EP1 英雄達のその後、英雄団地物語②
ルイコが桃源郷から帰ると英雄団地の非常警戒体制は解かれており、粉々になっていた源蔵達の部屋も修復されていた。
「起きろ、ルイコ。」
「う、うーん…」
源蔵が桃源郷に一週間入院する事になり、源蔵の代理を勤める事になったルイコは源蔵の部屋で源蔵と同じように生活をしろと502号室で寝泊まりをしている。
「起きろと言っているんだ!」
「ヴぉ…」
何かがあったのかルイコを起こすアタランテ。
中々起きなかったので、顔に拳を入れて無理矢理起こす。
「ん~今、何時?」
目を覚ましたルイコは外がまだ暗いことに気付き、時計を確認する。時計の針はまだ夜中の3時を差していた。
「ちょっと、アタランテ、早いよ!」
「奴等からすれば早くない。」
「奴等?」
いったい誰の事だろうとアタランテに聞くが説明はあとですると言われ、型や肘、膝の部分に機械がついた全身タイツをルイコに渡した。
「胸囲は大体私と同じだから、着れるさ。」
「こ、こんなダサいのを着ないといけないの?」
「ダサいか?」
ルイコはコクりと頷いてダサいと言った。
アタランテはダサかろうが、着ろと言いルイコは渋々全身タイツを着た。
ルイコが服を着たのを確認すると、アタランテは屋上へ行くぞと、屋上へと向かった。
「で、結局なにがあるの!」
「もうすぐ…来たぞ!」
アタランテは空を見上げて何かに気付き、弓矢を何処からか取りだし構えた。
ルイコはいったいなにが来たのかと空を見上げると、大きな魔法陣が出現していた。
「アレって」
「説明をしつつ戦う!右肩の機械にタッチしろ、拳銃が出る!」
アタランテの言われた通り、右肩の機械にタッチするルイコ。
すると、10センチも無い、とても小さな光線銃が出てきた。
「ちっさ!」
「構えろ、最初の一体が来るぞ!」
銃の小ささに文句を言おうとすると、魔法陣から何かがやって来たみたいで見上げると、其処には箒に乗った魔法使いがいた。
「貴女は…」
「おや、見ないか」
「死ね。」
ルイコと現れた魔法使い。二人の会話が始まろうとしていた瞬間、アタランテは矢を放ち、魔法使いの頭を貫いた。
「何してるの!?」
「奴等とは会話する価値はない…源蔵の敵はコロス…」
射ち落とされた魔法使いの元に行き素手で体を貫くアタランテ。
なんの迷いもなく素手で体を貫くアタランテを見たルイコは、少しだけ引いた。
「ちょっ、私が殺害とかの訓練を積んでるから良かったけど、他の人ならトラウマだよ!」
「トラウマになって、結構!源蔵の邪魔になる存在は例えアルテミスであろうとコロス!」
アタランテは魔法使いの原型が無くなるまでぐちゃぐちゃにした後、空を見上げる。
空にはまだ、魔法使いが現れた魔法陣が残っており、魔法使いやロザリオを首にかけた神父が現れる。
アタランテは、魔法使い達を見ると全身にどす黒い闇を纏い、矢を天高く放ち、雨のように降らせる。
「源蔵の邪魔に…あの時、源蔵が命を狙われているって言ってたけど、どういう意味!?」
「そのままだ。源蔵は科学者だ。それだけで殺される対象になる!」
「どうして!」
「神や魔法使いと同じことが出来るからだ!」
とある神は人を作った。魔法使いは魔法と言う人知を越えた術で、神にしか操ることの出来ない雷を操った。
そして科学者は、様々な生物を交配させ新種の生物を作り上げた。神にしか操ることの出来ない雷を操ることに成功した。誰にでも操れる方法を見つけた。それを人のやくにたつようにした。
コレだけで、魔法使いと神を信仰する者と科学者は相容れない。
「ただ自分達が出来ない事を別の方法で出来るようになったのを妬んだ、馬鹿共は世界中にいる発明家の英雄の子孫や生まれ変わりの命を狙いにきた!」
「妬みで殺そうとするの!?」
「ああ、そうだ。」
「なんでこんな事に」
「決まっている。時代が変わったんだ。」
神が当たり前の如く存在しており、信仰されまくっていて神話の時代。それは遥か昔の時代。
世界は常に変わっていく。魔法が衰退し、科学が進歩し、変わりいく時代に適応できず過去の栄光を引きずったままの連中が奴等だと叫ぶアタランテ。
アタランテの叫びが気にくわなかったのか、魔法使い達は一ヶ所に集まり、英雄団地を包み込む大きさの魔法陣を出現させる。
「ルイコ、銃を使え。」
「でも、こんな銃じゃ。」
銃口が小さく威力が期待できず、撃つことを躊躇するルイコ。
アタランテに源蔵を信じて撃ってみろと言われ、魔法使い達が放った聖なるオーラを纏った魔力の砲撃に向かって撃つと、魔力の光線は消え去った。
