EP1 ヒーローも悪も大差変わんない ③
「全く、ルイコと俺以外の戸籍と経歴の偽造をするとは予想外だ。」
私と自分の分以外で偽造するとは思っていなく、一から偽造するのに思いの外時間がかかってしまった源蔵。
もう時刻は夜の10時過ぎで、借りたマンションに帰ると11時になって、源蔵が持ってきた布団を出して寝るだけ。
「お祖父ちゃん達に連絡を入れたけど、帰れるまでに最低でも一週間は掛かるって。」
「その間に物資の補給でもしておくか。」
「物資の補給?君達は、私が居た世界と同じところから来たのではないのか?」
あ、セラヴィスには言ってなかったっけ。
「私達は異世界じゃなくて分史世界から来たの。
飛びっきりの強さを持った人を仲間にする、もしくはその世界にしかない未知なる力を自分の物にするかのどちらかをしにね。」
「まぁ、今回は大ハズレだけどな。」
あの3人や悪夢帝国の強さを思いだす源蔵。
目の前にあの3人より強いセラヴィス、そして上限が見えない陽人が居るからハズレでは無さそう。
「強い人を仲間にしたいのならば陽人を仲間にすれば良いじゃないか。」
セラヴィスよりも何十倍も強い陽人。
仲間にしても問題ない即戦力の強さを持っているのは分かっているけど、人殺しをさせたくない。
本人は人殺しをしたくないから、悪夢帝国の本拠地を叩かないようにしている位に気を付けてるから無理矢理仲間にはしない。
「セラヴィス、それは無理だ。
確かに俺は強い。自分でも分かるぐらいにだ。けど、俺は一般人だ。
平賀さんみたいに機械に強くない、戦闘に関しても力任せ、刀や銃も扱った事も無いし魔法とかの知識も無く一般教養も中2レベル。
そんなド素人が切羽詰まってるルイコさんの世界に行っても足手まといで邪魔にしかならないのは目に見えてるし、それだとあの3人組と一緒だ。」
それだけは嫌だと言う陽人。
力ばかりに目が言ってたけど、セラヴィスを養っている以外は普通の学生よね。
ヤマトの方も切羽詰まってて一から教えて兵を育てる余裕もないから連れていけないし。
「それに俺が仮に行こうって言ってもいけないからな。
家の大麻畑と煙草畑を継ぐ筈の俺が異世界を救いに行くって言ったら弟達に迷惑がかかる。
折角金を出してもらって上京してきて、農業高校通わせて貰ってるのに俺が居なくなるのはいけないことだ。
ルイコさん、源蔵さん、俺の都合で力になれずすみません。セラヴィスの戸籍偽造と悪夢帝国倒してくださいって見返りも無しに言ってすみません。」
「いや、良いよ。
悪い奴が居るのなら倒さないといけないのは何処の世界でも同じだから。」
「こういう時は何事も助け合いだ。」
人は一人じゃ生きられないからね。
さぁ~源蔵がセラヴィスの戸籍を偽造し終えたし帰るとしましょうか。
「ルイコ、待て。一つだけ聞いていないことがある。」
立ち上がりマンションへと帰ろうとすると止められる私。
一つだけ聞いてない事って…なに?もう、聞かないといけない事は聞いてるでしょ?
「何故お前は戦わない?助太刀しない?
ハッキリと言うが、正義の味方居るのが分かっていたから動かなかったが…ヤバかったぞ。」
昼間に現れた悪夢帝国が敵なのにどうして戦わないかと聞く源蔵。
確かにおかしいわね。セラヴィスはヒモで暇なんだから街を守ったり探索したり陽人の代わりに敵の本拠地を襲ったり出来るのになんでかしら?
「…」
「黙りだけはやめろ。
俺はちゃんと聞いておきたいんだ、お前は何故動かないのか?」
「陽人が、手伝ったら追い出して縁を切ると言っていてな…私は、嫌だから」
「夢守護者とか言うのに支援者が居るのは知っている。そっちの方に最初から行けばなんとかなるだろう。
如何に縁を切ると言っても、遠くに引っ越しをしない限りは絶対に顔を会わせてしまうのは馬鹿でも分かる。」
「私は…責任を取らないといけない。
東さんの店を全焼させたのも、陽人に消えない傷を負わせたのも、全て私なんだ。」
「セラヴィス、俺は気にしてない。
悪いのは夢守護戦士を支援してる奴だ。お前は背負わなくていい。」
「違う、私が弱いのがいけなかった!
