プロローグ 失敗を経験に
「…」
ミゴヤの防りきって一週間。ミゴヤ城を研究所に変えた源蔵。
一人ジッとこの世界の新聞を見ている。新聞には一番の親友である北斎にそっくりな男、カイチ・ヨーベル・サザンクロスの写真が載っている。
この世界の文字がまだ読めない源蔵は新聞になにが書いてあるかは分からないが、ハッキリとコレだけは分かっていた。
カイチ・ヨーベル・サザンクロスはアークの人間で敵で、北斎とサザンクロスは同一人物だと。
「どうするべきか…」
髪型以外は北斎そっくりのサザンクロス。
もし敵であるのならば、殺すことが出来るのだろうかと頭を抱える源蔵。
「あ、いたいた。」
そんな源蔵の気持ちなんか知ったこっちゃないと現れるルイコ。
死ぬしか道がなかった自分はルイコのお陰で生きれるようになったどころか、研究や発明が出来るんだと北斎とサザンクロスを重ねるのを止めた。
「なんだ、ルイコ?」
「新しい仲間をそろそろ増やさない?」
「新しい仲間ね…」
科学技術に関してはとてつもない程にチートの源蔵。
射撃や投擲に関してはこの世界で右に出るものが居ないほどの腕前を持つルイコ。
二人ともとても強いが、どちらも裏方とか遠距離から攻撃したりが専門なので、そろそろ仲間を増やそうと源蔵に分史世界転移魔法が唯一使えるリュウジの元へと行こうと誘う。
「ハチベエさんに聞いたけど、アークはそろそろ動き出すって。
アークの首都に送った密偵から連絡があって、この前の雑魚しか居ない侵攻部隊とは比べ物にならない精鋭部隊を送り出したって。」
「まだ研究所の設備なり何なりと整っていないんだが…」
「それは後、リュウジさんの所に向かおう!」
「ったく」
ルイコの言っている通り仲間を増やさないといけないと新聞を置く源蔵。
潜水艦が停泊しているミゴヤ近くの海岸に行くとリュウジが二人を出迎えてくれた。
「そろそろ来ると思ってたぞ。」
「お祖父ちゃんは?」
「まだ戻ってない。」
「そう…」
一ヶ月たったが元に戻っていないアンデルセン。
ルイコは何時になったら元に戻れるのだろう、もしかしたら二度と元に戻れないと考えてしまう。
「時空間に干渉し転移する転移魔法だからな、俺はなんも力になれん。」
頼れるのはこの一本禿だけだと指をさす源蔵。
アンデルセンは心配をするルイコに気にするなと笑いのける
「誰も触れることが出来なく、時間の干渉も受けない。だから、アークの馬鹿共の目の前に行きたい放題。女湯覗き放題じゃ!」
「……」
「おい、爺さん、こう言うときにしょうもない事を言うんじゃねえ」
「なんて恐ろしい目…」
ゴミを見るような目で祖父を見つめるルイコ。
源蔵とリュウジは余りの恐ろしさに一歩だけ後退してしまった。
「お祖父ちゃん、お祖母ちゃんを愛してなかったの?」
「ワシの息子を勃たなくなるまで搾り取り、量が少なかったり薄かったりしたら腹を問答無用で殴る婆さんはもう知らん!」
「おい、独身のオレに対する当て付けか?未だ童貞のオレに対する嫌みか?」
軽く自慢をするアンデルセンにキレるリュウジ。
良い年こいた爺がなにやってんだよと源蔵が呆れていると、つい最近童貞を卒業したからって調子に乗るなと二人に言われてしまい、ぶちギレて喧嘩が始まった。
「3人とも、真面目にやって!」
「処女は黙っておれ!」
「おいこら、祖父!!処女と書いてなんて読んだ!」
喧嘩を止めようとした結果、更に喧嘩が続いた。
と言っても、実体が無いアンデルセンと爺のリュウジ、素の身体能力が雑魚同然の源蔵がルイコに勝てるわけもなく、砂浜に頭以外を埋められて喧嘩は終わった。
「全く、処女じゃないわよ!あの人の為に取ってるんだから///」
「で、一本禿、分史世界に転移できる準備は出来ているんだよな?」
他人の惚け話なんかには興味ねえと無視する源蔵。
リュウジ達も聞く気が一切無く、潜水艦に早く入れと誘導する。
「さて、前回の反省点だ…なんでよりによって7番目辺りに仲間になりそうな発明系の奴が一番最初に仲間にしたんだ…。」
「なんだ、文句あるか?」
「それに関しては結構反省してる。いや、本当にごめん。」
源蔵を仲間にしたことは間違いではない。
ルイコ達は源蔵のお陰で街にバリアとか出来るようになったり、分史世界に干渉した際に手に入れた物の使い方とかが分かったりと色々と助かったと理解している。
しかし、順番が早かった。こう言う発明系の人は7番目位に仲間にするべきで、一番最初はヒロインか近距離戦闘系の奴なので充分。
「お前等な…」
「本人が一番自覚している事だろう。」
もう一度、キレそうになる源蔵。リュウジの一言によりなにも言えなくなった。
「一番最初に仲間になったせいで、こいつはこれ以上なにも出来ない。」
科学者や研究者にとってなにが一番大事かと言われれば研究の成果や理論の答えだ。しかし、なにが一番必要かと言われれば金である。
物を作るにしても、プログラムを作るにしても、菌を培養するにしても金が必要だ。源蔵が仮面ヒーローシリーズの変身セットを作っていたのも金のためだ。
螺を始めとする機械に必要な部品を買う。培養に必要なサンプルを買う。特別な鉱石を取りに行く為に海外へ行く。
金は研究者にとって2番目に大事な物だ。
「そう思うのならば、さっさと研究所を完成させたいんだが、俺がいなくてもルイコ一人で充分だろ?。」
「英雄団地から持ってきている物資にも限界があるだろ?」
この世界には源蔵が望む螺もケーブルもネット環境も、それどころか発電所も無い。
現代人にとって当たり前な物が一つも存在しておらず、戦争真っ只中で物資の確保もままならず、作る余裕もない。
誰にも言っていないが、源蔵が持ってきた螺や配線等が新たな研究所を作る際に使ってもう無いに等しい程減っている。
「お前がいないとルイコがマトモに動けない。人間一人一人の個人情報を管理する世界とか、恐ろしいったりゃありゃしない。」
リュウジは出来る限りパワーのインフレを起こしてない分史世界に飛ばしているが、飛んだ先の世界が自分達の世界とは異なり過ぎている。
ハッキリと言って、現代日本などに飛ばされると源蔵が居なければなにも始まらないと言っても良い。
「中途半端な文明、それこそ俺のいた世界レベルの文明なら、俺の携帯一つで世界中のスパコンのファイアーウォールを難なく突破し痕跡を残さずハッキング出来るから」
「こんな美少女を一人で旅させて心苦しくないわけ!?」
分史世界に転移する事を嫌がりだす源蔵。ルイコは自身一人で行けと言うのかと叫ぶ。
「俺、奥さんがいるからお前を見捨てても別になんとも」
因みにだがアタランテの実年齢は2000を越えている!
