1 「もう勇者しない!!」
このお話のあらすじ
勇者として召喚された青年は、無事、仲間達と共に魔王を倒すことができた。
やっと還れる…。そう思っていた勇者だが、国としては、こんなに政治に有効活用できる存在を、みすみす逃すはずがなかった。
女性たちを勇者に詰め寄らせ、仲間達と思いでを育ませ、還らせないようにしようとしたのだ。しかし、それらはすべて、勇者にバレてしまった。
さらに、最大機密であった、「勇者を呼んだのは最終兵器の代わり」というのは勇者にバレ、耐えられなくなった勇者は、城から逃げ出した。
最終兵器である…「聖剣」の所有者である少女を連れて…。
鬱蒼とした森の中……一人の青年と、一人の少女が、すさまじい速さで森の中を駆け抜けていた。
一人の少女は、世界一美しいといわれる、美の女神すら嫉妬しそうなほどの美貌を持っており、さらりと流れる高いところで二つに縛った金の髪は、妖精を思わせる風貌だった。
しかし、その少女は、そんな容姿には似合わぬ、武骨な鎧を、頭以外着ており、また、背中に背負う大剣も、きれいな色をしているものの、少女の背丈ほどの大きさであり、太さも少女と同じくらいのため、まったくもってつり合いがとれていなかった。
そんな少女が、普通の人では走れないであろう速さで、森の中をかけていた。
一人の青年は、少女と比べると…いや、比べなくても、普通の青年だった。中肉中背、普通の顔立ちで、鎧も、胸当てと両肩につけているだけ。剣も、装飾などはついていない、なんとも普通の長剣を、腰に鶴下げている。ただ一つ異様なのが、青年の瞳と髪色が、この世界では存在しないであろう黒色ということだけだ。
そして、この青年もまた、少女の一歩手前を維持し続けながら、森の中をかけていた。
青年は、焦りの表情を浮かべながら後ろから追ってくる黒い影を見、そのあと、表情をまったく崩さない、無表情の少女に問いかけた。
「なぁ…。なんで、勇者なのに国に追いかけられてるの…!?」
「それは、あなたが私を連れ出したからでしょう」
「確かにそうなんだろうけどさ…」
青年は、走りながら頭を抱えるという器用なことをしながら、今までの出来事を思い出していた。
そもそも、青年は地球の日本という、こことはまったく違う国に、平凡に、そして、平穏に過ごしていたのだ。
しかし、青年の日常は突然終わった。なぜなら、この国の魔導師に、魔王を倒す勇者として、召喚されたからだ。
青年としては、そんな死亡フラグ満載の勇者なんてやりたくなかったが、魔王を倒さなければ地球には還さないと脅され、結局やることになってしまったのだ。
こうして、嫌々ながらも勇者をやることになってしまった青年は、国から選抜された、優秀な仲間と共に、魔王討伐の旅に出たのだった。
最初こそ仲間と衝突もあったものの、一緒にモンスターを倒し、同じ苦労を重ね、時には助けあい、青年は、仲間たちと仲良くなった。
青年は、心の底から、仲間達がいるこの世界が救いたいと考えるようになり、その決意からほどなくして、仲間達と共に魔王を倒したのだった。
だが、問題はここからだった。
王が、勇者である青年を政治に利用し始めたのだ。他の国も、魔王を倒した勇者がいる所は攻められないし、あの厄介な魔王を倒してくれたのは勇者のため、勇者がいるその国には頭が上がらないのだ。
王は、勇者を還らせない為に、女を用意した。結婚すれば、勇者はこの国に永遠に定住すると思ったからだ。そして、その候補としてたくさんの名前が挙がった。当たり前だ。誰だって、自分の娘を名声ある勇者の妻にしたいと思う。
しかし、運が良いのか悪いのか、勇者が見てしまった。自分を還さない様にしているのを。
当然、勇者は怒った。だが、彼が城を抜け出したのは、他の理由だった。
自分は、国の最終兵器である、無表情の少女…「聖剣」の所有者、キルギスの代わりとして、勇者に仕立て上げられたということである。
国は、万が一、最終兵器である「聖剣」が、どうにかなってしまうのを恐れて、勇者を召喚し、魔王討伐に行かせたのだ。