数千年前に悪夢帝国を滅ぼしておけば、こんなことには」
「…俺との出会いを否定する事になるから、そんな事は言わないでくれ。お前といるの楽しいから。」
「陽人…」
「で、実際のところなにがあったんだ?」
あ、ぶった切った。
イチャイチャする所に行きそうなのにぶった切った。
ぶった切らないと駄目なのは分かるけれど、なんの迷い無く行った。
「私は源蔵の言っている通り、敵になった。
数千年前の夢守護者だった悪夢に飲み込まれて悪夢帝国の幹部となり手始めに霊地であるバク公園を襲撃した…」
闇落ちしていた頃の記憶があるのか陽人の右腕を撫でだすセラヴィス。火傷の跡がある所しか撫でておらず、なにか思い入れがあるのが分かる。
やっぱ陽人の火傷の跡が異常なまでに綺麗なのと関係があるのかな?
「まだその頃は陽人が強いことは悪夢帝国は知らなかった。源蔵とルイコに似ている夢守護者も陽人の存在を知らなかった。それが悲劇を招いた…」
「もしかして、炎の魔法とかで陽人に攻撃を」
「それならばどれだけ良かったことか…」
「違うの?」
こんなにくっきりと綺麗な火傷の傷痕は普通は見られない。
右片方だけ火傷する事ってあるのかしら?…て言うか今考えれば右片方だけの火傷っておかしいわね。
炎で攻撃したのならの中心、上半身か下半身の何処かに円を描くような傷跡が残るのに陽人の火傷は一直線に出来ている。左半身には怪我ひとつ無い。
「私を倒そうとした陽人が邪魔だったのか、眠らせたのだ。才能を持っていて偶然にも近くにいたのを理由に一般人を夢守護者にした支援者が」
「眠らされている最中に陽人を攻撃したのか、それとも」
夢守護者かセラヴィスの技に巻き込まれたのかと考える源蔵。
もしそうだとしたら、夢守護者を支援している人は力を与えている人は最低だよ。
敵を倒すよりも、一般人の避難が大事なのに。源蔵はあの時、それをわかった上で人質になったのに。
「いや、違う。
陽人は眠らされる前までお好み焼きを焼いていて、夢守護者達が私を倒すもしくは撤退させるまで起きない強力な眠りの魔法だったせいか…自身の右手や右耳を熱々の鉄板で焼いている事に一切気付かなかった。」
「支援者を見つけたら絶対にぶっ殺してやる。」
「陽人、お前の手は汚させはしない」
殺意をたぎらせる陽人とセラヴィス。
…火傷の理由が直接的な被害じゃなくて二次被害だったなんて、拍子が抜けちゃう。
聞く限り悪いのは夢守護者を支援してる奴だけど、とても拍子抜けしてしまう。
「私は本当なら戦わなければならない、しかし戦えない。
陽人をこんな目に逢わせた者達と一緒に悪夢を倒すことなどできない。」
「貴様は既に死んでいて戦うこと以外になにも出来ないキモオタ引きこもりニートより一つ上の存在の癖に随分と都合の良いことを言っているじゃないか。」
「源蔵、いくらなんでも言い過ぎよ!」
「黙ってろ、ルイコ。
セラヴィス、本当に陽人の事を思っているのならば、死を恐れず悪夢帝国を滅ぼせば良いだけだ。
俺ならばそうする。本当に誰かの為を思っているのならば、見えない人の為に多くの命を奪わないためにも自身を秤にかけて犠牲にする。」
「私では…私では勝てないんだ!
数千年前と比べて人々の心は闇だらけで、悪夢帝国は過去最大級の強さを持っていて」
「まーた、設定を盛ってきたな!
ならば何故にキヨヒーがあるバク公園に今日の昼に居なかった?
幹部クラスが総出演して常に襲撃してくるのならば百歩譲ってまだ分かるが、違うだろう?
政治的な問題とか法律的な問題があるとすれば俺には分からないが…お前には覚悟が一切無い。心の何処かで自分を優先している。自身の命を一番にいざとなれば大事な全てを捨てれる…人間らしくて最高だ!」
「は?」
色々と説教垂れてた源蔵は最後の最後でどんでん返しをした。
人間らしくて最高だって…え?え?
「陽人に甘えている部分、実に人間らしい。恋をしている女らしい。
最後の一線を越えられない所は屑同然だが、生きたいと言う強く願う気持ちは素晴らしい。
ルイコ、セラヴィスを全面的にサポートしてやるぞ!俺達が悪を滅ぼしたのではなくセラヴィスが悪を滅ぼした事にして夢王国から報酬金ぶんどって陽人の火傷の痕を手術で無くしてやろう!」
「あ、うん。」
源蔵の異様な変わりように私はついていけなく、小さく返事をすることしかできなかった。