ガラスの唖者
もしかして小説とは呼べないかもしれません。何かありましたらご連絡ください。
言葉を奪われた綺麗な青年が
唯一
その口から吐き出すのは透明なガラス玉
精巧に美しいそれはひどく壊れ易くて大小様々
外見だけはとても美しいのに壊れ易い
そうして
壊れた中からでてくるのはどろどろに溶けたどす黒い塊
いつか青年の吐いた
ガラス玉はお世辞にも綺麗とは云えなくて
不透明な暗褐色を映した不鮮明な朱色
青年の顔は苦しく脂汗が滲んでいた
地に這いつくばって喘ぐ彼はあまりにも平静とはかけ離れた姿で
どうしたかと思えばそのまま意識を失って倒れ伏す
いつか青年が語った
自身は崇高な綺麗事を並べてばかり
だから魔女に言葉を取られたのだと
まるでどこぞの野獣ではないか
彼は困ったように笑っただけだった
曰く
魔女を責めないでやって欲しい・と
彼女は何も自分の癪に障ったという理由で
私を唖者としたのではないのだ
只、私が
その罪を犯しただけさ
彼は自身を罪人と云う
一体何の罪を犯したのか
それは彼の吐くガラス玉程の罪なのか
彼は云わない
私も聞こうとは思わない、けれど
彼の罪はそうも重いものなのか
一抹の疑念しか残らない
何か方法はないのかい
聞けばあっさりと首を振る
あったとして、私がそれを模索するかい
君が探さないのなら私が探そう
君から言葉を奪った魔女は
一体どこにいるんだい
それは何の気もなく聞いたことなのに彼は何も云わなかった
教えてくれなければ分からないよ
分からないままで良いと君は云う
それはそうまで
負う罪なのか、責苦なのか
私にはそうは見えないけれど
そして、今
目の前で苦痛に喘ぐ青年を見下ろす
私の手には何も持ち得ない
見つからなかったのではない、見つけた
見つけた上で模索に窮した
そもそも
彼は何を吐いているんだ
依然
朱と赤の混じる不純物を吐き続ける君は
それはもしや君自身ではないのか
恐らく
君の吐くそれは全て尽きれば君は死ぬだろう
私がそれを許すと思うかい
答えは否だ
けれど君を救ける為に
君自身を救ける為に敢えて私はそれを云おう
ねえ、君
私の友人
君の吐いたガラス玉は
私をいつも救ってくれたよ
綺麗なだけで壊れ易い、だけどだからこそ私は
それを美しいと思うよ
ねえ
今、君の吐くそれさえ
私は美しいと思う
君の醜いは私の美しいにも相当する
私は
君のことが好きだよ
その
私のそれがどんな作用をもたらしたのかは知らない
彼は私を見上げ泣いた
唇の血は流れたままだ
ありがとう、私の友人
君は僕を友人と云うんだね
僕はそれを嬉しいと思う
ありがとう、愛し君よ
君に会えてよかった
僕はきっと
君のそれを望んでいた