勇者は逃げ出した。自分を物としか見ない王の眼差しから。自分の世界へ帰るという、自分の決意から。…だが、一つだけ、弱くなった勇者でも、向き合えるものがあった。
最終兵器と言われ、生まれてから物としてしか見られたことがない、「聖剣」の少女の瞳。
その瞳を見た途端、青年は恋に落ちた……というわけでもなく、なんだか、自分が代わりとなった少女が気になったのだ。どうしてそんな瞳なのかと。
まあ、国への仕返しというのもあるが。
こうして、少女を連れて城から逃げ出した青年は……ものの数分で見つかり、今に至る。
回想を終えた青年は、もうちょっと慎重に行動すればよかった……。と、今までの行動を思い返して反省しながら、少女に今後、どうするかを聞く。
「とりあえず、後ろの追ってをなんとかできないか、聖剣に聞いてくれないか?」
「了解」
何の抑揚もない声で少女が呟き、目を瞑る。その間も、まったく木に当たる気配もなく、同じ速度を保っていられるのだからすごい。と、青年は感心する。そして、俺だったら木に当たってるなぁ…とも。
少しして、少女が目を開ける。どうやら、終わったらしい。
「『なんとかできるが、対価は用意しとけよなぁ!?馬鹿勇者!!』だそうです」
「お願い。無表情で聖剣の口調を真似しないで…」
「表情を変えないで喧嘩口調は怖い…」とつぶやきながら、聖剣への対価と、後ろの追っ手を、どうやってなんとかするかを考える。
……姿を隠して、やり過ごすか。そう考え、その旨を伝える。
「俺が止まって、適当な場所で屈むから、カモフラージュ系の闇魔法を頼む。って伝えてくれ」
「了解」
少女が目を閉じ…速攻で開いた。その速さに、青年は「うわっ!ビビった…」と言いながら、急に立ち止り、木の洞に隠れる。
少女もそれに続き、青年と同じ場所に隠れる。
『Darkness Magic Assimilation』
きれいな、人間でない――実際、人間ではないのだが――ような声が森の中に静かに木霊し……気が付いたときには、木の洞には、青年と少女の姿はいなかった。
青年と少女がいた木の洞の横を、真っ黒な二人の影が通り過ぎていく。その二人が、何かヒソヒソと話し……そして、どこかへ行ってしまった。
「……ふぅ…」
木の洞の方から溜息がする。すると、そこにはさっきまでいなかったはずの、青年と少女の姿が。
「…とりあえず、追っ手はどこかへ行ったみたい」
「この後は、どうするんですか?」
「どうするったって……まあ、とりあえず…」
青年は、木々の隙間があいている所から漏れ出す光、そして、こちらまで届く大きなざわめきと笑い声の方を、人差し指で指差した。
「あそこの町に、行こっか」
***
青年は、頭を抱えて溜息をついていた。
なんで…なんでこの子は……こんなに厄介ごとを持ってくるんだ!!
無表情で、しかしとても綺麗な少女。いつもは、不自然なのはそのゴテゴテの鎧とでかい大剣――いや、それでも十分おかしいが――だが、今回は+αとして、大男三人ときた。しかも自ら引き摺って。
その異様さに、今いる宿に入ろうとしていた客足は遠のき、逆に野次馬が集まって、大変な事になっている。主に俺に突き刺さる店主の視線が!!
少女…キルギスが言うには、今キルギスが引き摺っている大男三人が、キルギスの剣を欲しいというので、聖剣の了承を得て、自分を倒せたら譲るという条件の元、決闘したらしい。1vs3で。
結果は、言わなくてもわかるとおり、聖剣の所有者キルギスが勝利。だが、剣欲しさと自分より小さい子供に負けたという屈辱で、剣を無理やり奪おうとした大男たちを、キルギスがまたまたぶちのめし、周りにいつの間にか集まっていた野次馬の一人の「保護者に謝らせに言った方がいい」という言葉で、俺の所に自分で持ってきたらしい。
…なあ、国と神殿は、キルギスに何を教えていたんだ…?そりゃあ、反乱を起こされない為にも、自分達に都合のいいことを教えたいのはわかる。だけどさ……常識くらい教えろよ!!
