど今はただのサラリーマンと言う者が増えた。
「日本で起きた揉め事なら上に申請し、いくらでも助ける事が出来たのに…」
「仕方ないっすよ、金と生活のために政府と契約したんすから。」
今はただのサラリーマンと言う者が増えたが、それでも魔法使いや陰陽師は残っている。
そんな奴等はどうしているのか?神の部下になったり、TVに出てくる能力者とかをやっていたりするが、中には酷い奴等が居る。
昔の名残なのかこの辺いったいは自分の領土だとか言う者や、お金を稼ぐために転移魔法で武器密輸などをしようとする者、十兵衛達はそんな奴等を物理的に黙らせたりする特殊部隊だ。
「なんで手伝うことが出来ないんですか?」
「私達がこの特殊部隊に所属する際に色々と手続きがありまして、その際に仕事時以外での戦闘行為は緊急時を除き日本以外では禁ずると言うものがありまして。」
「金と日本への永住権を貰う代わりに、定年退職までこのルールが適応され、例え親族のいざこざであっても外国に力を貸しちゃいけないんす。たった一歩で戦争が起きる可能性があるんで」
「そう、ですか…」
十兵衛達に力を借りる事が出来ない事を知り、落ち込むルイコ。
船に乗り込んだ意味がないと落ち込んでいると、動いていた船が止まった。
「どうやら目的地についたようだな。」
窓の外を見る十兵衛。窓から無人島が見える。
船が目的地についたとアナウンスがあると動き出す十兵衛達。
「ルイコ殿、私達は力を貸せませんが、私達の戦い方を見るのはどうでしょうか?」
「まぁ、戦い方ってよりは大量虐殺に近いすけど。」
「大量虐殺…」
源蔵の代理になってアタランテとの共闘を思い出すルイコ。
この人達も同じ事をするだろうかと冷や汗をかく。
「虐殺は極希だ。基本的には記憶を消して出身国へと送還…まぁ、毎回死者は出るんだけどな。」
「それは、あいつらが悪い。」
船にいてもなにも始まらない。ルイコは十兵衛達についていくことにした。
十兵衛達と共に島に上陸するルイコ。島は人が住める環境だが、住んでいた形跡や住居がない無人島だと言う事に気づいた。
「ここって無人島?」
「…う~ん、どう言えばいいでしょうか。知っての通り、日本は島国で本土以外にも沢山の島が存在していて、無人島も存在します。無人島にも種類がありまして、一つ目は人が住んでいた痕跡や人が住める環境がある無人島。二つ目は人が住めない環境の無人島で、魔法使いは一つ目の無人島に勝手に上陸し宝を探そうとしているのです。」
「宝…」
島をキョロキョロと首を振って見回すルイコ。宝と呼ぶに相応しい物など何処にもなかった。
「宝は何らかの方法で隠されています。」
「日本だと霊術とか法力とかっすね。」
十兵衛とウィリアから説明をして貰うと島の奥に進もうとするルイコ。十兵衛達は動こうとしなかった。
何故動かないのか聞こうとする前に華陀は”魔法使い達が逃げ出さない為の準備が先だ”と言う。
「ルイコ殿、これをお付けください」
「ガスマスク?」
「暴力的な事は余りしたくないので。」
1メートル程のガスボンベを何処かから取り出して、メガホンを手に持つ十兵衛。
華陀やウィリア達も何時の間にかガスマスクをつけており、島から逃げれないように魔術で結界を張ると、十兵衛がメガホンを口元に近付ける。
「あーあー、皆さん!既に包囲されています!超音波レーダーとか熱探知で生体反応を探知しています!今ならば痛い目にだけはしません。潔く降伏してください!」
メガホンで声を大きくし幸福を願うが、反応は一切無い。
やっぱりこうなりますよねと十兵衛はガスマスクをつけてガスボンベのバルブを全開すると、ガスボンベから紫色のガスが噴出された。
「ルイコ殿、先に言っておきますが戦闘は極力しないでください。あくまでも私達の仕事ですから。」
あくまでも仕事を見せるだけで手伝わせないと言う十兵衛
「それはいいけど、この紫色のは」
「華陀様特性の超強力麻酔。地獄の番犬であるケルベロスですら一瞬で動けなくし眠らせる麻酔だ。」
「降伏しても無駄なら物理的にやるしかないっすけど、やっぱ殺したり痛め付けるのは嫌なんで」
例え国の特殊部隊であろうと殺すのは心苦しいようだ。
ガスが島中に蔓延すると、動き出す。島の奥に行くと何かをしようとしていた魔法使いや筋肉ムキムキの格闘家や如何にも騎士みたいな鎧を纏った剣士が眠っていた。
「はい、え~っと、午後1時28分、密入国の罪で逮捕、逮捕、逮捕、逮捕。」
眠っている魔法使い達に手錠をするウィリア。
全員に手錠をし終えたのを見ると、船に戻ろうとするが十兵衛に止められた。
「よ~く、見てください。」
十兵衛は魔法使い達が持ち込んだ簡易テーブルを指差す。簡易テーブルの上にはワクドナルドと言うハンバーガーショップの食べかけのハンバーガーや飲みかけのジュースが5つずつ残っていた。
「5つ…」
ウィリアが逮捕した数と合わないことに気付いたルイコ。既に一人足りないと気付いていた十兵衛は腰に携えた刀を抜く。刀の束をを両手で握り、息を大きく吸って、意識を集中し高く跳びあがり、刀を叩きつけるように降り下ろす十兵衛。
「ぶヴぉあ!?」
地面を叩きつけるように斬ると、地中から男が出てきた。
地中から出てきた男はいったい何があったのかと混乱しており、その隙に十兵衛に殴られ気絶した。
「今のって」
「兜割りっす。」
兜割り。それは物凄い力を一ヶ所に集めて兜を真っ二つにする技で、侍の中でも実戦で成功したのは一人だけ。地面とかに使うと地殻変動が起きて、熱の差とかの関係で地面が爆発したりする。
本来であれば魔法でないと起こせないであろう現象、侍系の英雄はこう言うのが普通に出来ると言っていたのはこう言うことだったのとルイコは理解した。
「…24分32秒、ルイコへの説明を踏まえても時間がかかりすぎたな。」
「仕方ないっすよ、この島、無駄にデカいんですから。」
「お前は胸が小さいけどな。」
「ちょっと、セクハラっすよ!華陀さん!」
さっきまで魔法使いを捕まえようとしていた態度と一転し、下ネタを言う華陀。
十兵衛は恥ずかしいのか顔を赤くしつつもウィリアの胸をチラ見し、ウィリアはスケベな二人に怒り心頭だった。
「と、船に帰りますか。」
気絶させた男にも手錠をかけ、船に戻る。
ルイコが入っていた牢屋は何時の間にか直されており、身ぐるみを剥がした後、5人は牢屋に入れられる。
島の証拠は別の部隊がしてくれると十兵衛が言うと、船は浮上していき英雄団地へと向かった。
「さて、ルイコ…覚悟はできているだろうな?」
「はい、すみませんでした。」
英雄団地でおろして貰うと、どす黒い闇を纏ったアタランテが血管をピクピクと浮かべ笑顔で待ち構えていたのを見てルイコはスライディング土下座をした。
がしかし、土下座をしただけでは勝手に十兵衛達の船に乗った事を許してもらえる筈もなくルイコは3時間ほど説教を受けた。




