番長さん×女帝様
「おい、助けてやったんだから礼の一つくらい言ったらどうだ。いくら雌ゴリラでもそんぐらいできるだろう?」
「誰がいつ助けてなんて頼んだのよ、脳筋ゴリラ」
「ああん? どう見ても危機一髪だったじゃねえか。てめえのダチが血相変えて俺んとこに飛び込んできたぞ」
「利香め…………まあ、ちょっと舞台づくりに失敗したのは認めるわ。でも、あんたが来なくても最終的にあたしの勝利は固かったわよ」
「どういう意味だよ」
「ふん、これを見なさい」
「………なんだよそれ」
「ICレコーダー。あいつらとの会話はすべて録音してるわ。もちろんこっちに都合のいいように誘導した会話をね」
「相変わらずえげつねぇな……」
「だから……あのままでも最後に笑ったのは私だったのよ」
「…………………あの様子だと、一発じゃ済まなかったと思うがな」
「覚悟の上よ。それに適当なところでトンズラする……つもりだったし」
「へーへー、じゃあ余計なお世話だったってことだな。ったく、助けて損したぜ」
「………」
「じゃーな、ブス」
「……………………ちょっと待ちなさいよ」
「あん?」
「条件によっては、感謝してあげないこともないわよ」
「………おい、寝言は寝て言えよ。どうポジティブに受け止めても助けられた側の言い方じゃねえぞ、それ」
「悪いけど目はバッチリ覚めてるわ。なによ、感謝してあげてもいいって言ってるんだから素直に頷きなさいよ」
「……はっ、くっだらねぇ。付き合ってられるか、バーカ」
「………」
「………」
「あんた…………本当にこのまま帰っていいの?」
「………………ああ?」
「本当に……本当に後悔しないの?」
「……どういう意味だよ?」
「………」
「………」
「……いーい? この状況において、あんたはしなきゃいけないことがあるはずよ」
「ああ? んなもんあるかよ」
「わかってないわね。物事には流れってもんがあんのよ。私があんたに感謝する前にしなければならない絶対条件が。そのない脳みそ働かしてよく考えなさい」
「………」
「………」
「………」
「一週間前」
「………?」
「理想の」
「………………?」
「シチュエーション」
「…………………………!?」
「わかったようね」
「はああああああああ!? お前ばっかじゃ――――本気で言ってんのか!?」
「…………どうすんのよ、あんたがやんないなら私もやんないわよ」
「………おいおい、本気かよ」
「………」
「………おい」
「………」
「………」
「………」
「………ちっ、しょうがねぇな」
「………」
「………あー、その、よく頑張ったな。偉いぞ……………おい、これでいいのか?」
「やり直し」
「はああ!?」
「心が籠ってない上に撫で方が乱暴なのよ。やり直し」
「てんめぇ………!」
「………ふん」
「………」
「………」
「………」
「………」
「…………………よく頑張ったな。偉いぞ」
「………」
「………」
「………おい」
「…………………まあ、及第点をあげてもいいわ」
「………そりゃどーも」
「………」
「………おい、俺がやったんだからお前もやれよ」
「……………言われなくてもわかってるわよ」
「………」
「………」
「……ご、ごほん。別に、あたし一人でも平気だったけど……でも、一応お礼を言っておくわ。ありがとう」
「もう一回だ」
「え!? な、なんでよ! 結構真面目にやったわよ、あたし!」
「袖を引っ張って上目づかいに見上げるというオプションが抜けている」
「………」
「………」
「………」
「俺はちゃんとやったぞ」
「……………んにゃろう」
「………」
「………」
「………」
「………っ、あたし一人でも平気だったけど………でも、助けてくれて感謝してる。ありがとう」
「………」
「………」
「………」
「………ちょっと、何か言いなさいよ」
「………………お前」
「……………なによ」
「よくこんな恥ずかしいことできたな。ちょっと引いたぞ」
「あんたに言われたくないわ!!」
『これはひどい』
書き終わった後の筆者の感想です。