「うそ!?」
「ルイコ、今の時代はスマートだ。小さくても高性能が売りだ。」
小さい銃の放った光線の威力は軽くマンションを吹き飛ばす威力の魔力の砲撃をかきけすほど
大きければ高火力なのは、3流科学者がすることで、源蔵ほどの科学者ならば高火力をとどめて如何にスマートにするかが重要だと力説するアタランテ。
魔力の砲撃がかき消されたのを見ると、魔法使い達は逃げようとするが、素早さだけならばどんな英雄よりも早いと言えるアタランテからは逃げられず、首をへし折られた。
「私は国の人間と違って降伏してこようが殺す。楽に死にたいだろ?、残念だが、苦しめてコロス。」
アタランテが魔法使い達の逃げようとする方向に回り込み微笑むと、マシンガンを何処かから取り出して乱射した。
「うわ~…酷い…あ、逃げちゃダメだから」
酷いとか言ってながらも、光線銃を神父に放つルイコ。
神父に光線が当たると、神父の肉体は跡形もなく消えた。
「やはり銃は駄目だな。狩猟も戦いも弓矢が一番だ。」
乱射して、全員を殺したのはいいが、一発ずつしか当たってない事を気にするアタランテ。
乱射をして全員を倒しただけで充分だってば!と心の中でツッコミつつ、死体を一ヶ所に集めてルイコは燃やそうとするがアタランテに止められる。
「なにをするつもりだ?」
「いくら源蔵を殺しにきた相手でも、火葬してあげないと。疫病とかの原因にもなるし。」
「火葬か。ルイコよ、敵に情けは無用だ。この死体から身ぐるみを剥がした後、医学系の学校に死体解剖の道具として売り付ける。」
「え」
「残酷か?外道だと思うか?、そう思うなら言ってやる。だからどうした?。」
アタランテはともかく源蔵はまだ学生で色々な発明品を作るがそれ以外はなにもしていない。
なにもしていない源蔵を妬みんで殺しに来た相手に情をかける必要はないと、身ぐるみを剥がしはじめるアタランテ。
ルイコはアタランテのしている事や言動に段々とついていけなくなり、部屋に戻った。
「いくら私でも、あんなの無理だよ…」
この世界の住人に自分の国を救うのを手伝って貰うべく、やって来たルイコ。
しかしアタランテの残酷さや、時代の移り変わりに対応できなかった人達の酷さに、どうしようと悩む。
この世界にいて仲間が出来るだろうか?アタランテは強いが、恐ろしい。なんで英雄同士では仲が悪いの?
価値観の違いに苦しむが、異世界とはこういうものだと自分に言い聞かせ、全身タイツから服に着替えた。
「お~い。」
「あ、北斎。」
屋上での戦闘があった為に、部屋に戻り服を着替えた頃には、寝るには中途半端な時間になってしまい、寝ずに起きていようと、ルイコは瞑想をし精神統一をしていると北斎がやって来た。
「大丈夫か?」
子供の頃から源蔵と一緒にいた北斎は源蔵の代理を勤めているルイコが屋上で何を見たか、何をしたか知っており心配をする。
「うん…その」
「こればっかりはな…俺も源蔵とは赤ん坊の時からの知り合いで、常に一緒でな。色々と巻き込まれた。人を殺した。生死の境をさ迷う大怪我をした。だから、ルイコ、アタランテの行いを受け入れろとは言わない。否定するな、認めてくれ。ああするしかないって。」
「分かってるけど…」
口にするのでは簡単だが、実行するのは余りにも難しい。
「…俺は、アレだ。源蔵と違って馬鹿だからお前を納得させる事を言えない。だけど、飯は作れる。」
北斎は包丁一式やフライパンを見せる。
色々とあったせいでお腹がすいている事に気づかなかったルイコは、ここに来てやっと気付きお腹を鳴らした。
お腹の音を聞くと北斎は笑い、持ってきた食材を取り出す。
今は難しいことを考えるよりも、ご飯を食べようとルイコは気を持たせた。
「帰ったぞ…なぜいる?」
血塗れのアタランテは北斎がいる理由を聞くと、飯を作りに来たと返答され納得をする。
ああ、自覚していたんだなこの人はと白い目でアタランテを見たあと、ルイコは北斎の調理の手際よさを見て驚いた。
「暇だな~」
源蔵の命を狙いにきた魔法使い達を殺った次の日のこと。ルイコは物凄く暇だった。
中間管理職とか管理人の仕事とかやらないといけないが、特にやることがない。源蔵の両親がオーナーの電気屋を始めとする一階の店も、爆弾の事もあり、源蔵が退院するまでは休業中。
源蔵の代理で電気屋で働けると少しだけ楽しみにしていたルイコはやることがなくなり、屋上で日向ぼっこをして時間を潰していた。
「お~い、お~い。」
「源蔵ならいないよ?」
「おわ、ビックリした!」」
