彼女に平穏は戻らない
「は、はろー!」
やっほーから英語に進化した!
え、どうしよ、夕君何か写真と私を交互に見比べて口をパクパクしてるし! 奏はげんなりもしてるし!
第三者の一条君は、私のことなんかいなかったよみたいな感じで読書中だし!
「ま、まさか、奏の姉ちゃん……」
「お前に姉ちゃんと呼ばれる筋合いはない!」 おお、何か娘を嫁に出したくない頑固親父のような感じになってしまったよ!
まあ、私の名前知らないんだからそう言うしかないんだろうけど!
「え!? あ、ええと、すんません! ………… もしかして、さっきの会話聞かれて」
「うん、そりゃまあバッチリと聞いちゃったよ!」
超キメ顔で親指をグッと突き出す。すると、夕君の顔が火を吹くように真っ赤になっていった。
ああ、女子の前でエロ本とかオープンスケベといえどもそりゃあはずかしいわな! よし、ここは1つ、お姉ちゃんの威厳を見せるためにも!
「大丈夫、お姉ちゃん、そういう下ネタには耐性があるから!」
むしろ、私も奏と夕君で腐妄想してたし! お互い様だよ、うん!
というか、皆引かないんだね、意外だよ。
………… いやいや、そんな場合じゃない。早く脱出しなければ。
「ぐ………… 聞かれてしまったからには、仕方ない! お姉さん、オレと付き合って下さい!」
「分かったよ!」
「楓、夕、冗談はそこまでだ」
夕君が土下座をして、私に交際のお申し出をする。おおお、これが夢に見た告白生活!
別に夕君のこと、まったく好きじゃないけど、彼氏! 夢の彼氏! やったよ、お姉ちゃん!
「バレたか…… はいはーいっと」
「え、私、割と本気だったんだけど……」
奏が痛くないくらいに私と夕君の頭に手刀をする。
夕君は頭をさすりさすり、そう言った。えええ、冗談だったの!?
そうか、夕君、か弱き乙女の心を弄んで…………! 何て外道だー!
「というのも、嘘!」
それを見た夕君が苦笑して、再びゆっくりと口を開く。
「で、何で奏の姉ちゃんがベッドの下に……」
「月雲楓ですよ」
というか、元は闇鍋の資料探しに来て隠れたんだよね。お姉ちゃんは、何でこう弟のベッドの下に隠れるという珍事を2回も経験しなければいけないんでしょうか。
「はあ、じゃあ、楓さん。何でここに?」
「ぬ…………」
言えない! 闇鍋パーティーの日取り間違えてたなんて言えない!
というか、ここで闇鍋パーティーするとか言ったら夕君に気を使わせるよね!? 多分呼ばなきゃいけないことになるよね!?
いや、別にいいんだよ、お姉ちゃんは! でも、あの男性恐怖症気味の雪葉がね!
こ、ここは、何かごまかさなければ!
「ええと、ええとね………… き、君と同じ理由だよ!」
「楓さんも奏のエロ本を!」
「そうだよ!」
つぐみんの時もそう言ったけど別に引かれなかったから大丈夫! 今回だって奏はもう耐性あるし、夕君はオープンエロだし、一条君に至っては興味ないだろうし!
楓さん無双! あはははは! ………… あはははは。
「2回目も同じ理由かよ、おい」
「それは、私の勝手だよ! じゃあね!」
ポカンとした夕君たちを尻目に片手を上げて颯爽と部屋から去って行く。ワタシ、カッコイイ。………… まったくかっこ良くないよ!
それから、数日間、青藍学園の奏のクラスでは夕君のおかげで"奏君のお姉さんは変人"というレッテルが張られたらしい。
うん、夕君、絶対許さない!