彼は本を求めるのみ
「零は、面識あるのか?」
「………… 合同コンパニーの時に」
合コンを合同コンパニーとか正式名称で言う人始めて見たよ! いや、見てないけど!
「合コン!? お前ら合コしたの!? 何でオレも混ぜてくれなかったんだよ」
「零も俺も雛村と宮名に無理矢理引っ張ってこられただけだ。俺たちに言うな」
「じゃあ、オレ、噤ちゃんにも委員長にもフラれたってこと!?」
何を言ってるんだ、夕君! 1人は彼氏持ちだから! そこに彼氏いるから!
委員長って、多分、えなちーか。
「本人たちに聞け」
「へいへーいと………… さぁて、ねぇ?」
「何だよ」
「男子が男子の部屋に遊びに来た時に発生するイベントときたら!」
エロ本探しー!
………… って、あああ! ダメだ、夕君! それはやっちゃダメだ!
奏の好みは、お姉ちゃんが後で教えてあげるから! 知らないけど、教えてあげるから!
だって、ここにいたら確実に見つかりますよねぇ!? だって、ベッドの下だもん! 1番に考える隠し場所だもん!
「それ本当に飽きないな…… いつも来るたびにやるけど、ないからムダだぞ」
「そんなはずはねえ! 健全な高校生男子ならあるはずだ! オレはグラビアだがある!」
変態だぁぁ! こやつ、変態じゃぞぉぉぉ!
むっつりの反対だからはっきりスケベ。オープンエロか、中々やりおるな!
「ベッドはこの前調べたからないけど、本棚の裏とか引き出しに二重底とか」
「どんだけ隠したいんだよ、俺」
声のトーンが上がる夕君に対して、げんなりとした声で対応する奏。
ふっ、まあ、とりあえず助かったよ! ありがとう夕君! 前にベッド下捜索しておいてくれてありがとう!
数10分後。
「ない、か……」
「だからないって言ってるだろ」
しばらく、ガサゴソと部屋を捜索する音がしたが、諦めたような夕君の声がして、ドスンと床に座る音がする。
そういえば、お姉ちゃんも奏の部屋に出入りしてから見たことないな…… よし、今度調べてみよう。
「じゃあ、最後にもう1回ベッド下だ!」
「それはやめろ」
奏の言う通りそれはやめろぉぉぉ! はずかしいだろうが、お互いに!
奏も私の存在を知っているから、夕君に対して静かに言い放つ。不気味なほど、冷静に。
「おおお? 隠し場所変えたのか? ひょっとしてここなのか? フッ、今日こそ噤ちゃんに奏の好みを教えてあげられる日が来たぜ……! よし、見つけたぞ!」
「うあっ、ちょっ、やめろ!」
なす術もなく、私の髪の毛の先が夕君の手によって引っ張られる。どうやら、これを例の本だと勘違いしたらしい。
………… って、冷静に語ってる場合じゃないよ! どうしよ、どうするんだお姉ちゃん!
「なっ…… まさか、トランクか何かで厳重に管理してるのか……? やけに重い」
そりゃ、人間ですからねぇ!
思いっきり抵抗して、手を床に食い込ませるほどに強くつく。ここで、バレたら私の面目が! 姉の威厳がぁぁ!
「っ…… よい、しょっと!」
「うわああああああ!」
そこには、私の悲鳴と夕君のポカンとした顔。奏のあきれ顔と、零君に至っては本からちらりと目を上げてそれきりだった。
………… どうしよう、お姉ちゃん。