日向ぼっこをして時間を潰していると源蔵の部屋を何度も何度もノックしている男性に気付き、屋上降りて男性の後ろに回り込み対応をするルイコ。
「団地の住人じゃ…無い、わね」
右目に眼帯を着けていて、腰に刀を携えている見るからに怪しい男性。
昨夜、4階の住人以外全員に挨拶をし顔を覚えたルイコは、この団地の住人じゃない事に気づいた。
「あ、貴女は?」
「私はルイコ。それにしても、酷いな~後ろから声をかけただけなのに。」
「いや、驚きますよ。急に私の後ろに現れるなんて」
「まだまだ修行が甘いね~」
男性は英雄団地の一部の住人よりは強そうだが、まだまだ下から数えた方が早い。
「と、自己紹介遅れました、私は柳生十兵衛。日本政府の特殊部隊の一員で柳生十兵衛の末裔です。」
ペコリと一礼し、男性改め十兵衛は名刺を差し出す。
名刺を受け取ると、自分より歳が一個上だと知るとルイコは態度を変えた。
「えっと、源蔵を探してたみたいだけど。」
「実は我々の船の調子が悪く、ここにかの有名な平賀源内の子孫である平賀源蔵殿が住んでいると聞いて、船の整備をして貰おうと来た所存でこざいます。」
船を整備して欲しいと言っているみたいだが、船が見当たらない。この辺は海からかなり遠く、遠路遥々、源蔵を訪ねに来たのに申し訳無いと思っていると十兵衛は空を指差した。
「空…あ!」
空に何かあるのだろうかと見上げると、ボヤけてだが大きな木造船が飛んでいるのが一瞬だけ見えた。
アレが十兵衛達の船なのかと顔をみると、頷いた。
「なんで空に船が?」
「エジソン殿が作った反重力装置とステルス迷彩機能付きの船でして、反重力装置で飛んでます。」
「エジソン…確か発明王で、物凄い発明家…」
「船自体は我々でも直せるのですが、ステルス機能と反重力装置の整備が無理で。」
世界最高の科学者が作った者は世界最高の科学者でないと不備を直せない。
エジソン本人に直して貰おうと連絡を入れたのだが、何故か繋がらず、同じランクの源蔵に頼みに来たらしい。
「源蔵は今いないから、代わりに源蔵の両親を呼んでこようか?」
丁度今、暇してるしと言うルイコだが、十兵衛は源蔵殿でないと無駄だと言う。
「源蔵殿の両親はSランクの英雄ではない。エジソン殿が作りし発明品は全てSランクの英雄にしか直せない。」
「そのSランクってなに?」
「英雄にも種類だけでなく、ランクがあります。妖怪退治をした英雄が二人いるとしましょう。そのうち一人が日本三大妖怪の一体を倒した英雄で、もう一人はろくろ首を倒した英雄。さて、どちらが凄いですか?」
「日本三大妖怪を倒した英雄でしょ?」
「その通りでございます。英雄にも強さの差があり、ランクはその英雄が成し遂げた偉業や末裔の強さなどで決められており、源蔵殿は世界に数人しかいない発明家のSランクで、エジソン殿もSランクの発明家です。」
十兵衛の様な戦闘系の英雄の子孫ならば、Cランクの十兵衛よりも上の侍系の英雄であるAランクの佐々木小次郎やSランクの宮本武蔵を倒すと言う大物食いがありえる。しかし、発明家などは絶対に無い。
なので、同じランクの源蔵に頼るしか道はない。
「むぅ、参りましたな。エジソン殿の発明品は一般人にとって数千年先の技術で作られており、源蔵殿の御両親の数百年先の技術では直せない…」
「このままだとどうなるの?」
「…船が落ちますね。て言うか、落ちてきましたね。」
「ええっ、っちょおお!!」
十兵衛と会話をしている間にステルス機能と反重力装置が壊れてしまい、ゆっくりと降下していく船。
ルイコは屋上に跳びあがり、降下していく船を両手で抱えた
「おも、い…」
「ヘラクレス殿ほどとは言いませんが、なんと言う怪力…」
「い、言ってる場合じゃない…あ~重かった。」
船が余りにも重かった為に、ゆっくりとルイコは船を屋上に置いた。
「で、どうするの?源蔵はあと数日は帰ってこないよ?」
「う~む、源蔵殿が居ないとなると、ダ・ヴィンチ殿、ニコラ殿、リチャード殿位…申し訳ないが、源蔵殿の退院まで屋上を貸してくれませんか?」
「う~ん」
ルイコは源蔵の代理を勤めている為に、貸してあげると言えば貸せる。
勝手に貸して良いのかな?源蔵なら断るんじゃないの?と、源蔵のようにしないといけないと思い、自身の意思で決められなかった。
「…あの船って、なんなの?」
「戦艦長門ですが?」
「いや、船の名前じゃなくて、なんであんなのが」
普通に空を飛ぶ乗り物、飛行機があり、格安で乗れるこの世界。
かなりの金が必要になるが、個人で所有できるのに、木造船が必要だろうか?
