従者ミネリダ、市民商店街へ征く3
「従者ミネリダ、市民商店街へ征く2」の続きです。
クマチャン屋「てでぃべあ」はこじんまりとしていて、しかし心温まるような暖かさを感じる内装であった。
壁に垂らされている布はどれも見たことのない煌びやかな模様で、ミネリダは物珍しさから目線を離せないでいた。
「おいっ、お~い聞いてるか、お前! ミネリダッ!」
「……はっ! わ、私としたことがっ! お、お嬢さまに会わせる顔がありません~!」
「ほら、さっさとお目当ての買っちゃえよ」
カイが指指す先には、展示されているクマチャンたちがたくさん並べられていた。
しかもそのどれもが色や形、布の模様が違うようで、ミネリダはどれを選ぼうかと悩み始めた。
「むむむ、これも素晴らしいですね……赤のスカート、かわいい……」
「ののの、こちらも素晴らしいですね…・…猫耳ですか! うわ、尻尾までついてます……」
「わわわ、こっちなんかも……え、ゴブリン?」
様々なクマチャンを手に取って一つ一つ真剣に見ているミネリダを置いて、カイはそろーとクマチャン屋を後にした。過去に友達の女の子の買い物に着いていった教訓である。いわく、女性の買い物はその時間で一仕事できるほどである、と。
そんなことはつゆ知らず、ミネリダはどうやら一つのクマチャンを決めたようだ。
「こ、これです! 私のクマチャンは、この子です!」
「ほえー、それでいいの?」
「にょわっ!?」
ミネリダに返答した声は幼い少女であった。しかし声はするものの姿が見えない。ミネリダは店内を見回すも、やはり姿はなかった。
「馬鹿にされたのー、お姉さんここだよーここ」
声のもとを辿っていくと、どうやら無人のカウンターから聞こえてくるようだ。ミネリダはカウンターに近づいていくと、黒色のなにかが見えた。
「わ、小っちゃいのですね……あ、ごめんなさいっ!」
「いいのー、それでお姉さんはその子が欲しいの?」
カウンターの横から見ると、そこには小さな女の子がいた。ショートカットの黒髪に幼い顔をしている。そうして何より、黒い眼をしていることにミネリダは驚いた。ミネリダは黒い眼というものを初めて見た。
「お姉さんー、その子でいいの?」
「あっ、はい! いいのですよ!」
ミネリダは自身が世間知らずだと自覚していたから、なぜ女の子が黒い眼をしているのか、そうしてなぜ小さな子供が一人でカウンターにいるのか、聞いてよいのかわからなかった。そして少女に話しかけられてしまえば、もう聞く機会はなくなってしまった。
「どれどれー、おうおう、これは「アホウドリ」というのですよ」
「えっと、「あほうどり」? クマチャンではないのですか?」
「んんー、クマちゃんは熊ですから、この子は鳥でアホウドリなのですよ……って言ってもわからないのでしたね、ごめんなさい、なんでもないのです」
「は、はい。えっと、それで……」
「あー、はいどうぞ、この子をどうぞ」
ミネリダは500イェンを渡して、「あほうどり」と呼ばれるクマチャンを受け取った。
「大切にしてくださいねー」
「はいっ! 貴女も、頑張ってくださいっ!」
「何をですかー、はははー」
ミネリダは「あほうどり」を胸に抱えて、笑みを浮かべてお嬢さまのもとへと帰宅したのであった。
おわり。