その怒りを出来るだけ見せない為にも、にっこりと、俺にできる限りの笑顔をする。
キルギスの無表情が、固まったような気がするが、気のせいだろう。後ろの大男三人が、「神よっ!お許しください!!」とか「悪かった!出来心だったんだ!本当にすまん!!」とか喚いているが、ひとまずは黙らせよう。
「うっせぇんだよ!!!」
あ、思わず本音が。まあ、大男も黙ったし、いいか。周りの空気も固まったような気がするが。
とりあえず、キルギスの手から大男三人を放させる。大男三人は逃げず、引き摺られた時の格好のままだ。ふむ、逃げないのは都合がいい。
「そこに正座で座ってください」
俺のその発言に、何故か怯えつつも、疑問符を出す大男三人。ちっ。意味が通じないってめんどい。そう思い、イライラしながら大男三人に「膝を折り曲げて地べたに座ることですよ」と親切に教えてあげると、ビクビクしながら正座になる。
「で、決闘で負けて悔しかったから、無理やり奪おうとしたって、本当ですか?」
「いや……あの…」
「はっきり言ってください」
「「「はいそうです!!!」」」
俺がにっこり笑顔で言うと、今まで正座で痛そうにもぞもぞしていた三人が、ぴたりと止まり、三人とも同じタイミングで同じ言葉を元気よく言った。俺、初めて見たよ。異口同音。
妙なことに感動しつつも、俺は、怒りが治まるまでコンコンと説教し続けた。
***
あの三人を説教し、キルギスがさらに連れてきた男達をさらに説教し…ついには朝になってしまった。
眠たくてしょうがない。そもそも、キルギスは厄介ごとを持ってきすぎなんだよ!この町についた途端チンピラに絡まれて反撃して俺が謝って…。そのチンピラが仕返しに来て返り討ちにして謝って…。三回目にチンピラ達が仲間を連れてきたときは、俺も正直切れて、ボコボコにした後に説教したけど。
それに続けて他の奴も連れてきて…。あの大男達を連れてきたときは、イライラがピークに達してたから、謝る事もせずに大男達を説教した。正座も追加でつけて。まあ、あれは大男達が悪いからいいか。
一回外に出てから、宿に戻って寝るか。
そう思って外に出ると、俺の前には結構な数の男性や女性や子供の姿が。
まさか、キルギスがまた厄介ごとを持ってきたんじゃないだろうな!?と身構えていると、一人の女性が前に出てきた。その女性から言われた言葉は、俺にとっては意味不明なものだった。
「あの、ありがとうございました!」
そういって勢いよく頭を下げられ、周りの人たちも頭を下げる。俺、こんなに人を救ったっけ?勇者の時は、街中でも外でも、ずっと顔バレを避けるためにキルギスみたいな鎧を、頭付きでずっとつけてたしなーと思いながら、女性に問う。
「俺、何か助けましたっけ?」
「ええ!それはそれは。すっごい助けられました」
女性が言うには、昨日キルギスに絡んで俺が説教した奴らは、全員この町の厄介者だったらしい。
ただ酒はするし、窃盗、暴力、殺人はもちろんのこと、女性を無理やり……あー…その、…犯したりする奴らだったらしい。しかし、町の自警団も敵わないし、いくら国に頼んでも、まったく取り合ってもらえなかったそうな。
それを俺が説教したため、それに怯えてか、悪さをまったくしなくなったらしい。昨日のチンピラも、俺が大男を説教している時間には、いつも盗みをしているらしいが、昨日はなかったらしい。
これで町が平和になる!と騒いでいる人達に、ちょっとまったと静止をかける。すると、喜んでいた皆が怪訝な顔になった。まあ、喜んでいる所に水を差されたら、いくらこの町を救ってくれた恩人でも、空気読めっていいたくなるよな。
「俺たちは、今日旅立つ。そして、俺たちがいなくなったと言って、そいつらがまた悪さを始める可能性がある」
俺がそういうと、町の人々の顔が一斉に青い顔になった。子供なんて、「また…殴られるの…?」なんて言って、ブルブル震えている。
……そうだな…。この町に魔導師はいなさそうだし…。魔術師……いや、魔法アイテムか何かはないのだろうか…?
