女の戦い
椿夏目。
17歳、久遠寺学院高校2年生で私の幼馴染兼クラスメイト。
家がすぐ隣にあって、家族ぐるみの付き合い。
かつて、私が迷惑を数々かけてきたおかげで、どんな事にも引かないというスキルを持っているんだよ!
スマホをマナーモードにして、メールを打つ。
『今、奏の部屋のベッドの下にいて、彼女さんが来てます。どうすれば、いちゃつく前にばれずに脱出出来る?』
すると、暇だったのかスマホが軽く揺れる。返信か、来なかったらどうしようかと思ったよ……
『どんな状況なんだよ』
いいから、解決案を考えろー!
『説明は後で、お願い』
メールを送って、数十秒後。返信が来た。
『分かった』
ここに、女神が!
いやまあ、いないけど。男だけど。
『ピンポーン』
数分後。
インターホンが鳴る音が聞こえる。
まさか、これは……! 夏目が!
「あ………… 俺、ちょっと行って来る」
「はーい」
彼女さんは、かなりの猫撫で声で言うと、奏を離すためにベッドから降りる。
奏は、はぁとため息をつくと部屋を出て行った。
………… え、彼女さんもはよはよ。
「あーあ。暇。奏君のスマホでも見るか」
えええええええ!
彼女さん、残る系!? てっきり、奏と一緒に下へ行くのかと……!
どすん、とベッドに大きく腰掛ける音がする。
こ、これは……! 彼氏彼女は、絶対通り抜けなければいけないとされる携帯チェック!
仕事関係とかの女でさえ、疑われるらしいのですよ! いやー、私、女の子で良かった。
「ん…… うん、やっぱあたしとのメールが一番多い。同じ文化祭実行委員なってて良かったー」
や、やったね、奏君!
彼女さんの、携帯チェックは無事クリアだよ!
…… って、私こんなことやってていいのか。
「………… 誰これ、あたしよりメール数多いじゃん。後で聞かなきゃ」
と、思ったら奏君駄目だったよ!
後で怖いよ、多分! この彼女さん、独占欲強そうだし!
「名前は…… 月雲楓? 名字が同じだから、お 姉さんいるって言ってたし、お姉さんか」
お母さんは!? 月雲姓の女の人、お姉さん以外もいますよ!?
「ま、でも女なのには関係ないし。今度、会ったら聞いてみよー」
ええええ、私も女に入るの!? 身内なのに!?
取り敢えず、彼女さんとは一生出会ない方がいいよね。
そう心に決めた瞬間だった。
「奏君、おっそ…… 誰か来たの? だったら、気ぃ使えっつの」
怖いよ、怖いよ彼女さん!
もう携帯チェックも終わったのか、足をぷらーんとさせるのが分かる。
「漫画たくさんあるわー。何か読んでよ」
ベッドから床へ下りる音がして、彼女さんが本棚へと向かう。
奏、漫画やたら全巻揃えるくせがあるからなー。
まあ、わざと1巻だけ部屋に置くと、数週間後には全巻揃ってるからね!
お姉ちゃん、無駄な出費が抑えられて超嬉しい!
「やっぱ奏君も男の子だなぁ。バトル系ばっか。………… って、何これ。『弟×姉 ~禁断の恋~』?」
そ、それは!
昨日、冗談半分で本棚の奥の方へ隠しておいた漫画! 見つかった時の反応が面白そうだから、試しに置いたやつ!
「リアル姉いながら、こういうのとか…… マジ引くわ」
ごめん、ごめんよ奏君!
お姉ちゃんのせいで、君の株がどんどん下がっていくよ! メールといい、漫画といい!
「シスコンねぇ…… 奏君、お姉さん系タイプなのかなぁ」
あ、あれ、以外といい人だよ!?
歩みよる努力をしてくれてるよ! ごめんね、シスコン疑惑ついてる奏君!
「ま、イケメンじゃなかったら普通に別れるけど」
やっぱいい人じゃないよ、彼女さん!




