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鳥籠の姫  作者:
8/22

八話

白雲城文官長執務室

紫白は積み重なる書簡に囲まれながら何度目かの伸びをする

凝り固まった上半身の筋肉に溜息を吐けば見計らったように湯気の立つ茶を差し出された

視線を上げれば耀明が眉間に皺を寄せた状態で茶を両手に持っていた

「ん」

「おや、有難う御座います」

「ふん、何刻篭っている?いい加減休憩をとれ」

珍しい、と耀明を見れば自身もそれを自覚しているのかフイと顔を背けた

「では休憩にしましょうか」

立ち上がり部屋の隅にある椅子に腰掛ければ続いて耀明もどかりと向かいに腰を下ろした

「・・・今上の様子はどうだ?」

「臥せっておいでです。次代に会うまでは何とか持たせるのだと仰っておいででした」

お茶を一口飲んで紫白はゆるりと笑う

「随分、お茶を淹れるのが上手くなりましたね耀明」

「あ?・・・テメェが出す茶出す茶文句言ったんだろうが」

「えぇ。まあ・・・どうせ頂くんですから、美味しいものが良いではありませんか」

ニコリと笑う紫白に耀明は舌打ちする

政に関しては衝突する・・・それはまぁ武官と文官という大きく異なる職に就いている以上当たり前のことだ

文官には、文官の国を守る術があり、武官には武官の守る術がある

武官と文官は動と静

反発するから国は上手く動く

どちらかに偏る国は、どんな名君が居ても荒れるものだ・・・

しかし私生活での二人の関係は悪友である

官になったのが同時期で近い歳ということも有り、既に十数年目の付き合いになっていた

「それで?今上が執務をこなせる状態じゃないからお前がやってるのか」

「今上に申し出たのは私からです。相変わらず絶対零度の視線に晒されましたが、次代と会えなくなる可能性を提示したら仕方なく休むことを選択したようです


私としても、今上が次代に会わず大地に還るのは阻止したいですから」

「そりゃあな。前例のないことほど恐ろしいモンはねぇ

特に鳳凰様に関しては未知と言っていい


だが、次代は何も知らないんだろう?聞けば十年、外に出ることなく一室に閉じ込められていたらしいじゃねぇか・・・当分執務はお前が兼務するんだろ」

「えぇ。

歴代の鳳凰の皆様は引き継ぎ期間があり、その間に政を学ばれていたようですが、次代の引き継ぎ期間は今上がもって半日程度でしょう

こればかりは、仕方ありません。もっと早く見つけることが出来たなら・・・と何度も後悔しましたがね」

「官民総出で探していた。だがっ!!!探しているはずの民が隠していやがったんだ!!ふざけやがって!!」

ダンッと茶器を置く耀明の顔は怒りに染まっている

「余り力むと茶器が割れてしまいますから落ち着いてください


今上は、次代が見つかったということしかご存知ありません。

・・・しかし、鳳凰同士というのは不思議なことに見えない糸か何かで繋がっているようですね。

今上はひたすら次代の身を案じていますよ」

「そうか・・・」

少し目を見開く耀明に、気持ちは分かると紫白は内心呟く

今上に仕えて十数年、どんな祝いの席でも表情一つ変えない孤高の、聖獣

絶対零度の眼差しに慣れるまで一体どれほど掛かったことか

・・・今でも不意打ちだと心が折れそうになる時があるほどに・・・


「・・・そうそう、鳳凰の次代、女性型なんですが八代ぶり三人目なんです」

「そうなのか?」

「えぇ・・・そして、女性型の鳳凰は男性型の鳳凰とは異なり、人にも寛容であると言われています」

「歴代の文官長たちの記録、か」

「えぇ。代々受け継がれています。鳳凰は男性型ならば生まれはどうあれ、ただ一心に鳳凰という存在の為に存在します。人の事等十の次・・・対して女性型の鳳凰は、女性というそのものの性質によるのか、個体差はあれども人にも酷く寛容です。

次代がどういう国主となるかは分かりません。分かりませんが、期待はしてしまいますよ

今上は、酷く冷めた方ですからね」

国主たる六聖獣を悪く言うわけではない

ただの事実で、きっとこの会話を今上鳳凰が聞いたなら当たり前だろう、と鼻を鳴らして答えるだろう

「今の、紅国は歴代の百官達が、築き上げた。ですが、所詮は仕える側の者達がしたこと

鳳凰が気に入らなければ、あっという間に大地が揺れ、紅国は更地になるでしょう

・・・・・・ですが、鳳凰が築いたならば話は変わってくる

鳳凰は同種の意思をとても尊重します。」

「かつて、何代前だったかの鳳凰が半獣も人と同じように扱って以来、どの代の鳳凰も半獣を同等に扱うようにか」

「7代前ですね。かの鳳凰は、先代が成そうとしていた事を引き継いで交代後直ぐに触れを御出しになりましたね」

「ってーことは、八代前の女性型鳳凰の発案なのか」

「えぇ。人に関する常識良識などは大方女性型鳳凰のときに形作られています」

過去があるから今があり、未来がある

期待せずには居られないのだと紫白は笑った


「・・・・・・おや、速鷹ですね」

窓辺にある速鷹専門の扉から一羽、紫白の肩に止まる

「どこからだ」

「・・・近衛隊からですね。文州崋山を抜けたと・・・最速で、通常四日掛かる道のりを二日で駆けて来ると」

「急ぐのはいいが次代は大丈夫なのか?」

「様子を伺いながら進んでいるようです。

大方の到着日も分かったことです

耀明、医官長にこの事を伝えて来ていただけますか」

「わーったよ」

ガシガシと頭を掻いて後ろ手に手を振りさっさと執務室から出て行く

「本当に行動力は無駄にありますねぇ。」

クツリと笑って椅子から立ち上がると直ぐに執務に戻った紫白であった


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