彼女は恋愛がしたい
「どしたの、奏。ドアの前で固まっちゃってー」
「え? あ、ああ」
漫画を持って固まっている私の背中を押し、無理矢理ベッドの下に押し込む。
あああ、せっかく脱出出来そうだったのに逆戻りだよ!
「とりあえずここで隠れてろ! 零や夕にバレないようにしろよ!」
奏が小声ながらも必死な声でそう言う。そ、そうか。奏以外にも人はいるんだったー!
よし、絶対にバレちゃだめた。バレちゃだめた、バレちゃだめた、バレちゃだめだ……
後で奏に何か聞かれるかもしれないけど、その時はその時! 姉の権力を見せてやるよ、あーはっはっはっ!
………… うん、寒いね。
「じゃー、再開な! 噤ちゃんのことはもう聞いてもムダだろうし、んー。あ、そういや奏、姉ちゃんいるんだよな?」
「………… ああ」
おい、○○君! そういえば、さっき夕とか呼ばれてたか。苗字分からないから夕君! 何でそんなにグッドタイミングな話題出すの!?
多分、奏の周りにいる女の子の話かなんかで私が出たんだろうけど、お姉ちゃん以外にもいそうじゃん!
去年のバレンタインの貰ったチョコ数が学校一の奏なら、もっといそうじゃん! いないの、クラスの三つ編み眼鏡委員長とか! 女生徒会長とか!
エスパーなの!? エスパー夕なの!?
奏の声がちょっと震えてるよ!? 必死でキレるの抑えてるよ! 空気読みましょう、ええ!
「まあ、姉っていっても双子だから同い年なんだけどな」
「え、うっそまじか! 可愛い、なぁ、可愛いか!?」
「………… うるさい」
何故、そこで声のトーンを上げるか夕君よ。 ほら、一条君もパタンとか分厚そうな本を閉じて言ってるじゃない! ………… ふ、フラグとか立ってほしいわけじゃないんだからね!
「ブス」
「そこまで、はっきり言っちゃうのか……」
か、奏ぇぇ! 後で覚えておきなさいよ、お姉ちゃんは絶対覚えてる!
「逆にそんなに言われると気になるなぁ。写真とかないん?」
「中3の文化祭ので良ければあるぞ」
中3の文化祭…… 奏が中3の時に奏中学最後だしと行って、無理矢理奏を案内させたアレか!
去年は、ちょっと用事があって行けなかったんだよね。奏は心底ホッとしてたけど。
青藍学園の敷地大きいって聞いたし、今年こそ行ってやろうではないか!
「いや、普通に可愛いじゃん…… この髪、地毛?」
「そうだ。俺もだけど、遺伝的に月雲家の人間の色素が薄いんだよな」
そうそう、ちょっと茶色っぽいってだけで染めてると勘違いされるんだからたまったもんじゃないよ!
だけど、黒に染めるのも抵抗あるんだよなー。何か、髪の色が変わるのが怖いというか。
「まあまあ。じゃあ、今度紹介し……」
「はっきり言っておく、夕。あいつの見かけに騙されるな」
「わ、分かった…… 分かったから、その手を離せ奏」
奏ぇぇぇ! 何でフラグを折るの!? もしかしたら、これから夕君と私のラブストーリーが始まったかもしれないのに! 未来の義兄かもしれなかったのに!
いや、そういえば私、夕君の声しか知らないからな…… 顔と性格も把握しないと。
「………… 奏は、あの姉で苦労してきた」
一条君まで言うかね、それ!
何で!? お姉ちゃん、普通じゃん! 超弟に尽くしてるじゃん!