「自分さえよければそれで良いの!」
「やめろ、その言葉は哲学に入るから凄く答えるのが面倒だ!。行く、行くから。」
次元が違うと言えるほど賢い源蔵にとってルイコの言った一言が非常にキツく、渋々分史世界を旅することに。
リュウジの潜水艦の中に入ると、リュウジは魔法陣を書かれた絵馬を源蔵に渡す。
「コレは?」
「ルイコが持つ通信機器に搭載してある肉体変化機能と同じ事が出来る絵馬、名付けるならば衣装絵馬。」
つまるところ、源蔵がこれから行く世界に適応できる姿や服装になれる魔法が自動的に発動する絵馬。
凄いんだがスゴくないんだがイマイチな物だが便利なものであることには変わりはないとありがたく貰う源蔵。
「それで、次はどんな世界に行くの?」
「ルイコ、聞いても無駄だ。
この爺さん、絶対に適当に飛ばしてる。でなければ、平賀電器店の倉庫から出てこない。」
「リュウちゃん、どういうことじゃ?」
「しゃーねーだろう、分史世界転移魔法は凄い難しいんだから。
ま幸いなことに今の王が自殺し、源蔵が城を改造ったお陰で盗み出せたから、次は大丈夫だ。」
チラッと懐から分史世界に関する事が書かれた魔導書を見せるリュウジ。
何時の間に盗み出したんだと言いたくなったが自分達が持っていても宝の持ち腐れ、見なかった事にした。
「次は大丈夫と言うことは飛ばす先の世界が分かるの?」
「流石に事細かは無理。
サイバーなのかファンタジーなのか、侍と言うのが居る世界なのかが分かるレベルでその世界の特異点ともいうべき場所に飛ばせるようになった。」
「世界の特異点?」
「そうだ。」
世界の特異点、その分史世界にしかない異常な存在とか出来事が起きている場所や人物を示す。
何もない平穏な日常的な場所に飛ばすのではなく世界の中心点で異常が日常な特異点でしかルイコ達が新しい仲間を増やす、もしくは強い武器や技術を手に入れる方法はないと教えるリュウジ。
「簡単に言えば、その世界の物語に巻き込まれてこいって事だ。」
「一気に大雑把になった!?それで、次の分史世界はどんなところなの?」
「源蔵達の世界、現代世界と呼ぶべき世界。
何やら魔力とか流脈とかと関係の無い、全く違う未知の力が存在していて、その世界で言う異世界の力らしい。」
リュウジの飛ばされる先の世界について説明を受けるが色々とややこしく意味がわからないルイコ。
「分史世界を眼鏡に変えて考えろ。」
「…あ、成る程!」
一つの眼鏡が一つの分史世界とするならば、右のレンズが現代世界に似ている世界、左のレンズがこの世界に似ている世界、両方合わせて一つの眼鏡になる!。
リュウジのややこしい説明を変なふうに理解するルイコ。
さっきの説明が分からないのに、どうしてその説明で分かるんだとリュウジはツッコんだが、無視される。
「源蔵達の世界とこの世界の魔法とかは術式が違ったり使い方が違うだけでやってることが同じだからな、全く未知の力を持つ特殊な力を持った戦士を仲間にしてくるんだ。」
「任せて、今度は源蔵がいるからちょちょいのチョイで終わらせてくる!」
「どうせなら、その特殊な力を自分の物にしてくるんじゃぞルイコ!」
「…俺は無視か!」
裏方担当で最初から戦力扱いされていない源蔵は二人に頑張れの一言も言って貰えなかった。
ルイコ達はリュウジの分史世界転移魔法により、未知なる力を持った現代社会の分史世界に飛んでいった。
「のぅ、リュウちゃん。」
「なんだ?」
「…未知なる力が神秘が無いに等しい現代世界にあるって、おかしくね?」
「それもそうだが…まぁ、特異点だし、仕方なくね?」
「大丈夫かの…」
次の分史世界も色々と大変だとリュウジとアンデルセンは心配をした。