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龍を統べる者  作者: 梨香
第一章  黄龍?

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14  お仕事は甘くない……はず?

 5月の半ばになると、日差しが暑くなってきた。教育係の前田に、聡と黒龍はビシバシと鍛えられている。


「明日の会議にはお前達も参加するように。今までの資料を渡しておくから、読んで検討しておけよ」


 ずっしりと重い資料を机の上に置かれて、聡はウッと思った。


「あのう、私は会議に初めて出席するのですが、何か発言とかしなくちゃいけないのですか?」


 新入社員の意見など誰も聞かないだろうが、大学の講義と間違えているのかなと、前田は溜め息をつく。


「まぁ、お偉いさん達の話を聞いて、発言を求められたら、自分の考えを言うんだな。その自分の考えが頓珍漢なものにならないように、ちゃんと資料を読んで考えておけ」


 バシッと説教されて、聡は「はい!」と真面目に資料を読み始めた。黒龍はぱらぱらと資料を捲ると、大体のアクアプロジェクトの内容と、今までのプレゼンなどの経緯を把握した。


『次の売り込み先に、聡も行く可能性があるんだよな。ややこしい地域は避けなければ……』


 黒龍はパソコンで何やら調べ始めた。




 就業時間が終わりに近づいても、聡は資料をもっと読みたいので、持ち帰るかどうか悩んでいだ。


『家に仕事を持ち込みたくないな……青龍は何だか株の取引をしているみたいだし、変な情報を与えたく無いし』


 インサイダー取引どころか、青龍はどの株がどう動くのか解るのだが、聡は残って資料を読もうかと悩む。


「聡、帰ろう」と5時になった途端に、黒龍が声を掛けた。基本的に研修中は残業は無いのだが、そうは言っても5時ジャストに帰る根性のある新入社員は少ない。まして、周りの先輩達が残っているのに、サッサと帰る黒龍は目立っていた。


「ううん、あと少し資料を読んでから帰るよ」


「それなら、資料を持って帰れば良いじゃないか。ぐずぐず残業しても、意味は無いよ」


 黒龍は第一事業部の先輩達が残っているのを、聡が気にしているのかと腹を立てた。


「だから、黒龍だけ先に帰れば良いと言ってるだろ! 学生じゃあ無いんだから、別々に行動しようよ」


 教育係の前田は、少し離れた席から二人のやり取りを聞いていた。


『聡は真面目だし、他の新入社員よりも能力は高い。でも、黒龍は……全く、やる気は無いみたいだが……能力は格別だな』


 黒龍の方が性格はキツいのに、結局は聡の横で資料を読み終わるのを待っている。周りの社員達は、不機嫌な黒龍のオーラに心臓がばくばくするが、聡は平然と資料を読んでいる。


「おい、前田……どうにかしろよ! 皆、仕事が手につかないで、困っているぞ」


 聡達の周りは入社年数の近い若い社員で、会議の資料などを作成しているのだが、黒龍を見ないようにはしてても神経が向こうへいってしまってるのは誰の目にも明らかだ。前田の直属上司の原課長も、どうにかしろ! と目で合図を送る。


 ひよっこの世話は大変だと肩をすくめて、前田は聡達のブースに向かった。ウッと思うほどの不機嫌な黒龍を無視して、聡は資料を読んでいる。


『聡は鈍感なのかな? 街のヤクザも逃げ出しそうな暗黒オーラだけど……』


 前田がブースに来たのに気づいた聡が顔をあげた。


「もう、帰っても良いぞ」と告げると、聡は少し困った顔をする。


「あと少しだから、読んでしまおうと思ったのですが……」


 お前が居ると黒龍も居残って困るとは、前田は言いにくい。この二人とは一度話し合わなければと、前田は大きな溜め息をつく。


「聡、資料は過去のだから、家に持って帰っても大丈夫だ」


 兎に角、明日の会議の為にも、不機嫌オーラ発生器の黒龍にはお引き取り願いたい。


「ほら、前田さんも帰って良いと言ってるから」


 にっこりと微笑むと、その場の重い空気がパァッと明るくなる。


「前田さん……」困った顔の聡は、資料をカバンに入れて席を立つ。


「お先に失礼します……」


 キチンと頭を下げて部屋を出て行った二人に、周りの社員達はホッとしたが、エレベーターホールから聡が黒龍を叱りつけている声が響く。




「おいおい、あの黒龍に怒鳴ってるよ」


「あの二人って、どういう関係なんだ?」


 教育係の前田に視線が集中するが、自分にもわからないので無視する。会議の資料作りで残業していた女子社員達は、ミルキーな関係よ! と無責任な噂をして気晴らしをする。


「あんなに綺麗な黒龍さんに、変な彼女ができたら許せないもの!」


「あら? 貴女は黒龍さん派なの? 私は聡ちゃんの方がラブリーで可愛いわ」


 女子社員の中では先輩の森は、チッチッチと指を立てて横に振る。


「解って無いなぁ~! 完璧で傲慢な黒龍君が、ぽわぽわ~んとしている聡君にお仕えしているのよ。聡君が心配で堪らない! と必死で護っているのに、本人には通じてないの」


 残業で疲れている社員達にコーヒーをいれながら、生き生きと二人の話題で盛り上がっていた。

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