私の脱出計画
「雛村、お待たせ」
「え~、噤でいいって」
どうやら奏が戻って来たらしい。
ごめん、ごめんよ、夏目! 君の策はダメだったよ!
少し、引きぎみの態度で奏が呟く。彼女さんは、さっきの低い声はなんだったのか途端にかん高い声になる。
や、やっぱり怖いね、女子!
『部屋から出られたか?』
ブーッとスマホが振動して、メールが来たことを知らせる。見て見ると、夏目からだった。
『彼女さんが部屋から出なかったから、ムリだったorz どうしよ┌(┌^o^)┐』
超高速でメールを打つと、数秒後に返信が来た。
『何で顔文字がそれなんだよ。じゃあ、奏にメールして部屋から出て行ってもらえばいいんじゃないか?』
顔文字はこれでいいんだよ!
いやいや、まあ、ね? その手も、お姉ちゃん、考えてたんだけどね?
だってこれ、奏にバレるやん! 彼女さんの変わりに、弟にバレるやん!
向こうだって、いちゃついてる時にベッドの 下に姉がいたとか、気まずい以外の何者でもないじゃん!
よし、プランを考えようじゃないか!
プラン① 颯爽と抜け出す
「ふっ…… 邪魔して悪かったな、少年少女よ。さあ、私に構わず続きを始めてくれ」
こう言って片手をあげ、キラリと歯を輝かせて部屋を出て行く。
多分、私が出て行った後はこうなるだろう。 「奏君…… 別れよっか」
「………… ハイ」
だーあーめーだぁぁ!
これ、絶対変な姉だと思われるじゃん! ベッドの下から出て来て、この台詞とか完全に変態じゃん!
こんな姉にシスコンとかさらに引かれるじゃん!
プラン② 姉らしく抜け出す
「いやぁ~、お熱いね~、ご両人。お姉ちゃんもこんな可愛い彼女さん出来て嬉しいぞぉ~。青春してるねぇ~」
と言って、ひじを奏のお腹に当て、笑いながら部屋を出る。
これもプラン①と同じ結果になるよね!
プラン③ 謝り倒す
「すみませんすみませんすみません、漫画読んでたら何か二人来てね? いやさ、私も気まずい……」
土下座しながら、謝って部屋を出る。
うん! これも同じ結果だね!
プラン④ 最終手段、奏にメール
ベッド下の勇者、カエデはプラン④をせんたくした!
『今から彼女さん連れて下降りて。そうしないと、後で残酷なお姉ちゃんのテーゼになるよ』
専門家もビックリの超高速でメールを打つ。 見ろ、見るんだ奏!
「ふふっ。じゃ、奏君。さっきの続き、しよ?」
「なっ!? 雛村!?」
妖艶に笑った彼女さんが、奏を押し倒す音が聞こえる。
どうやら、可愛い系からお姉さん系に路線変更したらしい。
その時、ピロリン、と音がして奏のスマホがメールをきたことを教える。
見ろ、見るんだぁぁぁ! そう言うのは、お姉ちゃんがいないところでやってほしいな!
「奏、君……」
「雛、村……」
あああ、若干いい雰囲気になってる!
やばい、ここで部屋の外出ろとか私、雰囲気読めさすぎる!
でも、お姉ちゃんベッドの下でいちゃついてるのはもっと聞きたくないよ!
後で会ったら、凄い気まずいよ!
『お姉ちゃんです。今、現在進行形で君のベッドの下にいます。いいから早く部屋を出て行こうか。それが、2人のためになると思うんだ。いいからメール見ろ』
ピロリン。
またメールがきた音がする。
「あ、メール」
奏が有無を言わさず、彼女さんをどける音がしてメールを見る。
神は、神はここに存在したんだよ!
「うわ、電池切れた…… このスマホ、電池回復するのに10分くらいかかるんだよな……
はあ、とため息をついて、充電器に差し込む音がする。
えええええ! 神は存在しなかったの!? 最低でも私、後10分はここにいなきゃいけないの!?
後10分。後10分ですよ、奥さん!
10分もあったら、カップラーメン2杯と3分の1作れるよ、ねえ!
それに、10分もしたら…… こう、恋人通しがやる唇と唇を重ねるアレとか、やっちゃうんじゃない?
そうなったら最悪だぁぁ!
押し倒してるのでも結構気まずいのに、キスとか、えええ!
よ、よし…………
こうなったら、実力行使ですよ! お姉ちゃん、今から弟と彼女さんにドン引かれに行きますよ!
「奏君……」
ベッドの下の端まで行くと、彼女さんが奏の名前をつぶやき始めた。
ええい、そんなことはどうでも良い! 行くと決めたら行く、それが漢女なんだよ!
「奏君………… キス、しよ? ……………… って、いやああああ!」
奏に馬乗りになり、唇と唇は吐息が分かるくらいに近付いたところで。
__ 彼女さんが、気付きました。