「アレは車みたいな物です。近年」
「急に日陰が出てきたと思えば、なんじゃありゃあ!シュバリエの船と似ているが」
「おお、シュバリエ殿を知っているのですか!」
「ん、誰だお前は?」
船について柳生が説明をすると、屋上にやってくる北斎。
十兵衛はシュバリエと部隊は違うが国のために働いていると言うと、北斎は舌打ちをし、十兵衛を睨み付けた。
「国の人間か。ルイコ、さっさと追い出せ。国の人間は嫌いだ。」
「北斎、そんな言い方は」
「この英雄団地はこの現代社会に平和に生きて老衰で天寿を全うしたい奴等が多くすんでるんだよ。バトル系の国の奴等が居ると日常が崩れる。」
国の為に戦い、国の平和を守る存在が平和を乱す存在だと北斎は十兵衛と船を追い出そうとするが、船が動かない事を知ると、何かを取りに部屋に戻った。
「いったい何をする気かな?」
「北斎の末裔ですから、絵に関することだと思いますが。」
北斎が屋上にやって来るのを待つルイコと十兵衛。
何時までたっても北斎がやってこないので心配し、五階に降りると、北斎が巨大な硯を部屋から出そうと必死になって引っ張っていた。
「ちょ、手伝って。普段はアタランテが持っててくれるから…硯、めっさおもい。」
「そうですか?軽いですよ。」「片手でいけるじゃん。」
「100キロ以上ある硯を片手で持ちやがって、化物どもめ!」
色々と言いつつもルイコ達に硯と墨を持たせる北斎。自身も巨大な筆を持ち、屋上に書くのに必要な道具を揃えると墨を磨りはじめる。
「もしかして…絵を描くつもりなの?」
「なにを当たり前な事を聞いているんだよ。」
葛飾北斎は画家の偉人だ。末裔である俺は漫画家だ。ならばやることはただひとつ。
北斎は巨大な筆の筆先に墨汁を染み込ませ、数滴、硯に垂らすと船の両端に翼を描く。
「「スゴい…」」
北斎の筆捌きに魅了されるルイコと十兵衛。
両端に翼を三つずつ描き終えると、今度は船の後ろに噴出口を描く。
「はい、終了。」
「…え、何処が?」
船とマッチしている翼と噴出口の絵。余りにもリアル過ぎて、今にでも実体化しそうだ。だが、所詮は絵である。空は飛ばないし、噴出口からなにも噴出されない
「終了ってのは絵の方だ。次にこれに命を吹き込む。」
何処かから瓢箪と桃剣を取り出し、瓢箪に入っている水を口に含む北斎。
不思議なステップを踏んだ後、口に含んだ水を絵にぶっかけると、絵が実体化して船が飛んだ。
「おぉ、これは正に紙兵の術!」
「絵を完璧に実体化させてないから紙兵の術じゃない。感謝しろよ、一筆数万の俺が無償で描いてやったんだから。」
「誠になんと申し上げれば良いのか…本当にありがとうございます。」
「いや、お礼はいいからさっさと」
「大変っす、十兵衛さん!」
早く英雄団地から出ていかそうとすると、船の上から緑色のショートカットの女性が慌てた様子で顔を覗かせた。
「どうした、ウィリア!」
「無人島に強力な闘気と魔力反応あり、直ちに向かえって上から来たんす!」
「無人島…また、面倒なところに、急いでいくぞ!」
「はいっす!」
「待って、私も連れてって!」
「あ、おい、ルイコ!?」
船に乗り込む十兵衛の後を追い、船に乗り込むルイコ。
北斎はルイコを連れ戻そうとするが、あっという間に船は飛んでいき連れ戻せなかった。
「政府の特殊部隊で無人島に反応があるってことは、大体は予想できるけども…機密情報だから見せたくねえんだよな。」
十兵衛が何者で、なにをしに行ったのか知っている北斎は嫌なものを見ないかとルイコを心配した。