そう思って聞くと、あります。と、前に出ていた女性が言ってきた。
よし。それなら、大丈夫だ。
「またそいつらが悪さしたら、発光系の…いや、爆発系でも、音が鳴る系でも、何でもいい。目印になるようなものを、空に打ち上げてくれ。空に打ち上げてくれたら、俺の所の同行者が気づくから。そしたら、すぐ駆けつける」
それを聞いた町の人々は、また、歓声を上げた。一人の人が、それに水を差すように「本当に気づくんですか?」と聞いてきたが、「俺の同行者は化け物だ」と笑ってやったら、なんか納得された。
その時、城がある方からガシャガシャという、俺にとってとてつもなく嫌な音がした。
やばっ…。と思いつつ音の方を見ると、そこには、スラリとした鎧を着た、これぞ騎士!という奴らがぞろぞろと…。
あいつらは、王国屈指の騎士団「白楊騎士団」。白い鎧を身にまとい、トレードマークであるヤマナラシの葉が、鎧の左上についている。俺の天敵である。
俺とキルギスがこの町にいるっていう情報が、たったの数時間で城に伝わるはずがないし、そもそも、あいつらが俺がここにいるとしったら、走ってくるはずだ。
あいつらに見つかる前に、この町から逃げよう……。そう思ったとき、向こうから声が聞こえた。
「あっ!?貴様……こんな所にいたのか!!「聖剣」を盗む不届き物め……。我ら白楊騎士団が、お前を捕えてくれよう!!」
そういって、さっきよりもさらにガシャガシャ言わせながら走ってくる白楊騎士団の連中。
だが、その動きは止められた。何故か…それは、この町の人々が通れないとうに防いでくれていたからだ。
さすがに民間人には剣は振れないのか、無理やりにでも通ろうとする騎士団の奴ら。しかし、小さな隙間を強引に通ろうとしても、町の誰かが穴を埋めるため、一向に通れない。
「あなたは、私達を救ってくれた恩人です!こんな、何度助けを呼んでもこなかったのに、いまさら来たこんな奴らに捕まってはだめです!」
俺の前に出てしゃべっていた女性の声をはじめとし、色々な人が「そうだそうだ!」「兄ちゃん、早く逃げて!」「俺たちの他に、困っている奴らを助けてやってくれ!」と、そう口々に叫ぶ。
それに嬉しくなり、呟くように「ありがとう」というと、キルギスを大声で呼ぶ。
「キルギス!行くぞ!!」
俺が叫ぶと、二階の俺たちが泊まっていた宿の窓が開き、そこに足がかかり、キルギスが飛び出してきた。それを見、俺は町の門に向かって走って行った。キルギスは、屋根の上を、重そうな鎧と剣をその身にまといつつも、軽々と飛ぶようにかけていく。
もうすぐで門。という所まで行くと、門の両側にいた自警団の二人が、俺とキルギスに向かって、笑顔で敬礼をする。
それと同時に、門がゆっくりと開き、俺が通れるくらいの隙間ができる。
俺は、門の隙間を通り、キルギスは門を飛び越え、二人並んで走る。
勇者よりも、こっちの方が断然いい。
俺はそう思いながら、並んで走る俺の同行者に向けて、声をかける。
「次は、どこ行こっか」
前にパソコンが壊れて、そこにあったメモ帳に書いてあった話が、全部消えたということがあったので、ここが閉鎖するか自分で消さないかぎり絶対消えない、ここに、メモ帳として残すことにしました。
ただ、あらすじだけでいつもメモ帳に書いているのですが、それだけだと200文字を超えない場合もあるので、一話だけ書く…みたいな感じにしました。
あと、ジャンルがいろいろになる可能性が高いので、その他にしました。
次回更新はいつかわかりません。気が向いたら書きます。
それでわ。